ツナ以外の6人の守護者たち。その中に自分が入っていないことに心の中で歓喜しているが、よくよく考えれば自分がそんなものになるわけがないということは分かりきったことだった。


私は闘う術を持っていない。


獄寺や山本、そしてツナのように誰かを守る力をもってもいないのに、守護者なんかになれるわけがない。
確かに自分が守護者でないことを喜んだのは確かだが、少しだけさびしいと感じたのは事実で、だけど、私はその思いを認めることはできなかった。




しかし、山本と獄寺にリングが渡されたのは分かったけれど他の四つは誰に渡されたんだろうか?そんな疑問をツナの動揺ぶりを見ていると口にすることが出来ずにただ私は見守っていた。




「なぁ?!オレ以外にも指輪配られたの〜?!」

「そうだぞボンゴレの伝統だからな」





勝手に配られたとは何とも理不尽な伝統である。それもボス本人が認めてもいないのに配られるとは少々、いや実際にはかなりだけどツナがあわれに思えて仕方がない。思わずツナに同情じみた視線を送りたくなってしまう。




「ボンゴレは初代ボンゴレファミリーの中核だった7人がボンゴレファミリーである証として構成に残したものなんだ。そしてファミリーは代々必ず7人の中心メンバーが7つのリングを受け継ぐ掟なんだ」


「それで後継者の証とかってー?!」




先ほどから叫んでばかりのツナに「10代目!!」と黙っていた獄寺が声をかけた。獄寺に視線をやれば、その表情はどこか光悦としたような、普段の獄寺からは想像できないような表情をしている。それも、少し分かりにくいが涙目にも見えて仕方がない。
嫌な予感がしてしょうがないのだけど、なんとなく獄寺の考えていることがわかったような気がした。






「ありがたき幸せっス!!身のひきしまる思いっス!!」





(やっぱりかー!)






獄寺は貰ったリングをツナが選んで渡したのだと勘違いしているらしかった。ツナの表情からも分かるように紛おうことなき勘違いなのだが、あえて誰もそれのことには触れない。
もちろん、私もヘタにここで何か言おうものなら獄寺から喧嘩を売られてしまうので何も言えるわけがない。


ただ、一言。


獄寺の喜びようがまるでプロポーズされ、婚約指輪を渡された女性のようだったということだけは記しておきたいと思う。





……本当に本当に獄寺は、その、なんだ。ツナを慕っているだけなんだよね?実際本人に確かめたことはないが、獄寺の機嫌の良い時にでも一回は本人に確かめてやりたい。
別に気になるわけではなく、ただの好奇心ではあるのだけど。






まぁ、もし仮にも獄寺がそんな気持ちだったとしても私はただただ外野にまわって傍観しておく立場だろう。人の恋路を邪魔する奴にはなんとやら、獄寺の恋路を邪魔するものなら、間違いなくダイナマイトを投げられることは間違いないはず。
ダイナマイトを投げられて無傷で済まないことは体験を持って、学習済みだ。





「獄寺のリングは嵐のリング。山本のは雨のリングだな」




「そーいや違うな」
「ん?そーか?」




獄寺のリングも山本のリングも私のいるところからはまったく同じようなリングに見える。が、どうやら違う形をしているらしい。リングに視線をやる山本と獄寺を見つめていれば、ツナが「なんだ…?嵐とか雨とか……天気予報…?」と首をかしげた。


ツナの言葉に確かに、とうなづく。


考えてみれば嵐も、雨も、確かにどちらも天候に関係がある。リボーンもツナの言葉に反応して、「初代のボンゴレメンバーは個性豊なメンバーでな、その特徴がリングにも刻まれているんだ」と口を開いた。




「初代ボスはすべてに染まりつつすべてを包容する大空のようだったと言われている。ゆえにリングは大空のリングだ」

そして守護者となる部下達は大空を染めあげる天候になぞられたんだ、とリボーンは続けた。私は黙ってそれを聞く。






全てを洗い流す恵みの村雨 雨のリング


荒々しく吹き荒れる疾風 嵐のリング




なにものにもとらわれず我が道をいく浮雲 雲のリング



明るく大空を照らす日輪 晴のリング




激しい一撃を秘めた雷電 雷のリング



実態のつかめぬ幻影 霧のリング








それぞれのリングの意味。しかし、その意味を表わす人物が山本と獄寺以外でツナの周りにいる人物の中では思い浮かばなかった。だけど、もう既にリングはそれぞれの守護者たちに渡されているとリボーンは言っていた。
一体誰が守護者なのか。湧き上がる疑問は、ただでさえ混乱している頭に更なる混乱を招き、頭の中を整理しようにも分からないことが多すぎて整理のしようがなかった。






「つってもお前達の持ってるリングだけじゃまだ…」



「ちょっ、ストーップ!!とにかくオレはいらないから!」






まるで昨日のようにツナがリボーンの言葉をさえぎる。今更無駄なことを、と思ってしまうのは最近あまりに周りに振り回されすぎて諦め癖がついてしまったせいだろうか。
本来ならこんな癖つけたくないのだけど、諦めないといけないことが最近多すぎて諦めたほうが物事が早く進むということを知ってしまった。



