平凡な日々
〜他校との遭遇・3〜
目をさますと、私はいつの間にかベッドで寝ていた。
起き上がり辺りを見渡しても、私の視界は白いカーテンと、窓。
「どこ、ここ?」
さっきまで海にいたと思ったんだけどなー、と思っていれば、カーテンが開き
佐伯さんが爽やかキラキラ笑顔をうかべながら「目は覚めたかい?」と聞いてきた。
私がその質問に頷けば、「大丈夫?」とさらに聞かれた。
目覚めにそのキラキラ笑顔は眩しすぎますよ、佐伯さん。
佐伯さんには芸能人は歯が命、って言う言葉が似合いそうだと思いながら、私はゆっくりと口を開いた。
「はい、大丈夫です……けど、ここは?」
「ここは保健室だよ。ちゃん、倒れたからここまで連れてきたんだ」
「あ、それはありがとうございます」
深々とお礼を言う。
どれも平凡な私だけど、やっぱり体重を気にしてたりするわけで、
あの中の誰かが私を運んだとしてもきっと重かったと思う。
……本当に申し訳ない。
当分は甘いもの控えた方が良いのかもしれない。
いや、でも、ダイエットは面倒くさいし、部活で結構動いているとは思うんだけどなぁ。
部活の後はいつも疲れているし……って、あぁ、もしかして気づかれ?
あの人たち相手にしていると体より精神的に疲れるしな……
はは、疲れの原因が気疲れって、嫌な上司を持つサラリーマンかよ。
明らかに女子中学生が抱えて良いものじゃないよね。
「お礼は吾郎に。ここまで連れてきたのは吾郎だからさ」
「そうですか、吾郎が」
まさか、吾郎が私をここまで運んでくれたなんて思いもしなかった。
あんな細腕でよく私を抱えあげれたものだとある意味尊敬するけど。
でも、吾郎にお礼って、それはそれで少しだけ恥ずかしい。
「倒れた時、すぐに吾郎がちゃんを抱きかかえてね。あの時の吾郎は男らしかったよ。」
「(あの時の、って強調されてるよ、吾郎)」
確かにいつもは見た目も、格好も相まって、吾郎が男らしく見えることなんてほとんどない。
その吾郎が、男らしかったと言うのだから、本当に必死にここまで運んできてくれたのかもしれない。
あの吾郎がね……男らしいなんて、言われてるの初めて聞いたかもしれない。
「吾郎は今、オジイのところに行ってるから」
佐伯さんの言葉に、私は首をかしげた。
おじい、と言うのは一体誰のことなんだろうか。
おじいと言うのだから女ではないとは思うのだけど、でもこの千葉県に、吾郎の知り合いがいるとは思えない。
いや、佐伯さん達はあれだけど、おじい、と言うからにはそれなりにお年の人のことなんだろう。
そもそも、ここはどこの保健室なんだろうか。
今思えば、きっと佐伯さんの学校の保健室だとは思うけれど、佐伯さんの学校なんて私は聞いていないし、
そう言えば私は六角中に書類を届けに行かないといけなかったんだ。
こんなところでゆっくりしている暇なんて、私にはないはず。
早く行かないと、相手の学校にも迷惑をかけてしまうし、
私が家に帰るのが遅くなってしまう(もちろん後者の理由の方が大切)
「おじい、って言うのは?」
「オジイは俺達の部活の顧問なんだ」
「へぇ……って、佐伯さんは何の部活に入ってるんですか?!」
「あれ、吾郎から聞いてなかった?俺達テニス部だよ。ちゃんの持ってた書類も吾郎がおじいに持って行ったよ。」
おいおい、吾郎!佐伯さん達がテニス部なんて一言も言わなかったじゃん!
普通そういうのは紹介する時に言ったりするもんだと思うのに……!
それもいつの間に私の書類まで持って行ってんだよ!
もしかしなくても、ここが六角中なのかよ!……って、今気づいたけど、
佐伯さんの着ている真っ赤なユニフォームには六角中とちゃんと書かれていた。
うわー、これじゃあ、吾郎を責めれないよ。
だって、こんな堂々と六角中アピールしているのに、気づかなかったなんて馬鹿じゃないか。
私としたことが、あまりの佐伯さんのキラキラっぷりにそちらばかりに集中してしまっていた。
だって、佐伯さんのほうに視線やったらそのキラキラの笑顔の方に視線がついつい向いちゃうし、
六角中とは書かれているけど、それ以上に真っ赤な袖のないユニフォームの方に視線が行くに決まってるじゃん!!
