平凡な日々


〜お届けモノを届けましょう・小話〜








柳生視点










まるで嵐が去った後のような静けさの中、テニスコートでは幸村くんの声が響いた









何ボサッとしてるの?まさかこのまま練習しないつもりじゃないよね










その声に皆さん一斉にコートの中でそれぞれ練習を始める。もちろん私もその中の1人なんですが

しかし、レギュラー陣は先ほどまでいらしたご兄妹の話で盛り上がっているようでなかなか練習再開という感じではなく








実際練習を再開させたのは平部員の方だけだった











「あの女、マジむかつくッス!!」











隣のコートから切原くんの声が聞こえてきた。その声はあきらかに不満いっぱいと言った声で

丸井くんやジャッカルくんはそんな切原君を呆れた様子で見ているようだった









「いや、あれはお前が悪いだろぃ」







「あぁ。言ってよいことと悪いことがあるだろ」











丸井君とジャッカル君の言うとおり

女性にあのようなことを言うなんて失礼すぎます。
紳士としては許すまじき行為ですよ、切原君









それにしても、








「仁王君は先ほどから楽しそうですね」





「そうかのぉ?」





「えぇ、顔が笑ってますよ」










それも嫌な笑いかたですがね、という言葉は飲み込む










普段、人には無関心な仁王君がここまであの兄妹に興味を持つとは思ってもみなかった

いや、あの兄妹というよりは仁王君はあの妹のさんの方に興味があるように思われるのは私の思い違いではないでしょう












「でも、今まで氷帝にはマネージャーはいなかっただろぃ?」







「あぁ。はつい最近、マネージャーになったばかりだ」












先ほどそれぞれテニスコートで練習し始めたばっかりなのに、レギュラー陣は一つのコートに集まってくる

なんだかんだ言いつつ先ほど練習再開と言った張本人の幸村君も話の輪に入ってきていた











「何、柳生。
なんか文句でもある?






「・・・いえ」








文句なんてないので、そんな素敵な笑顔で微笑んでくるのは止めて下さい。そして、私声に出してませんよね?



それに仁王君も嬉しそうに笑いながらこちらを見るのを止めて欲しい。どれだけ悪趣味なんですかと思いつつも

助けてくれても良いんじゃないかと仁王くん心の中で助けを求めてみたが、










「悪いが、俺も自分の命が惜しいからのぉ」










仁王くんは申し訳なさそうに言ってますが、かえってそれが胡散臭いですよと口にだせたらどんなに楽だろうにと思う

切原君たちは、私達がこんなやりとりをしていることにも気付かず更に兄妹の話で盛り上がっている












「あの氷帝のテニス部のマネージャーがあんな平凡な女につとまるんッスか?」








「赤也、また失礼な事言うな!」







「だってジャッカル先輩も思いません?」







ジャッカル君に疑問をぶつける切原くん

その疑問に答えたのはノートを広げている柳くんだった









「聞いた話によるとは、自分からではなくテニス部から指名されたらしい」







ノートをめくりながら答える柳くん







「マジッスか?!」







そして、柳くんの言葉に驚きの声を上げる切原くん。それ以外にも、丸井君やジャッカル君も驚いている様子で

私もすくなからず驚かずにはいられなかった












まさか、あの跡部くん率いるテニス部が指名でマネージャーを選ぶなんてこと思いもしなかった














「氷帝テニス部からの評判も良い。マネージャーとしては最適の人材だ」










確かに、丁寧な言葉遣い

そして、私達テニス部を見ても何も騒がなかったのには少なからず驚いた





自分で言うのも何だが、立海テニス部は少なからず女性に人気がある

なのに彼女は私達を見ても何一つ変わらなかった、と言うか少し嫌そうな顔をして










切原君を投げるなんて普通の女性では考えられない











「彼女どうにかして立海に来てもらえないかな?」









そう言って微笑む幸村君は、何も出来ないことがなさそうなオーラを放っている

彼なら彼女を立海に連れてこさせることはいとも簡単にやってのけることだと思います








「そうなったら嬉しいのぉ」






「はぁ?!俺はあんなマネージャーお断りッスよ!!」






「・・・・幸村、本気か?」







真田君が今にも冷や汗が流れてきそうな顔で訴える

その姿を一瞥した幸村君はさらに笑みを深めた










「あはは、ただの冗談だよ」










冗談に聞こえないのが、さすが我らが部長幸村精市様です










「そ、それにしても今時にしては礼儀正しい女子だったな」








真田くんがその場の空気に耐え切れなくて、話題を変えようと奮闘している

顔を見てみると、いささか涙がでてきそうなぐらい青ざめていて何ともいえない顔になっていた








「何言ってるんッスか、副部長!!あの女俺を投げたんッスよ?!」








切原くんの一言で一斉に切原くんに注目の目が集まる

その目は一人ひとり厳しいもので、切原くんは固まってしまう








「あれは赤也が悪いぜよ」




「あぁ」




「切原くん、反省したまえ」




「まったくあんな事言うなんて最低だぜぃ」





「あれは投げられても当然だな」






「まったくもってたるんどる!!」









「う・・・」







レギュラー陣は口々に切原くんを攻め立てる。その容赦ない攻撃に切原くんは何もいえない









「赤也、罰として俺と練習しようっか?」








いつもの切原くんなら喜んで、幸村君と打ち合いをしたと思う

けれど、微笑む幸村君の目はとても笑っているように見えなくて、幸村君は怯える切原くんのえりを掴むとズルズルと連れて行った













私達もその様子を見届けてそれぞれの練習に入る









幸村君と切原くんの打ち合っているコートからは絶えず断末魔のような叫び声が聞こえてきたのは言うまでもない

































「・・・クッシュン!!」






家へと帰る電車の中、何やら寒気がしたと思ったらくしゃみがでた

誰からか噂でもされてるのかなって思ったら、少し恐くて自分の頭を振ってそんな考えを吹きとばした










せっかく吾郎から逃げ切って1人で電車に乗れたのだから悪い風に考えるのはやめよう









それにしても立海もあんなに美形ばかりだとは思わなかった

柳生さんと外国人少年はよい人だったけれど、残りの人は分からない










特に銀髪少年と幸村さんには要注意だと本能が言っている










まぁ、もう会うことはないだろうから心配はないと思うけれど

そんな都合よくうまくいったことは悲しいことに私の今まで生きてきた人生の中ではない・・・・










あはは、泣いてもよいですかね?(涙









あぁ、でも立海から駅の間にあったあの店は美味しそうなケーキが並んでたな

今度今日のおつかいのお駄賃である休みの日に行こうと思う













そして一刻も早く今日のことを忘れてしまおう













  












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(2007・06・04)