珍しく部活も風紀委員の仕事も、ついでにリボーンからの呼び出しもなかった日曜日に珍しく私服を身に纏った私は、何故か吾郎と街まで来ていた。いや、なんで?なんで吾郎と?と思いながらも、本来なら家でゆっくりしていたはずなのにと思えば僅かに気が沈む。
せめてもの救いがいつも女の子の格好を好んでする吾郎がちゃんと男の子の格好をしていてくれていることだろうか。




それでも、やはり我が兄とは思えないくらい顔の整った吾郎には道行く人の視線(特に女の子)が集まり、私にはおぞましいくらいの女の子からの嫉妬の視線があびせられていた………なんで、私吾郎とこんなところ歩いているんだろ。







「(いや、まぁ、理由は分かってるんだけどさ……)」






最近は部活だけじゃなくて、風紀委員の仕事やツナたちと会ったりすることが増えて家をあけることが多くなって、最初は吾郎も友達が増えたんだな、アハハ!みたいな感じだったのに、それが男の子だと分かったとたん私に詰め寄ってきた。








「男の子は狼なんですからね!」



「はぁ……って、いやいや、そんな友達だからね。友達、」



「俺はいっつもと遊びに行くの我慢してるのに、は……!は……!もう俺なんていらないの?!俺のことは遊びだった
「ちょ、ごめん。私が悪かったから黙ってくれるかな!」







……私、なんでこんな奴と兄妹してるんだろう。ここにはいない海外出張中のお父さんお母さん、どうしてもっとましな、常識のある兄にしてくれなかったんですか?と嘆いても、聞き入れてくれる人は誰もいない。


あまりにも煩くうざったい吾郎をこのままにしておける訳もなく結局私は貴重な何もないゆっくりできるはずだった一日を吾郎へとささげることになってしまった。
だけど、これで吾郎が黙ってくれるならまだ良いし、吾郎は骸さん達が復讐者に連れて行かれたあの日私の怪我のことについて何も言及することはなくディーノさんやリボーンが帰った後ただ寂しそうに笑って「あんまり無理するなよ」と言っただけだった。




その一言に罪悪感がこみあげた。色々なことを家族に隠して、心配させるだけさせておいて肝心なことは何も言わない。吾郎だって聞きたいことはたくさんあると思うのに聞かないくれて、騙されていてくれている。私の嘘なんて家族にとったらすぐにバレるようなものなのに。




何だかんだ言いつつも優しい兄なのだ。
確かに変人だし、女装趣味だし、何ともいえない兄であることは間違いないのだけど。でも、




―――チラリ、と横目で吾郎の様子を伺えば本当に楽しそうに笑ってくれていてこんな日もたまには良いかな、なんて思っている自分がいた。







、こっちの服なんてどう?」


「……」


「え、なんで俺そんな目で見られてんの?!」



「……私に、そんなひらひらしてフリフリしたのを着れと?」



「可愛いじゃん!なら絶対似合うって!」



「絶対、似合わないから!!」






やっぱりよくないかもしれないと、ひらひらしてフリフリしたブラウスを私の目の前に突き出している吾郎を見ているとそんなことを思ってしまう。

それもボソッと「俺とおそろいで買おうと思ったのに」なんて呟かれてしまっては絶対に始めから着ないと思っていてももっと来たくなくなってしまうに決まっている。我が兄ながらどうしてこんな馬鹿に育ってしまったんだろうか。頭が痛い。それでなくても最近関わる人関わる人がなんだか普通の人じゃなくて、てんてこまい、なのに。


それでも、その人たちとのかかわりがなくなると寂しいと感じている。




ふと見上げた空は真っ青で、いつか読んだ本には空はどこへでも繋がっていると書かれていた。なら、そうだとしたらこの空を骸さんたちも見ているんだろうか。
ふとよぎった胸騒ぎに辺りを見渡すけれど、特にこれと言って何かあるわけじゃない。






「どうかしたのか?」

「ううん、」





吾郎に不思議そうな表情で聞かれた私は首をふりながら、なんでもない、と口にしようとした。しかし、その言葉はでてこなかった。私の視界の端にうつったのはぞろぞろと集まっている見たことがある人たち。
いやいやいや、なんで君たちここにいるのかなぁ!ツナや京子ちゃんだけなら、まだ何も思わなかったはずだけどそこには獄寺や、山本、そしてリボーンまで一緒にいて思わず顔が青ざめる。




今日は吾郎の機嫌取りの形でここまで来ていて……






(ヤバイ、ヤバすぎる……!)





