敵は君のすぐ傍に.5













無言がこれほど気まずいものだと思ったことはなかった






あの後、強制的に仁王に送られているのだけど会話はまったくといって良いほどない。

たしかに仁王と喋ることなんてないから別に良いんだけど。無言のなか歩くのは流石に気まずいというか、正直空気が重いと感じる。







しかし、その空気を振り払うかのように仁王が口を開いた








は、意外と真面目に委員会の仕事するんやのぉ」





「そりゃ、仁王とは違うし」





「俺は真面目に仕事するぜよ」





「・・・・」




「なんじゃ、その疑ったような目は」








だって、あの仁王だよ?この前だって授業サボってた仁王だよ?






授業さえ満足に出席できない奴が、委員会の仕事をちゃんとするなんて考えられるわけが無い

それにこの髪の色。どっからどう見ても、不良と思われても仕方がないとおもう(ブン太もだけど

いや、不良だってもう少し大人しい髪の色をしているものだ。銀髪って明らかに中学生がする髪型じゃないだろ。







「はいは、じゃあ次からはお願いするよ」




「そうしてもらわんと困る。図書委員に入った意味がないからのぉ」




「・・・意味?」







私は仁王の言葉に眉をひそめた。だって、図書委員になったのには理由があると言われれば誰だって気になる

別に私は仁王に興味なんかこれっぽっちもないけど、それでもこんな風に言われれば気になってしまうのだ(なんて人間は好奇心旺盛な生き物なんだろう!)





だけど、私の問いには応えるつもりはないのか、仁王は何も言わず、ゆっくりと微笑んだままだった。







に不利なことではないけ、気にしなさんな」




「気にしなさんなって・・・」






そんな風に言われたら尚更気になってしまうじゃない





だけど、もしかしたら私には聞かれたくないことかもしれないし、これ以上追求する事は止めておこうと思う。

私だってそんな言いたくない人に無理やり言わせたりしようとも思わないし、私に不利な事は無いって言ってるんだから大丈夫だろう

詐欺師と言われる仁王の言っている事が、事実かどうかは分からないけど






「もしかして、柳生くんが図書委員だから図書委員になったとか?」




「・・・なんで、俺が柳生と全部同じにせないけんのじゃ」




「だって、仲良いんでしょ?」




「仲が良いからって、部活でも一緒なのにわざわざ委員会まで一緒にしたりしないぜよ」




「へぇ」









女の子は全部、友達と一緒にするのに、男子はどこか違うらしい







「まぁ、が言った事もあながち間違ってないんじゃがな」




「あながち間違ってない?」




「ピヨ」









仁王のほうを言えば、これ以上何も話す気はないのか、意味不明な言葉を口にした

たまにこの言葉を耳にする事があるけど、未だにこの意味不明な言葉が何を言いたいのかは分からない

別に分かろうと思ってないから良いんだけど、だけどこんな意味不明な言葉がどうにかならないのだろうか




正直、聞いているこっちは不快だ。むしろ、私が不快なんだけど!











