「ここです」
私と跡部部長は無事、なんの幽霊と会うこともなくあの二つ結びの女の子が指差していた教室に来ることができた。さっき、忍足先輩達といたときに追われて塩をかけたはずのテケテケの姿は廊下には見られずに、別におかしなところは一つとしてなかった。もしかしたら塩のおかげでテケテケは消えてくれたのではないかと淡い期待をするも、そこまで物事上手くいかないだろうと首を振った。教室のなかを覗けば、とくにこれといった変わった様子も見られない。しかし、他のクラスの様にカーテンは閉められてなく廊下とさほど明るさは変わらなかった。
「この教室になにがあるんだ?」
「さぁ、それは分かりません」
言った瞬間、一筋の風が私の頬を撫ぜた。教室の窓はすべて閉められているはずなのに、とおかしく思い教室を見渡せばそこには先ほどまでいなかったはずの髪を二つ結びにした先ほどの少女が一番後ろの窓際の席を指差していた。ハッとして跡部部長を見れば、どうやら跡部部長も見えているらしく、目を開いて驚いている様子だった。
「あれがお前が言っていた女か」
「はい、そうです」
跡部部長の言葉に頷き、少しずつその女の子の方に近寄いた。女の子の傍まで来ても女の子は何も話そうとせず、ただ黙ってこちらを見つめたまま机を指差している。
「そこに何かあるの?」
女の子が頷く。どこか悲しい顔をしているようにも見える。私が机に近寄ろうと足を一歩前に踏み出すの私の前に跡部部長が手を出して、私を止めた。跡部部長を見上げれば、眉間にしわを寄せ、女のこの方を睨んでいる。
「アーン?お前は一体何者だ?」
「・・・・ごめんなさい」
「あぁ?」
跡部部長の質問に答えることなく、今にも泣きそうな震えた声をだした女の子はスッと消えてしまった。そこには何も無くなっていて、私達はただ驚く事しかできなかった。しかし、ずっと驚いている場合でもなかったので、あの女の子が指差していた机の中を探る。そこからでてきたのは、一冊のノート。と言うよりは厚く、重みもある日記帳だった。中を数ページめくればそこには女の子の綺麗な文字がつづってあった。
「日記か?」
「あ、はい」
「・・・おかしいぞ」
「えっ、何がですか?」
「ここはジローの席だ」
跡部部長の言葉に思わず、動きが止まる。まさかジロー先輩の日記帳なわけでないだろう。あの人のノートを一回見たことがあったけどいかにも男子中学の文字ですって感じの文字で、私にとっては失礼だけど読むのもやっとだったはずだ。それにあのジロー先輩が日記をつけるとは思えない。じゃあ、この日記は誰の日記?先ほどの女の子の日記?なんでその日記がここにあるの?ここに来れば疑問は解決されると思っていたのに、どんどん疑問は募っていくばかりだった。
「まぁ、この状況だ。ジローの席にこの日記があってもおかしい事じゃない」
「そう、ですよね」
「さっさと戻るぞ」
踵を返して教室をでる。あの二つ結びの女の子と、髪の長い女の子は知り合いの様に思える。そして二つ結びの女の子は悪い霊ではない。だとしたら、髪の長い女の子が私達をこんな状況に追い込んでいるのだろうか。目的は一体なんなんだろうか。そういえば、図書室には歴代のアルバムがおいているはずである。今まで見た女の子はすべて氷帝の制服を着ていた。と言う事は、ここの生徒だったんだろう。もしかしたら名前や、他にも色々な事が分かるはずもない。そう思った私は、少しだけ急ぎ足になって、なんとなく後ろを振り返った。
「―」
髪の長い女の子が一瞬、廊下の端に見えたが消えた。どうして、彼女は私の名前を知っているんだろうか。そして、何故彼女が私の名前を呼ぶとき、憎しみといったものも感じられるのに、たまに愛しくその名前を呼んでいるように聞こえるのはどうしてなのだろうか。、自分の名前を心の中で呟く。変哲もない名前。だけど、どうやらこの名前が今回の事に大きく関係しているように思えて仕方がないのだ。
「おい、」
「何ですか、跡部部長?」
「お前に何かあったらあいつ等が煩い。それだけは忘れるな」
跡部部長の言葉を深く深く、胸に刻み込んだ。そして、ジロー先輩の夢の話を思い出した。仲の良かったはずの女の子が、急に相手に対して憎しみを持ってその場を去る。どんな状況になれば、そんな気持ちになることが出来るんだろうか。それに、仲の良かった友達に憎しみを持つ女の子、その場に残された女の子はそれぞれ何を思ったのか。私だったら、どちらの立場であったとしてもすごく悲しいと思う。
「人を憎むってどんな気持ちなんでしょうね」
「俺様には一生分かりたくもねぇ気持ちだな」
「・・・私もです」
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(2007・08・15)
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