平凡な日々

〜下克上等運動会・3〜




私の隣にまで来た人物。それは吾郎曰くの親友で

(曰く、と言うのは彼がその事実を認めていないからなんだけど、既に周知の事実とされている。哀れ



吾郎とは小学校のときからの一緒の倉田大翔だった。



大翔とかいて、ひろと、と読むのは彼に二、三回会った時だったと思う。

初めて会ったのは低学年のころだったし、もちろん私に彼の名前は読めるはずがなかった。





今ではひろさんと呼ばせてもらっているけれど、吾郎が仲が良い人物としては

珍しくまともな人で、いつも眉間に皺をよせている。




(ついでだけど、彼に吾郎と仲が良いなんて言った瞬間に絶対零度の視線を返されるから覚悟が必要だ)





眉間に皺を寄せているのは大概が吾郎のせいなんじゃないかと思っているけれど、

彼の毒舌、およびSっ気ぷりにはいつも驚かされる。




その言動には憧れることはあるけれど、正直ここまでSにはなりたくないな、と思う自分がいるのも事実だ。





「久しぶりだな。また…・…お前がらみか」


「あ、はい。そうみたいです」


「人がわざわざ一緒に来てやったのに、何してんだこいつは」





私もそう思う。と言うか、ひろさんに申し訳なくてたまらない。

私としては今日吾郎がここにくることは分かっていたけれど、まさかひろさんを連れてくるとは思ってもみなかった。

吾郎のことだから、こんなところに連れてくる(面倒ごとに巻き込む)なら青学の人たちを連れてくると思ったのに。




いや、まぁ、そりゃ青学の人たちを連れてこられるよりも、

ひろさんを連れてきてもらったほうが良いのだけど(まぁ、元から来るなと言いたいのだけど)



(一度そう言ったら、俺の楽しみをとらないで、となきつかれた)




(お前は私の親か、と言いたくなったのは言うまでもない。)





「でも、ひろさんが来るなんて珍しいですね」


「まぁ、お前にも久しぶりに会いたかったしな」





そう言ってうっすらと笑みをつくるひろさんは吾郎よりも私の兄らしさがでている。

宍戸さんを兄貴にしたいとは思うけれど、ひろさんはお兄さんにしたいタイプだ。



最近、マネージャーになってからはひろさんに会う機会が減ってしまったけれど、

久々の再会ではそれを感じさせないくらいいつもどおり、だった。




「ちょ、そこの二人!俺を無視して、良い雰囲気醸し出すのやめて!」


「俺を無視したのはお前だろうが」


「それに良い雰囲気なんて醸し出してないから」





いつの間にか私とひろさんのやり取りに気づいた吾郎が声をあらげる。

仁王さんは少しだけ驚いた様子でこちらをみてから、視線をひろさんの方へとやった。

ひろさんはその仁王さんからの視線を興味なさそうに受け止め、吾郎を見た。





「さっさと昼食とるぞ」





吾郎をひろさんが追ってくるなんて珍しいと思ったんだ。

ひろさんのことだから吾郎が私を追ってきた瞬間に、かえるに違いないのに。



ひろさんの目的は昼食らしい。

私もひろさんの言葉に自分が昼食をとってないことを思い出し、思わずおなかをおさえた。














***












神様、もしもいたとしたら今の私を助けてください。





正直、今まで神様なんて存在信じたことはなかったし、

いつも信じていたのは自分自身だけど(これだけ言うとナルシストみたい)

それでもこの状況はないでしょう。何の嫌がらせですか、これは。



そんなに私を泣かしたいんですか。どれだけ鬼畜でSっ気あふれる神様なんですか。

私が泣いたって可愛くないんでやめてもらいたいです。




それにこれ以上Sっ気溢れる人は勘弁です。あと、ついでに言うなら黒い人もだけど。





それはさておき、私はお弁当に入っていたエビフライを口にいれた。

いつも食べているのがエビフライのような気がするけど、決して私の大好物がエビフライだからというわけじゃない。



ただお弁当イコールエビフライと言う方程式が私の中で組み立てられているからである。





「ちょ、仁王くんそれ俺のおかずだから!食べないでよ!」

「仁王君、行儀が悪いですよ」

「吾郎も柳生も煩い。小言はお断りぜよ」

「あ、仁王先輩ずりぃ!吾郎さん、俺にも一口」

「なんで、切原くんにやらないといけないわけ?」




……まだ、切原は吾郎にラブアタック中なのだろうか(りりん、呼ぼうかな)





「アーン、なんでテメーらがここにいるんだよ」

「そんなのの応援しにきたかからに決まってるだろ?
ふふ、跡部ったらそんな事もわからないの?




