「む、あれは赤也たちではないのか」


「ふふ、本当だね」

「丸井の付き添いの可能性、100パーセントだな」






平凡な日々

〜ご褒美な休日・3〜











正直、声のした方を振り向くとが恐くて私はうつむいたままその声の持ち主達がどこかへ行ってくれる事を心の底から願った

しかしそんな願いが通じるわけもなく、私は新たな声の持ち主の方を振り向くざるを得なかった

声だけでこれだけ人を支配できる人なんて中々いないだろう。優しい声なのに、その声には凄い圧迫感がある。







だよね?どうして下なんて見てるの?こっち、向こうか・・・?



「み、み、皆様、お久しぶりです!!!」






少し涙目になる。あぁ、やっぱり幸村さんはアッチ方面(鳳とか、不二先輩とか、滝先輩とか)の属性だったのか

黒属性の人というのは、優しい顔しているものなんだね。羊の皮を被った狼なんだよね。あえて言うなら、天使の皮を被った悪魔・・・・・









いや、魔王なんだろう








恐る恐る顔を上げて、声のした方を見ればそこには幸村さんと柳さんと、真田さんがいた。

真田さんには失礼だとは思ったけど、真田さんと喫茶店と言うのは少しあわない。








「副部長が喫茶店なんて似合わないッスね!」





「なんだと、赤也?!」





「(切原は本当の馬鹿だ・・・・)」







普通、本人を目の前にして似合わないとか言ってはいけないことだろう。現に真田さんの額には青筋が浮かんでいて今にもキレてしまいそうないきおいだ



その事に切原もやっと気付いたみたいけど、もう今さら遅い。




それに、残念な事にとなりの仁王さんなんて少し笑ってるし、先輩達は後輩を見捨てたみたいだよ?

なんだか切原も苦労しているって言えば苦労しているのかもしれない。だけど今回の場合は自業自得か







今回は私も助け舟をだすつもりはない。それより、今はどれだけ早くここから抜け出すかを考える方が先だ(ごめん、切原私はやっぱり自分が一番可愛いよ・・・)







「真田。本当のことなんだから、しょうがないよ。赤也は馬鹿正直なんだから」




「(今、馬鹿のところだけ強調したんですけど・・・?!)」




「ぶ、部長・・・・!」




「(切原、そこは感動するところじゃないよ!!お前、馬鹿って言われてるんだぞ!・・・あぁ、もうその事に気付かないからお前は馬鹿なんだよ!!)」









「そんなに俺には喫茶店は似合わないのか・・・・?」








さりげなくショックを受けている真田さんもスルーし、私は切原がどれだけ馬鹿なのかあらためて思い知った

こいつ尋常じゃないぐらいの馬鹿だ。将来が心配とかいうレベルの問題じゃない。こいつの今が心配だよ・・・!







テストとか赤点とりまくってるんじゃないだろうか。いやいや、先輩達(柳生さん、ジャッカルさん、真田さん除く)に騙されたりして・・・・











って、何で私が切原の心配をしてるんだよ!!そんな事より自分だろ!自 分 !










どうしたらこの危機を乗り切れるだろうか。だけど、ここには厄介な人が多すぎる。

とりあえず切原は馬鹿だから大丈夫。真田さんも、自分が喫茶店が似合わないことにショックを受けているから大丈夫。

丸井さんも多分、馬鹿だから大丈夫(年上に馬鹿ってちょっと失礼かな・・・・?)











問題は・・・・チラリと横の仁王さんを見る。そして、その視線を幸村さんと柳さんにうつした。









仁王さんはかなり厄介な人物だと言う事は分かっている。そして幸村さんはアッチ方面のお方。

柳さんはデータをとるし、まるで乾先輩みたいだから色々な意味で恐くて危ないと思う(柳さんのことは未だデータを取っているとしかわからないけど)

あぁ、どうしてここに柳生さんとかジャッカルさんとか、立海のまともな人はいないんだよ・・・!!







「それで、はなんで仁王達と一緒にいるの?」




「俺が喫茶店の前で見かけて誘ったんだぜぃ!」



「ほぉ、はケーキが好きなのか」








サラサラとどこから取り出したか分からないノートに柳さんは何かを書きこんでいく。

別に私がケーキ好きか嫌いかなんてノートに書いておく必要なんてまったくないと思うんだけど。むしろ、書かないで頂きたいんですけどね。







土下座でもしたら書かないでもらえるかな・・・・?(もうプライドなんて私にはないよ)









「ふーん、それは楽しそうだね。俺達もまぜてくれる、かな?」








微笑んで私に聞いてくる幸村さん。まったくもって、疑問系に聞こえないのは何故?!正直、背中に寒いものがきたんですけど!!

それに「ふーん、楽しそうだね。俺達もまぜてくれる、かな?」の後に、断ったらどうなるか分かってるよね?みたいな声が聞こえたような気がしてしょうがない。


多分、これは私の幻聴なんかではないと思う。微笑む幸村さんの後ろに何か黒いものが見えて、私は思わず幸村さんから視線をずらした。

周りにいる女の子達が感嘆の息をつく。そして、さらに私への視線がきつくなった(恐いよぉぉぉ!!)








