平凡な日々

〜他校との遭遇・1〜










長閑に一人で過ごす放課後。

これほどまでに部活がない……いや、あの人たちがいないというものは静かなものなのか、と思いグッと拳を握り締めた。






うんうん、これこそ私の求めていた静かな放課後だよ。







何かと部活が休みの日は某ファミレスに行ったりして、あの人たちから解放されることもない。



部活がない分ましだとは思いたいけれど、

あの面子でファミレスなんて私にとったら部活よりも酷い結果になってしまうことは分かりきったことだろう。



それに気づいているのかいないのか(……鳳と滝先輩はきっと気づいているに違いない)

女の子の視線が突き刺さっているにも関わらずジロー先輩は無駄なスキンシップをはかろうとするは、





忍足先輩は気持ち悪い声気持ち悪い言葉を発したりとか。







「(私、周りの子達に顔とか覚えられてないかな……)」


顔なんて覚えられた日には一人で外を歩いていたら殺されるんじゃないかな、はは……って、冗談に聞こえないよ!!






だって、いつもファミレスなんか行った時の回りの視線は死ぬほど怖い。

私だけじゃなくて岳人先輩とかもたまに空気を読んだときはその視線に気づいて真っ青になる。


……まぁ、岳人先輩の場合は生死に関わるものじゃないから、まだ気楽だと思うけど。





でも、私の場合は生死に関わってくるんだ。





今だってこんな街中歩いてたらいつ後ろから刺されるんじゃないかとふと思うことだってある。

そんなこと思いたくなんてないけど。

でも、ね、学校内じゃ鳳とか滝先輩の、呪……おっと、これは禁句だった。






こんなこと言った日には証拠も残さず私殺されちゃうよ。

え、ええっと、鳳と滝先輩の……、そ、そうだ、見えない力が働いて女の子達にいじめられたりはしないけど、

でもさすがにこんな外じゃ、無理だろう。



どんなにあの人たちの黒い禍々しい力を持ったとしても。



あー、今、もし後ろから刺されたりしたら絶対りりんとか笑うだろうなー






「ねぇ」


「っ!?」




ポンっと、肩に手をおかれ、私の肩ははねる。

考えていたことが考えていたことだけに過剰な反応になってしまったのはしょうがない。





しかし、聞こえて来た声は意外にも私の知っている声で、私はゆっくりと後ろを振り返った。

そこには学ランを着た少年が僅かに目を見開いてこちらを見ていた。






「驚きすぎ」






ニヤリと言う効果音が似合いそうな笑みをうかべるリョーマくん。

それでも殴る気になったり、何かを言い返そうと思わないのはきっとリョーマくんだから。


ここで違う人、特に忍足先輩なんかであった日には手をださない自信はない。






多分自分でも気づかないうちに手を振りかざしていただろう。最近自分でも忍足先輩に対する反応の早さには舌をまいている。

もしかしたら日吉よりも私のほうが早く下克上しちゃんじゃないだろうか。
あれ、私って凄くない?





あの忍足先輩に下克上って、凄くない?(いやいや、でもあの忍足先輩だからなぁ)






「…ちょっと考え事してたからね」



「ふーん、先輩でも考え事なんて
調子乗るとさすがのリョーマくんでも容赦しないよ?








確かに可愛い子は好きですが、たまには躾が必要なものだと思う。

私の言葉に押し黙ったリョーマくん。本当にこの子は口をひらけば、生意気なことばかり。



まぁ、正直そこも可愛いなぁ、と思えるのは自分より年下でさらに可愛い顔をしてるからなんだろう。





もう一度言うけどこれが忍足先輩だった日には忍足先輩の命はもう既にない。






「それでリョーマくん、こんなところで何やってるの?今日は部活は?」


「部活は休み。今からストテニ場に行くところなんスよ」



「へぇ、それはそれは」






本当にテニスが好きなことで。と言おうとした言葉は自分でも少し嫌味みたいだと思って飲み込んだ。

そのぐらい好きなことがあることは、正直うらやましい。


私のやりたいことは、まだ見つからない。それにいずれ見つかるんだろうか、と不安になることもある。




好きなこと、やりたいこと、それがなくて生きていけるのは確かではあるけれど、

きっとそれがあったほうが人生が何倍にも楽しくなるのは間違いないこと。






先輩、暇なら一緒に行こ」



「私も一緒に行って良いの?」



「多分、相手も喜ぶッスよ」


「……じゃあ、一緒に行く」






そう言って、私とリョーマくんは一緒に歩き出した。

目的地まではあと15分。
















***









やっときた放課後。この日の放課後ほど、来て欲しいような来て欲しくないような微妙な気分の放課後は初めてだっただろう。

となりを歩く深司に、俺達の前を歩く杏ちゃんと橘さん。

嬉しそうな杏ちゃんの表情を見るたびに、俺の心は傷つく






「アキラ、そんなキャラじゃないだろ。って言うかさっきから思ってること口に出てるんだよ。

まったく、そんなうじうじしちゃって。面倒くさいったらありゃしない。

良いよなー、杏ちゃんと橘さんは。こんな奴の相手しないで二人で楽しそうに話しちゃって。

俺も前の二人の会話に混ざりたいよ。こんな奴ほっておいて。






「(……俺、色々間違えたのか?)」






こんな時って普通、友達を励ましたりしてくれるもんだと思ってたんだけどな。





酷くないか、深司?俺達、友達だったよな?





