だんだんと明かされる真実に私は思わず、グッと息を飲んだ。まさか、青木裕子と崎元の間にこれだけのことがあったとは思いもしなかった。ピアノも出来なくなって、親友からも裏切られた彼女の心はどれだけ傷ついていただろうか。
悲しい、そう思ったとき、私の頬を一筋の涙が通っていた。



















「貴方なら、裕子に伝えられる。だから、お願い。裕子を助けてあげて」









「・・・・私にできることなら」


















本当は私にできる事なんてないのかもしれないけど、私はいつの間にか崎元の言葉に頷いていた。それを見た崎元はその後、静かなに涙を流し続けた。彼女もずっとつらかったんだろう。何も伝えられないもどかしさ、本当は自分で青木裕子の心を救ってあげたいと思っているはずなのに、他人に任せなければ何もできない自分の力の無さに。






















「そろそろ戻らないと、貴方の連れが心配するわ」












「あ、ちょっと、まっ」














言い切る前に、既に私の目の前には崎元の姿はどこにもなく、静かな廊下に立っていた。だけど、本当に青木裕子に崎元の言葉を伝えただけで、青木裕子の心を救ってやる事はできるんだろうか。それにしても、青木裕子は崎元を呼び出して、本当に殺そうとしたのかが疑問だ。大好きな親友を自分の手で殺すだなんて私には考えられない。






















ー!!」








ギャッ!!














ドスンと、言う効果音がつきそうな勢いで私の腰に抱きついてきたのは、金色の髪の持ち主だった。顔を見なくてもこんな事をするのはジロー先輩だけだ。ジロー先輩が走って来た方向をみれば、先ほど階段の前で別れたメンバーがいた。って、この人、足怪我してたんじゃなかったけ・・・?












「おい、大丈夫か?!」








「跡部部長、はい、大丈夫です」









「さっきはちゃんと手掴んでやれなくて悪かったな」









「あ、いえ宍戸先輩、別に何もされませんでしたから!!」













「それなら良かったわぁ。心配したんやで?」











「急に3階の廊下に現れるからびっくりしたCー!!」














ジロー先輩に言われ、周りの教室を見れば確かに3階にあるはずの教室だった。崎元がなるべくみんなのところに行ける様にここに私を連れてきてくれたんだろう。












「実は私を鏡に引っぱったのは崎元だったんです」














「どういうことだ?」










「今から崎元に聞いたことを話します。しっかりと聞いておいてください」














私は崎元に聞いたことを簡単ではあるけれど、みんなに伝えた。みんなも真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。











































「青木裕子と崎元は親友だったのかよ?!」

















岳人先輩の声に頷く。


















「親友なのに、殺す殺さないって・・・・」









「俺達やったら考えられへんなぁ」

















少しだけうつむき加減の岳人先輩の頭に忍足先輩が手をやる。落ち込んだ岳人先輩を励まそうとしているのか、さすがダブルスコンビと言った所だろうと、少しだけ感心した。正直、私が忍足先輩に感心するのは本当に珍しい事である。















「だけどよ、謝ったら本当に俺達は帰れるのかよ?」













「そんな事わかんねぇよ。だけど、やってみねぇとわかんねぇだろ、アーン?」













「跡部さんの言うとおりですね。通用しなかったら他の手でも考えましょう」











「結構、危険なかけですよね」










「心配すんなよ、












もしも、謝っても何も変わらなかったときの事を考えると不安になる。だけどそんな気持ちを付し消すかのように宍戸先輩が私の頭をガシガシと撫でながら言う。















「俺達はそんなやわじゃねぇんだよ」










「そうだよ。一回失敗したくらい別にどうってことない」




















――――ガッシャン!!




















いきなり、私達がいた場所の近くで窓が割れる音がした。咄嗟に振り返ればそこには、日吉といた時にみた口裂け女が、既にマスクをとった状態でたって、こちらに向って走り出そうとしていた。私も思っても見なかったことに驚きつつも、あの言葉を叫ぶ。











「ポマード、ポマード、ポマード!!」










「なんや、この呪文?」










「口裂け女を撃退する言葉ですよ」











「なんだよ、日吉詳しいじゃん」










「こんなの常識ですよ」










「クソクソ、日吉の癖に生意気だぞ!!」














一瞬、口裂け女の動きが止まる。それに安心したのもつかの間、口裂け女はこちら側に向って走りだしていた。











「って、効いてないじゃん!!」










「すっげー!!俺、本物の口裂け女初めて見たー!!」










「こらジロー、何テンション上がってんだよ?!樺地、ジローを担げ!」











「・・・ウス」














みんなが走り出した中、走り出そうとしないジロー先輩を樺地が担いで走り出す。お願いだから変なところでテンションを上げるのはやめて欲しい。どうせなら、部活の時もこのぐらいのテンションでやって欲しいものだ。あ、いや、それはそれでうざいかもしれないけど













「なんで?!さっき、効いたのに?!」












「・・・、あいつの耳元を良く見てみろ」










「え?!」












日吉に言われて、口裂け女の耳元を良く見てみる。長い髪に隠れ、あまり良く見えないけれど、耳元に何かあるのが見えた。
















耳栓してるー?!










耳栓している口裂け女なんて聞いたことがないんですけど?!最近の妖怪は頭が良いんだな・・・って、そこ感心してる場合じゃないよ、自分。とりあえず一生懸命、他に撃退する方法がないかと考えるけれど何もうかばない。












「チッ、やられたな」











「なんで、ここに耳栓なんかあるの?!」










「職員室の先生の机の中に入ってたんやないと?」











「そんな冷静な分析してんじゃねぇよ、侑士!!」











「わっ!!」


















そう思ったときには、既に遅かった。私はお約束の様に廊下に転んでしまったのだ。口裂け女はどこに持っていたのか本当に謎であるメスを私に向って振り上げる。あ、ヤバイと思ったときにはジロー先輩が口裂け女にぶつかっていた。













!!」












日吉に腕をつかまれ、立たされる。口裂け女をやったかと思ったけれど、口裂け女の手にはジロー先輩の腕が掴まれていて、向こうからは走ってくる人体模型までが見えた。どうしよう、私のせいだとジロー先輩を助けようとかけよろうにも日吉が私を制止して、動けそうにない。










「日吉、離して!!」








「若、そのままの手を離すな!」








「鳳、日吉、良く聞け」









跡部部長がやってきた人体模型の攻撃を避けながら叫んだ。









「俺達にかまわず逃げろ!!」










言われた瞬間、私の右腕を日吉が、左腕を鳳が掴んで走り出していた。人体模型に攻撃をされて、少し飛ばされた樺地と目があう。










「・・・負けません!!」







その声がしっかりと私の耳の中に残った。





















  










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(2007・08・16)