平凡な日々

〜怪奇ピンクデジカメの謎・1〜






運動会の翌日。私は朝から惰眠をむさぼっていた。

部活もない、これといった用事もない私はベッドの上でゴロゴロしている。

カーテンの隙間からは明るい日差しがはいってきているが、

昨日あれほど頑張ったんだから別に今日くらいゆっくりしていても誰からも文句は言われないだろう。



吾朗は私とは違いいつものように学校があるが、

今日はパンでも買っていってもらうことにしたので弁当をつくる必要もない。




時計をみればすでにいつもなら学校が始まっている時間となっていた。



そろそろ起きようと体を起してパジャマから私服に着替える。

静かな家の中は、もう慣れてしまった光景だ。






兄妹二人で暮らし始めてもうじき1年近くになろうとしていた。





両親の海外出張が決まったとき私も吾朗も本来なら両親と共に海外へと行くはずだった。

そりゃ、中学生だけを家に残して海外に行くなんて両親も心配だったんだろう。



でも、中学に入学したばかりの私はとてもじゃないが海外へ行くなんて考えられなかった。



ウキウキと出張の準備をする両親にさすがに残りたいとはなかなか言い出しつらく、

しょうがないかというあきらめの気持ちが湧き上がる。

だけど、それなにも関わらず今こうして私が日本で生活できているのは吾朗のおかげがあった。






両親に言い出せない私にかわって吾朗が俺は日本に残るよ、とさらりと言い切った。

なおかつ、俺一人だけじゃ寂しいからもちろんもね、と両親に告げた。



昔から両親にお願いの類をすることがなかった吾朗のお願い。



両親も幼い(というほど幼かったわけではないけど)兄妹を二人っきりに家に残すのは大いに気がひけたようだけど

吾朗のお願いをむげに扱うことなく、結果私と吾朗は日本に残ることとなった。






あの時、多分吾朗は私のために両親にああいってくれたんだろう。






誰もいない家のなか、ゆっくりと階段を下りていく。


あくびをひとつ噛み殺して、ふとテーブルの上に視線をやればそこにはデジカメが置かれていた。

それもとても見覚えのあるかたち。昨日、りりんが持っていたデジカメとまったく同じ形をしている。




「…いや、まさかねぇ」




ひしひしといやな感じがするのは私の勘違いだろうか……しかし、とてもじゃないけど勘違いとは思えない。

まさかりりんと吾朗がおそろいのデジカメを持っているとか偶然にありえるものとは思えない。


そもそもよく考えればりりんがピンク色なんてかわいらしい色のものを買うわけがない。






確かにりりんの見た目は清純派というか、それはそれは可愛らしい少女だ。





だけど中身はどちらかといえば清純、には程遠い。



付き合いの浅い人はりりんにはピンク色がよく似合うと思うかもしれないが、

私はピンク色よりも黒色のほうがりりんにはよく似合うと思う。



というか、本人も黒や白色を好んでみにつけている。




昨日りりんが持っていたデジカメは本当に彼女のものだったのか?


りりんがもっていたデジカメを見たとき感じた違和感。

あの時私はりりんの持っていたデジカメをどこかで見たことがあるような気がしていた。




「あっ!」




思えば、運動会の前日。

吾朗がウキウキしながら何かを拭いていたが今思えば、

それはりりんが持っていた今私の目の前にあるデジカメとまったく同じものだ。



(くそっ、やられた!)


思いっきり舌打ちをひとつ零して、私はたった今降りてきた階段を駆け上がる。

静かな家の中ではその音がよく響いた。そして思いっきり吾朗の部屋のドアを開ける。

人の部屋に勝手に入るのはいけないことだと思うが確かめたいことがある。




というか別に吾朗も男なのでそういう関係の本があったとしても

私は気にしないでみなかったことにしてあげる優しさくらいはもっている。

それにいつも部屋に掃除機をかけたりして、部屋には入っているし

吾朗は私が勝手に部屋に入ろうとも気にしたそぶりを今まで一回も見せたことがない。




大きな音をたててドアがあいて、吾朗の部屋へと足をふみいれた。

片付けられたその部屋の机の上に散りばめられた写真に私の視線は自然と向けられる。



「やっぱり…!」




私が思ったとおりに吾朗の机の上には昨日撮られたと思われる私の写真があった。

それも一番上にあるのは私の引きつった笑顔の写真。



これはきっとりりんが写真の試し撮りなんて言った時の写真に間違いない。



思わずこの野郎!と声を張り上げたくなったがなんとか落着きを取り戻した私は机の上にあった写真を没収し、

私の部屋の片隅に封筒にいれて置いておいた。

かえってきて吾朗に何か言われるかもしれないが、何か言いたいのは私のほうだ。




肖像権でうったえるぞ、この野郎。

というか実の兄じゃなかったら確実に訴えている。





わざわざりりんにまで頼み込んで何をしているんだろう。

それもりりん相手に無条件で写真を撮ることを頼めたとは思えない。





りりんはギブアンドテイクを地で行く女、だ。確実に吾朗は何かを要求されていることだろう。



「はぁ」


溜息がこぼれるのをとめられない。あぁ、もう本当吾朗の馬鹿野郎。

あんな写真撮りやがってと心の中で吾朗に対する悪態をついていく。





さっきまで一年前のことを思い出してせっかく吾朗を見直して上がっていた吾朗の株は急降下だ。



(とりあえず……買い物行こう)



