連れてこられた病院内は以前、骸さん達との戦いの後でやってきた病院だった。まぁ、そんなことはどうでも良くて問題は何故私がここに連れてこられたのか、と言うことだ。
山本や獄寺には厳しい言葉を吐いたリボーンに、私もあの場は帰らされるのだろうと思っていたのに、リボーンはただ一言「お前は一緒に来い」といってツナと一緒にここまで連れてこられた。目の前のベッドでは先ほどの可愛い子ちゃんが痛々しい姿で横になっており、少しだけ胸が痛む。
閉じられた長いまつげをぼんやりと見ながら誰かが言葉を発するのを静かにまった。
「あの…で…彼…何者なの…?やっぱりボンゴレのマフィアなんですか?」
ツナがリボーンとディーノさんに視線をやりながら問う。確かにそれはずっと気になっていたことだった。あの場所ではこの子のことなんてまったく持って聞けなかったし、聞けたのはあの襲ってきた銀髪の人がボンゴレだったと言う驚愕の事実だけ。
私もずっと気になっていたことなので、視線をリボーンのほうへとやった。
「いいやこいつはボンゴレじゃあないだが一つ確実に言えることは…こいつはお前の味方だってことだ」
「なぁ?!どーなってんの?ボンゴレが敵でそーじゃない人が味方って…」
「可笑しくないですか?」
ツナの言葉に続けて私も目を丸くして聞いた。だって、襲ってきた人はボンゴレで、この可愛い子ちゃんはボンゴレじゃないって。でも明らかに先ほどの騒ぎでこの可愛い子ちゃんはツナの事を沢田殿と呼びながら、ツナを守ってくれた。
だからこそ、リボーンはボンゴレじゃないけど味方、だと言ったんだろう。もしかしたらこの子もディーノさんのように同盟ファミリーとやらの一員なのかもしれない。
しかし、まぁ、マフィアと言うのはツナ達だけが特例かと思っていたけれど、こんな若い子もマフィアなのか。
まだ子供だっていっても良い年齢だろうに、この子の戦い方はもう子供の戦い方ではなかった。いや、でも骸さん達もあの年でマフィアを殲滅しようとしていたんだ、裏の世界での年齢なんてあまり関係ないんだろう。
まさに弱肉強食。
若くても強ければ裏の世界でやっていける。それに、と思い視線をディーノさんのほうへとやる。どんなに部下がいなければヘタレなディーノさんでもディーノさんだってボスと言うにしてはかなり若いし、見た目ホストだし(……これは関係ないか)とにかく見た目だけではこの人やこの可愛い子ちゃんはとてもマフィアなんかには見えない。
しかし、襲ってきた人がボンゴレと言うのはまったくもって可笑しすぎる。
同じファミリーと言うのは味方なんじゃないんだろうか……やっぱりマフィアと言うのは私には良く分からない。
「つーか別にオレ的とか味方とかありませんから」
とりあえず私もツナの意見に賛成。私達はマフィアじゃない。ただのしがない中学生だ……今までの経験上そんなこと言ったってリボーンには通用しないことなんて分かりきってはいるけども。
で、でも、まだ諦めたくはない!自分がもう既にマフィア関係に片足つっこんでいる気はするけど、私はまだそれを認めたわけじゃない…!
「それがなあ ツナそーもいってらんねえみたいだぞ」
「あのリングが動き出したからな」
あのリング?その言葉に首をかしげる。と言うか私、場違いじゃないだろうか。先ほどの騒ぎにもほとんど巻き込まれたも同然だし、帰りたくてたまらないこの気持ちを誰か分かってくれれば良いのに。
とりあえず、あのリングとは一体なんだろうか。先ほどの可愛い子ちゃんが銀髪にとられたものと何か関係がありそうだけども、やはり私には良く分からない。
「リング?そういえばこの子も言ってたロン毛の奴が奪ってったやつだ?」
ツナの言葉にやっぱり、と思いながらリボーンを見る
「ああ正式名をハーフボンゴレリングというんだ」ボンゴレリングと言う限りボンゴレに関係のあるリングなのは確かか。そんなことを考えながらリボーンの言葉に静かに耳と傾ける。
「本当は3年後までしかるべき場所で保管されるはずだったボンゴレの家宝だ」
「もしかしてすんげー高級な指輪だとか?」
「確かに値のつけられない代物だがそれだけじゃねーぞ」
ボンゴレの家宝のリング。家宝があるとかどんだけー、とは思うけれどそう言えばボンゴレはイタリア一のファミリーだと聞いた事があるようなないような(これまたツナから聞いたいらない情報ベスト5!)
