平凡な日々

〜ご褒美な休日・2〜













ケーキが届いて、早5分、目の前の丸井さんがケーキを食べていく姿を見て私はただただ唖然としていた

男子と言えば、ケーキが苦手な人もいると言うのにこの人の胃はまるで限界を知らないかのように目の前にあるケーキを無くしていく










その姿に、少しだけワカメ少年が青ざめた顔で丸井さんを見ていた。うん、これこそ普通の人の反応だよね。








しかし、顔だけは良い丸井さんはそんな正直こっちが胸焼けしそうなぐらい食べていても

周りの女の子は感嘆の言葉を呟きながらその光景に見入っていた。












「ケーキ、おかわり!!」










その一言に可愛い女の子がやってきて注文を聞いて去っていく

一体この人はケーキをいくつ食べるんだろうと疑問に思う。この人のお小遣いはすべてケーキに消えてるんじゃないだろうか

といらぬ心配もしてしまう。そんな私の様子に気付いたのか、丸井さんは顔を上げてこちらを見た。









も一杯食えよ。奢ってやるぜ?」





「は、はぁ・・・」





「赤也が」





「俺ッスか?!」






「当たり前だろぃ。この前、失礼な事いったんだからケーキぐらいにおごれよ」






「嫌ッスよ。それとこれとは全然別じゃないッスか」





「いや、赤也。一緒のことじゃよ。なぁ、?」






「すみません、急に私に振られても困りますし、その前に何、勝手に名前で呼んでるんですか?





は俺のこと、雅治言ってくれたら「えっと、名字なんでしたかね?」







私の言葉に銀髪少年は少しだけムッとした顔をした。だって、私、貴方の名前なんて知らないんですよね。

まぁ、別にこの人の名前なんて知らなくても良いんだけど、どうやら銀髪少年は自己紹介をしてくれるらしい








一応、常識はある人のようだ。私の思い違いでなければ







「立海3年、仁王雅治・・・雅治って
「はいはい、仁王さんですね」






「赤也もに自己紹介ぐらいしろぃ」










丸井さんが言うとワカメ少年が嫌な顔をしながらこちらを見た

そんなに嫌なら言わなくても良いのに。私だって、これ以上テニス部に知り合いなんて増やしたくないんだから









「立海大付属中学2年エース切原赤也」




「・・・自分でエースとか言っちゃったよ」




「テメー、何か文句「ケーキ失礼します」











丁度良いところで来たケーキのせいで途中で言葉を遮られたワカメ少年は少しだけ可哀想だった

なんだかこの子、とことんついてなさそうな感じがする。どんまい、ワカメ少年、と私は心の中でワカメ少年にエールを送った









ムカつくやつにエールを送るなんて、私ってどれだけ出来た人間なんだろう。









「って言うか、本当お前に吾郎先輩と兄妹なのかよ?」



「そうだけど、何?」








女の子が去った後、少しだけニヤついた顔で聞いてくるワカメ少年





この質問をすることで私を悲しませたい、いや、ムカつくからどうにかして私に何か仕返しがしたいんだろう

だけど、こんな質問今まで何回もされてきたんだ。今さら悲しむようなものでもない










「吾郎先輩は男なのにあんなに美人なのになー。妹がこれとは」




「兄が美人で妹が普通だったら何かいけないきまりなんてこの国にはないと思うけど」









私がそういえば、横の銀髪少年、もとい仁王さんはは少しだけ口端をあげた。こんな所で笑うとはどれだけこの人は悪趣味なんだか

ワカメ少年の方を見れば、少しだけ頬を引きつらせていた。どうやら私の答えに納得していないらしい。

本人の計画では今の台詞で私が傷つくとでも思ったんだろう。正直、今あんた達とお茶していることで








周りの可愛い女の子に睨まれている方がよっぽど私は傷ついてるんだよ。









「お前だって悲しくないのかよ。吾郎先輩はあんなに美人なのに、自分はなんで不細工なんだって」




「あ、赤也!!」







ワカメ少年の言葉に丸井さんが焦ったように声を荒げた

その声にワカメ少年は少しだけハッとしたような顔をして、だけどすぐに先ほどまでの顔にもどした







「・・・で?」






私の声は別にさきほどと全然変わっていない。怒ってもいないし、悲しんでもいない






「自分が吾郎なんかよりよっぽど劣っている事ぐらい子供のときから知ってる」





「な、何言って・・・」




「小さい頃からたくさんの人に言われたし、今さらそんな事言われても悲しくも悔しくも感じないから」










私はそういうと、紅茶を手にとって一口飲んだ。

飲みながらワカメ少年の方を見れば、なんだか捨てられた犬の様な感じで目を伏せていた

これって、周りの子から見たら私が悪者じゃない?あ、うん、やっぱり私の勘違いじゃないみたい








さっきよりこちらを睨む女の子の目が鋭くなってきてるしね!!









