プルル











未だ鳴り止まない携帯の音にみんなの音が止まる。でなければいけないと思うけれど、相手が分からないとあまり出たいと思わない。だって私の携帯に非通知でかけてくる人なんて、ほとんどと言うか、まったくいない。それに最近電話をかけてくる人はほとんどが他校で知り合ったテニス部だ。それもイケメン(これって死語?)ばかりなのだ。他の女の子にとったら嬉しい事かもしれないが、私にとっては迷惑この上ない。











「おい、でねぇのかよ」











岳人先輩が私に携帯にでるように促す。その声に私は恐る恐るだけど、携帯のボタンを押す。お願いだから電話の向こうの人がまともな人でありますように。無駄な願いかもしれないが、一応願っておいて損はないだろう。












ピッ










「はい、もしもし?」











「私、メリーさん今、校門の前にいるの」   ピッ ツーツー












「え・・・?」









「どうしたんだ?」









「いや、メリーさんが今校門の前にいるらしいです」









「へぇ・・・・・って、えぇぇぇぇぇ?!
















岳人先輩が叫ぶ。他の人たちも驚いたように目を見開いているように見える。いや、日吉だけは呆れた顔でこちらを見ていた。
















「どうせ、誰かのいたずらだろう」













「あ、それもそうだね。だけど可愛い女の子の声だったんだよね。
もろ、私好みの













「お前の好みなんて聞いてない」













日吉の冷ややかなツッコミにたえる。だけど、しょうがないじゃない声を聞く限り可愛い声だったんだから。日吉の言葉に緊張感が解けたのか他の人たちも笑い合えるぐらいの余裕が出てきた。しかし、考えてみれば、私は相手に心当たりはない。女の子の知り合いにはこんな幼い声の子はいないし、誰かが自分の妹にでも言わせているのだろうか。












プルル










再び携帯の電子音が鳴る














ピッ







「・・・はい?」










「私メリーさん。今、運動場にいるの」     ツーツー













「メリーさん今どこだって?」







「あぁ、運動場にいるらしいですよ。宍戸先輩」





「ふーん、なんや手がこんどるなぁ」













忍足先輩がニヤニヤしながら、いつの間にか到着していた職員室のドアを開ける。しかし、そこには榊監督だけでなく、先生達の姿もなかった。











「なんで、や?おかしすぎるやろ」










「おい、跡部。今日、先生たちいないのかよ」









「いや、俺様もそんな事一言も聞いてねぇ」








「じゃあ、なんで・・・?!」










「落ち着け、長太郎」

















プルル






私の携帯の電子音が私達以外誰もいない職員室に響く。先ほどまでは電話がかかってきても笑っていたのに、今ではみんなの顔から笑みが消えていた。










「でますよ」









「やめてたほうが良いんじゃねぇの?」









「大丈夫ですよ、岳人先輩」












さすがの私も恐いのか、岳人先輩に向けた笑顔が引きつる。だけど、よくよく考えればこんなものどうってこと無いかもしれない。私にとっては、幽霊なんかより吾郎の方が恐怖の対象であるのだ。












ピッ












「はい、もしもし」











、メーさ。今、にい   ツーツー
















「下足箱か・・・」









私は職員室をでて廊下で止まる。このずっと先に下足箱はある。どうやらだんだんとメリーさんは私達に近付いているらしい。このままでは・・・と考えて、私は携帯を持った手を振り上げた。












「何してんだよ?!」









「え、携帯を壊そうとしただけなんだけど。なんで鳳はそんなに焦ってんの?」









「いや、それは誰だって焦るよ!!」










「でも、壊れたらメリーさんはかけて来れないし」










私はそのまま携帯を持った手を振りかざす。しかし、途中でその手は止まり、私の手から携帯が吹っ飛ぶ事はなかった。













「何や、どうかしたん?」









「・・・・私にはやっぱり携帯を壊すなんてできません」















「いや、別に壊す必要はないだろ」
















「この携帯には杏ちゃんや、桜乃ちゃんとか大石先輩とか柳生さん(以下略)という、私の良き理解者のアドレスがたくさんあるんです・・・!!」



















「その中に俺たちの名前はないんやな」









「え、あ、はい」





ちゃん、ひどいわ!」




「あははー、どうしよう」












電話がかかってくるのは困る。だけど携帯は壊したくない。私はまったくどうすればよいんだろう。















「電源を切れば良いんじゃないのか」












日吉の一言に私はあぁ、と頷く。確かに電源を切れば、電話がかかってくることはない。と言うか、携帯を壊す必要なんてないじゃん!!どうしてこんな簡単なことにも気付かなかったんだろうと自己嫌悪してしまう。こんな事にも気付かないなんて、私もこの部活に大分毒されてしまったのだろうかと泣きそうになった。











「じゃあ、切りますね」










私はそういうと、電源を切ろうとボタンを押そうとする。しかし、その瞬間、電子音が響きだす。











「さっき、下足箱だったってことは次はどこだと思う、日吉?」






「まぁ、普通考えれば、俺たちの後ろだろうな」









日吉が淡々と言う。その声にはあまり恐い言う声色は含まれていない。しかし、俺たちの後ろか・・・それは流石に避けたいなぁと思う。まぁ、このまま携帯にでなければ、








ピッ










「え、私、ボタン押してな」















「「、メん。今、後ろいる」」














携帯から聞こえてくると同時に、後ろからも聞こえて来る声に振り返ればそこには可愛らしいとはとてもいえない血だらけのフランス人形が刃物を持っていた。いたなんて表現、人じゃないのにおかしいと思うかもしれないけど、フランス人形はまるで人間の様に立ち、こちらを見ていたのだ。真っ青な瞳で。












「チッ、とりあえず逃げるぞ!!」









跡部部長に言われ、私達は一斉に走り出す。後ろからは甲高い声が聞こえてくる。追ってきているのだろう。













絶対に、逃がさない








その言葉だけがしっかりと聞こえてきた
















  










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(2007・08・13)