リボーンとの約束の時間。あと一時間もすれば昼休みが始まるであろう時間に私は一人寂しく並中の校門の前の電柱の影に立っていた。さすがに校門のまん前に立っていれば不審に思われ、もしかしたら風紀委員が来るかもしれないと思ってこの場所でリボーンを待っているんだけど、どうやらこの場所に立っているのも不審に思われているらしく先ほどから通り過ぎていく人の視線が痛い。



そりゃ、この時間に見た目だけは並中の生徒が学校にも入らずに目の前の電柱の影に隠れているなんて可笑しな絵に決まっているよね!









少しだけ下がってきた眼鏡をクイッと上げ(実はこの動作にあこがれていたなんて誰にも言えるわけがないよ!)、慣れない三つ編みに手をやる。初めてにしては綺麗にできた三つ編みと、この眼鏡で私は本当に変装していると言えるんだろうか。











「(どうも、コスプレしてるとしか思えないんだけど……)」










まぁ、もう諦めよう。とりあえず、リボーン早く来てくれ!と思い、少しだけ電柱から顔を出して並中の様子を伺う。何度も訪れているはずなのに、今日の並中への入りづらさは今までにないくらいだ。初めて並中に来たときよりも、入りづらいと思えるのは相当凄いと思う。



やっぱりこのコスプレ
「変装だぞ」……失敬。変装が影響してるんだと思う。と言うか私は今の言葉にした覚えはない。目の前を見れば、リボーンがこちらを見上げて立っていた。つっこむ気すら起きずに私はただただリボーンを見た。








「ちゃおッス」


「……リボーン」


「ちゃんと時間通りに来たな。マフィアは時間を守ることから始まるんだぞ」




「うん、分かった。分かった(リボーンと話してると直ぐにマフィアに持っていくんだよね)」









マフィアの癖に時間はちゃんと守るとかある意味凄いよね。犯罪者でも時間は気にするんだね、とか思っていればリボーンから手渡された紙袋。それに一瞬だけ頬が引きつったのは、きっと先ほど渡された紙袋の中身が中身だったからだろう(さっきよりは小さい紙袋だし、もう制服はありえないから。うん、ありえない、ありえないありえない)紙袋の中を覗けば、そのなかには一つのお弁当が入っていた。






これがツナに渡すお弁当かと瞬時に理解すれば、リボーンは「じゃあ、後は任せたぞ」と言って、踵を返し、歩き出してしまった。私はその後姿を見つめ、携帯で時刻を確認する。時刻はリボーンに教えてもらったお昼休みまで、あと40分。

ツナの教室も分かっているし、今、向かったとしてもきっとここからじゃ10分足らずでツナのクラスについてしまうことは確実だろう。









「まだ授業中だよ、ね」







さすがに授業中にたのもーなんてツナのクラスに入る勇気もないよ、私。でも、ここでこのままあと40分もいるのも、警察かどっかに通報されちゃうかもしれないよ(さっき主婦二人組が私を見ながらこそこそしてたんだよね!)(なんか、もう挫けちゃいそうだよ……!)授業中だったら、誰にも会うこともないだろうし大丈夫だろうと思った私は並中へと足を踏み入れた。なんだか、魔王の城みたいに感じるし(むしろ、雲雀さんという魔王もいるし)、それも私のレベルは1と言っても過言じゃないから、絶対生きて帰れる気がしないんだよね!


















たまに先生の声が漏れる教室の横を通りながら、私はどこか行く場所が決まっているわけもなくただただ歩いた。教室で授業をしている先生も、授業を受けている生徒も私にはまったく気づかない。


とりあえず、昼休みまでの時間をどこでつぶそうかと思いながら歩いていれば「おい」と後ろから声をかけられた。私の足はその声にとまる。どこかで聞いたことのある声。その声の持ち主が誰かが分かってしまい、私の額には冷や汗がうかんだ。チラッと後ろを伺えば、そこには草壁さんの姿。






早速、見つかってしまった!こんな展開望んでなかったのに!と思っても、もう遅く草壁さんは「こんなところで何をしているんだ」と、言った。私は、振り向き途中の姿でなるべく草壁さんのほうに視線をやらずに、下を見た。










「(さすがに、ツナにお弁当を届けにきました、なんていえないよね)」









って言うか、言えるわけがないよ。そんなこと言ったら、絶対に優しい草壁さんのことだから、ツナのクラスまで誘導してくれるような気がするし、そもそも、私がってバレてしまう可能性が高まる気がする。そして、草壁さんにバレたら、雲雀さんにもバレてしまう気がとってもするんだよね!いやいやいや、雲雀さんにバレたりしたらいつも以上に小言を言われるに違いないよ。君ってそんな趣味があったんだ?、とか、僕の学校の制服君みたいなのが着ないでくれる?、とか。