もちろん、あきらめたときの代償もそれなりに大きい。



リボーンからの特訓だとか、街の真ん中で女の子たちからの殺意のこもった視線で見られるなんてことも少なくない。
だけど、リボーンからの特訓を断れば銃をこちらへと向けて今にでも撃ってやることもできるんだぞ、と脅されるし、殺意のこもった視線を私が受けていることになんて気づいてくれる奴なんていないから、それならさっさとそいつを連れてでもその場から離れたほうが賢明な判断なのだ。







あきらめずに抵抗していたほうが後々怖いことになる、ということも、私はもちろん体験済みだ。
できることなら、体験なんてしたくはなかったのだけど、あの時の私は若かったから、あきらめたほうが楽だということに気づいていなかった。




あぁ、本当に……あの時の私はまだまだ若かった。




ツナの言葉に珍しく山本も賛同しながら「あの…わりーんだけどさ…オレも野球やるから指輪はつけねーな!」とリングをツナのほうへと返そうとしながらいう。その時のツナの顔。凄く嬉しそうで、たぶん心の中では山本という仲間ができたことを大いに喜んでいたんだろう。

しかし、その喜びもすぐに絶望へとかわる。ツナ、馬鹿だなぁ、なんて思った私を誰が責められるだろうか。





「それに…そんなの持ってたら大変なんだって!!昨日のロン毛がまた狙ってくるんだよ?!」



「!!」




山本と獄寺の雰囲気が一瞬で代わる。それを目にいれ、ツナ、やめて!と言いそうになったのだが、そんな私をリボーンからの視線が黙らせる(こえぇぇ!)これは絶対に私には黙っておけ、という視線なんだろう。
私はその視線を無視してまでツナに声をかけることなんてできない。ツナは山本と獄寺の視線が鋭いものになったことにも気付かずに「やばいでしょ?!しかも下手したらたった10日でだよ!!」と続けた。




ひらり、と左手を額へとやり頭を抱えて、眉をよせて二人を見つめればやっぱりその表情は先ほどまでとは打って変わって、闘志をむき出しにしている。
やってしまった、と思っても、時すでに遅し。





「あいつ…来るのか…」
「10日…」






「……あれ?ど…どーしたの二人とも…」やっと二人の変化に気づいてたツナが声をかけるが、そんな声二人には今更届くわけもなく、「これオレんだよな。やっぱもらってくわ」と山本は声をだすと、驚くツナを無視して「負けたまんまじゃいられねー質みてーだな」と言いながら走って病院から出て行ってしまった。






「オレも10日でこのリングに恥じないように生まれ変わって見せます!!次は奴をぶっとばします!」


「ちょっ獄寺くんまで……!」


えぇー、





言葉なんて出てくるわけもなく、ただ茫然と出て行った二人の後ろ姿を見つめることしかできなかった。ツナに追い打ちをかけるディーノさんの言葉に私も苦笑しかできない。




確かにあの二人をやる気にさせたのは紛れもなく先ほどのツナの言葉であることは間違いない。
もう少しディーノさんもオブラートに包んでそのことを教えてあげれば良いのに、とは思ったものの気づいたにも関わらずリボーンからの視線で何も言えなかった私にはそんなこと思う権利はない。



ごめん、ツナ。本当はね、私も気づいていたんだ。



心の中で呟きながら、私はあはは、と自嘲じみた笑みを浮かべることしかできなず、ツナの目を見ることはできなかった。




「10日間で残り4人の守護者達も鍛えねーとヴァリアーには勝てねーぞ」

「ま…待てって!!つーか誰なんだよあと4人って…」




私も気になっていたことをツナがリボーンへと問う。視線をリボーンへと向ければ、リボーンは帽子を取りながら「どいつもお前の良く知る人物だぞ」と言った。


ツナの良く知る人物、ということはきっと私の良く知る人物だということだろう。ツナと仲が良い(……まぁ、知り合いという範囲で)強い人といえば、ディーノさんや、リボーンくらいしか思い浮かばない。
あとは……いやいや、さすがにどこぞやの委員長とかは関係ないだろう。というか、もしもその人のところにまでリングが渡されているようなら私、やっぱり関わりあいにはなりたくない。





、」





ディーノさんから名前を呼ばれそちらへと視線をやれば、ディーノさんの後ろにはロマーリオさんが立っていた。
いつ見ても渋いですね、ロマーリオさん!場の状況があまりにも重い雰囲気が漂っているせいか、そんな関係のないことを思ってしまう。ロマーリオさんと視線があえば、ロマーリオさんは手をちょいちょいと動かして私を呼んだ。



もちろんロマーリオさんから呼ばれたとなれば近づかないわけもなく、ロマーリオさんのほうへと歩みよる。




にはロマーリオが詳しく説明してくれるから、奥の部屋でロマーリオから話を聞いてくれ」





正直言うと聞きたくありません。


……しかし、そんなわけにはいかないことはもうわかりきったことで、踵を返したロマーリオさんに続き私は病院の奥の部屋へと入っていった。ツナのことが気がかりではあるが、まぁ、たぶん大丈夫だろう。
後ろから何やら騒がしい物音と、笹川さんのような声が聞こえているような気がしたけれど、私はそれを無視しながらロマーリオさんの背中へと続いた。








少しだけ感じた疎外感








  




(2009・06・08)
すみませぇぇぇえぇん!!前回からお待たせしすぎました!!!本当にすみません(土下座)


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