ポマード、ポマード、ポマード!!















口裂け女が嫌がると言われる言葉を叫ぶ。走りながら後ろを振り返れば、口裂け女は既に足をとめてもがき苦しんでいるように見えた。あぁ、良かったと私と日吉は上に上る階段を一気に駆け上がる。



















「口裂け女にはポマードか・・」







「あれで止まってくれなかったらどうしようかと思ったよ」








「お前が保健室でいらない事言わなかったら良かっただけの話なんだけどな」















日吉の言葉に多少申し訳ない気持ちになりながら、私は立ち止まり呼吸を整えた。そんな私を日吉は待っていてくれている。やっぱり何だかんだ言いつつ優しいやつだなぁと思っていると急にまた下足箱のときの様に頭がガンガンと痛くなってきた。苦痛に顔を歪ませて、目を閉じる。何故か、目を閉じているはずなのに、私の目には女の子2人が見えた。片方の女の子はさっき下足箱で見かけた女の子だ。なんでだろうと、痛む頭で考えていると下足箱で見かけた女の子が前を歩いていた女の子の背中を押す。階段の上にいた女の子は、何か悲鳴をあげながら階段を落ちていき、階段の下で腕や足がありえない方向に曲がったまま、
血だらけとなっていた。

















「・・・許さないんだから」













女の子が階段の上から、血だらけになった女の子に呟く。既に動かなくなった女の子に、駆け寄ろうとしたけど、足が動こうとしない。早く救急車を呼ばないとと思うのに、何も出来ず、私はただその光景を見ていることしかできないのだ。
ズキンズキンと未だ頭が痛む。















「何で、こんなこと」












私は何とか出せた声で、階段の上にいる女の子に言う。しかし、その女の子には聞こえないのか、私の方を見ようともせず血だらけの女の子をずっと睨んでいる。

















「あと、3人ね」














女の子はその言葉を吐いた瞬間、今までこちらに見向きもしなかったはずなのに私の方を向いた。目は充血し、ものすごい顔でこちらを睨んでいる。動かない体からは冷や汗がでていた。














。絶対に許さないから」









その言葉を聞いた瞬間、瞼を閉じた私の視界はすっかりと暗い闇に戻っていた。肩を掴まれた感触に、私の意識はだんだんと鮮明になっていく。あぁ、そういえば私は確か、今日吉と2人だったんだ。今、見えた映像は一体なんだったんだろう。名前を呼ばれても、私にはあんな子は知らない。













!!」










バッと目を開ければそこには、焦ったような顔をした日吉がいた。私は全身に冷や汗をびっしょりとかいていて、少しだけ気分がわるかった。














「あ、どうしたの、日吉?」











「どうしたのじゃないだろ。大丈夫なのか?」








「いやいや、別に何も無いよ。ただちょっと息切れがすごくて、もっと運動しないといけないなと思っただけ」










「あの人たちの子守してたら、普通の体育系の部活より運動しているような気はするけどな」














わざわざ心配させる必要はないだろうと、日吉には本当のことは言わなかった。別に今の映像が何か今回の事に関係しているとは思えないし、もしかしたら私の想像なのかもしれない。何回も私の前に姿を現す少女は一体誰なんだろうかと考えても、一向に答えはでてこない。私の言葉に日吉は納得したのか「行くぞ」と言って先に進みだす。私も日吉の後に続いて2階へと続く階段から廊下にでようと曲がり角を曲がった。













「ちょっと、日吉待って・・・・アレ?」











しかし、曲がり角を曲がった瞬間、私の前を歩いていたはずの日吉の姿はどこにもなくなっていた。ただ私の目の前に広がるのは先の見えない真っ暗な廊下だ。それにここは2階のはずなのに、教室のプレートを見れば3階にあるはずの教室の名前が書いてある。やられたと思っても、もう遅い。私と日吉はどうやらそれぞれ引き離されてしまったらしい。












「まぁ、歩いていればその内誰かに会えるか」











そんな風に思える女子はなかなかいないだろうなぁと自分でも思う。だけど、ここでうじうじしていても何も始まらない。ここから出たいと思うなら自分から実行に移さなければ、何時までたっても私達はこの学校からでることはできないのだ。夜の学校といっても良いぐらい暗い廊下を一人で歩く。思ったよりも自分の足音が大きく響いた。













―――ピチャン












聞こえてきた音に思わずドキッとする。この音は水の落ちる音だろう。どこから聞こえてくるのかなんて考えなくても分かる。今、私が歩いている先にはトイレがあるのだ。













―――ピチャン












だんだんと大きくなってくる水の音を無視して行くわけには行かない。だって、何だかもったいないと思ってしまうのだ。こんな事、跡部部長に言ったらたかが水の出しっぱなしでと言われるかもしれないが、水道代って結構かかるし、庶民にとってはほっとけないことなのである。いや、さすがにこんな状況の時なら仕方がないかとも思えるけど。

















「トイレと言えば学校の怪談では約束だよね」













ボソリと自分に言い聞かせるように呟く。学校の怪談を題材とした本や、映画ではトイレというのは幽霊の出てくる絶対的な場所として存在する。普通だったら、どうしようもなくトイレに行きたくなってトイレに行くのであって、私の様に出しっぱなしだと思われる水道を止めるだけにトイレに入る事なんてしないだろう。自分で考えても少し、私は馬鹿ではないのかと思えてくる。トイレに入ればすぐに水が出ているのが分かった。キュッと蛇口を閉めれば、聞こえてきていた音が聞こえてこなくなる。その代わりといっては何だけど、静寂がその場を包んだ。















「・・・・






「え?」












名前を呼ばれたと思って辺りを見渡すも誰の姿もない。もちろんここは女子トイレだからテニス部のメンバーがいるとも考えられないんだけど、こんな状態だから女子トイレに逃げ込んだというのも考えられる。しかし、確かに名前は呼ばれたはずなのに、誰もいない。いるのは鏡に映った、私だけだ。
















「・・・












先ほどよりも大きな声で名前を呼ばれた、そう思ったときには私の首には青白い手が伸びていた。グッと首を絞められる。手の持ち主の姿を探せば、手の先は鏡の向こうに続いていて、先ほどまでいたはずの鏡の中の私は下足箱で見かけた女の子の姿になっていた。だんだんと強くなっていく力に、抵抗しようともがくが相手には通じない。

















「離、し、て・・・」










私を裏切ったら承知しないんだから











裏切るも何も、別に私はこの女の子と知り合った覚えは無い。しかし、目の前の女の子は私のことを睨みつけ、一向に力を緩めようとはしない。言いたいことも言えず、助けを呼ぶことも叶わない。何とか遠のきそうになる意識を必死にとどめ、私は鏡の向こうの女の子を見つめた。























  










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(2007・08・14)