お願いだから跡部部長を煽るのはやめてもらいたい。

その腹いせが私や他の部員へときますから。それに私の応援のため、だなんて冗談も言わないで欲しい。



跡部部長は冗談も通じないような頭の固い人なんですよ。





「なんか飯食べるとケーキ食いたくなるよなぁ。って事で、ジャッカル買ってこい」


「俺かよ!」




「さっき、岳人のおかんに会ったで」

「うわ、マジかよ。」

「こら、ジロー。そんなところで寝ちゃ駄目だよ」

「今の芥川さんには何を言っても無駄ですよ」



もう寝てるみたいですからね、と日吉は呆れながらに言っている。

お前、ツッコむのはそこじゃないだろ?!

もっと目の前のこの光景に突っ込み場所があるだろ?!と心の中で呟くも日吉にその声は届かない。

って言うか誰一人としてこの状況を疑問には思わないのだろうか。




私を取り囲むかのようにいる氷帝テニス部と立海テニス部。




回りの女の子達はキャーキャーと騒いでいるようだけど、

うらやましいと思っているなら私とかわっていただきたい。




「こんなところに来る時間があれば練習に、」

「弦一郎、たまには休息も必要だぞ?」

「む、蓮二がそう言うのなら……」




うまく丸め込まれないで下さいよ!!真田さん!!


休息にこんな他校の体育祭に来る必要なんてまったくもってないじゃないですか!

確かに真田さんにつっこめるなんて期待はしてなかったですけど、疑問にくらいは思ってくださいよ!



なんで、俺達他校の体育祭に来てるんだ?くらいにはさぁ……!





「……なぁ、長太郎。なんで俺らこいつらと飯食べてるんだ?」


「なんでなんでしょう?」





そういって首をかしげる宍戸先輩と鳳に、私はほんの僅かに安心した。

この状況を疑問に思ってくれている人がいる。それだけでも今の私にとったら救いだった。

だって、明らかに可笑しいのに誰一人として何もつっこんでくれないんだもん。




一体何のいじめかとおもったよ!




それにとなりではひろさんは動じた様子も見せずに食事をしている。

いや、動じた様子も見せずにと言うのには御幣がある。

明らかに関わりたくない、と言った意思をもって、まるでこの世には自分ひとりしかいないように

回りの空気をすべて無視している。




「なぁなぁ、ところでそちらさんは誰なん?」




忍足先輩のその言葉に視線がひろさんへと集まる。

それでもひろさんは気づいた様子も見せずにもくもくと食事をしている。




「ひろは俺の親友だよ〜」

「……親友じゃない」




吾郎の言葉にやっとひろさんは動かしていた手をとめて、吾郎を睨み上げた。

その様子に忍足先輩はボソッと「なんや日吉と似た匂いがするなぁ」と言っていた。



さすがどんなに変人であったとしても洞察力のある忍足先輩だ。あながち間違ってはいない。



それともいつも日吉に蔑ろにされている忍足先輩だからこそ、ひろさんから漂うどSなオーラに気づいたのかもしれない。

どMにはSな人のオーラが分かるのだろうか。





……いや、忍足先輩は何だかんだ言いつつSな人だからそれはないか。





「吾郎のことだから手塚たちと来ると思ったのに」




にっこりと微笑みながら言う幸村さん。

この様子だと、どうやらいつの間にか幸村さんと吾郎は仲良くなったらしい(やっかいな人と仲良くなってくれたものだ)




「だってひろは俺の一番の親友だからねぇ
「だから親友じゃない」

それに、の体操服姿を不二たちに見せるのももったいないから」




ひろさんの言葉を無視する吾郎。その事にひろさんの米神に僅かに青筋ができていた。

それもなんだその理由は。


私の体操服姿なんてそんなたいそうなものじゃないし、

それに不二先輩達だってわざわざ見たいなんて思わないはず。



やっぱり吾郎は馬鹿なんだなぁ、と思っていればあたり一体に一気にブリザードが駆け巡った気がした。







あれぇぇぇ、超寒いんですけどぉぉぉ?!


なんかここら一体だけ、北極みたいな寒さなんですけど?!






まだ確かに春先で肌寒いと感じる日もあるけれど、今日は晴れ晴れとした快晴で、

半そででも全然寒いなんて事はなかった。だから、ジャージもきらずに行動していたというのに、

今のこの寒さは一体なんなんだろう。





「ふーん、吾郎ってばそんなこと考えてたんだ?」


「ふ、不二っ?!」


「吾郎ってば酷いなぁ。僕達はただ純粋にちゃんを応援したいと思ってただけなのに、ね?」




ね、と不二先輩が視線をやった先には手塚先輩がいて「あぁ」と頷いていた。

もちろん、まだその二人だけならまだしもその二人の後ろには

青学レギュラー陣一部がいた。



まだ、一部じゃん、と喜びたいのは山々だったんだけど、

いないのは私の中でまだまともだと分類されている河村先輩と、大石先輩。



これじゃあ、逆にストッパーがいなくて困る。今すぐにでも携帯で大石先輩に助けを求めたい気持ちになった。


(……なんで、あんた達がいるんですか!)