ある意味吾郎の機嫌をとることになった元凶的なツナ達と鉢合わせしてしまうのは本当にヤバイ。なんとか救いなのは今日吾郎が男の格好をしてくれていることだけど、でも吾郎の機嫌が悪くなると相手にするのが面倒くさいからこのまま機嫌よくいてもらいたいというのが本音で。
どうしよう、と思っても良い案が思いうかぶわけでもなく、携帯は家に忘れてしまったみたいだからツナに電話で聞くこともできない。



ダラダラと流れてくる汗を拭うこともせずに私は少しの間その場に立ち尽くしていた。





「おーい、?本当にお前大丈夫なのかよ」


「あはは、だ、大丈夫」


「本当かー?じゃあ、さ、次の服はこれなんだけど「却下」




またもやフリフリした(以下略)服を私の目の前に突き出してきた吾郎を一喝しながら視線をひっそりとツナ達のほうへとうつそうとして、とまった。凄まじい爆音が鳴り響き、その場にいた人たちの視線が思わずそちらへとうつる。
もちろん私の視線も一気にその爆音がしたほうへとうつされた。






「な、なに?!」


「なんだ、撮影かー?」





隣でくだらないことをぬかしている吾郎はこのさい無視しておくことにする。今の爆音、考えたくはないけれどツナたちの可能性が一番高いような気がする。だって、あのメンバーの中には普通にダイナマイトを街中でも振り回す奴がいて、あんな爆発日常茶飯事だ。

いや、確かにいつもより爆音が大きいような気がするけど、でも、あんなことを起こすのはあいつらしかいるはずがない。ハッとなって、ツナのほうに視線をやれば、ツナに思いっきり人がぶつかっているのが見えた。それも、ただぶつかったわけじゃない。


人が降ってきていた。







えぇぇぇ、ちょ、ちょっと、えぇ?!



、どうしたんだよ?!」






ツナの叫び声と、ツナに駆け寄っていく獄寺と山本の姿がみえる。先ほどの胸騒ぎはどうやら勘違いじゃなかったらしい。
本来ならここで無視して吾郎とこの場を離れるのが一番良い策なんだろうけど、さすがにあんなツナを無視できるわけもなく、私は吾郎の肩を掴みものすごい剣幕で口を開いた。





「私ちょっと本当にちょっと用事思い出しちゃって、それで、本気で悪いと思ってるんだけどいかないといけないところがあって、それでそれで、今度また休みができたらその時は絶対付き合うから、えーと、」




えーと、えーとと言葉につまりぐるぐるとした頭の中をなんとか落ち着かせようとしていれば、驚いた表情をした吾郎が「ストープ」と言いながら笑っていた。思ってもみなかった吾郎に思わず私の言葉がとまり、吾郎を呆然とした顔で見上げた。






「分かった。今度お返しはしてもらうから、行って来い。その代わり、怪我だけはするな」



「あー、う、うん」




怪我をしない保障はツナ達と一緒にいればどこにもない。しかし、ここは頷いておかなければ吾郎は私を解放してくれないと思い、私はぎこちない笑みを浮かべながら頷いた。それに満足したのか吾郎は「じゃ、言って来い」といって腕を上に上げると左右にふった。





「晩御飯までには帰るから!」





そういうと私は吾郎から手を離し、踵を返して走り出していた。自ら厄介ごとに頭をつっこみに行っている自分の人の良さを呪いながらもツナ達の方へと急いだ。






「……ったく、良い加減俺にも教えてくれれば良いのによー」


























思わずかけよった先にはそれはそれは可愛らしい子がいた。おぬし、と聞こえたような気がしないこともなかったけれど、このさい今が21世紀だと言うことで、聞かなかったことにしよう。







