どんな依頼もお受けします。我らは、氷帝探偵団
って、そんなものこの学校にはありませんよ!!
平凡な日々
〜集え、氷帝探偵団!!・1〜
放課後の練習中、私はテニスコートの中でいつもどおりマネージャーの仕事に努めていた
女子に囲まれたレギュラーのコートを見れば岳人先輩と忍足先輩ペアと宍戸先輩と鳳が試合をしている
見慣れた光景とは言え、やはりあの異様な女子の様子には慣れる気配がみられない
まぁ、あんな女子に慣れるなんて無理な話だと思う
それでもあんな女子達の中、真面目に部活をできるレギュラー陣に少しだけ尊敬の念を抱かずにはいられない
「長太郎、何してんだ!!」
「すみません、宍戸さん」
ふと宍戸先輩の怒鳴り声が聞こえてきたと思ったら鳳が今日、2ケタを越すサーブの失敗をしたことで宍戸先輩に怒られていた
確かに鳳はサーブが苦手で入らないことが多いけれど、ここまで失敗するのは珍しい
考えてみると最近、と言うか昨日から鳳の様子がおかしい
心なしかいつもの様に私にかまってくる事も無くて、元気もないように見える
私としては正直、大人しくてありがたいんだけれど、気持ち悪い気も存分にする
あの鳳をあんな風にさせる出来事が何か「、あぶねぇ!!」
ハッと声に驚いて顔を上げれば、焦ったような跡部部長の顔が遠くに見える
よくココまで声届いたなぁ、と感心しながらあたりを見渡せば、すごい速度でボールが私の方に迫ってきていた
「え、え、ちょ、なんだコレー!!!」
もう目前にまで迫ってきたボール。さすがにこんな顔でもボールが当たるのは避けたいのだけれど、
あまりにも速い速度でこちらにやってくるボールを避けれる気がしない
「!!」
ガンッ!!!
静まりかえるテニスコートの中でたくさんの息をのむ音だけが聞こえてきた
「・・・死ぬかと思った」
私がサッと顔を横にずらしたおかげでボールは私の顔に当たることなく、私の後ろのフェンスに当たった
未だにフェンスに食い込んでいこうとするボールを見ると、どれだけの威力がそのボールにあったのかが分かる
「ごめん、大丈夫?!」
焦った感じで寄ってくるレギュラー陣。それに寄ってくることはしないものの、他の部員達も心配そうにこちらを見つめている
私はとりあえず、ボールを手に取るとやってきた鳳に手渡した
「うん、全然。死ぬかと思った」
「・・・本当ゴメン」
まさかここまで気にしているとは思えなかった
いつもの鳳なら私がこんな事言えば、もっと何か言い返してくるのに、目の前の鳳は怒られた犬の様にシュンとしている
なぜか危ない目にあったのは私のはずなのに、罪悪感が募ってくる
「え、いや、そこまで気にすることはないよ!!こんな顔だし、あたっても痛くないから」
先に言っておくが、さすがに顔にボールが当たったら痛いと感じるし、それを喜べるようなMでもない
あたっても痛くないというのは、私の顔に当たった所で別に変わりがないと言いたかっただけである
「、怪我はねぇのか?」
「あ、はい跡部部長」
「そうか、なら良い。今日の練習は終わりだ!!・・・鳳は外周に行って頭を冷やして来い。今日のお前はテニスに集中してなさすぎだ」
「・・・はい」
鳳は跡部部長の言葉に反抗することなく、テニスコートから出て行った
やっぱり今日の鳳はどこかおかしい
未だ鳳が帰ってこない部室の中では、様子のおかしい鳳のことが話題に上がっている
私だけでなくレギュラー陣、全員が鳳がどこか元気が無いことに気付いていたようで、特に宍戸先輩は気にしているようだった
「俺、長太郎怒りすぎたか・・・・?」
「宍戸先輩、それは絶対ありませんから」
私の言葉にみんながうんうんと頷く。鳳が怒られたぐらいで落ち込むなんて、地球が滅んでも起こる訳がない
「やけど、今日の鳳はどこか変やったわ」
「いつも以上にサーブも入ってなかったぜ。侑士にも何回かあたりそうになったよな!!」
「あはは、それは鳳が狙ってやったんじゃないんですか?」
「え、俺、鳳になんもしてへんで?」
「ほら、存在が不愉快だとか」
「ちょ、ちゃん!!さすがの俺も、そこまで言われたら泣くで?」
「どうぞ、ご勝手に」
「・・・・・」
「ほら、今はそんな事より鳳の事だろう?」
滝先輩が脱線してしまった話を元に戻す
「日吉は何か聞いていないのか?」
跡部部長が日吉に話を振る。日吉はまさか自分にふられるとは思っていなかったのか少し眉を歪ませた
だけど、このメンバーの中で鳳がよく一緒に居るのは宍戸先輩か、日吉か樺地だ
宍戸先輩が知らないというのだから、日吉が聞かれるのは当たり前だろう
「俺は何も聞いてないですよ。昨日の朝から既に様子はおかしかったですがね」
「は何もきいてねぇの?」
「別に何も」
「樺地は?」
「何も、聞いてないです」
これと言った理由は見つからない
他のメンバーに聞いても帰ってくる言葉はすべて"知らない"の4文字だけだ
「なんや、鳳のやつ恋でもしとるんやないか?」
「マジかよ!!」
「向日さん、忍足さんの言うことは信用しない方が良いですよ」
日吉の言葉は今、まさに私が言おうと思っていた言葉だ
なぜ、忍足先輩はすぐ恋愛にもっていこうとするのだろうか。ラブロマンスの見すぎは脳みそに悪影響を与えるか?
