外から聞こえてくるスズメのなき声。そして、カーテンの間から入ってきている朝の光。こういうのを清清しい朝、と言うのだろうか……なんて、まさか言うわけがない。



普段よりも早めに起きた私は急いで学校へと行く支度をすませると階下へと降りていく。毎日の繰り返しの朝の用事。朝食と弁当の準備をしながら、ニュース番組に視線をやる。
特に気にするニュースもなく今日も一日並盛も平和なんだろうと、おもってしまうのだけど、私の周りだけは平和とはとても程遠い。


昨日ディーノさんから伝えられたリボーンの伝言。もちろん私にはそれを無視することなんて出来ずに、準備を急いで終わらせるといつもより早い時間に家を飛び出した。
吾郎もまだ目が覚めていない時間。




もしかしたら、私がいないことを変におもうかもしれないけれど何か用事があって早めに学校に行ったとでも言えば良い。






玄関のドアをゆっくりとしめて、吾郎のいるであろう部屋を見上げる。昨日も結局心配をかけたにも関わらず何もいえなかった。家族に増える秘密に悩んでいないこともないけれど、やはりマフィアと関わっているなんて言えるわけがない。




(あれ……?)




窓の向こうの吾郎の部屋のカーテンがひらり、と揺れたように感じ私は首をかしげる。しかし、そうこうしているうちに刻一刻と時間はすぎていくことに気づいた私は振り返ることもせずに昨日の病院へと走って向かっていた。


リボーンとの約束に遅刻は許されない。


それに早めに行かないと学校に遅刻してしまうのも困る。狙っていた皆勤賞は一ヶ月前の骸さんとのことがあったその日に夢と散ってしまったけれど、だからと言って遅刻なんて私はしたくないし、わざわざ遅刻するような度胸は私にはなかった。






「おはようございまーす」





静かな病院に声をかけてはいっても、誰一人この声に返してくれる人はいなかった。どうやら早く来すぎてしまったらしい。でも、自分から呼び出したんだからリボーンが一番に来ているべきだとおもうのは可笑しいのだろうか。
まぁ、リボーンに常識をもとめるのも間違っているとはおもうけど……でも、静かな病院で私一人と言うのも寂しいものがある。



立ち尽くしてもどうしようもないので、近くにあったソファーへと腰をおろした。早めに起きたせいもあってかまた柔らかいソファーへと体を沈めれば意識が遠のくのを感じてしまう。

どうせ、この様子じゃまだ来ないだろう。そうおもった私は、閉じていく瞼に素直にしたがった。



どうせ誰か起こしてくれる。起こし方としてはツナかディーノさん辺りに起こしてもらうことを願っているけれども。さすがに寝起きからダイナマイトの爆音は聞きたくはない。









***








耳に入ってくる話声に私の意識は段々と覚醒しだしていた。誰と誰かが話しているのかはまどろむ意識では分からない。でも、聞きなじみのある声。一体誰だろうと思いながら瞼をあけていく。
私が来た時にはついてなかった蛍光灯の明かりが眩しくて、再び目を閉じてしまうけれど、段々と慣れてきた目がしっかりと周りの光景をうつすことを確認して私は体を起こした。




ソファーには座っていたはずなのに、いつの間に横になっていたんだろうか。




私、自分では気づいていなかっただけで中々寝相が悪いのかも……寝言とか言ってたら最悪。キョロキョロと周りを見渡せば、山本と獄寺と視線があう。話し声の正体はこの二人だったのか。
いや、でも、来たんなら起こしてくれればよいのに。っていうか、起こしてよ。とは言っても、そんなことは言えるわけもなく山本は私と視線があうと朝から爽やかな笑みをうかべ「おはようさんっ!」と元気良く言った。


朝から元気の良い奴だ。私にもその元気少しだけでも良いので分けて欲しい。




別に低血圧と言うわけじゃないと思うけれど、朝はやっぱり元気はでない。獄寺は獄寺で私と目が合うと眉をひそめた。ツナがいないときは獄寺はいつもこんな表情だ。




「よく、こんなところで寝れるな。まったく、能天気な野郎だぜ」


「……うぜっ、」




獄寺の一言に思わず私の本音がこぼれる。低血圧ではないといったけど、寝起きの機嫌は結構悪いことが多い。思いっきり眉間にしわを寄せながら、私の本音が聞こえなかったらしい獄寺に視線をやる。
こいつと朝から言い合うのはとても面倒くさいし、聞こえなかったのならそれはそれで有難い。

私の視線に気づきまた鋭くなった視線を一瞥して視線をずらす。





その瞬間に「ディーノさんいますか?」ドアが開く音が聞こえ、皆の視線が集まればそこにはツナ。こちらを伺うように見ている。

そしてツナを見た瞬間に先ほどからの表情とは一変、獄寺の顔には眉間の皺がきえさり満面(とまでは行かないけれど)笑み……おいおい、どんだけあからさま。


これ、本当、獄寺色々勘違いされるのは仕方がない話だと思うよ。





獄寺って本当にツナのこと友達として、って言うかマフィアのボスとして尊敬しているだけだよね?本人にはさすがに聞けないけど、こんなところ見せられたら、そんな風だけには見えない。まるで好きな人を見つけたときの恋する乙女だよ。これじゃあ!


