平凡な日々

〜非凡な日常T・4〜






「じゃあ、これで決定だからな〜。優勝狙えよー」




本当に優勝狙えよ、と思っているかと疑いたくなるようなやる気のない先生の声。

それと同時にチャイムの音が鳴り響き、いっせいにみな下校の準備をしだした。




もちろん私もその中の一人、と言いたいのは山々なんだけど私にはこの後、部活と言う魔の時間が待っている。





ハァとため息をこぼしながら私も教科書を鞄に詰め込み、

待ってくれていた日吉と一緒に教室を出て、鳳と合流して部活へと向かう。





「やっと部活の時間かぁ。今日も頑張らないとね」



「あ、うん、そうだね(今日も部活か……面倒臭っ)」






「……、面倒くさいって言うのが顔に出てる」







鳳の話に自分のなりの笑顔で答えたつもりだったんだけど、日吉からは痛い一言。


私の顔のどこが面倒くさいって顔をしているんだ!





……って、まぁ。実際思っていたことではあるけど








「(うわー、また女の子達が睨んでるよ)」






鳳と日吉と、私のこの三人で部活へと行くのがいつのまにか日課となってしまっていた。

もちろん三人で歩いていれば女の子の視線が痛いのだけど



跡部部長からまだ逃亡の可能性があるといわれ、一人で部活に行くことはない。









まったく、失礼な、とは思うけれど、逃げたい気持ちがないわけではないので否定はできない








「(でも、もう逃げ切れないのはわかりきったことだしな……)」







跡部部長だけならまだしも、私は滝先輩と鳳を敵にまわすことはできない。




それは、あの二人を敵に回すぐらいなら、たかがテニス部のマネージャーぐらい、と私に思わせるぐらいの威力だ。

隣で微笑む鳳。こいつの腹のうちを知っている人なら全員そう思うことだろう。




残念な事ながらその事に気づいているのはテニス部のレギュラーと滝先輩。

あと私ぐらいで、他のファンクラブの子たちはまったく気づいていないんだろう。








笑顔の可愛いさわやかな犬っぽい男の子。

それは間違ってるんですよ、皆さん。こいつの腹のうちを知ったらそんなこと言えなくなりますから。






「うん、どうかした、?」



「いや、なんもないよ」



「そう?なんか、下らないこと考えてる気がしたんだけど俺の勘違いだったみたいだね」







微笑む鳳。すみません、もうこれ以上彼のことを考えるのは私には無理みたいです。



命が……命が、惜しいですから

こんなの行きたくないと思っても行かないわけにはいかないじゃないか。






でも、樺地となら一緒に行きたいと言う気持ちはこりゃ、ものすっごいある。







だけど、樺地は何故か跡部部長と一緒に部活へと来るからしょうがない。



いつか絶対に跡部部長から樺地を開放させて見せる、と心の決めたのはマネージャーになって二日後のことだった。

むしろ、早く引退してしまえば良いのに、と思ったのは絶対に内緒なのだけど。





「それにしても、もうすぐ運動会の季節なんだね。」







鳳の言葉に先ほどのホームルームの内容を思い出す。



来週からはもうきっと練習も始まるんだろう。

とりあえず、特別時間割が良い組み合わせになることだけは願っている



さすがに暑い中2時間も運動会の練習をしたあと、英語や数学などはつらい。






「あぁ」



「日吉とは何色だった?」


「……白」


「あ、ブランなんだ?じゃあ俺とは敵同士だね」







そう言ってにっこり笑う鳳。

お前、つっこむ所はそこじゃないだろう、と言いたいのは山々だけど、その言葉は飲み込んだ。

たかが中学校の種目の色がブランだの、ノワールだの、ルージュだの
一体何語だよ、と英語も満足にできない私は思う






……跡部部長の趣味、か?






いやいや、さすがに跡部部長でもそこまでの権力は……ないと言い切れないのがとてつもなく悲しい。


なんか、跡部部長が白組やら黒組、赤組というのは似合わないし。

って言うか、黒ってありなの?普通、無しじゃない?





まぁ、誰がつくったにしても、常識からかけ離れたひとが考えたのは確かだ。

まったく、何で私この学校に来てしまったんだろうか、と改めて思ってしまう。

正直、テニス部に入部してからは常々感じていることなんだけど。








だけど、一番常識からかけ離れているのはテニス部レギュラー(一部)だからねぇ?








