「さて、これどうしましょうか?」


















「・・・そこらへんにでも捨てとけ。それだけボロボロだったら、動けねぇだろ」





















跡部部長に言われ、日吉はメリーさんだった(過去形)フランス人形を廊下に落とした。ガシャン、と音が廊下に鳴り響く。3人の女の子が殺される場面を見るよりこっちの方が少しトラウマになりそうな気分だ。それに、日吉にはこれから絶対喧嘩は売らないようにしたいと思う。




















「俺、日吉の見かた変わったかも」














「・・・俺もです」
















「なんか、俺ら激ダサだな」



















鳳や先輩たちの会話を後ろで聞きながら私達は4階へと向かうために階段を上った、丁度2階と3階の真ん中にあたる踊り場には全身を写す鏡がある。みんなの一番後ろにいた私は何気なく、鏡を見れば、鏡の中の自分と視線がぶつかった。特段、気にする事もなくそのまま視線をずらした瞬間、私は鏡の中から伸ばされた自分の手に引っぱられていた。





















「うわっ!!」















っ?!」
























真っ先に気付いた宍戸先輩が私の方に手を伸ばすけれど、私はそれにつかまられる事もなく、そのまま鏡の中に吸い込まれてしまった。やられた、と思ってもう遅い。気付いた時には、真っ暗な闇の中を私は一人で立ちすくんでいた。
















「ったく、なんで私が・・・まじ、うぜぇ
















「ごめんなさい」














「えっ?」




















声のしたほうを向けば、そこには髪を二つ結びにした女の子が立っていた。私に日記帳の場所を教えてくれた女の子。















「あなたが、崎元さん?」
















私が問いかければ、その女の子は静かに頷いた。そして、口を開く。














「貴方達がここに来てしまったのはたまたま偶然が重なってしまっただけなの」













「偶然って?」













「私と同じという名前の貴方が音楽室に現れたこと」













「それで、どうしてこんな事に」























「もう10年も前の今日に、あの子が音楽室で死んだから」


























女の子の瞳から涙がどんどん溢れてきていた。悲しそうな顔をする目の前の女の子は今にも壊れそうな印象を私に与える。だけど、私はここから出る為に聞かなければならないことがある。彼女なら、私の疑問の答えを知っているはずだ。

















「崎元さん、貴方が岳人先輩に私が首を絞められているのを教えてくれたんですか」





















コクン、首が縦に動く。やっぱりこの人は悪い幽霊なんかじゃないらしい。




















「わ、私にはそれほど力がないから裕子に首を絞められる貴方を見てるだけしかできなかったの。だから、近くにいた少年に伝えた」



















「日記帳を教えてくれた時も何も言わなかったのは、言わなかったじゃなくていえなかったんですね?」

















「えぇ。言いたくてもいえない事だらけで、あの日記帳を貴方に渡したらきっと分かってくれるんじゃないかと思ったの」



















「それじゃあ、ここは?」




















「ここだったら、あの子の、裕子の力は届かない。だから、私も自由になれる」

























要するに、学校の中では崎元は青木裕子の力で自由に動けないと言う事らしい。じゃあ、どうして彼女はここに私を連れ込んだんだ。私に何か言いたい事でもあるのだろうか?

















「それで、どうして私をここに?」









「伝えたい事があったから」









「伝えたい事・・・?」

















「裕子にごめんなさいって。あの子が成仏できないのは私のせいだから・・・!!」























ボロボロと大粒の涙が崎元の頬を流れ落ちていく。私はただただ、その光景から目をそらす事もできずにジッと見入ってしまった。

















「どうして崎元さんのせいで青木裕子は成仏できないんですか?」


























「わ、私が裕子を裏切ったから」
























その言葉に一番、最初に青木裕子に会った時の事を思い出した。下足箱で彼女は私に対して、「
裏切り者」と叫んだ。青木裕子と崎元。この2人の間に何があったのか。これが分からない限り私達はこの状態から抜け出す事はできないだろう。私は息をハァとはくと、崎元の目を見た。その瞳からは、未だ涙がこぼれ落ちていた。















