昨日は美形2人と沢田から追われるという、一部の女子なら喜ぶだろうが私にとっては地獄なようなことがあって大変な目にあったが、良い人にも会えた。(あれは、ある意味運命の出会いだと思うよ!)名前は分からないけど久しぶりに美形なのにまともな人に会えたような気がする。むしろ、まともな人に久々に会った様な気がしないこともない。
まぁ、ひさしぶりに美形なのにまともな人に会ったなんて世の中の美形に失礼にあたるような言葉だけど、私の知っている限り美形には変人が多いと思う。特にこの前のトンファー男(第1話参照)やダイナマイト男に山本なんて、美形の癖に最悪だった。もう、本当何あれって感じだ。
もしかして私の周りだけ・・・・?
いや、そんな切ないことを考えるのはやめよう。そんな私の周りだけだなんて、そんな酷い事あってたまるかって言うものだし、天は人に二物を与えないからこそ、あんな性格の奴らがいるんだろう。美形で性格も良いなんて、性格が良くて不細工な男達がかわいそうだ。一つだけしか、とりえのない人たちだって必死で生きていると思うのに。
「今日の晩御飯は肉じゃがにしようっと」
昨日のことを考えるのに疲れた私はスーパーでの買い物に集中した。大体必要なものを買ってスーパーから出ようとしたら目の前に黒曜中の制服を着た少年が2人。
昨日のためか黒曜生は実は不良なんかじゃないのではないかと思い、少しだけ興味を持ち、その2人を伺えば片方の少年は昨日、私をあの恐怖の鬼ごっこから助けてくれた少年のようだった。昨日の事を思い出し、声をかけるべきなのかと迷っていると、もう片方の少年が急に大きな声を出して叫んだ。その声に、スーパーにいた主婦の視線がその少年にあつまる。
「もう、柿ピーなんかしらないもんれ!!」
そう言うと少年は走りだしていた。私は思わずその少年を目で追う。ガッシャーン!!大きな音がその場に響いたと思えば、走り出した少年は思いっきり缶詰を積んであった台にぶつかっていた。しかし、少年は崩れた缶詰を無視してスーパーを出て行く。私はただそれを見ているだけしかできなかった。
おいおい、拾っていこうよ!!倒したものは直しましょうって学校で習わなかったのか?!と思いつつ、残された昨日の男の子のほうに視線をうつす。しばらくはその男の子もただ呆然と、先ほどの少年が出て行った出口を見ているだけだったけどはぁ、とため息を一つ吐きながらその場に散らばった缶詰を集め始めた。多くの人たちはみんな見て見ぬふりで手伝うようなことはしようとしない。
「(あぁ、人は時として冷たい)」
さすがに私も昨日の恩を忘れるほど性格は腐ってない。私も彼と同様に息をハァと吐き出すと、散らばった缶詰の近くへと寄る。しゃがみこんで缶詰を拾う手伝いを始めた私に、昨日の少年は一瞬私の顔を見たけど、すぐに顔を戻してちらばった缶詰を拾う事を続けた。その間、私と彼との間に会話なんてものは一切やりとりをされなかった。
最後の一個まで拾い終わった後、私はそのままスーパーを出ようとする。別に私は彼からお礼を言われたかったわけでもないし、ただただ昨日の恩を返そうと思っただけ(まるでつるの恩返しだ!)これ以降、この少年とは関わる事はないだろうと思っていたのに、私の予想に反して少年に声をかけられた。
「・・・ありがと」
ボソリとその男の子がつむいだ言葉に、私は少しだけ目を見開く。やっぱりこの人は普通の人だ。いや、もちろん顔はすごく美形なんだけど中身が普通によい人。今までこんな人に会ったことあるっけと、よくよく考えてみる。いやいや、ないな。私の人生でこんな普通に良い人に会った事なんて一回もありませんよ、隊長!!(だから、隊長って一体誰なんだよ、自分)そう考えると、なんだか少しだけ悲しくなってきてしまった。
「いえ、昨日助けてもらいましたし私のほうこそありがとうございました」
私も深々と頭を下げて言う。昨日助けてもらったはなかったら私の日常は今まで以上に平穏がなくなっていただろう(本気でヤヴァイと思ったよ!)
