「お、ちゃん起きたみたいやで」
「あれ・・・?」
目を開ければ、いつの間にか私の目線は忍足先輩より高いところにあった。もしや、私が寝ている間に身長が伸びてしまったのだろうかと思ってしまったけれど、私の目の前にあったのは大きな背中で、銀色の髪の毛のところをみると私はどうやら鳳に背負われていたらしい。私は申し訳に気持ちになりながら鳳の背中から降りた(重かっただろうな・・・)
「、大丈夫?」
「あ、うん。鳳ありがとう」
「それにしても急に倒れるから驚いたんだぜ?何かあったのかよ」
「いや、何と言いますか・・・・」
思わず、言葉につっかえる。あれは本当に現実にあったことなのだろうか。実は私がこの状況を恐いと思ったために生み出したものではないだろうかと不安になってしまう。それに別に、先ほどの事を信じてくれるかくれないか分からないからみんなに言わないわけではない。ただ、これ以上、心配をかけされたくないのが正直な気持ちなのである。私がどうしようかと考えていると、忍足先輩の手が私の頭の上にフッと下りてきた。少しだけ驚きつつ忍足先輩の方を見る。
「まぁ、ちゃんが大丈夫ならそれで良いんやけどな」
いつもなら胡散臭い笑顔に感じる忍足先輩の笑顔に助けられた気持ちになった。私が言いにくい事を分かってくれているのか、忍足先輩はそれ以上、私から何も聞こうとはせずさりげなく話題を変えてくれ、私達は再び静かな廊下を歩く。通り過ぎていく教室を見れば、3年のクラスプレートがかかっていて、ここが2階であることを私に教えてくれた。もう少し歩けば、図書室に着くことだろう。
「――」
ある教室を通り過ぎた瞬間、私の名前が聞こえた。前を歩く3人には聞こえてないのかそのまま歩いていこうとする。今まで聞いてきた女の子のどの声とも違う何か必死さを感じた声に私は思わず立ち止まり、振り返った。そこには調理室で見た髪を二つに結んだ女の子の姿があった。そして、廊下の真ん中に立ったまま教室の中を指差していた。女の子はそれ以上、何も言えないといった様子で悲しそうな顔を浮かべていた。一体、そこに何があるんだろうと思ったけど、まもなくしてその女の子は消えた。そして、下半身を引きずったままこちらに向ってくるテケテケの姿が見えた。
「みなさん、走ってください!!」
「えっ?!って、あれなに?!」
「また走るのかよ!!」
私の言葉に一斉に振り返った3人は私の後ろから追いかける人ではないものに驚いていた。いや、忍足先輩だけは一回見たことあるせいかそこまで驚いた様子には見えなかったけど。
「おい、鳳塩や!!」
「あ、はい!」
忍足先輩が言えば、鳳は持っていた塩を取り出し後ろに向って投げつけた。後ろから聞こえてきていたはずの下半身を引きずる音は消えて、女の悲鳴だけが聞こえてた。良かった、効いたんだと一安心しつつ私達はそのまま走って図書室へとむかった。しかし、私の頭の中では先ほどの悲しそうな顔を浮かべた女の子の顔が消えなかった。一体、彼女は私に何を伝えたかったんだろうか。そして、何故あの映像は私には見えないし聞こえないんだろうか。疑問はますます募るばかりだった。
ガラガラ
図書室のドアを開ければ、そこには先ほどと変わらないメンバーが私達を迎えてくれた。どうやら、ここに幽霊達は来ていないらしい。図書室の机の上にはたくさんの本やファイルが無造作に置かれ、日吉と跡部部長と樺地が一生懸命に調べている。岳人先輩とジロー先輩はどうやら飽きてしまったように見える。
「宍戸に鳳だCー!!」
「無事だったんだな!」
元気なお子様ペアを他所に私は日吉の近くによった。そして、近くの本を一冊手にとる。パラパラとめくって中を確認してもこの状況を抜け出せるような方法は書いていない。
「何かここから出れる方法見つかった?」
「いや」
「そうだ、跡部。一応これ使えると思って塩持ってきたぜ」
宍戸先輩が跡部部長に向って塩が入った袋を跡部部長に投げて渡した。宍戸先輩の言葉に跡部部長は少しだけムッとした表情を浮かべた。
「アーン?何勝手な事してんだよ」
「そんな言い方ないだろ。せっかく使えると思って持ってきたんだぜ?」
「そういう問題じゃねぇ」
跡部部長が怒った様な口調で言う。確かに、勝手な事をしたことは悪いと思ったけど、この塩は実際にテケテケに効いたんだしあっても困るものじゃない。むしろ無いと困る事もあると思って持ってきたのに、こんな態度をとられるとムカついてくる。
「すみません、私がとりに行くように言ったんです」
「・・・ったく、無事だったから良いものを。これからは勝手な行動はするな」
ホッと息を吐いて跡部部長は言った。跡部部長は何だかんだ言いつつ部員の事を考えてくれているらしい。その事に気付かないで、ムカついていたなんて自分が少しだけ恥ずかしい。
「あ、そうだ」
「どうしたんや、ジロー?」
「いや、あの嫌な夢の内容思い出したんだ」
こんな時になんで嫌な夢の話なんだとは思わなかった。ジロー先輩がいつも以上に真剣な顔をしていたし、私自身ジロー先輩の夢はこの状況と何か関係しているのではないかと思ったからである。日吉の本をめくる音もとまった。みんなの視線がジロー先輩へと集まる。
「俺の夢に女の子が出てきた」
ジロー先輩の言葉に何故だか胸が締め付けられる気がした。
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(2007・08・14)
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