だけど、佐伯さん達がテニス部だということはまた私にテニス部の知り合いが増えたわけで、
「(テニス部になるとテニス部の知り合いが増えるのって普通なのかな)」
試合があえば、何校も集まるんだろうし、きっとテニス部になるとテニス部の知り合いが増えるに違いない。
やっぱりテニス部にはイケメンが多いという方式があるみたいだけど、
あれだよね、類は友を呼ぶと言うことわざがあるようにイケメンはイケメンを呼ぶんだよね……!(無理やり納得)
「不二からちゃんのことは聞いてはいたんだけど」
「ふ、不二先輩からですか?!」
不二先輩と言えば、私の中の元祖魔王だ。
元祖魔王、って読んでいるのは最近知り合う学校一校一校に魔王がいて、
魔王比率がどんどん上がって行ってるため、私の心の中では元祖魔王と呼ばせてもらっている。
魔王比率が上がるなんて私にとっては良い良い迷惑なんだけど。
それでも何もいえない。
さすがに帝王(と自分で勘違いしている跡部部長)には色々いえるけれど、魔王には色々言えるわけがない。
言った日には確実に私は生死の境をさまよう事間違いなし。
もちろん、言わなくても魔王の前では心の中でも気をつけておかないといけない。
どうやら魔王になるには、読心術が必須らしい。
でも、なんで佐伯さんから不二先輩の名前がでるんだろう。
これもテニス部にはテニス部の知り合いが多いと言う方式のせいで、
イケメンがイケメンを呼んだ結果が、不二先輩と佐伯さんを知り合わせたのだろうか。
「俺と不二は仲が良いんだよ。」
「あぁ、そうだったんですか」
「良い子で面白いって言ってたよ。あと、遊びがいがあるって言ってたかな」
「へぇ……(最後の一言はいらないんだけど、な!)」
遊びがいがあるって絶対喜んではいけない一言だと思う。って言うか、喜べない!
不二先輩に今までされたことを考えると一気にそう思えてくる。
思えば、一番最初吾郎が氷帝に来た時も電話で何か言ってたような気がするんだけど。
呪われたいの?って……呪ったりできるんですか、不二先輩って感じだし
そりゃ、不二先輩だったら何でも卒なくこなしそうだけど、呪いをそつなくこなしたらダメだろ!
それにしても不二先輩と仲が良いとは佐伯さんもそれなりに油断ならない人なのかもしれない。
この爽やかキラキラ笑顔の裏にはもしかしたら、真っ黒な裏の性格があったりして。
……いやいやいや、しゃれにならないからやめておこう。
不二先輩もあの優しそうな笑顔の裏が、魔王と言う最悪な結果だったから。
ダダダダダダダダ
「あれ、なんだろう、この音?」
「……気にしたらダメですよ」
何か近づいてくる音が響く。
きっと廊下を走ってこちらまで向かってきているんだろう。
佐伯さんはこの音が何か分かっていないようだけど、私にはこの音が何かが分かる。
これは、絶対吾郎の足音だ。
何故か聞きなれてしまったために、吾郎の足音なら何となく分かる。
はぁ、とため息を一つ零せば、それと同時に保健室のドアの開く音が聞こえた。
乱れた呼吸を音。そして、こちらに近寄ってくる足音。
佐伯さんと一緒にその音のほうへと視線をやれば、そこには吾郎がいた。
急いで来たんだろう、髪の毛は乱れて、額には汗がうかんでいる。
「、大丈夫か?!」
「大丈夫。」
「そっか〜、良かった〜……って、よくねぇよ!」
我が兄ながら見事なノリツッコミ。
常にそのノリはいらないから、ツッコミをしてもらいたいものだ。
……まぁ、どうせ無理だとは思うけど。
「体調悪いなら、ちゃんと言いなさい!良いですか!」
「あー、はいはい」
何故に敬語なんだよ、と思いながらそっけなく返事をすれば、吾郎は不満そうな表情をうかべた。
だけど、すぐに真剣な表情をして、まるでこちらを睨みつけるかのように見てくる。
私も咄嗟に息を飲み、吾郎の言葉を待つ。
吾郎がこんな真剣な表情をするなんて、思ってもみなかった。
もしかしたら私が思っていたよりも吾郎に心配をかけていたのかもしれない。
そう言えば、ここまで連れてきてくれたのは吾郎だと佐伯さんは言ってたし、
今の態度はさすがに心配させていたのになしだったかなぁ、と思っていれば吾郎はこちらをにらみつけたまま口を開いた。
