平凡な日々
〜非凡な日常T・2〜
誰もが騒ぐ昼休み。榊先生からの呼び出しもなく、
部活のミーティングもなくゆっくりと流れるこの時間は静かな授業中の次に私にとって平和な時間だ
とは、言っても私にとっては部活がない時間は何よりも大切な平和な時間なんだけど、
「ねぇ、」
「何?」
目の前でお弁当を食べ終わり片付けていたりりんが私に声をかける。
私も食べ終わったお弁当を片付けながら、りりんのほうを見た。
となりの席の日吉は可哀相なことに多分、今頃鳳やら他の誰かと昼食を食べているんだろう。
今、ここにはおらず、日吉の席には誰も座っていない。
授業中しか平和な時間がない日吉に心の中で手を合わせた(私は昼休みはこうしてゆっくり過ごせるときがあるもんな……!)
まぁ、私も嫌々ながらレギュラー陣と昼食を共にするときもあるのだけど。
「あんた、レギュラーの誰かとできたりしてな「そんなことあってたまるかって言うか、私にだって選ぶ権利ぐらいあると思うんだ!」」
いきなりの、りりんの言葉に速攻で私は返事を返していた
そんな、私がレギュラー陣と付き合っているなんて、私にだって人権ぐらいあっても良いはず。
それに、私とレギュラーの誰かが付き合っていたりしたら他の女の子たちが黙ってないだろう。
ただでさえ、マネージャーになったときも黙ってはいなかったのに、
だから、というわけではないけど、
私があの、人として認めてよいのかいまだにわからない人と付き合うなんて一光年先も絶対にない。
いや、一光年先と言わず、これから一生ないに決まっている。
「私のタイプは普通の人って何回言ったらわかるわけ?お願いだから、そんな気持ち悪いこと考えるのはやめてください……!」
「すっごい、否定の仕方ね」
「だってさ、私もともと美形って嫌いだし、あの人たち見てると尚更、あぁ、美形にまともな人っていないんじゃないかなって本気で思うんだよね」
「ふーん、そういうものなの?私は美形って好きだけどね」
にっこりと微笑むりりん。でも、りりんの美形の好きは普通の好きとは違うと言うことを私は知っている。
りりんが好きなのは美形同士がいちゃいちゃしている絵であって、自分が美形といちゃいちゃする気はまったくもってないらしい
もったいない。見た目は普通に可愛い女の子なのに、どこでどう間違ったんだろうか。
小学校のときは少なくともこんな趣味はなかったはずなのに、そして、もっと私に優しくしてくれていたはずなのに・・・・・・
(こっちのほうが重要だ!)(いつの間にこんな私にだけ冷たい女の子になってしまったんだろう!)
「・・・・・そう。りりんは美形が好きなん、だ」
「当たり前じゃない。汚いものがいちゃついてても気持ち悪いだけでしょ?」
「(笑顔でさらっとおかしいこと言ったー!!)」
「まぁ、あんたみたいにあんな問題にいろいろ巻き込まれたりしたくないから、遠くで見るだけで十分だけどね」
誰か、この友達に何か言ってやってはくださいませんか。何、この笑顔。すっごい良い笑顔してるんだけど。
それって笑顔で言うことと違うよね?絶対に違うよね?って言うか、笑顔とかそういう問題の前に、
こ れ っ て 友 達 に 言 う 言 葉 じ ゃ 絶 対 に な い よ ね ?
私は友達にも、先輩にも、兄にも恵まれてなかったんだろうか。
もう、これじゃあオー人事、オー人事に電話してもきっと手遅れに違いない。
でも、りりんはなんだかんだ言って、一番の友達だ。
小学校のころからの大切な友達で、吾郎なんて関係なく、私を私として見てくれた大切な友達。
だから、どれだけりりんにひどいことを言われてもあまり気にはならない(これは断じて私がエムだからとかそういうわけではない)
りりんが言う言葉に悪意はないんだ。ひどいことを言っても、その裏にはいつも何かりりんにしか分からない真意がある。
・・・・・・・・だけど、もう少し私に対して優しくしてくれても良いかなって思うことはたびたびあるよ
「でも、はうらやましいわよ。あの立海と人たちとも知り合いなんて、」
うっとりとした目で遠くを見るりりん。いったい何を想像しているかなんて容易に推測できてしまうのは、どうしてなんだろう
どうせ、りりんが想像しているのは、誰と誰がいちゃこらしているのが一番良いか、とかそんなことに決まっているんだ
そんなにうっとりした目で、そんなこと考えているなんて周りに人たちは思ってもいないことだろう
なぜかクラスの人たちのりりんのイメージは落ち着いた大人らしい頼れる人みたいな感じだから)(誰か彼女の本性を教えてあげて欲しい)
「じゃあ、紹介しよ「遠慮しておくわ。何回も言わせないで欲しいんだけど、私、遠くから見るのが好きなの」」
「・・・・・・そんなこと言わないで、さ」
それも、私最後まで言い切ってないのにね。と言う言葉は飲み込んだ。
「私も珍しいほうだとは思うけど、も十分珍しいわよね」
急に神妙な顔つきになるりりんに、私は眉をよせた。今までの話の展開で、おかしいすぎるだろこの展開は
それも、私が珍しいとは失礼すぎるコメントだと思う。私なんかよりよっぽどりりんのほうが珍しいに決まっているのに。
(だけど、りりんも自分で珍しいということは自覚しているらしい)
「美形嫌いなのはまだ、なんとなく分かるんだけど、あんたが避けようとすればするほど、美形な人たちが寄ってきてる気がするもの」
「(た、確かに…・・・!)」
確かに私が避けようとすれば、避けようとするほど美形な人たちと知り合いになっているような気がしないこともない
テニス部のマネージャーの時だって、立海にまでおつかいに行った時もそうだ。
……なんか、私ってやることなすこと裏目にでてる気がするんだけど
だって、知り合いになりたくないと思っていれば知り合いになってしまうし。
構われたくないとおもっているのに、構われてしまっているし。私ってどれだけ運がないんだよ(今年、厄年なんかじゃないと思うんだけどな……!)
