教室の入り口でこちらを見ている女子に俺は首をかしげた。あんな知り合いいたっけかな……と思っても、三つ編みで眼鏡の女の子なんて俺の記憶に合致する人物は一人もいない。それに俺に女の子の知り合いなんてこの学校じゃ、京子ちゃんと黒川ぐらい。
一体何のようなんだろうと思うけれど、最近俺に話しかけてくる人、と言うかリボーンの連れてくる奴はマフィア関係の人ばかりで少しだけ俺は憂鬱になった。だって、普通の女の子がこんな駄目ツナの俺に話しかけてくることなんて早々ない。きっと、リボーンの奴の差し金かと思ったりもしたけれど、俺を呼んだ女の子は本当に普通の女の子に見えてとてもじゃないけどマフィア関係者にはみえなかった。いや、でも、マフィア関係者に見えなくても、マフィアの奴もいるし、用心にこしたことはないのかもしれない。
「おっ、ツナに客だな!」
「10代目、あの女知り合いッスか?」
「いや、知らない子だけど……」
「じゃあ、俺が果たして「ちょぉぉぉっと、待って獄寺くん!大丈夫だから!!」」
ダイナマイトを取り出しその女の子の方へと歩き出した獄寺くんを焦ってとめにはいる「はは、また花火か?」なんていっている山本はさておき、俺はその女の子の方へと向かった。今日は弁当を忘れたから早く購買に行ってパンか何かを買わないといけないのに、と思いながらもさすがにその女の子に呼ばれたことを無視するわけにもいかずに彼女の目の前に立つ。後ろには山本と獄寺くん「10代目、油断しないで下さいね」と小声で言われ、はぁとため息をつきたくなった。
目の前の女の子は眼鏡をあげると、こちらをまっすぐに見る。先ほどまでは気づかなかったけど、誰かに似ているような気がする。一体、誰だろうか。もしかしたらこの女の子と俺は面識がある?いや、そんなはずは……
「貴方が沢田くん?」
「あ、はい、そうですけど」
どこかで聞いたことのある声よりも僅かに高い声。あぁ、と思えばこの声は、よりも僅かに高い声だ。思えば、目の前の女の子はに似ている。だけど、がここにいるわけがない。今日は平日であり、ここは並中。もしがいるとしてもそれは風紀の仕事を手伝う放課後のはず。だからこの目の前の女の子がのはずがない。
「おい、お前!10代目に何の用事だっ?!」
「ちょっと、獄寺くん!」
獄寺くんの声は周りの昼休みと言う謙遜のなかでも一際目立った。こんな言い方じゃ、目の前の女の子はおびえてるんじゃないだろうか、と言う不安さえ出てくる。獄寺くんに言い寄る女の子が多い中で、彼の一言で泣いた女の子も多いってこと、獄寺くんは知らないんだろう。周りの人たちも少しだけ興味ふかそうにこちらを見てくる(あぁぁぁ、もう目立ちたくなかったのに……!)焦った俺は女の子の視線をやる。
しかし、その女の子は俺の予想とは違い怯えてなんかいなくて、むしろあきれたような顔で獄寺くんを見ていた。獄寺くんに対してこんな顔をしている女の子をこの学校で始めてみた俺は、少しだけ驚く。そして、その表情はまさにの表情そのものだった
「獄寺、学校でもその態度はちょっとどうかと思うよ?」
「はぁ、テメー何言って・・・・・・」
俺と獄寺くんは開いた口がふさがらない。眼鏡をはずし、こちらを笑いながら見ている女の子はどこからどう見ても、だった。後ろから、「すっげー、に似てるな!」と言う声が聞こえる。いやいや、山本本人だから!がその山本の一言に「いや、私が、だから」と言えば「名前も一緒なのな」なんて言っている。
の表情が一気に説明するの面倒くさい、と言う顔になっていた。そのことを知ってか知らずか、獄寺くんが「だから、こいつがあのなんだよ、野球馬鹿!」と言えば、山本もやっと気づいたのか一瞬目を丸くして「はは、似てると思ったぜ」なんていっている。
「だけど、なんでがこんなところに」
「沢田くんが忘れたお弁当を届けにきましたー」
「えぇぇ?!ありがとう……って、どうしてが?!」
「リボーンに脅された」
「あ、なんか、ごめん。本当」
ボソッと呟かれたの一言に俺はただ謝ることしかできなかった。俺が弁当忘れさえしなければ、はリボーンに脅されることもなかっただろうに。いや、だけど、それがどうしてその今のの格好に繋がるんだ?いつもとは違い、並中の制服を身にまとった。俺の考えてることが分かったのか「リボーンから変装して並中を偵察するように言われたんだ」と力なく言われた……ごめん、。俺が弁当を忘れたばっかりに。心のそこからにわびた。
「用事がすんだんなら早く帰りやがれ!」
「はいはい、言われなくても帰りますからー」
「はん。当たり前だろ。これ以上、お前がここにいたら空気が悪くなるぜ」
「おい、獄寺、」
「私としては獄寺がいた方が空気が悪くなると思うけど?」
「なんだと、テメー?!」
「何、表にでる?」
いつものように言い合いを始めると獄寺くんの姿に頭が僅かに痛くなった。周りでは、特に女子がヒソヒソと何かをささやきあっているように見える。時折、聞こえてくるの声に耳をすませれば、どうやら獄寺くんとの話をしてるらしい。
確かに獄寺くんが女の子とここまで話をしている……というよりは言い合いだけど、それはこの学校のなかではとても珍しいことなんだろう。よくよく考えてみれば、獄寺くんとこんなに話す女の子なんて俺の知ってる限りではだけだ。それに、最近ではやっと獄寺くんもに向かってダイナマイトを取り出すようなことはなくなったし、状況としてはよりよいほうにむかっているんだろう(と、思いたいだけなんだけど)(いつも止めてる俺の身にもなって欲しいよ!)