本当、あの人たち常識なんて文字知らないんじゃないの。

今度、跡部部長に真田さん直筆、常識と書かれた紙をプレゼントしてあげようかな。





どうせ、そんな事してもあの人が常識なんて文字を知る日なんてこないとは思うけどね!




それに真田さんに、うちの部が常識もしらない馬鹿だなんて知られたくな……いや、もしかしたらもう知ってるかもな



試合前のあのコールは有名みたいだし、
ははっ、他校にまで馬鹿丸出しじゃないですか。








「(……なんか、憂鬱になってきた)」



「俺はノワールだったんだよね。樺地は何色なんだろ」



「さぁな。どうせ、部活に行けば先輩達がその話題で盛り上がってるだろ」



「そうだね……宍戸さん達何だかんだ言って競争するの好きだしね」








そんなことで盛り上がってないで、練習の話題で盛り上がれよ!

なんて、言えない私は、ただ、同じ色の人が普通の人であることを願った。

とりあえず忍足先輩と跡部部長と一緒の色は絶対に嫌、だな。



あと、氷帝が他校から馬鹿にされていないことを心から願った。






……それは今更願っても、無駄か














***













あーだ、こーだ言いながら部室へと行けば日吉の言ったとおりに話題は の話で盛り上がっていた

まったく、単純な先輩達だ。

跡部部長と岳人先輩が言い合いしているところを見ると、この人たちは違う色なんだろう。





「今年も俺様の色が勝つがな」



「今年は絶対、俺が勝つ!」






何でだろう。

言ってることは二人とも同じなのに、跡部部長に関しては殺意が芽生えてくるのは。





う〜ん、可愛さの違い、からかな?

それとも、跡部部長がとてもうざくてしょうがないからそう思ってしまうのかな?

どっちにしろ、跡部部長負ければ良いのに、という気持ちに変わりはないからどっちでも良いんだけど。






でも、これで私と跡部部長の色が一緒だったりしたら、絶対に嫌だな。






ー!!」



グフッ……今日も良いタックルを決めやがりましたね、ジロー先輩」



「えへへ、そう?」




「ジロー、それは褒めてないぞ。なりの嫌味だ、嫌味」








あきれながらこちらを見ていう宍戸先輩。

私の気持ちが分かってるなら、助けてくれれば良いのにと思ったのだけどジロー先輩はすぐに私から離れてくれた。

ジロー先輩のタックルの犠牲になった自分のお腹をなでていれば滝先輩が笑顔で挨拶の言葉を口にする。





そこでやっと跡部部長と岳人先輩が私達が部室に来たことに気づいたようであった。



別に気づかなくても良かったのに、と隣にいた日吉が思ったことは瞬時に分かった。
私も同じこと思ったからね。







「おい、お前らは何色だ?!」


「俺、ノワールでした!」



「よし!鳳、テメー負けたらゆるさねぇからな」






何が、よしだ。



しかし、ここで跡部部長とは違う色だということが分かったので心の中でガッツポーズ!

隣の日吉もぼそりと「下克上だ」と呟いていた。それに、私は他人ごとかのように頑張れ、と呟き返す。





そして、跡部部長と岳人先輩の視線が私と日吉に向く。







「……俺達はブランですよ」


「うわー、日吉もも違う色かよ!」


「アーン?こいつらが同じ色だと違う色だと俺が優勝することは間違いねぇだろ」








あんたが優勝するんじゃない。

優勝は多くの人がつくりあげるものだ、と言おうとしたけれど、私の口は動きをとめた



隣の日吉が先ほどの比ではないほどの低い声で「……下克上だ」とボソッと言ったからだ。





あぁ、跡部部長死んだな。

この人、後輩から殺されるな、と言うのはきっと自分に酔いひれている跡部部長以外この場にいる全員が思ったことだろう






現に滝先輩が綺麗な笑顔をうかべながら「ご愁傷様、跡部」と言ったのが聞こえた。










「じゃあ、白組は俺とジローと忍足とお前ら二人だな」



「クソクソ、ルージュは俺と滝と樺地だけかよ!」









ブランを白と言ってくれる漢、宍戸先輩に一生ついていきます!と私は心の中でひそかに決めた。


私この人に一生ついていくわ……って、忍足先輩もブランなのかよ!最悪だ!