「・・・もち、ろんでございます」




「あれ、聞こえない「もちろんです!!私も皆様と一緒にお話してみたかったんです!!」




「(、少し涙目になってるぜぃ・・・・)」







丸井さんから少し同情するような目で見られている。同情するなら、助けてくれ・・・・!

だけど、丸井さんは私と目があうと、サッと目をそらしたあぁ、ここには私の仲間となってくれる人なんていないらしい

再び柳生さんやジャッカルさんに会いたくて仕方がなかった。そもそも、近場の喫茶店で済ませて置けば良かったのだ








監督が今日なんかに休みをくれるから・・・!(監督に責任転嫁をしたところでこの状況がどうにでもなる訳がないけど)








「ククッ、楽しい事になりそうじゃのぉ」



「・・・・(全然楽しくねぇ!!)」








横で笑う仁王さんをキッと睨みつける。何が楽しい事になりそうだ。なってたまるかって!!





周りの女の子達だって、平々凡々な私がこんなにかっこ良い(・・・顔だけね)男の子達に囲まれているのを鬼の形相で見てきているし

お願いだから構うんならもっと可愛い女の子を構ってあげて欲しい。もしくは、構って欲しいと思っている女の子を。

私は別に美形に囲まれて嬉しいとは思えないし(思いたくもない!)、できることなら一人でケーキを食べさせて欲しかった。








はは、なんで私がこんな目に・・・・










「だけど、ここじゃみんな座りきれないんじゃないんッスよ?」




「ふふ、何当たり前なこと言ってるんだい、赤也?」




「ここの近くに良いファミレスがあるぞ」





私の気持ちなんて無視して話を進めていく。誰か一人でも私の気持ちを分かってくれるやつはいないのかとも思ったけれど、いるにはいるんだ。

私の気持ちを分かっているやつは。だけどそれでも私の気持ちを無視してやってるんだよね・・・!!
本当、性質悪いな・・!









諦めてしまった方がもうらくなのかもしれないと思いただただ私は窓の外を見ていた(あはは、天気が良いなあ・・・)












――――プルル












いきなり鳴り出した携帯電話。それは先ほど切原達とアドレスの交換をしたままテーブルの上に出したままにしていた、私の携帯だった

私はそれを天の助けと言わんばかりに勢いよく手に取る。ろくに相手を確かめずにでてしまい、少し後悔したが







吾郎だったらどうしようかな







いや、でも、もし吾郎だったとしてもここから抜け出すためになら使えるはずだろう。よし、そうだ、と前向きに考えながらボタンを押して「もしもし?」と声をだす

立海のメンバーが少し見てくるのがウザかったけど、さほど気にせず相手の声をまった。









「あ、?俺だけ
「久しぶりだね!!本当、久しぶりだね!!」









心の中で神の存在を信じた瞬間だった。電話をかけて来てくれたのは吾郎なんかじゃなくて、

むしろ全然普通に良い人で、私は嬉しさのあまり相手の言葉を遮ってまで声をだした(ご、ごめんね・・・!)









だけど、相手が良い人であってもここから抜け出す為には、もっと他に理由がいる。私は電話の相手の話を無視して無理やり話を続けた。







「あぁ、久しぶり。でさ、今日
「えっ?!それは大変だね!!うん、今からすぐ行くよ!!当たり前じゃないか、私達友達だろ!・・・え、ちょっ、?!」








よし、これで私はここから抜け出せるはずだ。相手の話なんてまったく聞いていないけど、

回りで聞いている立海メンバーからしたら、電話の相手に何か大変な事があってそれで私が呼び出されたように聞こえたはず












自分の演技力に乾杯だな!なんて思いつつ、結局私は最後まで彼の話を聞かずに電話を切った(本当ごめんね!!だけど、私も色々危ない状況なんだよ)










「す、すいません、幸村さん。ちょっと友達に何かあったみたいで・・・・」




「えぇー、もう帰るのかよー!!」




「あ、うん(切原は黙っとけ!)」










不満そうに声を上げる切原に、申し訳なさそうに言えば切原はそれ以上何もいわなかった。少しまだ不満そうな顔をしてたけど。

幸村さんのほうを向けば、怒った様子も見られないで、どうやら私が無理やり話を終わらせたことはバレていないらしい(と言うか、そう思いたい)










「友達に何かあったんならしょうがないね。じゃあ、また今度の機会でも」








ゆっくりと微笑む幸村さんが、あまりに優しい笑顔だったから少しだけ良心が痛んだ。

だけど、となりでニヤニヤ笑っている仁王さんを見たらそんな気持ちもすぐにどこかにいった

私はその場にいた人たちにかるく挨拶をすませして、その場をあとにした。もちろん、未だショックを引きずっている真田さんにも声をかけた(頑張れ、真田さん!!)









喫茶店から出て、ハァと息を吐く。そして、再び電話のリダイヤルを押して先ほどの電話の相手に電話をかけ直した。











「あ、私だけどさっきはごめんね」







とりあえず、一番最初に謝罪の言葉を言わなければ。

でも、ありがとう。君のおかげで私はあの場所から逃げ出すことができたよ・・・・(当分、神奈川には来ないことにしよう)











  









(2007・12・01)