平凡な日々

〜下克上等運動会・4〜




の背中を見送りながら俺は、今この場所にいる奴らの顔を見渡した。





氷帝テニス部レギュラー陣、立海テニス部レギュラー陣。

それにくわえて青学のレギュラー陣の一部。





なんとも奇妙な組み合わせだとしみじみ思う。




確かにが誰かと仲良くなってくれるのは兄としては嬉しいし、望んでいたことではあるが

……だけど、このメンバーとはあまり仲良くなってもらいたくなかったとも思う。




氷帝テニス部なんて裏じゃホスト部なんていわれるくらい人気のある奴らだし、

ファンクラブもあるんだろう。


そんな奴らのマネージャーなんて、実は心配だったりしてる。





がいじめられたりしたらどうしてくれるんだろうか。





俺が守るなんて、言ってはいるけど学校も違うし限界があることなんて俺だって分かっている。



だからこそ、本当は同じテニス部のマネージャーと言うのは嬉しいのだけど、

でもそれが氷帝のテニス部というのにはいまだに納得はしていない。




それに、






「ねぇ、君たちはのことどう思ってるの?」






にっこりと笑みをつくって問えば、みんなの視線が俺に集まるのを感じた。

可愛い妹のことが気になるっていうのは仕方がないことだ。


と言うか、またあんなことを犯したくはない。





あの時のように俺のせいでを傷つけるようなこと、もう俺は絶対にしてはいけないんだ。





「アーン、それがテメーに関係あるのかよ」


「関係あるに決まってるじゃん。俺、のお兄ちゃんだよ?」




「兄にしては妹の事に関して干渉しすぎとは思うんじゃけど?」





仁王くんの言葉に俺は眉をひそめる。

たかが妹のことをどう思っているか聞いただけで干渉しすぎだなんて言われるなんて心外だ。







「妹のことどう思ってるか聞いただけじゃなくて、今まで行動のことを言われてるんじゃないのか?」





となりに座っていたひろがボソリと呟く。

どうして俺の考えていることがわかるか、なんてものひろにとっては愚問だ。



そりゃ、結構小さいときから一緒にいるし俺の思考は分かりやすいものらしい。

以前ひろに俺の考えていることがわかるなんて愛の仕業?とふざけて聞いたら、

その答えと共に鉄拳がかえってきた(入院するかとおもった)





だけど、ひろの言葉に俺は首をかしげた。

うーん、今までの行動でもに対して干渉しすぎだと思ったことは一度もないんだけどな。






「それはお前の勘違いだ」





またもやボソッと呟かれた言葉を華麗に無視して、

が俺のためにも今日作ってくれておいた弁当箱を片付ける。




ひろはそれを見て、ウーロン茶を一口飲むと立ち上がった。




俺も未だみんなの視線が俺に集まっているのを感じながら立ち上がる。





へらへらとうかべていた笑みを、真剣な顔にもどし、スッと目をほそめれば、

一気にこの場所の空気が変わったような気がした。






に、遊びで近づくことは絶対に許さないから」





再び笑みをうかべながら「じゃあ」と言って、俺は振り返るともう既に歩き出していたひろの背中を追った。

先に行くなんて酷い、とひろに言いながら少しだけ後ろの奴らに視線をやる。



驚いた奴らの様子。






本当はあいつらが冗談交じりでに近づいているとは思っていない。





でも、俺はもうを悲しませたくはないから、

こうして牽制でもしておかないと、不安でたまらなくなってしまう。





「本当お前は妹馬鹿だな」


「それを言うならひろだってそうだろ?わざわざ面倒くさがりのひろがこんな場所まで来たんだから」


「……確かにそうかもな」





ひろだって気になっていたんだろう。

今の俺の友達の中で唯一の小学校の頃からの俺の親友。

との仲だって、中々に長いし、あのことを知っている奴でもある。





それにの性格を知っているからこそ、今マネージャーをしていると教えた時

このひろが驚いていた。このひろが、だ。





冷静沈着と言われ、感情が滅多に表にでないひろ、が目を見開いて驚いていた。

あの時はそのひろの様子に俺が驚いたものだけど。





まぁ、そんなことはさておき、

面倒くさがりのが氷帝テニス部のマネージャーをしていると聞いて

ひろはひろなりに心配だったのかもしれない。





こいつは確かにどSで鬼畜だけど、なんだかんだ言いつつ優しい奴だから。




だから、俺は今でもひろを親友としていられるんだろう。

もしひろがひろでなかったら俺はあの時、ひろとも縁を切っていたはずだ。





「もう、を悲しませたくはないなぁ」





上を向いて、晴れ晴れとしたそらを見上げながら呟く。

ひろも、それが聞こえたのか小さく「あぁ」と同意するが聞こえて来て俺は安心した。







「なぁ、は借り物競争とかでないのかな?

