ボールの飛んできて方から足音が聞こえてきたと思えば、暗い闇のなかを足から徐々に姿を現した宍戸先輩と鳳がいた。宍戸先輩と鳳の手には何故かテニスラケットとボールが数個もたれていて、多分先ほどのボールもこの2人のどちらかが投げたんだと言う事が分かった。いや、あのボールの球速からすれば鳳がスカッドサーブでも決めたんだろう。あれ、ボールを見れば誰の何て言うサーブか分かるなんて、私もテニスの事が分かってきたんだなぁ・・・って、今そんな事考えてる場合じゃない。
「大丈夫か?」
「あ、はい宍戸先輩。おかげさまで」
「それにても鳳よくやったやん。サーブミスせんなんて」
「あはは、俺だってやる時はやるんですよ。それにミスしたとしてもに当てるようなヘマはしませんし、当てるなら忍足先輩に当てますから」
「笑顔でごっつ、酷い事言うなぁ、自分・・・!!」
いつもの光景に思わず、笑みをこぼす私だけど、この2人はどこでこのテニスラケットとテニスボールを手に入れたんだろうか。この学校からは出られないことはさっき、全てのドアを確かめたから分かる。それに部室は外にあるはずだから、そこまで取りに行く事は無理だ。
「ところでラケットなんてどこから持ってきたんですか?」
「あぁ、これクラスにあったからちょっと拝借したんだよ」
「宍戸、それ犯罪やん」
「煩いですよ、忍足先輩?」
笑顔で言う鳳が幽霊以上に恐いと思ったのは私だけでなくここにいるメンバー全員が思ったことだろう。とりあえず、未だ動こうとしない人体模型をそこにおいたまま、私達は歩き出した。とりあえず宍戸先輩と鳳に会えたから、これからはこの学校から出る為の方法を探さなければならない。3階に降りた時、私はあることを思い出した。私達が今、相手にしてるのは、霊的なものだ。それなら、塩が使えないだろうか。私が立ち止まれば、みんなも立ち止り、私の方を振り返った。
「あの、思ったんですけど」
「どうしたんや?」
「塩があったら少しは使えるんじゃないですかね?」
確か、調理室には塩があったはずだ。調理室は3階にある。ここからそう遠くない場所にあるし、あいつらに塩が聞くかどうかなんて分からないけど、あるに越したことはないだろう。
「・・・そうだね、あった方が便利かもしれない」
「そうと決まったら取りに行こうぜ!」
私達は2階への階段を降りずに、3階にある調理室へと向った。こんな事、跡部部長には何勝手な事してんだと言われてしまいそうだけどね。まぁ、その時はその時で忍足先輩にでも責任を押し付ける事にしよう。うん、そうしよう。
****
調理室に入れば、これまらカーテンが閉められてすごく暗かった。思わず電気をつけようと、スイッチに手をやっても電気がつきそうな気配はみられない。仕方がなく私は窓まで行き、カーテンを開ける。少しだけ明るくなった(とは言っても本当に少しだけ)室内ではやっとこさ、みんなの顔が見えるか見えないかぐらいだ。
「塩ってどこにあるんだ?」
「確か、どの棚かにあったかと思うで」
「お、さすが氷帝のおかんだな!!」
「俺ってそんなあだ名ついてたん・・・?」
「あれ、知らなかったんですか?」
「いや、鳳。何、そのさもそのあだ名は有名ですよみたいな言い方は?」
「あはは、標準語の忍足先輩って気味が悪いですね」
「俺、ホンマ泣くで・・・?!」
ガチャガチャと棚を物色する音が聞こえてくる。私も捜さないと思い、窓の近くの棚を一人で捜してみるが、どうやらその棚は食器専用らしく皿やコップしかでてこない。しょうがない、と思い、他の棚に視線を代えればそこには先ほどまでいなかった髪を二つに結んだ女の子の姿が見えた。下足箱で見た女の子とも違う、階段から落ちた女の子と理科室で薬品をかけられた女の子とも違う、初めて見る女の子だった。しかし、一回瞬きをすればそこに女の子の姿はなかった。私の考えすぎかと思っていると、鳳が私の名前を呼んだ。
「、塩見つかったよ!!」
「あ、うん・・・つッ!!」
鳳の方に駆け寄ろうとした瞬間に、再び頭が痛くなるのを感じた。それだけじゃない。鳳の声のしたほうを向いたはずなのに、そこに鳳はいないで忍足先輩も宍戸先輩の姿もいつの間にか調理室から消えていた。この調理室にいるのは私と・・・・下足箱で見た女の子と、また知らない髪の短い女の子。髪の短い女の子は怯えた顔で、もう一人の女の子を見ていた。
「ご、めんなさい・・・!!だから、許して」
「分かった、許してあげる」
「・・・!!」
「なーんて、言うと思ったの?」
下足箱で見た女のこの方が、ニヤリと言う効果音がつきそうなぐらいの笑顔で微笑むと、持っていた包丁を振りかざし髪の短い女の子へと一気につきたてた。断末魔のような女の子の悲鳴が教室中に響き渡る。しかし、そんな事おかまいなしに、女の子は何度も何度もその女の子が人間としての原型を留めないほどの形になっても包丁を突き刺し続けた。
「あんたは私が何度もやめてってお願いしてもやめてくれなかったじゃない」
「なのにやめてだなんて、あまりに傲慢すぎるんじゃないの?!」
包丁を差す音と、女の子の悲鳴にも近い叫び声だけが教室中に響く。私はあまりのむごさに思わずこみ上げてきた胃の中のものを抑えようと、口に手をやった。真っ赤な血を浴び続ける女の子に、私は心のそこから恐怖を感じる。満足いったのか、女の子は包丁を床に落とした。既に何かわからなくなった女の子の死体とそれからあふれ出る血の海だけが広がっていた。
「あと一人」
そう呟くとあれだけ広がっていた血の海も死体も、女の子の姿も調理室からは消えていた瞬間、痛かった頭にさらなる強烈な痛みが襲った。今までの頭痛なんて目じゃないくらい、ガンガンと頭が痛む。私はその場に立っていられず、調理台に手をやりどうにか体重を支えようとするも、それでも私は痛みに耐え切れず、しゃがみこんだ。痛い、痛い。だけど、この痛みただの頭痛なんかなじゃい。まるで鈍器か何かで頭を強く殴られたような痛みだ。
「、大丈夫か?!」
「ちゃん!!」
遠くなる意識の中で、私を呼ぶみんなの声がした。しかし、私はあまりの頭の痛さにいつの間にか、意識がなくなっていた。
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(2007・08・14)
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