「あの子、獄寺くんにあんな態度調子に乗りすぎじゃない?」
「不細工なのに調子のりすぎじゃなぁい?」
まるで俺達に聞こえるかのように言葉に、俺は眉をひそめた。その声のしたほうを見れば派手な女子がこちらを見て、まだ何かをに対して悪口を言っていた。僅かにあの山本の表情さえもゆがむ。もちろん、俺だって友達のことをあんな風に言われて黙っていられるわけがない。
「うるせぇんだよ」
だけど、俺が何かを言う前に獄寺くんがまるでギロッと効果音のつきそうな目でその女子達を睨んだ。まさか獄寺くんがそんな風に言うなんてとてもじゃないけど俺には考えられなくて、もちろんも獄寺くんがそんな風に言うなんて思っていないらしく本当に驚いた顔をしていた。
絶対獄寺くんに対して失礼なことを考えているんだろう、と思っていれば「獄寺、熱があるんじゃないの」とボソッと言っているのが俺の耳に入っていた。いやいや、。それは獄寺くんに失礼だから!でも、獄寺くんの耳のもその言葉は聞こえたのか先ほどの女子を睨んだ目のままの方を睨んだ。先ほどの女子達がその瞳にビクリと怯えた反応を見せたにも関わらずはそれをなんともないかのように睨み返していた。なんとなくそのの反応にあぁ、やっぱりはだと納得してしまう。
「テメー、今なんて「ほらほら、獄寺くん。早くお昼食べないと昼休み終わっちゃうから」」
無理やり獄寺くんの言葉を遮り、俺は時計を見た。すでに時刻は昼休みに入って10分たっている。
はこの後どうするんだろうと思いを見れば山本が何かを思いついたかのような顔をしたかと思えば「あ、そうだ。も一緒にお昼食べていかねぇか?」と言っていた。はその言葉に目を丸くしている。
「えっ?!いや、でも私、ツナにお弁当をとどけに来ただけだから」
山本の誘いに、乗り気じゃなさそうな。しかし、山本が「そんなこといわねぇで食って行けよ。ここの購買の焼きそばパン凄い旨いんだぜ?」と一言言えば、次の瞬間に行くと、頷いて見せた……あ、うん。やっぱりはだよね。獄寺くんはも一緒にお昼を食べるのが納得いかないのか不満そうな表情をしている。だけど、結局何も言わないところを見ると、獄寺くんもまんざらじゃないのかな、なんて思ってしまう。
なんとなく皆で食べるご飯なんて始めてだ、と言うことに気づき俺は無性に嬉しくなった。以前の俺にはこんな昼を一緒に食べる仲の良い友なんていなかったのに。
「どうかしたんですか、10代目?」
いつの間にか微笑んでしまっていた俺に獄寺くんが問うた。その一言に購買のパンの話題で盛り上がっていた山本とも俺のほうを見る。集まる視線に僅かに恥ずかしさを覚えながら正直に「なんか、皆で食事とか楽しみだなって思って」と言えば、と山本も俺と同じように微笑を返してくれる。獄寺くんだけは少しだけ恥ずかしそうに、視線をずらした。
「まぁ、色々大変なこともあるけどね」
の表情が僅かに憂いをおびる。俺は確かに、とその言葉に心の中で頷きながらの顔をまっすぐに見た。そんなこと言いつつも、心のそこから嫌な表情はしてないように見える。むしろ、嬉しそうな表情をしているを見て、俺はもっと嬉しくなった。「じゃあ、購買に行こうか」と4人で購買へと向かいながら、集まる視線なんて気にしないで俺達は俺達で会話を楽しんだ。
これが、俺達の日常なんだ。
だけは時折周りの様子を見て「並中の女子に呪い殺されるかもしれない」と呟いていた。俺はその言葉に何も言えずにただ苦笑を返すことしか出来なかった(獄寺くんも山本も人気が凄いから、ね)骸が襲撃したときにはまたこんな風な日常を過ごせなくなるんじゃないかと不安に感じたりもした。いや、骸を倒したあともそんな不安は俺の中にあった。は、どうやら骸と知り合いみたいだったから、あんな事になってしまって、不安だった。でも、今、俺の目の前にいるは笑っている。そして、俺達も笑っていて、ただ、それだけのことが嬉しく感じられた。
「(俺達が退院した後も、たまに、上の空の時があったもんな……)」
骸たちは一体、復讐者につれられ今はどうしてるんだろうか、と俺だって気になるぐらいだから、骸と知り合いだったはもっと気になってるんだろう。小言弾を撃たれたときののあの泣いている表情を思い出す。実際泣いているわけじゃなかったのに、何故あの時の俺にはが泣いているように見えたんだろう。それは結局どうしてかは分からないままだけど、でももうにあんな表情はさせたくないとは思う。
「ツナ、早く行かないと焼きそばパンが売り切れちゃうよ!」
「はは、元気なのな!」
「お前らもっと落ち着けねぇのか?!」
「あ、ちょっと、待って!」
こんな日常がずっと続けば良いのにと思いながらの言葉に俺は三人のあとを追うように足を動かした。
充実した日々
(以前の俺からは、とても考えられない毎日)
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(2008・05・15)
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