「!!」
もう駄目だ、と思った瞬間、青白い手は私の首からはなれ、私の目の前には岳人先輩が立っていた。私は体に力が入らずにしゃが見込むと、新鮮な空気を肺にとりこみ乱れた息をととえた。鏡にはいつの間にか女の子の姿は消えて、私と岳人先輩の姿しか映っていなかった。
「た、助かりました」
なんとか呼吸を整えると、立ち上がり岳人先輩を見た。岳人先輩が来てくれなかったら私はあの女の子に殺されていただろう。そう思うと、少し恐くなった。
「気にすんなって!!それにしても何でこんなところにがいるんだよ」
「こんなところって、ここは女子トイレですよ?」
私がそういうと、岳人先輩は「そう言えばそうだった」と言って、恥ずかしそうに廊下に出て行った。もちろん私もその後ろに続いて廊下に出る。廊下に出れば先ほどと同じようにとても静かだった。しかし、先ほどとは違い岳人先輩が一緒な為かあんな目にあった今もそこまで恐いとは思わない。
「他のやつらは?」
「それがはぐれてしまって、ついさっきまでは日吉とも一緒だったんですけどね」
「俺らも逃げる途中でそれぞれわかれたんだよな」
だからか、岳人先輩が一人でこんなところにいたのはと思うけど、それにしてもおかしくないか?だって、どうして岳人先輩は女子トイレに入ってきたんだろう。いや、助けてもらったから別に良いんだけど普通、女子トイレに男子は入らないし、岳人先輩なんてなおさら身長は低いけど氷帝のなかでは一番男らしい人だといっても過言ではないのに。もしかして、忍足先輩に感化されちゃったのかな・・・・
「お前、何か失礼な事考えてんだろ」
「え、そ、そ、そんなことないですよ!!」
「クソクソ、なんだよ、どもってる時点でバレバレなんだよ!!」
「いや、なんで岳人先輩は女子トイレに入ってきたのかなぁと」
「なんでって、あれ・・・?」
私が言うと岳人先輩は急に黙り込んで何かを考え出した。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんか声が聞こえたんだよ。がここにいるって」
「えぇ?!」
「それで言われた通りに入ったら、が首絞められてたんだよ」
淡々と言っていく岳人先輩。私はどうやら岳人先輩に私がここにいることを伝えてくれた声のおかげで助かったらしい。しかし、一体誰が私を助けてくれたのだろうか。それにあの首を絞めてきた女の子が私の名前を知っていたのも引っかかる。
「その声ってどんな声でした?」
「女子の声だったと思う」
首を絞めたのも女の子。岳人先輩が聞いた声も女の子。どちらも同じ人物だとは考えにくい。岳人先輩が聞いた声の女の子は私達の味方だと考えても良いのだろうか。いや、安易に信用するのは良くない事だ。
「よし、まぁ、他の奴ら探そうぜ」
「あ、はい」
私は岳人先輩の言葉に僅かに頷いたが、頭の中では二人の女の子の事で一杯だった。
「心配すんなよ。俺達がは守るからな!!」
そんな私を見て心配してくれたのだろうか、岳人先輩がいつもの笑顔で言った。岳人先輩だって恐くない事は無いと思うのに、それでも私のことを思って言ってくれたんだろう。なんだか正直嬉しい気持ちになった。
静かな廊下を岳人先輩と二人で歩いていた。いつ、どこから現れるか分からないものに神経を研ぎ澄ませながら、歩くというのもなかなか疲れるものであり、このまま歩いているだけで本当に誰か他のメンバーに会えるのだろうかと不安にもなってくる。この状態から抜け出せる方法は無いのかと考えれば、ある一つの場所がうかんだ。
「岳人先輩、図書館に行きましょう」
「図書館?」
「はい、図書館だったら何かこの状態から抜けだせる方法の書いた本があるかもしれませんよ」
「なるほどな。よし、じゃあ急いで行こうぜ!!」
氷帝学園は歴史が長い。だからこそ、図書館には膨大な本や資料、がおいてあったりもする。その中に一つくらい、もしかしたら参考になるものがあるかもしれない。いや、ないにしても図書館と言ったらそこまで怪談話も少ないから、安全である。
