数分後、そこには口裂け女と人体模型のボロボロとなった姿だけがあった。私達はそれをその場においたまま、急いで音楽室へと急ぐ。なんだか、口裂け女と人体模型に同情したい気持ちになった。いや、だってあんなにボロボロにされて、私だったらトラウマになってもおかしくないような気がする。











「意外と弱かったな!!」







「その割には向日さん、てこずっているみたいでしたけど」










「うるせぇ、日吉!」
















一気に階段を駆け上れば、音楽室がもうほぼ目の前に見えてきた。私は思いっきり、音楽室のドアを上ける。一瞬、生ぬるい風が私の横を通り過ぎて行ったと思うと、窓際には髪の長い女の子が見えた。顔は良く見えないけれど、多分、青木裕子なんだろう。彼女の近くの窓は開いて、カーテンが揺られている。もしかしたら、あの窓から青木裕子が飛び降りた場所かもしれないと直感的に思った。
















「青木裕子・・・」
















私は一歩一歩慎重に音楽室に足を踏み入れる。ピアノにふと目をやれば、そこには数枚の楽譜が見えた。崎元が行っていた事を思い出し、青木裕子の手に視線を移せば、青木裕子の手には崎元に聞いた死んだ時の様にしっかりと一枚の楽譜が握られていた。ここからは何の楽譜かはよく分からない。少しずつ青木裕子のほうへと近寄っていく。































気付けば私の目の前に、青木裕子が来ていた。思わず一歩足を後ろにしようとしても足が動かず、私の体は自分の言う事を聞かなくなっていた。キッと青木裕子を睨みつけるも、青木裕子は表情一つ変えずにまるであのトイレで会った時の様に私の首に青白い手をかける。その手はあまりにも人間のものとは思えないくらい、冷え切っていた。
















?!」















日吉の叫ぶ声が聞こえ、何とか動いた視線をみんなの方にうつせばどうやらみんなも動けないらしく、音楽室の入り口付近で止まっている様子が見えた。青木裕子の手が私の首を包み込んだ。やっと見えた瞳には何もうつそうとしな、うつろな目だった。















さ、ん、がごめんなさいって」















やっと出せた声。だけど、青木裕子は眉一つ動かさずに私の首にかけた手の力を強める。やっぱり私が言っても無駄だった。崎元の嘘つきと心の中で醜態をつきつつ、心の中ではずっと崎元を呼び続けた。



















「裕子」











崎元が音楽室に現れる。青木裕子が私達に気をとられていたためか、どうしてか分からないけど自由に動けるようになったらしい。青木裕子が少しだけ視線をずらし、崎元を見る。しかし、一向に手の力が弱まる事はない。
グッ、と首に食い込む手に私はだんだんと苦しくなる。
















「裕子、ごめんね」













崎元の一言でも、青木裕子の表情は変わらなかった。それどころか、私の手に食い込んでいく手は一層強くなっていく。先輩達が必死に何かを叫んでいるようだけど、遠ざかる意識の中じゃ何も聞こえてこない。















「は、なせして・・・」















やっと出せた声は、とてもじゃないけど声なんて言えないような声だ。















「ごめん、ね。裕子」













遠ざかる意識の中、一瞬だけ青木裕子の顔が悲痛のものへと変わったような気がした。















































ハッと目を覚ませば、そこは夕焼けにそまった音楽室だった。今まで目の前にいたはずの青木裕子の姿はなく、崎元の姿もみんなの姿もなかった。足はいぜんとして動こうとしないけれど、どうしたんだと辺りをキョロキョロと見渡せば、誰もいないと思っていたピアノの椅子に青木裕子が座っていた。どうやら私の存在には気付いていないらしく、青木裕子は楽譜を見ながら、泣いてた・・・















は、私のこと嫌いになったかな」













ほとんど、耳を澄まさなければ聞こえないぐらいの声で青木裕子が言う。それと同時に青木裕子は立ち上がると、一枚の楽譜を持ったまま窓際に近付いた。危ない、そう思ったときには既にはすでに遅く青木裕子は一枚の楽譜と共に落ちていった。これは、もしや青木裕子が落ちた時の記憶かもしれない。













「裕子・・・?」













聞こえてきた声の方に視線をうつせば、崎元が音楽室の入り口から音楽室を見渡していた。そして、少しずつ窓際に近付いたと思うと下を見下ろし悲鳴をあげた。青木裕子は事故で死んだんじゃなかった。私が見た限り彼女は自分からあそこから飛び降りたのだ。だけど、何の為に楽譜を一枚持っていたのだろうか。

















そこで、私の視界は歪み、私は元通りの青木裕子に首を絞められている状態になっていた。目の前では先ほどと同じように表情を変えない青木裕子がいる。その足元には楽譜が一枚落ちていた。何とか、目を凝らして何の楽譜か見すえる。その楽譜は白紙だった。












「ごめんなさい、ごめんなさい裕子」











いまだに崎元はあやまり続けている。
違う。違う。本当は青木裕子は崎元に謝って欲しいじゃない。それに殺そうとしていた最後の一人も崎元なんかじゃない。先ほど見た映像で全てが、繋がった。青木裕子の言いたかった事、それは、












「私、のことを嫌いにならないで」













  










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(2007・08・16)