街頭の明かりも殆どあてにならないような暗い夜道を1人で足早に帰る。今日も部活で遅くなってしまい、時計はもう8時を過ぎた位だった。(本当にあの部活はふざけんなよ・・・!いつか絶対辞めてやるんだからな!)人通りはほとんどなく、たまに会社帰りと思われるサラリーマンやガラの悪い人を見かけるだけだ。
自分だけの足音しか聞こえてこない、道で私はふとこの前のトンファー男に殴られそうになったことを思い出してしまった。恐い。もうあんな目にあいたくない。そう思うと、それまで以上に私の足の動きは早まった。カツン、コツンと足音が響く。そろそろこの前、あの学ラン男と出会った公園の近くをとおる。暗い公園の中からは物音1つ聞こえてこない。葉の落ちる音も、野良犬がほえる声も
それがまた私の中で恐怖を募らせる原因となってしまった
公園の方に視線がいっていたのを、再び前に戻すと遠目から誰か分からないが人が立っていることが分かった。私はそれでも足を止めずに動かす。少しずつ私が足を一歩、また一歩と動かすたびに、近付いてくるとだんだんその人がはっきりと見えてきた。はっきりとそれが誰か分かった瞬間に、私は咄嗟に動いていた足をとめた。私は、目の前でうっすらと口端をつり上げて笑う学ランを着た少年を見すえる(とても、嫌な笑いかただ)少しだけ、背筋がゾッとなる。
「やぁ。こんばんわ」
「・・・・(ひぃぃぃぃぃぃ!!!)」
目の前にいる男はこの前のトンファー男。トンファー男はこの前と同じように学ランを肩からかけていた。唯一、この前と違うところをあげるとするならばトンファーをもっていない所ぐらいだ。なぜ、この男は私の目の前にいるんだ。と思ってはいても、答えが見つからない。この前のようになる前に逃げなければいけないと頭の隅では分かっている。だが、私の足はとても動いてくれそうにない。
「この前はまさか鞄で防がれるとは思ってなかったよ」
だって防がないとそのまま殴られてしまうじゃないですか!!なんてツッコミが声にならずに、私の心の中だけで響いた。
私の目の前で淡々と話をしていくトンファー男を私はジッと睨みつけるかのようにうかがう。いつ、殴りにかかるか分からない。そんな男の前で隙なんて見せられるはずがない。なんだよ、この前良い事があったと思ったらまたこんな展開かよ!!
「面白いね、君」
口端がまたつり上がるが、先ほどとは違ってその鋭い瞳は笑ってはいなかった。その顔に、私はサァッと自分の顔が青ざめるのが分かる。湧き上がる 恐 怖 と言う感情。私が黙ったままその男をみれば、トンファー男の方からからチャキッと金属音が聞こえた。いや、トンファー男の方からと言うのは少し語弊があるかもしれない。この場に似つかわしくない金属の音は彼の手からしたのだ。その音の発生源を見てみれば、彼の手には先ほどまではなかったトンファーが握られていた(えぇぇ、いつの間にだしたんですか?!)
うん、これどういうことなんでしょう
まぁ、聞かなくても分かってる。これからこの目の前にいる男がたった今自らの手に持ったトンファーで私に殴りかかってくると言う事は。
あはは、これはもう笑うしかない。私はとことん不幸の星に生まれたみたいだ。私は何もしていないのに、何故この男から目をつけられなければならないのか、なんて疑問目の前の男に聞く事は敵わずに、トンファー男が独特の金属音を鳴らしてトンファーを構える。そのトンファーを持つ姿があまりに、絵になっていて少しだけ私は見惚れてしまった。(あぁ、そうだよ!私は美人さんの美形には弱いんだよ!!)
