「駄目やな、どこもあいてへん」








「まったく、面倒な事になりましたね」








「あとべ達、大丈夫かなー?」









「あの人たちなら大丈夫でしょう」









「日吉の言う通りや。あの跡部のことやからなぁ」














忍足先輩の"あの"という言葉に少しだけ納得を覚える。まぁ、"あの"跡部部長が簡単にやられる訳がないなと考えつつ、私達は1階のドアがあいていないかすべて見回りながら、歩いた。しかし、どこのドアも開かないし、壊そうとしても壊れない。どうしようもない私達はとりあえず、跡部部長達とどうにか合流できないか考える。ふと、その時どこからか、まるで物を引きずるような音が聞こえてきた。後ろを振り返って見てみるものも別に何もなく私は首をかしげる。もちろん、前の廊下にもそれらしきものは見えない。

















ズズ・・ズ・・・ズ















「すいません、何か物を引きずる様な音聞こえません?」






私の言葉に、みんな立ち止まり耳を澄ます。











ズズ・・ズ・・・ズ











「・・・確かに聞こえる」








「次は何やねん」














忍足先輩がため息混じりに言う。私達はだんだんと近付いてくる音の発生源をさがそうとするが、一体それがどこから聞こえてくるのかわからない。前も後ろもどちらの廊下の先にも、なにも現れないのだ。さすがにこれだけ音が近くで聞こえているのに何もいないのははおかしいと思う。









「次は透明人間かなんかか?」






「透明人間は学校の七不思議にありませんよ」





「だけど、こんなに――――
ズ・・・ズズ











、上だ!!」















日吉の言葉に、私はハッと上を向く。そこには、むき出しの下半身を引きずるように天井を歩く女子生徒の姿があった。

















「天井歩くなんておかしいだろ!!」









「この馬鹿、今はツッコミしてる場合じゃねぇ!!」











日吉もつっこんでるじゃんって思った瞬間にはもう日吉が私の腕を引っぱていて、走り出していた。
ゴトン、と音がして気になった私は後ろを見る。見なければ良かったと思ってももう遅い。天井から降りた(いや、落ちた?)、女子生徒が腕をつかい、這いながらものすごい速さでこちらに向ってきている。前の方では忍足先輩とジロー先輩が走っていく。メリーさんなんかよりも全然早い女子生徒に、私は逃げ切れる気がしなかった。















「日、吉、このままじゃ追いつかれる・・!!」













さすがに現役テニス部とマネージャーの体力の差は歴然としている。このままでは日吉までアレの被害にあってしまうと思うと、さすがに申し訳ない。だからこの掴んでいる腕を離してもらおうと私は声を上げる。しかし、私が言っても日吉は腕を離そうとはしない。
















「チッ」













日吉が舌打ちをしたかと思うと、私達はすぐそばにあった保健室へと入り込んでいて、日吉はバタンと急いでドアを閉めた。ドアの向こうでは、忍足先輩とジロー先輩の足音と何故かこちらに来ないでその2人を追いかけていく女子生徒の下半身を引きずる音が聞こえ去っていった。












「ハァ、ハァ、日吉、ありがとう・・・」









「ったく、お前を置いて行ったら俺があの人たちに嫌味を言われるんだから、それを考えて行動してくれ」









「あはは、ごめん。でも日吉まで道連れにするのは、嫌だったんだよね」








「・・・別にそんな事、気にしなくて良い。むしろ、お前が危ない目にあって吾郎さんに何かされるよりましだ」









「あ、うん。それもそうだね」















納得したくはないのに納得できる日吉の言い分を聞きつつ、私は保健室を見回した。特にこれと言って、何も無い。もう少しここで休憩したら、他の人たちを探しに行かなくちゃいけなくなるだろう。















「ねぇ、日吉。さっきのってテケテケかな?」









「そうだろうな。それだったら俺達じゃなくて、忍足さん達を追って行ったのも納得できる」










「あぁ、確かテケテケは急には曲がれないんだっけ」















私と日吉は普段から学校の階段とかの本を読んでいるせいか、他の人たちよりもそんな知識は多いと思う。まぁ、今みたいにいきなり来られるとそんな事考えられないからあまり意味はないような気もするけど。それでもないよりはマシだろう。特に日吉は私より、こんなネタに詳しいから頼れる存在だ。












カタン












保健室のベッドを囲う、カーテンがゆれる。その瞬間チラリと見えたのは、人が立っている姿だった。カーテンの隙間から見える髪の長い女性。口元には大きなマスク。もしや、これはお約束のあのお方なのだろうか。その女性はこちらに気付いたのか、カーテンを開けるとそろりそろりこちら側に近付いてきた。














「口裂け女って学校には出ないはずだったと思うんだけど」










「・・・こんな状態なんだ。何があってもおかしくないだろう」













確かに、と日吉の言葉に頷く。もうこの学校で起こっている状態がありえない状態なんだ。そう思えば、学校に口裂け女がいたとしても、おかしくないと思えてくる。



















「私・・・キレイ?」














お約束すぎる言葉。しかし、本物はやっぱり違うなと妙に感心してしまう。甲高くもないのに、体を恐怖のどん底に突き落とすような声質に、そこまで大きくない声なのに保健室中に響かせる声。さすがに本物だと認めざるをえない迫力だ。顔を見れば確かに、口が裂ける前はきれいだったんだろうと目元を見て思う。うん、だけど、やっぱりキレイだといったら。















「私は滝先輩の方がキレイだと思いますよ」











・・・・あ、やっちゃったと思ってももう遅い。








どうしようもない事を考えていたせいか、思わず口にだしてしまったらしい。言った瞬間、ものすごい勢いで日吉が私のことを睨んできたけど、しょうがないことを私はしてしまった。口裂け女の雰囲気が変わったせいか、保健室の空気が今まで以上に黒く濁る。舌打ちをすると日吉は保健室のドアを開けると、私の腕を引っぱって走り出していた。




















「この馬鹿!」









「いや、だって日吉も滝先輩の方がきれいと思わない?!」







「あの人は男だ!!」













綺麗に女も男も無いだろうと思う。現に滝先輩はもちろん、前を走る日吉だって十分綺麗な顔をしているんだから。綺麗という言葉は男に対しても褒め言葉だと私は思う。そんなくだらない事を考えていると、後ろから足音が聞こえて来た。保健室からでてきた口裂け女が私と日吉を追っているんだろう。後ろを振り返ればものすごい速さで走ってくる口裂け女が見えた。あぁ、ヤバイと思った瞬間、私はある言葉を叫んでいた。










  










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(2007・08・13)