図書館の前に着いて、閉じられていたドアに手をかける。ガラッという音と共にドアを開ければそこには、鳳と宍戸先輩以外のメンバーが揃っていた。いきなりドアを開けたことに驚いていたのか、みんな一斉にこちらを見たので少しだけ怖かった。
「なんや、岳人とちゃん一緒におったんや」
「、無事だったんだCー!!」
「え、あ、ちょっと、ジロー先輩?!・・・ギャッ」
ジロー先輩のタックルになんとか耐えつつ、日吉を見ればはぁとため息をつかれた。すごくムカついたが、日吉は日吉なりに私を心配してくれてるんだろうと思うことにした。忍足先輩と岳人先輩はなんだかんだ話していて、まるでいつもの部活の時のようだ。しかし、あと二人メンバーが足りない。
「フン、ジローそろそろ離れてやれ」
「えー「さっさと離れてください」」
跡部部長に言われても離れようとしなかったジロー先輩を無理やり離そうとすれば、樺地が何も言わずにジロー先輩を離してくれた。ありがとうと、お礼を言いつつ、跡部部長を見る。
「・・・何かこの状態を抜け出せる方法は見つかりましたか?」
「いや、今んとこ見つかってねぇ」
私の言葉に、話していた忍足先輩と岳人先輩も静かになって話すのを止めた。再び沈黙が訪れる。
「とりあえず、先に宍戸と鳳を探すほうのが優先やな」
「じゃあ、宍戸と鳳をさがすのとここで何か帰る方法を探すグループにわかれるぞ」
「跡部部長、私、宍戸先輩と鳳を捜すグループがいいです」
何故か、私は考える以前に言葉を発していた。心の中では別にどちらのグループでも良いとおもっていたはずなのに、何故私はこんな事を言ったんだろうか。他の人たちも、私が跡部部長の言葉の後に間髪いれずに言ったせいか驚いた顔をして私を見ている。だけど、それ以上に驚いているのは誰でもない、私なのだ。そう、まるで口が勝手に動いた様な気分に陥っている。
「ならちゃんと俺が行くわ」
「えー、忍足ずるいCー!」
「ジローは足、怪我しとるやろ」
「え?」
忍足先輩に言われて、ジロー先輩の足を見れば確かに制服のズボンを捲り上げた、そこには傷があった。そこまで深くはなさそうだけど、痛そうである。この足だったら、さすがに歩き回るのはさけた方が良さそうである。しかし、忍足先輩に言われるまで気付かなかったとは、マネージャー失格かもしれない。
「あ、そんな顔しなくても大丈夫だよ!!全然痛くないから!」
「本当ですか?って、今思えばそんな足で私に抱きつくのはやめて下さいよ」
「えへへ」
「えへへじゃないですから」
無邪気に笑うジロー先輩に一安心し、忍足先輩の方を見れば、なにやらニヤニヤした顔で笑っていた。いや、他の人から見れば普通に笑っているだけに見えるんだろうけど、私にはこの日が笑うとどうしてもニヤニヤという効果音をつけてしまいたくなるのだ。
「跡部と日吉は本を資料を探すの上手そうやし、ガックンは落ち着きがないからなぁ」
「落ち着きが無いってどういうことだよ?!」
「そのままの意味ですよ」
「クソクソ、日吉の癖に!」
確かに、跡部部長と日吉は本をよく読むから活字には慣れていそうだ。忍足先輩、なかなか人を見る目がある。さすが、氷帝の曲者といわれるだけの人物だ。まぁ、そんなこと今初めて思ったんだけどね。
「行って来るわ」
「、侑士に何かされそうになったら逃げろよ?」
「忍足、に何かしたら生きて返さないCー!」
「十分に気をつけろ」
「お前ら本当、しばくで?」
忍足先輩はどんな目でテニス部メンバーから見られているのか改めて思い知ったような気がする。少しだけ忍足先輩に同情を覚えない事も無いかもしれない。いや、それはないか。私と忍足先輩は、暗い廊下に再び足を踏み込んだ。
―――
再び名前を呼ばれた気がした。しかし、廊下には私と忍足先輩以外の姿は見えなかった。私達は無事に宍戸先輩と鳳に会うことは出来るのだろうか。隣にいる忍足先輩を見れば、先ほどの雰囲気から一変、まるでコートに立ったときの様に目が真剣さをおびていた。
← →
面白かったと思った方はココをクリックしてください(ワンドリランキング参加中)
(2007・08・14)
|