「まぁ、日吉。忍足の言うことも、間違っていないかもしれないでしょ?」
「・・・・そういう、滝さんはどう思ってるんですか?」
「俺は間違ってると思うけどね」
さりげなく笑顔で酷いですよ、滝先輩
けれど忍足先輩が言うことは間違っていると思う。あの鳳の顔は何か大切なものを失ったような目だ
まるであの時の私のような・・・・
がちゃ
「長太郎・・・」
「あれ、みなさんまだ残ってたんですか?」
笑顔を浮かべる鳳だけど、その顔はなんだか無理やり作っているように見えた
レギュラー陣もその様子に気付いて、みんな心配そうに彼を見つめる
まぁ、忍足先輩だけがニヤニヤしながら鳳を見ていたんだけど
これがいつもの鳳だったら、忍足先輩の命はもうなくなっていたんじゃないかと思う
だけど、今の彼はそんな忍足先輩にも気付いていないようだった
「長太郎、お前何かあったのか?」
「・・どうしてです、宍戸さん?」
「アーン、お前は分りやすすぎなんだよ」
「鳳、恋の相談なら「みんな、鳳のこと心配してるんだよ?」」
「俺達に言えることなら言えよな!!」
「フン。別に俺には関係ないが、元気が無いお前は気持ち悪いからな」
なんだかんだ言いつつ、日吉も鳳のことを心配しているらしい
いきなりのことでキョトンとしていた鳳が、少し泣きそうな顔をして事情を話し出した
「・・・実は一昨日から、猫が行方不明なんです」
「は、猫?」
「はい。昨日も探してみたんですけど、どこにも居なくて」
「それで元気が無かったのか」
「迷惑はかけない様にと思ってたんですけど、気がついたらいなくなった猫のことを考えていて」
忍足先輩の考えはやっぱり間違っていたらしい
それにしても鳳がここまで猫を大切にしているとは。確かに動物は好きそうだし、動物に好かれそうな顔はしているけど
正直、鳳も大きな犬のような気がしないこともないしね!!
「よし、俺達もさがしてやるから、心配するなよ!!」
わー、男らしいですね、岳人先輩!!
・・・・て、俺達?あれ、何で"俺達"なんですかね?
ここは普通の"俺"の間違いじゃないんですか。うん、すごく嫌な予感がしない事もないんですが
「な、良いだろ?跡部!!」
「あぁ。鳳がこのままじゃ困るからな」
「跡部さん・・・」
私は別に困りませんけど、なんて声に出すことは叶わなかった。
なんだかんだ言いつつ私もこのままの鳳では、正直気持ち悪くて仕方がない
「よし、じゃあ。氷帝探偵団発足だな!!」
「なんで、探偵団なんですか向日さん」
「そっちの方がカッコよいだろ?」
私としては、なんだか「体は子供、頭脳は大人!!」の少年探偵団みたいな感じがするんですけど
「探偵団なんて、超かっこE−!!」
ジロー先輩・・・・今まで寝ていたと思ったら、ちゃんと聞いてたんですね。
こうして、不本意ながら私達、氷帝探偵団は結成された
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(2007・07・08)