だけど、よくよく考えれば風紀委員だけ学ランって言うのもコスプレっぽくない?(さすがに雲雀さんには言えないけど・・・・・・)(雲雀さん、並中の今の制服ちゃんと着たことあるんだろうか。あ、でも入学式ぐらい、ね?)だけど、そんなこと言ってたら草壁さんもコスプレしてることになってしまうじゃないか、と思い頭を左右に振り、邪心をとりはらう。








「おい、聞いてるのか?」







邪心をとりはらい、草壁さんの声に私はハッと自分が今どんな境地に追い込まれているのかを思い出した。だらだらと流れる冷や汗を拭うこともできずに、私はこの境地をどうやったら逃れられるのか必死に考える。そして、出てきた一つの答え。











「(逃げるしかない……!)」










なんか、私逃げること多くないかなって言うツッコミは置いておき、草壁さんには悪いけど、ここは逃亡させていただきたいと思う。顔はあまり見られてないしから大丈夫として、どこに逃げるかが問題なのだけど並中には何度も来たことがあるせいか、逃げる順路もすぐに頭の中で考えることができた。



草壁さんの足がこちらへと一歩踏み出した瞬間を見計らって私は足にグッと力を入れて走り出した。「ま、待て!」と言う声が後ろから聞こえてきて、僅かに心が痛んだけど、私は草壁さんの言うとおりに待つわけにも行かず必死に足を動かした。少しの間は後ろから草壁さんの足音が聞こえてきてはいたけれど、それもすぐに消えた。きっと、授業をしているクラスでは廊下から聞こえてくる音は何事かと疑問に思ったことだろう。





授業中に迷惑をかけましたと思いながら、駆け上がった階段の上で乱れた息を整えれば、チャイムの音が学校に響いた…・・・私、どれだけ草壁さんと鬼ごっこしてたんだろう。しかしやっとこれで帰れると気分を新たに弁当を握り締め、私はツナがいるであろう教室へと向かった。











「だからー今日はー、」



「食堂行こうぜ!」




「やだ、この雲雀さんの写真どこで仕入れてきたの?!」



「早くいかねぇと売り切れるぞ!」












元気な学生達の声が先ほどの授業中が嘘のように学校中にあふれる………あれ、途中変なのなかった?いや、そんな雲雀さんの写真の話なんてするわけがないよね。まさか、そんなありえるわけが
「きゃー、この雲雀さんすっごいかっこ良い!」って、あ り え た よ !私はその声のするほうを向く。そちらを見れば、数人の女の子達が輪をつくり、何かを見ているように見えた。




きっと、その何かがあの写真なんだろう、けど、それが雲雀さんの写真だなんて。確かに顔は良いと思うけど、もっと現実を見て欲しい。それならまだ草壁さんの写真が出回ってくれたほうが、私だって納得できるのに。そもそも、雲雀さんって、モテたんだ。もしかしたら初耳、かもしれないなー、なんて考えて私はハッとした。





そう言えば、たくさんの生徒がいる並中は私初めてなんだ。










いつもは生徒のいなくなった放課後に来るから、分からなかったけど私、ツナ達の学校での姿をほとんど知らない。どんな姿で勉強してるのか、とか、お昼休みはどうしてるのか、とか私は知らないんだ。思えば、私はいつもツナや雲雀さん達と一緒にいるような気がしていたけど、それは私の錯覚なのかもしれない。






だって、よく考えれば私と彼らが過ごす時間なんて休日とたまの平日くらいなんだ。








「(なら、これってもしかしたら良い機会なのかもしれない)」








お昼休みのあの三人の様子とか(普段と変わらないとは思うけど)、授業をうけてる雲雀さんの姿とか(……いや、雲雀さんが大人しく授業をうけるわけがないか)もしかしたら貴重な姿を見れるのかもしれない。そう思うと少しだけ気を晴らすことができた。良く言えば、そんな風に考えないと、自分が何でここにいるんだろうとか自己嫌悪で負けそうになるんだよね!





止めていた足を再び動かし、ツナへの教室へと向かう。そして見えてきた2−Aの教室のドアを開ければ、教室の真ん中の方にツナの姿を見つけた。かばんの中を必死になって、探している姿には思わず笑みがこぼれる。きっと、この時間までお弁当を忘れたことに気づかなかったんだろう。近くにいた人に声をかけ「沢田くんを呼んでくれません?」と言えば、少年はツナの名前を呼んだ。その瞬間に交わる私とツナの視線。


ツナの周りにいた山本と獄寺の視線もこちらへと向いた。一気にきつくなる獄寺の視線にやっぱりな、と思いつつこちらを見て不思議そうな顔をしているツナ。きっと、私だと気づいていないんだろうと言うことは容易に想像ができた。











正直、楽しんでます











 





(2008・05・11)