「「はぁ」」
私と目の前の少年の二人のため息が重なる。その瞬間、私は確信した。あぁ、この人も苦労してるんだな、と。少年もそれを感じ取ったのかは分からないけど、私は自然とその少年に話しかけていた。
あれだよ、ほら類は友を呼ぶって奴?なんだか、目の前にいる少年に私は自分と同じものを感じたのだ。だから、自然と話しかけていたんだとおもう。普段なら自分から話しかけるなんてことするわけがないのに。(自分で自分がおかしいと感じる)
「良かったら、近くの公園でお話しません?」
私が誘うと少年は少し考える仕草を見せた後、コクンと頷いた。
子供の声もしなくなった公園のベンチに2人で座る。少年は黒曜中の柿本千種くんと言うらしい。さっきのは友達(?)らしく少し言い合いになってスーパーを飛び出しっていったんだと面倒くさそうに話してくれた。私もここ最近自分の身に起こったことを簡単に説明した。まぁ、さすがにマフィアなんて単語いえる訳がないから、途中省いたりしたところも多々あるんだけど。それでも、柿本くんは真剣に私の話を聞いているように見えた。(なんて良い人なんだろう!)
「お互い大変だね・・・」
「・・・うん」
その後も、柿本くんと愚痴大会と言うか、二人で語り合った。柿本くんには友達というか仲間(と言った方がしっくりする関係らしい)が2人いるらしく、その2人と一緒に今は生活しているらしい。中学生が3人で暮らしているなんて、と思ったりもしたけれど自分もよくよく考えれば両親は海外出張中だから一つ上の兄と2人暮らしをしているようなものであった。そして、家事全般は柿本くんが担当していて(まったく私と一緒だね)、ついでに他の2人はどこか常識がないと言うか変らしい。
(変ということは美形なのかなって思ったのはここだけの秘密だ)
一つだけ気になったのは、柿本くんがその友達の1人のことを"骸様"なんて言うことだ。その言葉を聞いた瞬間私は心から驚いた。友達に様付けなんて、珍しい。と言うか、実際そんな人今まで会った事がない。いや、柿本くんは普通の人だ。別にそういう趣味があるって訳じゃない(そういう趣味ってどんな趣味だよ!)自分にそう言い聞かせながら、柿本くんの話を聞いた。柿本くんも私の話をちゃんと聞いてくれているようで、でも本気で哀れな目で見られているときは泣きたくなった。
いつの間にか街灯がつきだして、公園は赤から黒へと変わっていきつつあった。私たちは帰ろうと立ち上がって、携帯のアドレスを交換した。これから愚痴を話せる人が増えたと思ったら嬉しくなった。
「じゃあ、今日は楽しかったよ。また話そうね」
久しぶりに平凡な日常をおくることができた。そうだ、これこそ私の求めていたものだよ・・・!!ありがとう、柿本くん。君のおかげで日常を取り戻せそうだと心の中でお礼を告げる。さすがに声に出してしまえば、奇人か変人に見られてしまうかもしれないので心の中で呟く。せっかく出来た良い友達に、そんな風に見られるのは嫌だし、もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。それは絶対に避けなければならないことだ。
「さよなら、柿本くん」
一言だけの別れの挨拶をすませて、柿本くんに背中を向けて歩き出そうとした。その瞬間に後ろから聞こえてくる柿本くんの低い、聞きやすい声に思わず足がとまる。
「・・・千種で良いから」
聞こえてきた声に振り返れば、もう柿本くんは私に背を向けて歩き出していた。私はその背中を、柿本くん、いや、千種くんが公園を出て行くまで見送っていた。今日は仲間に会えた(仲間だなんて千種くんに失礼かもしれないけど)素敵な日だったし、少し美形に対する考え方が変わったかもしれない。
そういえば千種くんを見た時、類は友を呼ぶって思ったけど、それは昨日あった少年たちにも言えることなのだろうか。そうだとしたら、良い人というか苦労人だと思った沢田はもしかしたら、変人の方に分類されるのではないかと思えてきた。
喜びの出会い
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(2007・04・17)
千種好きです。
加筆修正
(2007・10・14)
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