「なんで、あんた達がいるんスか?」




まるで私の言葉を代弁するかのように睨みつけながら切原が言う。

そんな視線をうけながらも不二先輩は相変わらず笑みをうかべていて、

切原の視線なんて気にしていないようだった。




さすが魔王。切原なんて相手にはしないか。





ちゃんを応援しに来たって言ったじゃないか。」


「へぇー、あんた達も暇ッスねぇ?」





ちょ、切原おまえぇぇぇ!!



魔王に喧嘩うってるんじゃねぇぇぇぇぇ!!と思わず叫びだしそうになりながら、

私は顔を真っ青にしその様子をこっそりと伺っていた。



切原は魔王の恐ろしさをしらないのだろうか。


いや、立海にも一人魔王がいるのだからそんなこともないと思うけど。

まぁ、切原の場合は魔王よりも真田さんに対してのほうが恐怖心があるのかもしれない。


聞いた話によると遅刻したら張り手、英語で赤点でも張り手だといっていた。



どんだけバイオレンスな部活なんだろうと、それを初めて聞いた時にはそう思ったものだ。




「それを言うなら切原たちもでしょ?」

「なんだと?!」



「そうじゃのう。俺達の目的も一緒ぜよ」

「おいおい、不二。俺達の後輩をいじめないでくれよ」




仁王さんと丸井さんが切原をおさえつけ、笑いながら不二先輩を制する。

おぉぉ、この二人が始めて先輩に見えた瞬間だ。

なんだかんだ言いつつこの二人は切原にとって先輩らしい。





だからか。

切原も同い年のテニス部じゃなくて、こうして先輩達と一緒につるんでいるのは。

一瞬、切原って同い年に友達いないんじゃね?やっぱり赤目できれるし、と思ったこともあったけれど、

これを見る限り可愛がってもらっているんだろう。




……まぁ、たまに可哀相な感じもするけど(って言うか、可哀相な割合の方が大きい)







「早くお昼休み終わらないかなぁ……」






ボソッと呟いたその言葉に日吉の視線が僅かにこちらに向いたのがわかった。

あぁ、日吉も本当はさっさと解放されたいんだね。



そんなことを思っていれば、パッと私の頭の中に名案がうかんだ。

私、天才かもしれない!と思わず自画自賛してしまった自分が、

可哀相だと感じながら食べ終わった弁当と片付ける。




日吉もちょうど食べ終わったところだし、これは良い展開だ。




よし、と思い私が立ち上がればこちらに一気に視線が集まるのを感じる。

なんとも嫌な視線だ、と思いながらそれを表情にはださずに引きつった笑みをうかべながら




日吉に視線をやり「日吉、早く行かないと遅れるよ!」と声をかける。

日吉は首を傾げて意味が分からないといった表情になっていた。





「ほらー、昼休みにクラスで作戦会議するって言ってたじゃん。まさか忘れてたの?」





頑張れ、自分!みんなを騙して見せろ!と心の中で言いながら

今にも冷や汗が流れてしまいそうになるのとたえていた。



日吉もその言葉に私の作戦に気づいたのか、「そうだったな」といって立ち上がった。


正直、私なんかより全然自然だった。

俳優もびっくり、とまではいかないけれど中々の演技力。






「じゃあ、すみません。私達そういう事なんで、戻りますね」





そう言って私は日吉の腕を掴むと、少しだけ駆け足で走り出した。

あの場から少しでも抜け出したい、と思っての行動だったけれど、

日吉から「助かった」と声をかけられて、私は思わず笑ってしまった。





あんな場所にいたくないと思ったのは私だけじゃなかったらしい。





まぁ、あれだけ黒いオーラがでているところに一秒だって長くいたいと思う人は少ないだろう。

ひろさんみたいにまったく気にしない人だったら話は別だとは思うけれど。

午後からのことを考えると一気に気が重くなるような気はしたけれど、

私の競技はもうすべて終わったし、多分大丈夫だ。




そう言い聞かせながら、私は掴んでいた日吉の腕を放し

日吉のとなりを歩きながらハァ、と一つため息を零していた。





「午後から何も起きないと良いんだけど」




そう言って呟いた私の言葉は日吉にも届くことなく、人々の声にかき消されていた。




 










(2008・11・04)
ついにだしてしまいました、オリキャラひろと。か、感想いただけると嬉しいなぁ、なんて、言ってみた、り、なーんてね!