平凡な日々
〜怪奇ピンクデジカメの謎・小話〜
SIDE.吾郎
俺の妹は果てしなく可愛い。
だけど、そんなくぁいい妹は素直に写真を撮らせてくれるような性格ではない。
だからこそ、今回はりりんちゃんに頼んで運動会の写真を撮ってもらった。
見返りは……まぁ、これは今回は秘密だ。
青学のテニス部の写真を横流ししたことがバレたりした日には俺は魔王に殺される。
まだ他の奴らなら逃げ切れる自信があるがさすがに魔王相手はこの俺でも無理だ。
奴はもはや人間ではない。
さて、話は戻るがそうして手に入れた写真は見事にに発見されてしまい
とても、とっても、とぉぉぉっても残念なことながら海のもずくとなってしまった。
カムバック写真。
カムバック俺のデジカメ。
と嘆いたところでそれらが戻ってくることはない。いや、デジカメは数日すれば返してくれると思う。
なかなか高い値段のするデジカメをあのが捨てるなんてことできるはずがない。
は意外と節約家な上に、庶民派だ。
もちろん俺も庶民派だが、そんながデジカメをすてられるわけがない。
そんなところまでも、可愛いと思ってしまうのは兄の欲目なのか。
きっと、捨てようとゴミ箱に向かって投げようとはするものの
結局投げることなんてできずに溜息を一つ零して、デジカメを俺へと返してくれるだろう。
しかし写真は確かになくなってしまったがデジカメの良いところはデータをパソコンへと保存できることだ。
にはバレてないようだが既に運動会の写真データはパソコンへと移動済み。
ちなみに言うなら海外出張中の両親二人にもメールで送信済み。
びば、仕事の早い俺……ちょっと、今そんなことだけは、って思ったやつ出て来い。
これでも青学テニス部マネージャーな俺。ちゃんと仕事はできる奴なんだ。
本当は写真を引き伸ばして特大パネルを作り、リビングへと張ろうかとも思ったが
これをやったらさすがに俺の命の灯が消え行きそうなのであきらめた。
世間からはMだ、Mだ、と騒がれる俺だがまだ死にたくない(そして俺は決してMではない)
「……おい、吾郎」
「ん、何手塚?」
「その手の中にあるものはなんだ?」
に写真のことがばれた次の日の放課後。
俺はいつもと変わらずマネージャーの仕事を熱心にやっていた。そして今はドリンクを作成中。
さすがに一年生までは手が回らないがレギュラー陣や三年生の奴らくらいまでのならなんとか、一人でも作れる。
それにもう三年間作ってきたもので、ドリンク作りはお手の物だ。
手塚に言われ、俺は作っているものへと視線を戻した。
粉をいれて、水を入れる。
そうして出来上がったドリンクたちだが、どこかおかしいところでもあっただろうか。
「え、ドリンクだけど」
「……その一番端にあるやつだ」
手塚の視線をたどれば、透明の容器に入れられた禍々しい色の飲み物。
「乾からもらったドリンクだけど?」
乾特製乾汁。俺ははっきりいって大嫌いというか、
一度飲んで地獄を見てから自分が飲もうなんて決して思わなくなったが(いや、飲む前からそう思っていたが)
他人がこれを飲んで苦しんでるところを見るのは好き。
だって、面白いし。
にやっと笑みを浮かべる俺に手塚の頬が引きつったような気がした。
「そのドリンクをどうするつもりだ」
「このあとにやる外周のペナルティー」
にっこりとほほ笑み最後のドリンクの蓋を閉めながら言ってのける。
「竜崎先生がこのあと外周走るって言ってたから、前回よりもタイムが落ちた人に飲ませようと思って」
立ち上がりドリンクの容器をつめた、籠を持ち上げる。
世間では儚く麗しい美少女な俺だが、小さき頃から習っていた護身術(これは大いに役に立った)やら
その他もろもろのせいで普通の奴よりは体力も力もあると思う。
持ち上げたかごはそれなりに重さがあるようだが、俺にとってはあまり重たくは感じない。
「ほらさっさと行こうぜ。どうせ俺を呼びに来たんだろ?」
「あ、あぁ。竜崎先生がお前を呼んで来いと言うのでな」
同じジャージを着た手塚の横を歩きながら、「今度の合宿のことかな」とぽそりと呟く。
どうやら手塚も知っていたようで「そうだろうな」と俺の言葉に返してきた。
「じゃ、俺と竜崎先生が話し合ってる中みんなは外周ってことか」
俺の言葉に手塚の視線が、籠の中にある一つだけ違う容器へと移る。
思いっきり眉間にしわをよせ、何やら思案しているようだ。
手塚もさすがにこの乾お手製のドリンクは飲みたくないんだろう。
「油断せずに……いこう」
