平凡な日々
〜非凡な日常T・3〜
ふと晴れた日の放課後。皆が部活へと励みながら、
もちろん私だってやりたくもないマネージャーの仕事に励みながら、頑張っていた。
平部員とも仲が良くなった今日この頃、
200人を抱えるこのテニス部でよく私はやっていけているな、と自分自身に感心をしていた。
目の前では休憩に入った一年生の部員が
「跡部部長なんて僕達の憧れですよ!」なんて私に満面の笑みを浮かべていう言ってくる。
本当、この少年達の視点で一回跡部部長を見てみたいと思う。
あれが、どうやったら憧れになるの?むしろ軽蔑したいの間違いじゃないの?と、聞きたくなる気持ちを抑え、
私は君達もあんな風になれるように頑張ってね、と声をかけることしかできない。
あんな跡部部長みたいな後輩なんて可愛げもないから私としてはあんな風にならないで欲しいのが本音ではあるのだけど。
でも……でも、さすがにそんなこと言えるわけないじゃない?
「俺には言ってるがな」
「だって、日吉は私と同じ気持ちでしょ?跡部部長を憧れの対象にするのは人生の恥だってこと分かってるでしょ?」
「さすがにそこまでは思ってない。……まぁ、始めはあこがれるだろ。一応、あれでも200人を抱えるテニス部の部長なんだ」
「一応、あれでもってどういう事だよ。部長に対してそんなこと言って良いの?」
「その台詞そっくりそのままお前に返してやるがな」
平部員の休憩時間も終わり、次はレギュラーと準レギュラーの休憩時間。
一足早く休憩場所に来た日吉にドリンクを手放しながら私は先ほどの一年生との会話を日吉に話していた。
だって、跡部部長が憧れの対象だなんて、あんなキラキラした笑顔で言われたら、それやめた方が良いよ。なんていえるわけがない。
あの子良い子なのに……常識だってしっかりある子なのに。
それなのに、あんな部長にあこがれるなんて、いや、本当人って分からないよなぁ
「お前の目に跡部さんがどう映ってるかは知らないが……いや、まぁ大体予想はできるが、
部員にとったらテニスの強い跡部さんは憧れの対象になるんじゃないか。口先だけじゃないってことだ」
「まぁ、確かに跡部部長がテニスが上手いのは認めるけど、人間としてアウトだと思うんだよね」
「・・・・・・・」
「いや、私としたらレギュラー全員が人間としてアウトのような気が……あ、でも日吉はまだ人間として大丈夫だと思うよ」
「まだってなんだ!まだって!」
「あー、うん。もうちょっと間違えれば、アウトかなーって」
だってあのレギュラーのなかにいることは間違いない事実だし(あれ、それって私も同じ?いやいや、私は決してアウトじゃないから!)
それに日吉、たまに私を見捨てることもあるしね。
いや、本当、あの時ばかりは日吉に対してまで殺意が芽生えたよ。
「それにしても、岳人先輩の髪の色と言い、鳳の髪の色といい、本当中学生かよってツッコミたくはなるよね」
「確かにそれも、そうだな。もう当たり前すぎて、気にもしてなかったが」
「私としては何で誰もあの髪の色についてツッコんでなかったのかが不思議だけどね。テニス部では髪の色染めるのブームなの?
それも何でみんな普通の茶色とかじゃなくて、奇抜な色を選んでるわけ?
もうすでに顔に個性があるんだから、別に色まで個性的にして目立つ必要はないと思うんだけど」
「……別に目立とうって気持ちじゃないだろ」
「あ、そうなんだ?」
私は近くのコートで試合をしている、岳人先輩を見る。
ムーンサルトと叫びながら、人間じゃないくらいのジャンプ力を見せる岳人先輩の髪は揺れていた
……岳人先輩の場合は髪の色もさることながら、髪型も十分個性的だと思う。
今、考えれば初対面のときに突っ込まなかった自分は凄いと思う。今でもツッコミたくてたまらない時があるというのに。
まぁ、もしかしたら岳人先輩にはつらい事情があってあんな髪型にしているかもしれないし、ね
「立海の仁王さんも丸井さんもさ、明らかに中学生の髪って感じじゃないし。銀髪と赤髪って、絶対先生に何か言われると思うのにね。
・・・・・あ、でもどこの学校もテニス部が主権を持っているんじゃないかって疑ってしまいそうなぐらい権力持ってるように見えるし、
先生達も頭があがらないのかも」
「それは、ない・・・・・こともないかもしれないな」
一瞬、否定しそうになった日吉が奥のコートで跡部コールを聞いて悦に浸っている跡部部長を目にして、認めた
この学校で跡部部長は絶対的な存在、らしい(私としてはそれは本当に認めたくないことの一つと言うか、絶対に認めないんだけど)
確かにこの学校に納めているお金も凄いらしいし、成績優秀、部員200人をほこるテニス部の部長、そして生徒会長。
先生達が頭が上がらないのも、なっとく、でき……る(いや、本当まじで納得したくはないんだけど)
「もう、本当なんなんだろうね、テニス部って」
「そう言うな。入部したこと後悔しそうになる」
「……どんまい」
「日吉にちゃん、何しよるん?俺にもドリンクちょうだ「そこに入ってますから、自分でご自由に」」
私はそう言ってこちらに流れる汗をタオルでふきとりながら歩いてきていた忍足先輩に視線だけでドリンクの入った籠をさした
まるで中学生の声とは思えないほど、色っぽい声(友達談)(これ重要だからね。私が思ったとか、そういうのじゃ絶対にないからね!)
