私が呆然としている間にいつの間にか可愛い子ちゃんはツナの手を引っ張ると走り出していた……なに、駆け落ち?なんて一瞬でも思った私を誰か殺してもらいたい。
駆け落ちなんてそんな生暖かいものなんかではなかった。



可愛い子ちゃんとツナが走り出したその瞬間に銀髪の男がジャンプしたと思ったら、ツナ達の目の前へと降り立ち、常人とはいえないオーラを出しながら立ちはばかっていた。




これは、絶対にヤバイ。そんなことすぐに分かる。空気がもう違った。





「っあぶない!」





銀髪の剣が可愛い子ちゃんへと斬りつけられる。その瞬間に真っ赤な血が飛び散り私とツナは言葉を失った。


今、目の前で起こっているものは本当に現実なんだろうか。もしかしたら、山本の言うように何かの撮影じゃないんだろうか。そう思いたい気持ちが湧き上がってくるのだけどこの空気がそう思うことを叶えてはくれなかった。すべてが、目の前で起きているすべてが現実だと、私に知らしめていた。



派手な音を立てて可愛い子ちゃんが銀髪から蹴り飛ばされ、視線がそちらへといく。





「うお゛ぉい」





銀髪の声に肩が震えた。ただの低い声じゃない。何か、殺気のようなものを感じられる声に、私とツナの視線は銀髪へとうつり、銀髪はこちらを一瞥するとツナへと視線をうつした。






「そーだぁ。貴様だぁこのガキとはどーゆー関係だぁ?ゲロっちまわねーとお前を斬るぜ」



「ひいぃっ」




銀髪の言葉にツナは答えを返すことはできない。そりゃ、初対面の子の関係を聞かれたって答えられるわけがないし、そもそもツナはどうしてあの子に自分が手を引かれていたのかも分かってないんだろう。



だけど、このままじゃ確実にヤバイ。ツナの様子を見れば動転しているのが分かるし、銀髪の眉間の皺は深くなる一方。
このままじゃ、本当にツナが斬られてしまうかもしれない。どにかしないと、と思い体の向きをかえツナのほうへと足を踏み出そうとすれば銀髪のまわりをダイナマイトが囲んだ。

こんなことする奴は考えなくても分かる。




「その方に手をあげてみろ。ただじゃおかねぇぞ」

「ま、そんなとこだ。相手になるぜ」




「獄寺君!!山本!!」





さすが忠犬獄寺!ツナのピンチに駆け寄る姿はさすがだと感心を覚える。だけど、山本はいつの間にバットを持ってたんだろう。さっきは持ってなかったと、思うのに。






「持って来てねーのになぜかオレのバッドがたてかけてあったんだよな」



「(うわー、誰が持ってきたのか簡単に予想できるんですけどー!!)」





山本はもっと深く考えると言うことを覚えて欲しい。普通持って来てないバッドがたてかけてあったりしたら気にしちゃうから!なんでここにあるんだろうか、とか持って深く考えたりしちゃうから!
なのに、山本を見る限り絶対にバッドがたてかけてあったことなんて気にしていないに違いない。笑って話している時点でそんなこと、分かりきったことだし、山本は人とは比べ物にならないくらい天然な奴だから。



ハァ、と場違いなため息がこぼれてしまうのも仕方がない話だ。しかし、だからと言って相手の奴が待ってくれるわけもない。




「オレにたてつくと死ぬぞぉ」




「その言葉そのまま返すぜ」
「ありゃ剣だろ?オレからいくぜ」





戦闘態勢をとる二人。これはもっと大変なことになりそうだと眉をひそめた。






「やめてください!おぬしらのかなう相手ではありません!」




先ほどの蹴り飛ばされた子が大声で叫んでも、もう遅く山本と銀髪は走り出していた。色々そのこの話し方とかツッコミたいところは山々だけど、それよりも山本のほうが気になり私は視線をやった。
山本の刀は真剣だし、先ほど銀髪が可愛い子を斬りつけたときも血がでていたことを見ると模造品ではないんだろう。真剣どうしの対決に危ない、と思ったときには二人の刀と剣は音を立てていた。