俺、実は大好きな人でが俺を選ぶのを狙ってたんだけど」




「……」



「うん、分かってたけど、そこまで冷たい目で見られるとは思ってなかったよね。

ちくしょっ!なんだよ、このどS!俺にもっと優しくしろよな!そんな目で見てもはやらないからな!」




「お前にどSなんて言われたくはないし、はお前のものじゃないだろ」























「(視線が痛いんだけど……)」




日吉のとなりを歩くのもなかなか視線を集めるらしく、

先ほどからちらちらと女子の視線を浴びるのを感じるのは多分私の勘違いじゃないと思う。



よくよく考えれば、日吉が女子と歩いているなんて珍しいし、

私はテニス部のマネージャーになってから認めたくはないが有名になってしまったらしい。






そんなことをりりんに爆笑されながら教えられた時のことを思い出し、少しだけ泣きたくなった。






泣きたくなったのはもちろん、自分が有名になってしまったと言う事実と、

私が嫌な思いをしていると言うのにそれを爆笑していたりりんのせいである。




それも有名になったといっても、普通に良いことで有名になったわけではない。





私みたいな平凡な女子がマネージャーになったことに対して、

あることないこと噂されていたとその後にりりんから聞いた。


もちろん呼び出しなんかもなかったわけじゃない。




けれど、それらはすべて氷帝の魔王……鳳と滝先輩の手によって闇に葬られたようだ。




この時ばかりは、二人の存在が神のように思えた。

が、所詮魔王は神にはならないことを私は知っている。





むしろ、この代わりに何を要求されるのか今でもビクビクしていたりする。






こうして日吉のとなりを歩いている時でも、女子の視線にちょっと怯え、

魔王二人に対しても怯えている(1:9くらいの割合)(もちろん、9が魔王二人に対しての怯えである)