?!」



「あっ、…ツナ大丈夫?!」





あまりの可愛い子の出現に一瞬自分が何故ここまで来たのか目的を忘れてしまっていたらしい(ごめん、ツナ)けれど、ツナに名前を呼ばれて視線をツナへと戻せばいつの間にか獄寺も山本もツナのところにまで来ていた。


どうやらそこまで酷い怪我はなかったみたいで少しだけかすり傷があるくだいだ。結構丈夫だよなツナも、と関心しながら良かったと、思い肩を撫で下ろしていれば「う゛お゛ぉい!!」と声が上から聞こえて来た。


私達の視線は一斉にそちらへと向かう。視線の先には銀色の長い髪を風に乗せたそれはそれは目つきの悪いお兄さんがいた。それも服が色々可笑しい。黒一色。なんだか、嫌な予感がしてならない。
そして、私の嫌な予感は大体当たるというかここ最近は絶対当たっているからきっとこの予感も悲しき事ながら外れてはくれないんだろう。







「なんだぁ?外野がゾロゾロとぉ。邪魔するカスはたたっ斬るぞぉ!!」


「あぁ?!」


「な…何なの一体?!」





もう獄寺にいたっては立派なコンビニ前にたむろしている不良さんだ。ツナの反応にいたっては私とまったくもって同じ反応で少しだけ安心できた。

そして、目の前の銀髪のお兄さんだってこのたたっ斬るなんて言ってる時点で一般人じゃないに決まっている。だって、一般人だったらたたっ斬るなんて普通言わないしね!それに、そもそも剣を持ってたりもしないからね!!
あぁ、やっぱりツナの心配なんてしないであのまま吾郎と一緒に非難して買い物をしていたほうが良かったかもしれない。







「嵐の予感だな」






リボーンの呟いた一言に一気に絶望感がおそってくる。どうやらこの場にいたがために、私もその嵐に巻き込まれそうな予感だ。激しい爆音が再びその場をつつみ、瓦礫や砂が周りを囲う。ツナが叫んでいる声が聞こえたと思えば、隣にいた京子ちゃんにリボーンが話しかけているのが見え、私はそれを横目に見ていた。






「女子供は非難するぞ」


「リボーン君……!」




「いや、ちょっと、まって私もこれでも一応女なんですけど?!」





それなのになんで私には言ってくれないんだよ、リボーン…!と口に出しながらリボーンを睨みつければ、ニヤリと嫌な笑みを浮かべたりボーンは「お前はしっかり今からあることを見とけ」と言って京子ちゃんだけを連れて去ってしまった。
え、ちょ、えぇー、
とショックを受けていれば山本が私に視線をやり私の肩を叩き「大丈夫だって。どうせ映画の撮影かなんかだろ?」といつもの爽やかな笑みをうかべながら言う。



これのどこが映画の撮影なんだ!今までの経験からして絶対違うだろ!といってやりたいけれど、どうせ山本のことだ言っても無駄だ。





こんなところでまでその天然っぷりを披露しなくても良いのに。思わずあまりの山本の天然ぶりに泣きそうになるのをこらえて目の前で怯えてるツナをなんとか落ち着かせようと声をかけようとすれば、それよりも先に可愛い子ちゃんがツナへと話しかけていた(可愛い子ちゃんって死語?!)





「すみません、沢田殿」


「え?!!」


「つけられてしまいました」





可愛い子ちゃんの言葉遣いに呆然となりながらも、話に耳をかたむける。ツナの名前を知っているからてっきりツナの知り合いかと思ったけれど違ったらしく、ツナは周りにハテナマークをたくさんとばしている。
そして、私の視線は可愛い子ちゃんの額へといった。ツナと同じ炎。いや、ツナとまったく同じと言うわけじゃない。青の炎を額へとうかべる可愛い子ちゃん。これを見れば確実にツナ……というかマフィアの関係者間違いない。


あぁ、吾郎。私はどうやらついに本当に踏み込んではいけない場所に足を踏み込んでしまったようです。そして、私は正真正銘女子供に分類されるはずだと訴えたいです。







訴訟起こします!





(いや、嘘です……リボーンにはかないませんから)






 




(2008・11・18)

やっと指輪争奪編突入です!お待たせしてしまって申し訳ございませんでした(土下座
ゆっくり更新していくと思いますが、よろしくお願いします!