ふと湧き上がってきた疑問に悩んでいれば、いつの間にか俺達はストテニ場に来ていた。

もう杏ちゃんを助けた奴は来てるのか?と思いながら、キョロキョロとストテニ場を見渡す。

しかし、そこにはまだ人影さえみえないくらいに、閑散としていた。






「あら、まだ来てないみたい」


「うわー、もしかして遅刻?ありえな「深司」……すんまそん」


「まだ約束の時間までは少しあるから」



「そうなんだ」







杏ちゃんを助けた奴がまだ来ていないと分かって少しだけホッとする。

でも、そいつもストテニ場でからまれてた杏ちゃんを助けたってことはテニス部なのかもしれない




……だとしたら、絶対負けたくない。






「ね、ねぇ、杏ちゃん。そいつってもしかしてテニス部?」

「えぇ。一応、テニス部って言ってたわ」






「(絶対負けねぇ……!)」







ふつふつと闘志を燃やしながら杏ちゃんを助けた奴を待つ。

ちくしょう。俺が杏ちゃんが絡まれた時に、もし一緒にいたならそいつじゃなくて俺が杏ちゃんを助けてたって言うのに。




たまたまストテニ場にいただけのくせして、調子に乗りやがって。






「ったく、また神尾の奴また妄想の世界に旅たったよ。一応神尾ってツッコミ担当じゃなかったわけ?

あーあ、なんで俺こんなところまで来たんだろ。俺は別に杏ちゃんを助けた奴とか興味ないからテニスしたいのに」






「まぁ、深司そんな風に言うな。俺もそいつに礼を言いたいからな」






「あっ、」


「どうした、杏?もしかして、来たのか」





その言葉に俺はグッと拳を握り締めて、杏ちゃんと橘さんの視線の先を見た。

あれはもしかしなくても、







「……越前と、桃城?」


「なんだよ、あいつらかよ。」







こちらへと歩いてくる二人の姿。じゃあ、俺がずっと杏ちゃんを助けたと思っていたのはこいつらのことだったのか?

杏ちゃんが会えると言って嬉しそうにしていたのは、越前か、桃城?






クソっ、と思い俺は思いっきり二人を睨みつける。

どちらが杏ちゃんを助けた奴かは分からない。けど、この二人のどちらにしても負けるつもりはねぇ。

俺のリズムにかけてな!と思いながらその二人を見ていれば、その後ろには、見たことのある女子。







?」






とそう俺が声に出す前に、杏ちゃんが「ちゃん!」と大きな声をだして彼女の名前を紡いでいた。

俺と深司は思わず目が点になっていた。



あぁ、杏ちゃん。と知り合いだったんだ。




まさか知り合いだったとは、と思っていたけど、もしかしたら桃城を通して知り合いになったのかもしれない。

杏ちゃんと桃城は認めたくはないけど仲は良いみたいだし、を俺に紹介したのは桃城だ。








と杏ちゃんって知り合いだったんだ」


「あぁ、そうみたいだな」








少しだけ杏ちゃんが越前と桃城にではなくに反応したことに俺は心のそこで喜んだ。




だけど、橘さんが「あいつが、そうなのか?」と言う質問を杏ちゃんにして俺は首をかしげる。

あいつ、とは一体誰のことなんだろうか、なんてきっとに決まっている。

もしかして、杏ちゃんは橘さんにのことを話してたんだろうか。

そんなことを考えていれば、いつの間にかたちは俺達の目の前にまでやってきていた。






「なんだよ、不動峰じゃねぇか」


「こんなところで何やってスか」





「あー、俺達はな……」





って、あれ?おかしくない?おかしいよな?




杏ちゃんが会いに来たのってお前らじゃないのかよ。

……もし杏ちゃんに会いに会いに来たのがこいつらだったら、俺達に何やってるのかなんて聞くわけがない。





だったら、もしかしてこいつらじゃないのか?




じゃあ、誰なんだ。杏ちゃんを助けたのは、そう思い俺はもう一度あたりを見渡す。

そこにはやっぱり俺達以外の人なんていない。





はは、なんだよ。まだ来てねぇのか「アキラくん、深司くん、この子が私を助けてくれたのよ」






……えぇぇぇぇぇ!!な、な、っ?!」







あまりの衝撃の事実に俺は目を今まで生きてきたなかで一番じゃないのかって言うぐらい見開いた(うわっ、ちょっ、め、目がいてぇ!

あの深司も目を見開いて驚いてる。





だ、だって、普通絡まれた女の子助けるのは男の役目じゃね?



あ、いや、その考え方は男女差別かもしんねぇけど、で、で、でもさ!

よくよく考えてみれば、はそこらへんいにるような女だし(確かにあの吾郎さんの妹だけど!)

明らかに絡まれた女の子を助けられるくらい強そうには見えない。





そんな驚いたままの俺と深司を無視して、橘さんと杏ちゃんとは話始めていた。





「俺が杏の兄の橘桔平だ。妹が世話になったな」



「あ、初めまして。です。そんな気にしないで下さい」


「……先輩、これって」

「実は今日は杏ちゃんとストテニ場で会う約束してたんだ」


「でも、暇って」





「私そんな事一言も言ってないよね?」








ボソボソと何かを話している様子のと越前。

って言うか、俺かっこ悪いな。

男だと思ってた奴が実は女で、杏ちゃんの話も聞かないで焦ったりして。

やっぱり、深司の言うとおり話を聞くことから始めたほうが良いのかもしれない。



深司……俺、これから人の話はちゃんと聞くな

リズム、リズム言っても出来ないことはたくさんあるんだよな。












 





(2008・06・25)