夏休みのせいか、静かな校内を歩いていた。いや、夏休みにしてもこの静けさは異常だ。マンモス校であるこの学校では、男子テニス部だけでなくほかの部活だってさかんである。盆でもないかぎり何処かの部活が活動しているだろう。それに夏休みが始まってそれほど日にちが経っていないのだ。








「何かやたら静かだよな」






「そうですよね。誰かいたっておかしくないのに」






「まぁ、誰もいないほうが好都合だけどな」









確かに、と跡部部長の言葉に私はわずかに頷いた。氷帝レギュラーが勢揃いしている今、女子がいればかっこうの餌食になっていたことだろう。話しかけられることはないとしても、注目はされる。キャーキャーといった歓声の中を歩いてくのは、私としてはなんとしてもさけたい。だって、レギュラーを見るときは目をきらめかせている女子が、私を見た瞬間にとても女子とは思えない顔になって睨んでくるのである。その時の顔といったら、とても言葉で表現できる顔ではない。








「まぁ、気にしなくても音楽室には監督がいんじゃん?」





「それもそうやな」






岳人先輩の言葉でその場の空気が和らいだ。しかし、鳳だけは恐いのかいまだに表情がどこと無くかたい。そんな鳳を日吉は呆れたように見ていた。










「おい、ジロー、顔色悪いけど大丈夫なのかよ」









宍戸先輩がかけた声にみんなの視線がジロー先輩に集まる。たしかに先ほどからジロー先輩の顔は見るからに青く体も僅かに震えているように見える。宍戸先輩の言葉に笑顔をつくって答える姿も見ていて、痛々しい。









「大丈夫だCー」





「きつかったら自分がおぶりますよ?」





「ありがと、樺地。だけど本当に大丈夫だから!!」









本当に大丈夫なのか、と不安になる。朝、と言うか練習中はあんなに元気が良かったのに。何時からだろう、ジロー先輩の具合が悪そうになったのはと考えれば答えは意外と簡単に出た。そうだ、部室でジロー先輩が嫌な夢を見たといって起き上がってからだ。なんで急に・・・・









「おい、、着いたぞ」






「え?」








日吉の声に我に返った私は顔を上げた。跡部部長がドアを開く。きっとこの中に監督がいるはずだろう。私はみんなが入るのを待って、一番最後に中に入る。ふと、何か後ろに寒気をかんじて、今、私達が来たほうを振り返る。別に何がいるわけではない。ただそこには果てが無いように見える廊下が続いているだけだった。








「って、監督いないじゃん」





「・・・ったく、あの監督は人を呼んでおいて」





「岳人も日吉もちょっと落ちつき。まだ約束の時間になってへん」









音楽室に監督の姿は見当たらなかった。いつもの監督ならちゃんと私達が来る前にはもういるのにいないなんてどこかおかしい。跡部部長もわざわざ音楽室の準備室まで調べさせているところをみると、今までこんな事はなかったんだろう。








「もう時間になったぜ」





「監督どこにいったんでしょうね。人を待たせるなんて、まったく最低ですね






「・・ちゃん、まだ5分も待ってへんで?」





「私、時間守らない人大嫌いなんですよ」









本当にあの監督はどこに行ったんだ。まさか私達を呼び出したことを忘れてしまっているんではないだろうか。もし、そうだとしたら今度監督のコーヒーに何かを入れてやろう。うん、そうと決まったら近いうちに乾先輩に会いに行こう。監督にも私は容赦するつもりは無い。









「俺、職員室まで見てきましょうか?」





「そうだな。もしかしたら忘れて職員室にいるかもしれねぇな」





「クソクソッ、あの監督何してんだよ」





「でも、全員で行っても入れ違いになるんじゃないんですか?」





「若の言うとおりだな。どうするんだよ、跡部?」





「別に大丈夫だろ。全員で行くぞ」









多分、跡部部長は監督が職員室にいるんだと確信して、この判断をしたんだろう。私としてもこの判断は正しいと思う。だって、監督が音楽室にいないときは職員室かテニスコートのどちらかにしかいない。部活の終わった今、テニスコートにいるはずはないだろうから職員室に監督はいるんだろう。私達は音楽室をでて、今来た道を戻る。音楽室は4階で職員室は1階にある。あぁ、無駄な事をしたと嘆いたのは私だけじゃないだろう。








「ったく、監督もこんなめんどくせぇことさせやがって」





「たかがこのぐらいで怒るなんてカルシウム足りてないんじゃないんですか?」





「何だと、?」





「牛乳飲んだほうが良いですね」





「別に俺様はこんぐらいでキレたりしねぇよ!」






「その割には眉間にしわがよってますけど?」






ちゃん、それは言ったらあかんよ。跡部の眉間のしわはチャームポイントのようなものなんやから」






「えっ、跡部部長のチャームポイントって泣きボクロじゃないんですか?!」





てめぇら・・・













跡部部長はどうやら怒っているみたいだ。これも全て忍足先輩のせいだと、忍足先輩に責任を転嫁する。今日は、いつも喧嘩を仲裁してくれる滝先輩もいないから、ストッパーはいない











「いい加減に―――
プルル










跡部部長の言葉を遮るかのように携帯の電子音が鳴り響く。職員室はもうそこなのに、まったく誰だよと思っていると、どうやらその音の発生源は私のスカートのポケットかららしい。










「(一体誰だよ、こんな時に)」







携帯のディスプレイを見るとそこには非通知と表示されていた。
















  








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(2007・08・13)