吾朗の夕食にだけ毒でも持ってやろうか、

なんて考えながら私はまだ日差しの強い日中の中外に飛び出した。

















いつものごとく近くのスーパーで買い物をすませる。

安く食材を手に入れることができて既に先ほどのことは記憶になくホクホクとした気分で家へと帰っていた。


しかしながら、どうやら神様はとことん私に対してSっ気を発動させたいらしく、

ポンっと肩を叩かれ私の気分は一気に下がった。




もちろんその態度を包み隠さずに目の前の人物へと向ける。

思いっきりいやな顔を向けている私に対して目の前の人物はすごくそれはそれは厭味ったらしいくらいに笑顔だ。





さらにそれが私の癇に障り眉間の皺が増えてしまったような気がする。




「こんなところで会えるなんて運命やな
「おっと、すみません用事を思い出しました。それではまた明日学校で。」





本当なら明日学校で会いたくないのはやまやまなのだが、

学校があれば部活もあり、部活があればこの人と会ってしまうことはさけられたことではないのでしょうがない。



笑顔でそう告げ踵を返して歩き出そうとする私に対して、

「え、ちょ、ちゃんッ?!」とあせったような声を出して忍足先輩が私の腕をつかむ。


えぇーい、さっさとはなせ!私は貴方と休みの日まで会いたくないんですよ!と、気持ちをこめて

つかまれた腕をぶんぶんと動かすが忍足先輩の腕は離れることはない。




「ここで会ったが100年目!絶対離さん!」



「ちょっと、離してくださいよ!

ここで会ったが100年目なんて言われてもまだ忍足先輩と知り合って半年も経ってませんから!」




ちゃんと俺のことや!前世であっとる!




うわぁぁ、今の言葉鳥肌なんですけど?!気持ち悪いこと言わないでくださいよ!!





忍足先輩の気持ち悪い言葉に私の腕に鳥肌がたつ。

それも今日は寒い日ではなく、むしろ暖かい気候であるにもかかわらず一気に寒気が私を襲った。



この人こわい!もしかしたら本気で忍足先輩に恐怖を感じた瞬間かもしれない。



確かに忍足先輩はラブロマンスの映画を見るのが趣味らしく寒い台詞を今まで何回か言われたことがあるが

ここまで寒い台詞は初めてだ。それも恐怖を感じるほどの台詞は。


前世のことまで引っ張り出してくるなんておかしすぎるだろう。





というか、前世から忍足先輩とのつながりがあるなんて


そんな恐ろしい輪廻お断りしたい限りである。






道の真ん中で言い合う私と忍足先輩に周りの視線が集まっていることに気づいたのは

言い合いを始めてほんの少し経ってからで、私は周りのお姉さまたちから思いっきり睨まれていた。



怖い!なんてものじゃない、超怖っ!!だ。



忍足先輩はこんなのでも見た目は身長も高く、

丸眼鏡では隠しきれないかっこ良さをおねえさまたちは気づいているんだろう。





どちらかといえば絡まれているのは私のほうなのに、

「お前そんなカッコ良い子につきまっとってんじゃねぇよ」な視線を向けられている。





世の中は常に美形に優しすぎる。





どうやって見たらそんな風に見えるのか教えてもらいたいのはやまやまだけど、

今はこの視線から逃げるほうが先だろう。

しかし忍足先輩は私の腕をはなすつもりはないらしく腕の力が弱まることがない。



ここは私が妥協するしかないらしい。


先輩なら後輩が困っていることに気づいてほしいとは思うが

そんなものこの先輩を含めテニス部の先輩に求めるのが間違っているだろう。




中には気づいてくれる先輩もいるにはいるが、

困っていることに気付きながらも面白がって助けてくれないような先輩もいる


(名はあえて伏せておくがわかってくれる人にはわかってもらえると思う)





「はいはい、わかりました。忍足先輩が言いたいことはわかりましたから

とりあえずここは移動しましょうね。ほらほら、行きますよ」




そう言って私は忍足先輩をひきつれて歩き出す。これではどちらが先輩なのかわかったものじゃない。


そんなことを考えながら忍足先輩の前を歩いていたけれど、

少し忍足先輩が気になり横目で後ろの忍足先輩をうかがった。


そして思わず言葉を失う。




(この人、笑ってやがる…!)




にやにやといやな笑みを浮かべている忍足先輩。どうやら、こうなることを狙っていたらしい。

なんて、性格の悪い!

だけど、まだ人の目があるところで忍足先輩に突っかかる度胸はなく私は泣く泣く近くの公園のほうへと歩を進めた。





「あかん、ちゃん面白すぎやろ」




ボソッと呟かれた言葉。それは私の耳に聞こえることはなく、

忍足先輩は満足そうに微笑んでいることにも私が気付くことはなかった。





 









(2009・02・16)

忍足があまりにもうざったいキャラになってしまう理由を誰か教えてください…OTL

原作の忍足はそりゃもうかっこよいのに…!




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