小さい声で呟かれた言葉だが俺の耳にはしっかりと届いていた。
「やっぱり手塚もこれ飲みたくない?」
「飲まなくて良いならそれにこしたことはない」
「ま、確かに。よく、まぁ、乾の奴もこんなの作るよ」
それも理科室を借り切ってあいつはなにしてるんだろうか。
良い奴だし面白い奴だけど。
それに見た目と一緒ではめをはずさなければ真面目なやつだ……はめをはずしすぎると、危ない奴に見えないこともないが。
俺たちが戻ったときには竜崎先生が部員を集め、竜崎先生が何かを話している様子だった。
どうやら、部員の様子を見る限り今から外周を走らせるらしい。
手塚へと無理やりドリンクを持たせて、
タイムを計る仕事が待っていることを思い出した俺は部室へとストップウォッチを取りに行く。
そして準備万端とばかりにストップウォッチを首にかけ、
既に皆は移動してしまったんだろう正門のほうへと向かった。
「さぁて、前回からのタイムから1分以上下がった奴にはペナルティーがあるからね」
竜崎先生が言えば、あちらこちらから不満の声があがる。
しかし、誰もペナルティーが何なのか知らないのか反応はそれほど酷いものじゃない。
その中でペナルティーがなんなのかを知っている手塚だけは顔色が優れなかった。
「えぇ、そんにゃー」
「そんなこと言うなよ、英二。」
「そうだよ、そっちのほうが盛り上がりそうだしね」
クスッと笑いながら菊丸をなだめる不二の笑顔に俺は背中に冷たいものが走るのを感じた。
あいつは絶対にのむことはないだろう。
そして苦しみながら乾汁を飲む人間を相も変わらない笑顔で笑っていそうだ。
そんな不二が容易に推測で来てしまい、俺は怖くなった。
……やっぱり不二おっかねぇ
竜崎先生の合図に俺はストップウォッチを構える。ピーと笛がなったと同時に皆が走り出した。
外周は距離的には結構あるはずなのにそんなにはじめから飛ばしてしまって大丈夫なんだろうかと不安になってしまう。
だが、俺の心の声なんてもちろん伝わるわけもなくレギュラー陣の奴なんかは体力も化け物なみだから
どうせ俺が不安になってしまったところでスタートと変わらぬスピードで帰ってくるに違いない。
………本当、レギュラー陣ってばおっかねぇ。
「……?」
ゾクッと背筋に冷たいものをかんじ、俺は腕をさすりながら視線をあちらこちらへと向けた。
周囲には竜崎先生しかおらず、急にきょろきょろしだした俺に竜崎先生が不思議そうに声をかけてきたが
俺は「何にもないっすよー」と返す。
でも、確かに感じた視線。
ふと視界の端に映った少女に俺の視線はとまった。
近くの公立中学の制服を着た少女。
どうせ、テニス部の練習でも見に来たんだろうと思ったが、どうやら様子が違う。
どこかで見かけたことがあるような気がしないこともないが、
自分の興味無い人間を覚えておけるほど俺の記憶力は良くない。
興味のない人間を覚えることで記憶力を使うくらいなら
マイメモリーにはもっと良い思い出を記憶しておきたいっていうのが人間として当たり前の感情だろう。
「あいつら、もう帰ってきよったよ」
「あ、本当ですね」
竜崎先生の言葉に俺は視線を学校の目の前の道へと戻す。
向こうから走ってくる影はやっぱり先ほどからまったく衰えた様子を見せない。
ストップウォッチに記された時間は余裕で早すぎるくらいでレギュラー陣に乾汁を飲ませるのは困難なことみたいだ。
ちくしょ、と内心悪態をつきながらも荒井あたりに飲ませても面白いか、と思いなおす
(あいつはあいつでからかい甲斐があるからなぁ)
その様子を想像すればこみあげてくる笑いを抑えた。
この時の俺にはすでに先ほど見かけた少女のことなんて頭からすっかりなくなってしまっていた。
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(2009・03・23)
吾郎視点のお話でしたー!青学での吾郎。一応仕事はしてるみたいです(笑)
今回の「怪奇ピンクデジカメ」は前回と次回までのつなぎの話なので短めです。
多分次回からは平凡シリーズには珍しくシリアスまっしぐらになりそうな予感です><そして話的にも長くなりそうな予感(ガタブル)
とはいっても、あいだあいだに小ネタ的などうしようもないギャグをはさんでいくと思います←(シリアス書けない人)
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