「(あぁ、まったく仁王の考えている事はわからない)」









本当にこの男、詐欺師と言われてるだけであって会話にも隙が無い。隙あらば弱みでも握ってやろうと思っていたのに

仁王には隙なんて一欠けらも見られない。この男、詐欺師になる為に生まれてきたと言っても過言じゃないんじゃないか







そんな事を考えていると、隣を歩いていた仁王が再び口を開いた。






「のぉ、




「何?」








「お前さん、ジャッカルの事好きなんか?」







「・・・は?」








一瞬、この隣にいる男が何を言ったのか理解できなかった



なんでここでジャッカルがでてくるんだろうか。いや、確かにジャッカルは好きだけども


だけど、好きとは言ってもそれにはいろいろな種類があるわけで、私がジャッカルに対する好きというのは


友達の好きである。ラブではなくて、ライクなのだ。どちらも好きという意味があるけれど、意図は大きく違ってくるのに。









を見とると、ジャッカルの言う事は素直に聞くからのぉ」




「まぁ、好きだけど。友達としてだね」





「じゃあ、丸井のことは?」





「ブン太は嫌いじゃないけど、たまに殴りたくなる事はある




「それは同感だのぉ」




「(同感なのかよ・・・!!ブン太気をつけろよ!)」
















「・・・・じゃあ、俺は?」











ブン太の身を少し心配していたのに私は仁王の言葉に、言葉が出なくなってしまった。

さすがに本人を目の前に嫌いだと言うのは、申し訳ないような気がして、言える訳が無い。

いや、でも今までの私の態度を見れば自然と分かるとは思うような。だったら言ったとしても関係ないのかもしれない















「クッ、お前さんは分かりやす過ぎじゃな。は俺のことは嫌いじゃろ?」













仁王が笑いながら言う。その姿に、私は少しだけ信じられない気持ちになった

確かに嫌いな人から嫌いだと言われても傷つかないかもしれないけど、さすがに面と向って言われるとへこむと思うのに。

なのに、この男はそんな様子は見られない。あぁ、もしかして、仁王も私のこと嫌いだったのかもしれない






だったら、どちらも嫌いあってるのだったら、何を言っても良いんじゃないだろうか。









「・・・ブン太は仁王のことを良いやつだと言うけど、私には仁王の良いところなんて分からない」




「これでも他の女子からはモテるんじゃけど」




「私は顔で決めない主義だから。それに」





「それに?」












私は立ち止まって、仁王を見上げる。さすが自分でモテつことが分かっているだけあってかっこ良い顔だと言うことは認める

だけど、かっこ良くても性格が悪かったら人として最低だと思う












「私、女の子を大切に出来ないやつって嫌いだから」












私が言えば、仁王は少しだけ驚いた顔でこちらを見ていた。しかし、すぐにいつものようにうっすらと笑みを浮かべた











「じゃあ、が思う女の子を大切にするってことはどういうことなんじゃ?」










仁王に聞かれて何故か私は言葉につまってしまった。女の子を大切にするってことはどういうこと・・・

そんなの具体的に考えた事なんてなかった。大切にすると言う事は、大切にするって事で。

それを行動でしめせと言われても、何をやって良いかなんて私には分からなかったからだ。






だけど、一つだけいえることはある。











「女の子を守って、女の子を泣かせない事」











これはあの時、仁王が出来なかったことだ。

私はこれを見て、仁王のことが嫌いになった。その思いは今も変わらない












「じゃあ、私こっちだから」










そう言って私は仁王とわかれて、歩き出した。もうこれから仁王の話すことは無いかもしれない。そう思った瞬間、後ろから仁王が私を呼ぶ声が聞こえた。

その言葉に私が振り返れば、仁王がいつもとは違ってずっと真剣な顔でこちらを見ているのが暗い中でもよく分かった。









「のぉ、






「何?」







「それは好きな女以外にもいえる事なんか?」











私には一瞬、仁王の言った意味が分からなかった。だって、好きな女と好きな女以外の違いが私には分からなかったから。





どちらも女の子にはかわりがなくて、女の子は守らなければいけない存在で。




考えれば考えるほど仁王の言った意味が分からなくなっていたけど、なんとなく私はその言葉に頷いていて、

仁王はそれを見ると私に背中を見せて赤い紐で結ばれた髪の毛を左右に揺らしながら歩いていった。















意味が分からない












仁王と分かれて帰る夜道で私はずっと仁王に言われた言葉の意味を考えていた。

仁王の言葉は家に帰ったからも、私の中にしっかりと残っていて、なかなか消えてくれそうには無かった。

お願いだから明日起きた時にはこの言葉を忘れていてくれてる事を願いながら、私は眠りについた











「それは好きな女以外にもいえる事なんか?」











  







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(2007・09・17)





久々すぎる更新まことにすみません(土下座)