「青木裕子に一体、何があったのか教えてもらえますか?」













私の言葉に、崎元は頷いた。



















****




















私と、裕子は小さい頃からの知り合いで親友だった。それは中学に入ってからも同じで、私達は3年間ずっと同じクラスで、いつでも一緒に行動した。もちろん他にも友達はたくさんいたけど、それでもいつも行動するのは裕子だった。



















「ねぇ、。ずっと私達、友達だからね」















「えぇ、もちろんよ!!」




















だけど、何時からか同じクラスの3人の女子から裕子は嫌がらせを受けるようになってた。だけど、私はそんな事気にしないし、むしろ裕子を守ってあげないと思った。あの子は小さい頃から、誰にも頼ろうとしないところがあったから。それに、コンクールが近かったの。裕子にとってそのコンクールはずっと練習してきた成果を発表できるものだった。






















「コンクール・・・?」



















「裕子はピアノがとても上手だったの。だから私達はほとんど昼休みも放課後も音楽室にいたわ」
























今思えば、ピアノが上手だったからあの3人に目をつけられたのかもしれない。あの中でリーダー格だった穂高沙希も、そのコンクールにでるみたいだったし、裕子のピアノの上手さは全校生徒が知っていたから。でもね、裕子がピアノが上手かったのはあの子が小さい頃からずっと練習してきた成果なのよ?それを逆恨みするなんて馬鹿げてる話だわ。だけど、ある日、呼び出されたの、穂高沙希から





















「用って何・・・?」


















「青木裕子を無視しなさい」



















「あんたに何でそんな事言われなくちゃいけないの?!裕子は私の親友なのよ?!」

















「じゃあ、青木裕子がどうなっても知らないわよ?」


















「えっ?」



















「もうすぐコンクールって言うのに、手を怪我したら彼女どうするかしら」

















「・・・」




















「もしかしたらピアノができなくなっちゃうかもね」



























穂高沙希はそれだけを言い残して、どこかにいってしまった。このときの、私は馬鹿だったからその言葉を鵜呑みにしてしまって、裕子を避けるようになってしまったの。裕子の気持ちも考えないで、私すごく最低な事をしてしまったわ。だけど、あの時の私はそうすれば、裕子はコンクールにでることができて、穂高沙希も裕子の実力を認めるしかないって思ったの。






















「実際は、違ったけどね・・・」
















穂高沙希は裕子の右手を思いっきり踏んで、骨折させていた。当然、私は裕子と話さなくなっていたからこんな事実知らなかった。ピアノもできない。親友から裏切られたと思った彼女は、すごくやつれていった。そして、ある日、私に言ったの「
裏切り者」って。私、何も言えなかったし、去っていく彼女を追うことも出来なかった。





















「そして、その後すぐ酒井夕実が階段から落ちてなくなった」















初めは事故だと思っていたけど、その事件のあとに相次いで裕子を苛めていた子達が死んでいった。もう、これは裕子の仕業じゃないかなって思ったの。親友としては最低なことよね、疑うなんて。そして、最後は私だということも分かっていた。偶然ね、彼女の日記帳を見たのよ。だけど、別に恐いなんて思わなかった。だって、私殺されて当然なんだもの。






























「だから、裕子から音楽室に呼び出されたときはやっと殺してもらえるんだって安心した」





















だけど、音楽室に行っても誰もいなかった。そこに残されていたのは、数枚の楽譜だけ。おかしいなって思って、窓から外を見れば一枚の楽譜を掴んだ裕子がいたの。警察は事故だって言ったわ。もちろん、私もそう思うの。裕子が私を殺さないまま、死ぬわけないじゃない。日記帳に書かれたあと1人って言うのは、
私のことなんだから。
















  










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(2007・08・16)