「行くよ」
「(行くよって言われて私はどうすればよいんですか?!)」
だけど、気付いた時は彼の足は地を蹴っていて、すごい速さで自分の目の前に迫っていることが分かった。彼のほうから、風が私の方へと流れてくるのがわかる。咄嗟に、この前と同じように鞄を盾にしようと考えるが、できることならこの前、鞄を買い換えたばかりだから鞄は使いたくない。鞄はやっぱり高かったから・・・!!
どうやら、今の私は体で防ぐしか他に方法はないらしい。大丈夫、私は体は丈夫。と自分にそう言い聞かせて来るべき衝撃に体を構える。(こんな時こそ、護身術だよね!)しかし、いつまでたっても私にその衝撃が来ることはなかった。
「えっ?」
いつの間にか、目の前には私に殴りかかろうとするトンファー男はいなくて、かわりにこの前沢田と一緒にいたダイナマイト男の背中が見えた。ダイナマイト男は、私がしようと思っていたように自分の腕でトンファーを受け止めている。
グッジョブ、ダイナマイト男!!
私に当たるはずのトンファーを止めているダイナマイト男に心の中でお礼を言う。すると、急に誰かに腕を後ろへと引っぱられいつのまにかズルズルと引きずられていた。それが山本だったのに気付いたのはダイナマイト男とトンファー男から少し離れたところに着いた時だった。目の前には、赤ん坊・・・たしかリボーンくんって名前だったと思う。それと沢田と山本が、いた。私の腕は既に山本の手から解放されていた。
「大丈夫?!さん?!」
少しだけ青ざめた顔で沢田が聞いてきた。その顔は本当に切羽詰っていて、私のことを本当に心配してくれたんだと言う事が分かった。やっぱり君はいい奴だな・・・!!と感動してからハッと我に戻る。さて、感動はさておき、何故君たちがここにいるんだ。その疑問を口にしようとした瞬間、私が聞くよりも早くにリボーンくんが口を開いた。未だ戦っているダイナマイト男を横目に。
「、ちゃおっス」
「あ、こんばんわ・・・・じゃなくって」
まるでこの前の出会いの日みたいなやりとりだ、と思っても口に出すことはしない。その代わり青い顔をしたままの沢田が口を開いた。
「ど、どうして、ヒバリさんに絡まれてるの?」
雲雀と言われ、思考が一旦止まる。私にとって雲雀と言う名前は初めて聞く名前だった。しかし、よくよく考えれば(あぁ、もしかしてトンファー男のことですか)なんで絡まれてるってそんなの、むしろ私が聞きたいぐらいだ。私にだって、何故今日と言う日に自分がトンファー男に殴りかかられているのか知りたいのだから。
「はは、ヒバリに目つけられるなんてもついてないな!!」
爽やかな笑顔を浮かべながら言うセリフじゃねぇよ、山本!!自分でもつくづくついてないって泣きそうな位なんだから。それに他人に言われると、何だか自分で思っている以上にムカついてくる。
ふと気付けば、目の前の2人の視線が先ほどまで自分がいたところに注がれていた。そういえば、今まで忘れていたけど(ごめん、ダイナマイト男)あそこではダイナマイト男が私の代わりにトンファー男と戦っているはずだ。私もそこに視線をうつした。その瞬間に、私は目をハッとして見開く。
爆音とともにダイナマイト男がぶっ飛ばされていた
「あ、獄寺くん!!」
「危ない!!」
傷だらけのダイナマイト男に比べて、傷1つないトンファー男これは明らかにダイナマイト男不利のはずだ。私は、いつの間にか自分でも気付かないうちに走り出していた。
後ろで沢田と山本が私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がするけれど、私はそれにもかまわずに足をとめることはなかった。だって、あのダイナマイト男が傷だらけの原因は私にあるわけで、もしかしたら私があんな姿になっていたかもしれないと思ったらいても立っても居られなくなっていた。(人が傷つくのは嫌いだ)
傷だらけのダイナマイト男は座り込んでいて、相手を睨みつけている。そんな彼に少しずつ近付いていくトンファー男。たぶん次の攻撃で確実にダイナマイト男を沈めるつもりだと言うのがなんとなく分かる。サッと振り上げたトンファーが振り下ろされる。
「っ?!」