ここからでは二人がなんと会話しているか分からず何回か金属音がしたと思えば二人がいたところから爆音が響き、二人の姿は砂煙の中で私の目からは確認することができなくなっていた。




「山本!」




声を張り上げても向こうから返事はない。段々とうすれていく砂煙から倒れていく山本の姿が見えた。




「ヤロッ!!」




やめて、と声を出そうとした瞬間に銀髪が獄寺の前へと現れていて獄寺の持っていたダイナマイトを斬り付け、獄寺を蹴り飛ばしていた。
速い。すべての動作が山本や獄寺とは段違い。このままここにいては危ない。


けれど、倒れた獄寺たちを置いておくわけにもいかず私はどうして良いのか分からない。私はここでもまた何もできないのだろううか。ふとそんな考えが頭をよぎり、唇をかみ締めた。



あんな思いまたしたくない。




「死んどけ」

「……っ!」






振り上げられた剣が獄寺へと降ろされる。思わず駆け出そうとしたけれど、それよりもはやく可愛い子がその剣をうけとめていた。


胸元からは真っ赤な血が滴り落ちていて、見ているだけで痛々しい。それでも何回も振り上げられる剣を、その子は受け止めていた。とても見ているだけなんてできない。



でも、私に何かできることがあるのか?と問われれば何かできることが思い浮かばない。



だけど私はチッ、と舌打ちを一つ零して私は駆け出していた。ツナが「?!」と私の名前を呼ぶ声が聞こえたけれど、構ってはいられない。そもそも私は可愛い女の子が痛めつけられているところを見ているだけなんてことできるわけはない。





それに男の方も男のほうだ。




明らかに自分より小さい女子供に対して剣を振るうことが間違っているのに。そんな世界の常識も知らないのだろうか。まったく常識のない男だ、と悪態をつきたい気持ちを抑えて私は地面を蹴った。

視線の先にうつるあの可愛い子はまたも斬り付けられ後ろへと吹き飛ばされる。その姿はとても痛々しく、胸が抑えつけられるのを感じる。


何故、あの子があんな目に合わないといけないんだろう。




「てめぇは死ねぇ!!」




男が声と同時に剣を振り下ろした瞬間に私は可愛い子ちゃんの目の前に立ちはだかっていた。目の前に迫る剣。






「おぬし……!」



(また、おぬしって言った!)





心の中でツッコミながら少しだけ現実逃避してしまうのは迫ってくる剣を止める術を知らないからだ。しかし避けれる術は知らないけれど、とりあえず鞄を目の前に持っていっておくことにした。財布しか入ってない鞄だけど、少しくらいは衝撃をおさえてくれる(と良いな)と思えば、衝撃は一切こずに、銀髪の手を死ぬ気モードになったツナが掴んでいた。





「ツ、ナ…」





男も私も驚いた表情でツナを見る。そして、男は何か叫びながらどんどんツナを攻め立てていく。死ぬ気モードのツナなら大丈夫だろうと思いながら後ろの子を一瞥して、意識はあることを確認して獄寺と山本のほうへと駆け寄った。





怪我は酷いようだけど、息はある。
うめく山本と獄寺の様子を確認して再びツナ達へと視線へとやって私は目を見開いて驚いた。





―――死ぬ気モードのツナが押されている





そんな、と自分の体の力が抜けるのが分かった。あのツナがあそこまでボロボロにされるなんて相手は本当に何者なんだろう。先ほどの可愛い子ちゃんとツナの前に立っている銀髪の髪の毛が砂煙とともに風になびく。




「嫌だ、」




なんで、また私は誰も守れないの?

あの時の事を繰り返してしまうの?