「もし今度、倒れた時は、ナースのコスプレするぞ」
「以後、気をつけさせていただきます」
一瞬の間もなく、私は言った。真剣な顔して言うことしょぼいな!とは思いつつも、
さすがにそんなことされては困る。
もちろん、家の外なんて持ってのほかだし、家でもそんなことはさせたくない。
吾郎はきっと私が何が一番嫌がるのかを分かっているんだろう。
あえて、それを利用してくるところは汚いと思うけど、でも何もいえないのは確かだ。
吾郎のナース姿なんて、私は絶対に見たくない。
……他の人なら見たいと思うかもしれないけど。
「佐伯くん、ありがとね。」
「どういたしまして。オジイには会えた?」
「うん、会えたよー。やっぱり、オジイはオジイだよね!あの渋さが俺にも欲しいよ」
「はは、吾郎には無駄と思うよ」
「即答かぁい!……じゃあ、俺達は帰るよ。
葵くん達にもさっきお礼言ったけど、佐伯くんからもまた言っておいてくれる?」
「分かった。二人ともそのまま帰るのかい?テニスコートの方には、寄って行かない?」
「の体調も万全じゃないし、偵察はまた今度ね〜」
偵察するって普通に暴露して良いことなの?良くないよね?良くないよね?とは思いながらも、
口を挟むようなことはできずに私はそのやり取りを見ているだけだった。
それにしても、佐伯さん何気に爽やかな笑顔をうかべながら、はっきり言うな。
やっぱり佐伯さんも、不二先輩属性なの?
これ以上、魔王属性増えても困るよ、私。
「どうせ、吾郎に偵察なんてできないだろ。いつも、来ては俺達と潮干狩りして帰るだけじゃないか」
「だって、が家にあさり持って帰ると次の日くらいまで俺に優しいんだもん!」
「いやいや、ちょっと待て待て。」
この二人のやり取りに口を挟まないと決めてはいたけど、思わず私はつっこんでいた。
そう言えば、今まで吾郎が家にビニール袋に入ったアサリやら、たまに、ハマグリやら持って帰ってきたことがあった。
もしかしなくても、ここで、とって帰ってきてたのか……!
私はそんなことにも気づかずに、笑顔で吾郎からそれを受け取って晩御飯にしてたんだ。
そりゃ、ビニール袋に入っているから可笑しいと思ったけど、その時は目の前のあさりにばっかり目がいって、
どこからとってきたのかなんて考えもしなかった。
今思えば、怪しすぎたのに!!
あの時の私、馬鹿!ほんっと、馬鹿!!
目の前のものにつられて、ちゃんと聞かずに晩御飯にしてたなんて。
「どうした、?まだ……気分悪いのか?」
「あ、いや、それは大丈夫だけど、」
それよりも、今は晩御飯だよ!って、違うよ!晩御飯じゃなくて、アサリのことだよ!
だけど、吾郎には何言っても無駄だろう。
偵察に来て、潮干狩りして帰るなんて、本当吾郎がマネージャーしてて青学は良いんだろうか。
他校のことながら、心配になってきた。絶対に、手塚先輩や大石先輩に迷惑をかけてることだろう。
もっとも、吾郎が偵察なんてしなくてもあの一瞬ストーカーとも思えるような情報まで持っている乾先輩がいるから大丈夫とは思うけど。
……乾先輩がいるなら、吾郎偵察なんてしなくても良くない?
まぁ、どうせ、青学の人たちも吾郎が偵察に行ってくると行ってどこかに行っても、偵察なんてできないことを分かっているんだろう。
特に三年の人たちは、伊達に吾郎と三年間一緒にいないからな。
「じゃあ、佐伯さん、お世話になりました。他の人たちにもよろしくお伝えください」
「佐伯くん、本当にありがとね〜」
「あぁ、じゃあ、ちゃんも吾郎もまたね。ちゃんなら、いつでも大歓迎だから」
爽やかキラキラ笑顔でそんな事言われた日には他の女の子だったらイチコロなんだろうな。
まぁ、私はなるべくイケメンは避けてとおりたい部類だから、この言葉に愛想笑いをうかべることしかできなかった。
それに千葉まで来るのって結構電車代かかるし。
今回は監督のポケットマネーだけど。あ、いや、部費だったっけ?
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(2008・09・07)