トンファーを掴んだ手がどんどん熱を帯びていくようにすごく痛い。てか、痛すぎてマジで泣きそうだ。ダイナマイト男に振り下ろされたトンファーを素手で掴むなんて、自分でも無謀なことをしたと思うけど、それでもでも体が勝手に動いていた。それに、熱を帯びる手に私は自分がこうしたことに後悔はしていなかった。自分が傷つくより、他の人が傷つくのを見るほうが嫌だ
「ワオ!!やっぱり君は面白いね」
「(こっちは全然面白くねぇよ!!)」
本当に面白いと思っているのか、トンファー男の顔が少しだけ笑みを深める。こんな時にまで笑うなんてどんな神経をしているんだ、と心底思う。これはもう、これ諦めて殴られるしかないのか。だけど私も一応女の子なんで顔は止めてください。いや、マジで。
「ヒバリ、ちゃおっス」
「あぁ、赤ん坊じゃないか」
「え・・・(なに、この人たち知り合い?)」
私が掴んでいたトンファーの力は緩められ、私はトンファーから手を離しトンファー男から少しだけ距離をとった。もちろんダイナマイト男の前にいることにいぜんとして変わりはない。私は自分の目の前にいるトンファー男とリボーンくんの会話に耳をすませる(後ろでダイナマイト男が何か言っているような気がしたけど、気にはしない)
「こいつらはこれから強くなるぞ。今殺すのはもったいないと思わないか?」
おい、リボーン(呼び捨て決定)何言ってんだよ!!今、って言うことは次期に殺されるってことじゃないんですか?!と、私は必死に何かを言おうとするも、結局私は何一つ言えずにただその2人を見た。
リボーンの言葉にトンファー男はしばらく考え込むと「それもそうかもしれない」と呟き、急に踵を返して去っていった。踵を返す前にこちらを見て、ニヤリと笑ったのは見なかったことにしようと思う。多分だけど、今の言葉に納得したのだろう。これはもしかしなくても、私の死亡は決定らしい。とりあえず今が助かったから良しとしようと自分に言い聞かせるが、そんな事出来るわけがない。
「(どこに自分の死亡が決定して喜べる奴がいるんだよ・・・・!!)」
ハァとこれからのことを考えて幾分、頭の痛みを覚えた私を他所に、いつの間にか私の後ろにいたダイナマイト男を沢田と山本が支えていた。ダイナマイト男には見るからに痛々しい傷が多くある。これもすべて私を助けた為についた傷だ。そう思うと、私の心は痛んだ。(これなら私が怪我をした方が良かったとも思えた)
「ありがとう・・・・ダイナマイト男」
「別に・・・・・って、テメー、ダイナマイト男って俺のことかよ!!」
「あ、うん」
「果てろ」
思ったよりも多くの傷のわりには元気らしいダイナマイト男が懐からダイナマイトを出そうとしたのを沢田が必死で止める。私も正直、本当にダイナマイト投げられるのではないかと驚いた。(ダイナマイトって色々、駄目なんじゃないの?!こんな普通(?)の中学生が持っていて良いの?)心の中で必死に止めてくれた沢田に、礼を言う。ありがとう、沢田。しかし、こんなダイナマイトなんて本当にまるでマフィアみたいじゃないか。いや、今はそんな事気にする事はやめよう。私は頭を振り、考えるのをやめた。
「だって、私君の名前聞いてないし」
「・・・・獄寺隼人」
あきらかに言いたくないってオーラ出されながら言われるとすごくムカつくものである。まぁ、今回は助けてもらったことだし何も言わないこととするが。こんな傷だらけになってまで、助けてもらったのにそんな人を殴るなんて私には出来ない。そりゃ、今少しこの男を殴りたくてたまらない気持ちもないことにはないけれど、さすがに出来るわけがないのだ。「ありがとう、獄寺」と言う台詞は、言葉にならずにきえた。
「獄寺のこの傷はのせいだな」
今の私には思っていたよりも突き刺さる言葉に、私の顔は少しだけ歪む。可愛い顔して人の心えぐるようなこと言わないで欲しい。しかし、それは紛れもない事実だ。この獄寺の傷はすべて私がうけるはずだった傷で、傷を受けるはずだった私は獄寺のおかげで傷ひとつない無傷。
「おい、リボーン!!」
「リボーンさん、この女は関係ないっすよ!!」
しかし、それに反するかのように沢田と獄寺が声を上げる。獄寺、お前良いやつだなと、ちょっと涙でそうになった。銀髪でいかにも不良と言う見た目ときつい言動とは違い、獄寺は優しい(ふと、そう思った)人は見かけによらないな。まぁ、それは山本が良い例だとは思うけれど(爽やかな顔して本当は鬼畜だぜ!)