「・・・るかったよ」




「は?」




「だから、悪かったって言ってんだよ!!」








思っても見なかった言葉に思わず目がテンになってしまった

だって、ワカメ少年って謝ることなんて知らなそうだし、謝るなんてできなさそうなのに

やっぱり人間見た目で決め付けたら駄目みたいだなぁ・・・・






「赤也が自分から謝るなんて珍しいのぉ」




「本当だぜぃ。明日の練習は雨で休みになること決定だな」





「仁王先輩も丸井先輩もうるさいッスよ!!」






「いや、うん、別に気にしなくて良いから」





「マジで?」










「うん、マジマジ」











「そっか。お前、本当は良い奴だな!!」








先ほどとはうってかわってニコリとワカメ少年は初めて、私に心からの笑みを見せた

その笑みは無邪気でまるで子供。むしろガキと言った方がよくあてはまるようなきもするけど

まぁ、なんだかんだ言いつつこいつもやっぱり美形なんだろう。










この笑顔で、周りの客何人かが確実にこのワカメ少年・・・・いや、切原に落ちた(悲しい事に私への敵意が増したよ!!









「あ、そうだ。お前、アドレスと番号教えてくれよ」



「なんでそうなるんだよ」





「ほぉ、早いツッコミやのぉ」








「あ、それほどでも・・・って、何言わせるんですか!」









仁王さんに思わずノリツッコミしてしまった自分に少なからず悲しさが芽生えた。

それにしても切原は本物の馬鹿なのだろうか。私の携帯のアドレスなんて知って得するわけでもないのに。









むしろ、私が損をしそうな気がするから聞くのは止めてくれ。










「切原、私のアドレスなんて聞いても良いことなんてないから聞くのはやめといたほうが良いと思うよ」




「ほら、早く携帯出せよ。赤外線で送るから」









誰かこいつに人の話を聞くって事を教えやってくれ・・・!!











目の前より若干斜めにいる切原はもう既に携帯を取り出し、既に私の前に突き出していた

どうして美形にはこうも人の話を聞かない奴が多いんだろう。本当、迷惑な話だ

それに何故か丸井さんも携帯を取り出しているっていうのがこれまた可笑しい。なんで、この人まで私のアドレスを聞く気なんですか・・・?








早く教えた方がお前の為だぜぃ」




「丸井さんはどこの悪役なんですか!」




「ククッ、ここでもしも俺がお前さんの頭でも撫ぜたらどうなるか「教えさせて頂きます」











仁王さんの言葉に、急いで携帯を取り出した。私だってまだまだ命が惜しいんだよね

だって、よく考えてみればこんな所(周りの女子がただでさえ睨んでくる場所)で仁王さんに撫ぜられたら

間違いなく私は女子達に血祭りにされてしまうんだよね。うん、悲しいけど、そんな事分かりきってる事なんだよね。









しかし、その事を分かってこんな事言ってくる仁王さんはやっぱり油断なら無い人だ(って言うか、鬼だよ。鬼。








私がいまされて一番困る事を的確に言い当てる。この中では一番厄介な人物だろう。








「・・・はい、これで良いでしょ」





「へへっ、サンキュ!」






「用も無いのにメール送ってたりしないでね」



「赤也には無理な話ぜよ」



「そうだな。赤也には無理な話しだぜぃ」







「先輩達俺のメールなんだと思ってるんスか・・・?」











「「たるんだメール?」」







うわっ




「先輩達、本当酷いっスよ!」





「だけど、事実だろぃ」









そもそも、たるんだメールってどんなメールなんだろう。気になると言えば気になるけど、でもメール送られてくるのは嫌だなぁ・・・

それにしても切原って本当、可愛がられているのか可哀想なのか微妙な扱いだよね。まぁ、本人馬鹿だから気付いていないとは思うけど。




はぁ、とため息をつきたいのを抑えて私はケーキの最後の一口を口に放り込んだ。

口いっぱいに甘い味が広がるのを感じながら、やっと帰ることができるとホッとしていたのもつかの間、新たな声が聞こえてきた。







「む、あれは赤也たちではないのか」




「ふふ、本当だね」



「丸井の付き添いの可能性、100パーセントだな」














あぁ、神様貴方は私の休日をどうするおつもりなんですか?
















  











(2007・10・02)