「あ、観月さんいましたよ!」






ふと聞き覚えのある声と名前に声のしたほうを振り返る。

日吉もそんな私に気づいてか同じように視線を声のしたほうへとやった。

名前を呼ばれてふりかえれば、そこには観月さんと裕太がいて、

二人の視線は私をとらえている。






日吉もそれに気づいてか私のほうを見ると「知り合いか?」と小さな声で聞いてきた。

私はその質問に頷いて答える。




しかし、どうしてこんな場所にいるんだろうか。

首をかしげながら、そんな二人を見ていればこちらに近づいてくる二人。

制服姿の二人はやはり注目を浴びている様子だけど、これが私服姿だったらもっと注目をあびていたに違いない。





いや、裕太一人なら注目をあびることなんてなかったと思うが、

私服姿の観月さんは注目をものすごくあびることだろう。






彼のセンスは常人にはいささか理解できないところがある。





私も常人として実は観月さんの私服のセンスだけは理解しがたい。

他のところでは良い人なので、別にどうのこうの言うつもりはないが、

私服姿の時の観月さんには絶対に会いたくないということだけは絶対に言える。





「こんにちは、





……そんなこと、こうして私の目の前で微笑む観月さんにはいえないのだけど。






「こんにちはー、って何でここにいるんですか?」


「氷帝が体育祭と聞いたので、ちょっとばかり偵察にきたんですよ」





ピクッ、と日吉の眉が動く。どうやら日吉は観月さんもテニス部だということを知っているらしい。

このまま行くと不穏な空気がただよってきそうだと察知した私は

観月さんのとなりにいた裕太へと視線をうつした。





裕太ならこのまま不穏な空気がただようのを止めてくれるはず。

だって、裕太は単純で何だかんだいって憎めない奴だから。

観月さんはテニスのことになると結構性格がきつくなるから、

このまま日吉の前で話をさせるのは危険だ。




どうせ観月さんのことだから、日吉がテニス部だということを知っていると思うし、

先ほどの発言も偵察のところだけ一瞬視線を日吉にうつしたのは私の見間違いではない。





「じゃあ、裕太はその付き添いだね」

「あぁ。お前もなんか競技でたのかよ?」


「玉いれと綱引きにでたよ」



「……お前、楽そうなの選んででただろ」





さすが裕太ご名答!と言いながら裕太に拍手をおくれた呆れたような視線を向けられ、

ハァとため息をはかれた。しかし、やっぱり私の純ケーキ仲間なだけあって私のことを良く分かっている。

午後はもう競技がないことを伝えれば、裕太は少し残念そうにしていた。

その姿からはとてもじゃないけど、あの不二先輩の弟とは思えない。



あの兄からよくここまで純粋な弟ができたものだと、ある種の関心さえ覚えてしまう。

これは世界七不思議のひとつだといっても過言ではないだろう。

って言うか、七不思議なんかよりも不思議だ。





「本当はの応援に来たんですが、それは残念ですね」


「あ、そうだったんですか。ははは、すみません」


「悪いと思ってないでしょう?君のその笑い方をみれば分かりますよ」


「まぁまぁ、観月さん。ほら、観月さんに用事があったんでしょう?」






裕太の言葉にそうでした、と言いながら観月さんは再び私に視線を戻した。

本当に何故、この人は男なんだろうか。




男なのにここまで美人さんなのは犯罪じゃないんだろうか、と観月さんの顔を見ていると思う。

私のそんな視線に気づかなかった観月さんは(気づかれても困るけど)

持っていた紙袋を私のほうへと差し出してきた。




……これは、何?新手の嫌がらせ?




首をかしげながら、目の前に差し出されたものをジロジロと見ていれば、

観月さんがフッと噴出して笑っているのを感じ私は顔をあげた。





「そんな目でみなくても危ないものじゃありませんよ」





私、かなりこれを変なものを見るような目でこれを見ていたようだ






「先日良い茶葉が見つかりまして、にもおすそわけです」



「えっ?!良いんですか?!」



「もちろん。のために買ったような茶葉ですから」






ニッコリと微笑みながらそんな事言われたら、女じゃなくても

きっと近くにいた男の人もメロメッロになっているんじゃないかと思わせるくらい今の観月さんの雰囲気は凄かった。



もう、なんていうか、本当に。綺麗、と言う言葉が一番しっくりくるような笑みだ。






「ありがとうございます!」






目の前に差し出されていた茶葉を受け取り、頭をさげれば上から「どういたしまして」と観月さんの声がふってくる。

思ってもみなかったプレゼントに思わずニヤけそうになるのを感じながら、

さすがにこんなところを日吉に見られるわけにはいかないと思い顔に力をいれた。




日吉にこんなことでニヤニヤしていることがバレたら、

私まで変な人扱いされてしまうかもしれない。





そんなことは絶対にお断りだ。

変人扱いされて喜べるような忍足先輩のような趣味は私にはない。





「えっと、じゃあ私達行かないといけないんで行きますね。

観月さん、本当にこれありがとうございます。そして、裕太。頑張れ!



「え、何で?!頑張れってなんだよ!」




私の言葉にわけが分からないといった様子を見せる裕太。

どうせすぐに分かるだろうから、何を頑張れとは言わないでおこう。





まさか不二先輩までここにいるとは私の口からは言いにくい。





それにもしかしたら、言ってないのは不二先輩の何かの計画かもしれないし、

そんな不二先輩の計画を阻止するようなことは私にできるわけがない。


と言うことで、ここは裕太に生贄になってもらうとしよう。





覚悟を決めた私は、じゃあ、と未だ何を頑張れって言うんだ?!と

あたふたしている裕太を横目に、再び日吉とクラスメイトのとことまで歩き出した。





「お前、くだらないこと考えてるだろ」





くだらないことなわけがない。

不二先輩に関しては今後の私の生命にまで関わってくる問題なんだから。

青学の魔王は、氷帝の魔王に引けをとらないくらいの強さを持っていることを私は身をもって知っている。


そんな人を相手にするような勇気は私にはないし、ここで裕太を生贄にするのは私じゃなくても、

多分誰であっても考えることだ。



そういうことで、とりあえず裕太ファイト!




 











(2008・11・08)

無理やり観月と裕太をだしてみました。無理やり感が一杯ですが、あまり気にしないでやってください OTL