この人も、見た目はまぁ、普通の部類に入らないこともないかもしれない(あんまり認めたくないけど)のに、この声だからなぁ……
やっぱり忍足先輩も中学生にはとても見えないよね。いや、本当、中学生に見える人の方が少ないこの学校でどうなのよ。
………いや、別に学校内に中学生に見えない人はそこまでいない、な。
テニス部だけだ。これだけ中学生に見えない人が集まっているのは
(まぁ、立海には中学生どころか未成年には見えない人もいるけど)(さすがにそれが誰か言えないけどね!)
「いやぁ、いつ飲んでもちゃんの作ったドリンクは上手いわぁ」
「本当、皆、年齢詐称しすぎだと思うよね」
「まぁ、否定はしない」
「え、俺また普通にスルーなん?これちょっと、毎回すぎん?さすがに俺の扱いもっと良くせな苦情くるで?」
「その前に忍足先輩のあまりの関西弁の似非さに苦情がきますよ」
「ひ、酷……!それって俺のせいやない!」
「立海の真田さんは中学生に見えないレベルじゃないよな」
「ちょ、日吉!それ私も思ったけど口に出しちゃだめだと思って口にはしなかったのに!」
「……また無視なん?」
いつものごとく忍足先輩の言葉をスルーしていれば岳人先輩や鳳たちも休憩になったのかこちらへと歩いてきていた
テニスコートの周りからもれる感嘆の声に、あぁ、さっさと現実見ろよな。これだから、お嬢様は、と言う悪態もついつい考えてしまう
変に憧れの対象にして、その印象をそのままこのレギュラー陣におしつけて、レギュラー陣をまるで神のように扱うファンの態度
レギュラー陣だって人間なのに、と思ってみれば
少しだけレギュラー陣が可哀相になってこれからは少しくらいは優しくしてやろうかな、なんて考えてみる。
「あーん?さっさとドリンクわたさねぇか」
前言撤回。一生優しくなんてするものか。
そうだよ、私はほぼ無理やりこんなやりたくもないマネージャーの仕事してやってるんだ。
それなのに、どうして優しくする必要があるんだ。むしろ、お前達が私に優しくしろよな!って感じだよ
「ドリンクならそこにありますから、勝手に取ってください」
「ふん。マネージャーなら「ほら、跡部とってやったで。俺もとってもらえんやったんや。お前が取ってもらえたらなんか腹立つやん」」
「忍足のやつ、馬鹿だな」
「ですよねー。宍戸先輩に超同感ですよ」
意味の分からない忍足先輩の言い分を、眉を寄せ馬鹿にした表情で見ていた宍戸先輩に私は激しく同意した。
忍足先輩から跡部部長からドリンクのボトルが渡された瞬間に漏れたテニスコートの周りの女の子たちの感嘆の声。
あぁ、りりん属性か……と思わずにはいられなかったのは、きっと私だけじゃなくとなりにいる日吉もだろう
(彼も少しだけ顔を青くしていた)(最近、りりんの本性を日吉は知ってしまったからな。可哀相に)
「……なんかさ、あの会話が聞こえないだけで周りの女子の中では凄い勘違いが起こってんだろうね」
「だろうな」
「きっと、かなり都合よく彼女たちの頭の中では忍足先輩が跡部部長にドリンクを渡した映像が映ってるんだろうね。
本当に都合よく変換されて」
私の予想ではあるけど、
彼女達の頭の中では「ほら、跡部。お前のためにわざわざ俺がとってやったんやで」みたいな感じで吹き替えが行われているんだろう
声が聞こえないと言うのは、逆に彼女達にとったら都合の良いことなのかもしれない。
ご愁傷様、跡部部長に忍足先輩。私は心の中で合掌した。彼女達の餌食となっている跡部部長と忍足先輩に。
ぶっちゃけ、良い気味だとは思ったりもしたけどね。
「あれ、なんか寒気がするんやけど?」
「忍足先輩の勘違いじゃないんですか?」
「鳳、お前はいつも笑顔できっついなぁ……!」
忍足先輩、それは多分勘違いじゃないと思いますよ、と言う声は私は飲み込んだ。
その寒気はきっと、周りから見ている女の子達の視線から来ているものだと思う。もう、これは間違いなく。
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(2008・04・12)
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