「それに吾郎さんも、大変ね」
「え、なんでそこで吾郎が出てくるの?むしろ大変なのは私じゃない?
吾郎とか吾郎とか、他の変な美形な人たちとかの登場により、平穏な生活ができなくなってきている私のほうが大変じゃない?」
「だって、吾郎さん、かなりのシスコンだから、あんたの周りに美形が集まって、大変でしょ?」
「やだなー!美形が私みたいな普通の女相手にするわけないじゃん!いや、むしろ相手にされても困るけどさー!
吾郎もそれぐらい分かってるよー。っていうか、吾郎が大変って言うのはもっと大変な私に対して失礼だ」
「(吾郎さん、凄い言われよう)」
吾郎は私が言うのもなんだけど、シスコンと言われればシスコンかもしれない(あ、いや、かもしれないじゃないな。あいつは絶対シスコンだ)
でも、私の周りの美形が私を相手にするなんてとてもじゃないけど考えられないし、
そんな考えられないことを心配するほどあいつも馬鹿じゃな・・・・・い、と思いたい、な。はっきりと言い切れないところが悲しいけど。
だから、そんないらない心配をしている吾郎より、私のほうがよっぽど大変に決まってる。
目の前のりりんは、そう力説する私を一瞥して、ハァと、ため息をこぼした。
いやいや、何その「あんた、馬鹿じゃないの?」みたいな視線は!……本当、私、もう一回友達探しから始めたほうが良いのかもな。
「まぁ、私としては、やっぱり男同士でいちゃいちゃしててくれたらそれで「はーい、りりん。もう5時間目始まるよー!!ほらほら、準備しないと先生来ちゃうよ!」」
私の一言にりりんは大人しく席に戻る
(戻るときのボソッと「今度絶対に、男同士の良さをあんたに語ってやる」と言ったのは聞かなかったことにしようと思う)
鳳たちと昼食を食べていた日吉が、私のとなりの席へと戻ってきた。その表情にはいささか疲れが見え、私は心の中でどんまい、とつぶやいた。
「おかえり、日吉」
「・・・・・あぁ」
「今日もお疲れ、さま」
「・・・・・あぁ」
返事にも覇気がない日吉。いったい、今の時間に何があったんだろう、と少しだけ気になったけれど、私に聞く勇気はなかった。
ここまで日吉が疲れているのも珍しい。そんな出来事を日吉に聞くなんてこと、私にはできない。
それに、聞いたら聞いたで、何か面倒くさいことに巻き込まれてしまうんじゃないかと思うし・・・・・
日吉には悪いけど、私も自分が一番可愛いので、ここは5時間目の授業に集中させてもらいたいと思う
「・・・・・」
「何?」
「お前、今日の部活覚悟しておいたほうが良いぞ」
日吉の言葉に、私の顔は一気に血の気を失った。
面倒ごとに巻き込まれないように頑張っているつもりなのに(そのために友達を見捨てたりすることもあるのに)
なぜ、面倒ごとに巻き込まれてしまうんだろう。本当に、私、今年厄年じゃないんだろうか?
とりあえず、どうやったら今日の部活行かなくて良くなるか、先生の授業を右から左に受け流しながら私は必死に考えていた。
まぁ、結局は放課後、迎えに来た笑顔の鳳の強制的に連れて行かれてしまったんだけど、ね。
・・・・・その後のことは、口にだしたくもないし、思い出したくもない。
言えることは、テストで一位をとった跡部部長がうざかったことと、岳人先輩と宍戸先輩が、欠点だったことだ。
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(2008・03・30)