そう思いながら忍足先輩に視線をやれば胡散臭い笑顔をうかべながら(本人曰く一番の笑顔)口を開く






「よろしゅうな、ちゃん」



「無理です」



「ちょっ、なん
と一緒とか俺嬉Cー!」








忍足先輩の言葉を遮りジロー先輩が再び私にタックルをかます。

タックルをしてきたことは頂けないが、忍足先輩の言葉を遮ったことはグッジョブです!

またまた隣から「チッ」としたうちも聞こえてきたけど、


きっと日吉がうぜぇ、なんで俺が忍足さんなんかと一緒の色なんだよ、と思っているということにして、






私は宍戸先輩を見ながら「頑張りましょうね!」と声をかけた。

宍戸先輩はその声に元気よく返事を返してくれる(兄貴って呼ばせてくださいって今度お願いしてみようかな)







〜、俺には?」



「ジロー先輩も頑張りましょうね!」


「もちろんだCー!」


ちゃん、俺に「忍足先輩、ガンバリマショウネ」





その気持ちも分からないこともないが片言になってるぞ」



「なんで俺だけそんな扱いなん?!それに、日吉。気持ちも分からんこともないってどういうことや?



そのままの意味ですよ







一発触発な雰囲気の日吉と忍足先輩。
とりあえず、そのまま殺っちゃってください日吉。



それにしても、跡部部長と鳳がノワールか……

今、考えると鳳がノワールってもしかして腹の色のことなのかもしれな、「何考えてるの



名前を呼ばれ、そちらのほうを見れば鳳が真っ白な笑顔をうかべていた。





いや、何もないよと即答したのは言うまでもない。







「それで、は何の競技にでるの?」


「玉入れと、綱引きです」


「……お前、それ絶対楽なの選ぼうと思ってそれ選んだだろ」


「そ、そんなことないですよ岳人先輩!」






岳人先輩に図星をつかれて、思わず挙動不審な態度をとってしまう。

確かに優勝したいという気持ちがあることにはあるが、面倒くさいことはお断りだったりする。



まぁ、何だかんだ言って競技になれば負けず嫌いな性格が手伝って一生懸命に競技にはうちこむんだけど。





「まぁ、らしいって言ったららしいね。どうせ、日吉は色別リレーにでもでるんだろうね」



「大正解ですよ、滝先輩!」







色別リレーはクラスでも足の早い男女が選抜される。私とは無関係の話だ。

そもそも中学に入学してから私はタイムを計っていないし、大体これに選ばれるのは陸上部や他の運動部。





うちのクラスには男子の陸上部はいないし、だから、日吉が選ばれたんだろう。

それに日吉は足も速いし、リレーにはもってこいだ。






「大体、色別リレーにでるのは陸上部よりもテニス部のほうが多いくらいだからね」



「へぇ……なんかそれ陸上部可哀相じゃないですか」



「何言ってんだ。これも実力だろ?俺達に負けなくなかったら陸上部も練習すれば良いだけの話だ」





「宍戸先輩に言われるとすっごい説得力があります」






確かに負けたくないなら練習するしかない。

それは宍戸先輩がもっとも分かっていることで、そのことを分かっているからこそ宍戸先輩の言葉には重みがある。







「じゃあ、宍戸先輩も色別リレーにでるんですか?」


「あぁ、もちろんだぜ」


「絶っ対、跡部部長には負けないで下さいね!」


「当たり前だ!」







私と宍戸先輩はまるで夕日に向かって甲子園の出場を誓う野球部員とマネージャーのような雰囲気

少しだけ回りに人たちが私と宍戸先輩を哀れな目で見ていたような気がするけど気にしないでおく。




でも、跡部部長には絶対に負けたくない。

あの人には一度、敗北という文字を刻み込んでやりたいんだ。

ふふ、と思わず零れてくる笑みに少しだけ目の前の宍戸先輩が顔を青くしたような気がした





「……なぁ、滝。が少し怖ぇんだけど」


「そう?俺としては運動会が楽しみになってきたけど」








そして同じように妖しい笑みをこぼす滝先輩に今度は岳人先輩が顔を青くした。

運動会まではあと3週間をきったある日の出来事だった。










 





(2008・05・21)

次は運動会の話じゃなかったりします。