そんなボンゴレの家宝と呼ばれるリング。価値がないわけがない。値のつけられない、と言うリボーンの言葉は確かに間違っていないんだろう。
「長いボンゴレの歴史上この指輪のためにどれだけの血が流れたかわかんねーっていういわくつきの代物だ」
「ひい何それー!!まじかよ!!ロン毛の人もってってくれてよかったーっ」
ツナの安心した顔。それに反してディーノさんの顔が引きつっているように見えるのはわたしの勘違……いや、勘違いじゃなさそうだ。
「それがなぁ…ツナ…ここにあるんだ」ディーノさんの懐からだされた、小箱は先ほど銀髪が持っていたものと多分まったくもって変わらないもの。近くで見たわけじゃないから確かではないけれど、でもディーノさんの顔を見る限り嘘ではないんだろう。
「え゛え゛ー?!」と、ツナが叫ぶ。その気持ち分からないわけでもない。っていうか、すっごく分かる。
「な…なんでー?!だってリングは奪われたはずじゃ…」
「こっちが本物だ」
「こっちが本物ってどういうことですか、ディーノさん?」
そりゃもう睨みつける勢いでディーノさんに聞く。今まで黙っていた私がいきなり声を出したことにディーノさんもツナも一瞬驚いた顔をしていたけれど、乗りかかった船だ。聞くなら徹底的に聞いてやる。
私の言葉にディーノさんが頭をかきながら、苦笑いをうかべる。
「オレは今日このためにきたんだ。ある人からこれをお前に渡すように頼まれてな」
「えー?!またオレに?!なんでオレなのー?!そんな恐ろしいリング〜!!」
ツナがこれでもかというくらい声を張り上げて叫ぶ。そりゃ、誰だってこんな曰くつきの指輪を渡すように頼まれた、なんて言われたら叫びたくなると思うけれど。
「そりゃーおまえがボンゴレの」
「ス…ストップ!!」
ボンゴレのボスだから、と後に続くであろう言葉はツナが言葉を遮ったために紡がれることはなかった。
「家に帰って補習の勉強しなきゃ!!ガンバロ!!」
「な…」
「じゃディーノさんまた!!リボーン先行ってるぞ」
「おいツナ…?」
「え、ちょ、ツナ?!って、私を置いていくなー!!」
ベッドの脇に置かれていた椅子から思いっきり立ち上がってツナの後を追おうとしても、もう既にツナの足音は遠くに聞こえ、私の言葉もツナの耳には届かなかったらしい。
私が伸ばした手だけが寂しく空気をつかんだだけだった。
しかし、ツナもどうせ今逃げられたとしてもリボーンがいる限り、このことから逃げることは不可能だろう。現にリボーンは今、ニヤニヤとした笑みをつくっているし、これはもう私も巻き込まれることも決定事項なんだろう。
そうでなければ、わざわざ山本と獄寺は家へと帰したにも関わらず私とツナだけここに連れてきてあんな話聞かされるわけがない。
中学生になんて指輪の話をしてんだよ、と悪態をつきたい気持ちをおさえながら私はハァとため息をつきながら元の椅子へと座り込んだ。がしゃんと安っぽいパイプ椅子が音をたてる。
「あいつ逃げられると思ってんのか…?」
今で眠り続けている可愛い子ちゃんの顔を見つつ、ディーノさんの言葉には内心で、無理でしょう、といっておいた。今回ばかりは相手が悪すぎるよ、ツナ。だって、相手はリボーン。
絶対に逃げられるわけがない。
「……バジルはおとりだったんだな……」
「ああ…おそらくバジル本人知らされてねぇ」
「あの人のことだこうなることは読んでたんだろーが相当きつい決断だったと思うぜ」
バジルと言うのはこの子の名前なのか。リボーンとディーノさんの話の限りでは間違いないと思うけれど、あの人が誰なのかは分からない。バジルと呼ばれた子の顔に手を伸ばして、顔にかかった髪の毛を払ってあげる。
しかし、こんな可愛い子にあんなことさせるなんてあの人の顔を見てやりたいものだ。まぁ、あの人も相当きつい判断だったというのを聞く限りでは、苦渋の判断ではあったのだと思うけど。
でも、こんな可愛い子をあんな目にあわせなければいけなかったなんて、このリングの価値は本当に計り知れないのかもしれない。
「、悪ぃけどバジルが目を覚ますまでここにいてやってくれないか?」
「あ、はい良いですよ?」
ディーノさんからの頼まれごとに快く返事をすれば、ディーノさんは微笑みながら「任せたぞ」といって病室から出て行った。リボーンやロマーリオさんもその後に続いてでていこうとしたけれど、リボーンだけはドアをでる直前にこちらへと振り返った。
「言っておくが、バジルは男だぞ」
「そんなこと言われなくても分かって・・・・って、嘘?!えぇ、ちょ、えぇぇ?!」
「静かにしねぇとバジルが起きるぞ」
「……!」
そういうとリボーンはこちらに背をむけて病室から出て行く。私は自分で自分の口に手をやりバジル、くんに視線を戻す。
長い睫。そして少し長めのサラサラな髪。そんな、まさか。こんな可愛い子が男の子?今の今まで女の子だと思い切っていた私にはそれは驚愕の真実であり、思わずバジルくんの顔を凝視してしまっていた。
眠れる森の……?
(美女なくて美男なんですかー?!)
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(2008・12・07)
バジルくんは見た目的には余裕で女の子だと思います。
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