だけど、ツナもタイミングよく来てくれて良かった。普段はあまりタイミングの良くないことが多いツナだけど今回ばかりは本当に良いタイミングだった。





たぶんもうちょっと来るのが遅かったら私は獄寺と言い合いになっていた自信がある。

そんな自信なんてもちたくないのはやまやまだけど今までの経験から考えると間違いなく表でろやぁ!と女の子らしくもない声を張り上げていたと思う。





「よお、ツナ!」
「10代目!!おはよーございます!!」
「二人とも!!」





ツナの驚いた表情を見れば、ここに山本と獄寺がいることは聞かされていなかったらしい。二人の様子を見て驚いているツナに「私もいるよー」と声をかければ、こちらに視線をやったツナはもっと目を丸くしていた。
までなんでいるの?!」と。そんなこと私が一番聞きたい。絶対私、ここに来る必要なんてなかったと言い切れる。




「リボーンからの命令、でね」




溜息混じりに苦笑しながらいえば、ツナはあぁ、と納得した表情を見せた。そして、ツナの視線が気まずそうに私から山本と獄寺のほうへと移る。ソファーへと座ったまま私も視線を山本たちのほうへと移した。





「昨日はごめん!!助けてもらったのに…」
「あ…いや…」
「……」






ツナの言葉に昨日のことを思い出す。襲いかかってきた仲間のはずであるボンゴレの人間。その人間の圧倒的な強さに手も足もでなかった山本たちに厳しい言葉を吐いたリボーン。あの時のリボーンの意図はわからなかったけれど、あの言葉はリボーンの本意であったんだろうか。


体をはって、友達を守ろうとした二人に吐かれた言葉はとても厳しいものであった。



自分が言われたわけではないけれど、心が痛くなったのも事実だ。だって、あの時のメンバーの中で何よりの足手まといだったのはこの二人でも他のだれでもない





―――私のはずだ。






山本と獄寺の引きつった顔。二人もあの時のリボーンから言われた言葉を思い出しているんだろう。だけど、すぐに二人ともいつもの顔に戻した。場の空気を変えるように山本が口を開き、それに続くように獄寺も口を開いた。




「んなことより妙なことがあってさ」
「そーなんスよ!」




首をかしげる私とツナ。だけど、二人が手にしたものに私とツナは目を見開く。それは昨日、おっそろしい話を聞かされながら見せられたもの。あまりの驚きに言いたいことが紡げない。
なんで、お前らがそれを持ってるんだ!心の中では声を大にして叫んでいるというのに、それが声にでないことのなんともどかしいことか!


そんな私の様子に気づかずに二人は淡々と指輪を手にいれた状況を語っていく。




「ポストにこんなもんが入っててさ」
「もしかして昨日の奴がらみかと思いまして跳ね馬にここの場所は聞いてたんで」






山本も獄寺も指輪がポストに入ってる時点で怪しめ!





もしかしたら二人の熱狂的ファンがストーカーまがいのことをしてポストにいれたかもしれないだろ!

二人の熱狂的ファンなら家の場所をしらべて、そんなことをしていることも考えられないわけではない。というか、ポストに指輪が入っていた時点で昨日の奴がらみと考え付く獄寺はやっぱり頭が良いのかもしれない。


常識的なことは一切ないにも関わらず、どうやら勘は鋭いらしい。





「ああ〜〜!!そのリングってまさか〜〜!!」





やっとのことでその指輪が昨日の指輪だということに気づいたのか、ツナが叫ぶ。私は額に手をやってうなだれた。あの指輪は間違いなく昨日ディーノさんが手にしていた、指輪らしい。
…!」と、ツナが助けを求めるかのように私を見る。いや、無理だから。私に助けを求められても私何もできないに決まってるから。




だけど、そんなことを目の前の今にも死にそうな顔面蒼白のツナに言うなんて私はそれほど酷い性格はしていない。しかしなんといってよいのかもわからず、ただただ私はひきつった笑みをツナに返すことしかできなかった。




「なんだツナもも知ってたのかコレ」
「やっぱり10代目も持ってるんですね!」


「つーかなんで?!なんで獄寺君と山本にも…?!」




ツナの問いに答えのは今までこの場にはいなかったリボーンだった。病院の奥からディーノさんと現れたリボーンは「選ばれたからだぞ」とたった一言ツナたちに告げる。
正直、死刑宣告かのように思えたのは今この場にいるメンバーだけでは私だけのようだ。



ツナはただただ驚いているだけのようだし、山本や獄寺はまだよくわかってないらしく首をかしげている。





「ディーノさん!!リボーンも!!いつのまに?」





いつのまに?というツナのツッコミは見事にリボーンは無視し、もうすでにリボーンは指輪の説明を始めだした。


「ボンゴレリングは全部で7つあるんだそして7人のファミリーが持って初めて意味を持つんだからな」

今すぐ耳を塞ぎたい衝動にかられる。しかし、聞いておかなければ後々どうせ私も巻き込まれるのだから早々に覚悟をきめておかなければならない。





「お前以外の6つのリングは次期ボンゴレボス沢田綱吉を守護するにふさわしい6名に届けられたぞ」



……自分に届いてなかったと安心してしまった私は申し訳なさからか少しの間ツナの顔をまともに見ることができなかった。








6つのリングと6人の守護者








  




(2009・02・24)

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