視線を下げれば倒れている山本の姿。苦しそうなその姿に息が苦しくなり、こみ上げてきた涙が零れそうになるのを感じて視線を上げる。まだ泣くには早い。





「あいかわらずだな。S・スクアーロ」


「ディーノさん、」


「よぉ、お嬢ちゃん。よく頑張ったな」






暖かい手に頭を撫でられ視線を上げればそこにはロマーリオさんが立っていた。それに、たくさんの部下を引き連れたディーノさんがいてまるでその姿はヒーローのようだった。
マフィアがヒーローなんてどうかと思ったりもしたけれど、でも今のディーノさんはいつものヘタレっぷりもなく(もちろん部下がいるからなんだけど)とても頼もしかった。思わずその姿を見て、ホッと息を吐く。

これでもう危険な目にはあうことはない。




それにしても二人のやり取りを見ている限り、どうやら知り合いのようだ。二人の会話に耳を傾けながら立ち上がり、真っ直ぐに見据える。




「今日のところはおとなしく……」




ディーノさんのおかげ、だ。もう大丈夫と思っていれば、いきなり銀髪はツナの髪の毛をつかみ「帰るわけねぇぞぉ!」と叫んでいた。





「ノリツッコミかよ!!」


「ちょ、?!」




私のツッコミに思わずツナが私の名前を叫ぶ。ごめん、ツナ。それでもツッコまずにはいられなかったんだよ。
大人しくかえれよ!と言いたい気持ちを抑えていれば、ディーノさんが鞭をふるった。




「手を放せ!!」




だけど次の瞬間にはまた爆発がおきていて、爆風が私達をおそった。顔を腕で多い腕と腕の間から様子を伺う。ふと銀色の髪の毛が移動しているのが見えて私はそちらへと走っていた。砂煙の中何も見えないなかで銀色の髪だけを追った。


出てくるせきを気合で止めて、段々と砂煙が無くなるのをこらえていれば、銀髪が先ほどまでは持っていなかったはずの箱を持っているのが見えた。




「貴様に免じてこいつらの命はあずけておいてやる。だが、こいつはいただいていくぜぇ」





あの箱は確か先ほどまであの可愛い子ちゃんが持っていたはずのもの。その証拠に可愛い子ちゃんが大きな声で叫んでいた。一体何かは分からなかったけれどあの箱。



あれはきっと、大事なものに違いない。




そう思った私は砂煙が晴れ、思ったよりも近くにいた銀髪の姿に思わずもっていた鞄(財布入り)をなげつけていた。







もちろんあたるだなんて思っていない。一瞬でも気がそれればディーノさん辺りがあの銀髪を捕まえてくれるだろうと思っての行動だった。

しかし、私は自分が思っている以上に命中率が良かったらしい。




音を立ててそれは銀髪の頭へとぶち当たった。一気に回りの視線が私に集まるのを感じる。財布しか入っていなかったから軽い衝撃しかなかったはずだが、私はどうして良いのか分からず、笑った。





「あ、あはは。」





もう乾いた笑みをうかべるしかできなかった。一瞬呆然とこちらを見ていたけれどすぐに睨みつけてくる銀髪。呆然とした顔はあぁ、この人もイケメンかよと言いたくなったけれど睨んでくる顔はぶっちゃけ恐い。いや、恐すぎる。



でもそんな怯えた態度なんてあんなことをしてしまった手前とれるわけもなく、私は乾いた笑みのままツナたちに視線をやった。





ツナが頭をかかえて、呆れた視線をしているのが分かる。可愛い子ちゃんは目を思いっきり見開いて驚いた様子でこちらを見ていて、ディーノさんも同じく驚いていた。

そして、視線の端にうつったリボーンだけはニヤリといつものごとく嫌な笑みをうかべていた。






「はは、さすが嬢ちゃんだな!」




笑い事じゃありません、ロマーリオさん!豪快に笑い声を立てて笑っているロマーリオさんに何がさすがなのか詰め寄りたくなった。しかし、そんなことできるわけがない。とりあえず、視線を銀髪に戻せばこちらを再び一度睨みつけ舌打ちを零すと「じゃあなぁ」と言って立ち去っていった。
正直安心した。あの人の力なら私ごとき簡単に斬り捨ててしまうだろう。と言うか、私はなんてことをしてしまったんだろうか。


思わずカッとなって鞄を投げつけてしまったけれど、結局あの箱はとられてしまったし、何もできなかった。馬鹿だな、と自分で自分を自嘲しながらツナたちのほうへと駆け寄った。







謎の襲撃事件発生および解決












  




(2008・11・26)