「お前せいでついた傷だ。責任ぐらい取れ」
「・・・・わかった」
と、声に出してから気付く。リボーンに責任を取るのはおかしくないか?私を助けてくれたのは、獄寺で、本来なら獄寺に私は責任をとらねばならないはずなのだ。だから、リボーンにこんな事言われて「わかった」と頷くのは可笑しい事なのではないだろうか(そうだ、おかしいに決まっている)だけど、私は何も言えずグッと息をのみ、リボーンが次に発する言葉をまった。リボーンがニヤリと、笑みをふかめる。あぁ、なんて嫌な笑いなんだろう。
「じゃあ、お前は今日からボンゴレファミリーだ」
「・・・・・はい、ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
「もう決定だからな」
先日の事を思い出す。ボンゴレファミリー、それはすなわちマフィアだ。いや、だけどマフィアなんて実際にあるのかと、言う疑問が私の頭をよぎる。だけど、そんな疑問、獄寺が持っているダイナマイトとか、目の前にいる赤ん坊とか、私の生活では絶対にありえないばかりのことだらけのことを目の前にすれば納得せざるを得ない事だった。どうやら、本日私平凡少女ことはボンゴレファミリーの仲間となってしまいましたらしい。(マフィアなんて信じたくはないけれど、信じてしまうのは目の前に信じるをえない現実があるから)
「ごめんね、さん。俺には何も出来ないんだ・・・・」
申し訳なさそうな顔で言う、沢田。その顔はなんだか人生諦めましたって顔で、どうやら沢田も被害者と言えば被害者にあたる人間なのだろうと言う事がわかった。彼のような人物がマフィアのボスなんて、私には思えない。彼の顔を見れば、色々訳がありそうなんだと思ったけれど、この状態で聞く事はできなかった。こんど、聞く機会があれば聞く事にしよう。
「よろしくな、!!」
「フン。俺は別にお前と仲良くするつもりはないからな」
明るい笑顔が眩しすぎる山本と、やっぱりムカつく獄寺。(テメーぶっ飛ばすぞ?)やっぱりさっきの良い奴発言は撤回させてもらう事にする。こいつは今日から私の敵だ。確かに今日のことは感謝していることばかりだけど、コイツの一つ一つの言動は私の頭にくるものばかりだし、私を一人の個人として認めていないような態度にも腹がくる。私を認めてくれないような奴を、私は認ることはしない。キッと、少しだけ獄寺を睨み、リボーンに視線をうつせば、リボーンが口を開いた。
「ちなみにヒバリもボンゴレファミリーに入れるつもりだからな」
「(・・・雲雀?)」
雲雀=トンファー男
ごめんね、お母さん、お父さん。私の命は残り短いかもしれません。と夜の月に私は嘆いた。
最悪の出会い
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(2007・04・22)
加筆修正
(2007・10・14)
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