皆が退院してからもう幾日がたった。そろそろ骸さん達とのことから一ヶ月を迎えるというのに、私はまだ骸さん達のことを引きずっていた。いや、引きずっていると言うよりも、やっぱり骸さん達がいないことが寂しく感じるといった方が正しいのかもしれない。でも、この寂しさもいずれ無くなってしまうんじゃないかと思うほうが私にとっては寂しいことだった。

忘れたくなくても記憶は常に新しい記憶に塗り替えられていく。だから、私には彼らとの日常を忘れないように、と思うことしか出来ないんだ(骸さん達、今頃何してるんだろうな……)(千種くん、苦労してないかな)



だけど、そんな思考もプルルと鳴り出した携帯電話によってとめられる。ハッとして携帯の画面を見れば、そこにうつしだされた非通知と言う文字。私はこれだけで誰から電話がかかってきたのか瞬時に理解してしまった。






そして、この大切な休日がつぶれてしまうということも。











私が今日、休日なのは我が氷帝学園の創立記念日だからで、私の学校以外では普通に授業が行われている。もちろん、並中でも普段どおりに授業が行われていると言うことは当たり前のことで、私はそのことに安心しきっていた。ツナ達が学校なら私が呼び出されることなんてないと思い込んでいたし(って言うか、まさか呼び出されるなんて思いたくもなかった!)


なのに、私はどうして今ツナの家へと走ってむかっているんだろうね。いや、理由は一つしかないんだけど……リボーンからの電話で呼び出されてしまったからなんだけど。でも、本当どうして?それも今ツナの家にツナはいないわけで、少し居心地が悪い気もする。そんなことリボーンにとったら関係ないんだろうけど。あーあ、私の気持ちも少しぐらい考えても良いじゃないか!って言ってやりたいよ。でも、そんなこと言えばリボーンから返ってくるのは、一発の銃弾なんだろう。



私はまだ、死にたくない。






ピンポーン





ツナの家の呼び鈴を鳴らせば、リボーンが「ちゃおッス」と言いながら私を出迎えてくれた(全然嬉しくなかった!)(どうせなら、ツナママが出迎えてくれれば良かったのに!)いまだどうしてここに呼ばれたのか分からない私はリボーンの言うがままに、ツナの家へと足を踏み入れた。どうやら、ツナママは今ランボくんたちと買い物に行っているらしい。


やけに静かな家に、私の緊張はさらに強まった。次に紡がれるリボーンの言葉が怖くて怖くて仕方がなかった。







「あの…それで、今日は何の用事?」








静かなリビングで響く自分の声。我ながら情けない声にいささか悲しみを覚えながらも、私はリボーンの言葉をびくびくしながら待った。そんな私に対してリボーンは「今日はお前に大切な任務を与えるために呼んだんだぞ」とはっきりと告げた。

大切な任務。悪い予感しか感じないのは、もう今までにリボーンから特訓という名の嫌がらせしかうけたことがないからなんだろう。





「大切な任務?」


「そうだ。この弁当をツナに届ける のが今日の任務だ」



「いやいや、なんで私がツナの弁当を届けないといけないのかがわかんないんだけど」




「ツナが弁当を忘れて行ったからだぞ」





リボーンの一言に、私はツナの馬鹿……!と心の中で叫ぶ。なんで、弁当を忘れて行くんだよ!って言うか、そもそもだからって私が弁当を届けなくても良いじゃん!リボーンが行けば良いじゃん!なんで、私がいかないといけないんだよ!と思っていれば、リボーンがニヤリと嫌な笑みを浮かべ「俺には別の用事があるからな」と、言った。

私、口に出した覚えはないのに。いや、相手はリボーン。そんな当たり前のことは通用しない相手。それに、ツナの話によれば確か読心術が使えるんだったっけ。







「でも、」







平日にさすがに他校に出向くのは嫌だと思った私は、断ろうと思い口を開こうとすれば、爆発音とともに私の横を何かが通り過ぎて行った。ちらっと振り返りその何かを確認すればそこには壁にめりこんだ銃弾(ここツナの家なのに!人の家で銃を発砲するなよ!)思わずひきつる私の頬は、意図したものではなかった。


そんな私のリボーンはもう一度問う「ツナに弁当を届けてくれるよな」、と。








「もちろん、ツナに届ければ良いんだよね!」








冷や汗の流れていくのが自分でも分かる。だけど、これ以上リボーンに逆らうのは私にはできなかった。できるわけがなかったんだ。だって、これを断ったりしたら私きっとあの銃で殺されちゃうに決まってるから!リボーンは私の答えに納得したのか、少しだけ微笑を深くした。最初の頃はあまり分からなかったリボーンの表情の変化も最近では少しだけわかるようになってきた気がしないこともない。

とりあえず、今のリボーンが結構嬉しそうと言うのは、なんとなく分かった。その事に、私の背筋に冷たいものが走った。絶対に良くないことを考えている、と直感がそう私に告げている。






「じゃあ、これをちゃんと着ていくんだぞ」



「え、いや、これって……」







リボーンに手渡された紙袋の中を覗けば、中にはどこかで見たことのある服が入っていた。濃い紺色のベストに、ブラウス、そしてスカートと、赤いリボン。一瞬で私の顔から血の気が引いた気がした。


これは、もしや、と思い顔をあげれば、リボーンがこれまた口端を僅かにあげる「並盛の制服だぞ」私はその言葉を聞き、もう一度私は袋の中を確認する。そうだ、私はこの服を見たことがある。京子ちゃんがこの服を着ているところを。その時は可愛い制服だなー、とか思ったりはしたけど着てみたいと思ったことはない。と言うか、自分の学校以外の制服を着ることに抵抗がある。私の予感が的中してしまった、と思いハァと息を吐く。







「ついでに、他にファミリーになれるような奴がいるか偵察して来い」



「いやいや、そんなついでないでしょ。それにこれって、コスプ
「変装だぞ」







私の言葉をさえぎるリボーン。いやいや、これはどう考えてもコスプレに間違いないから。卒業して自分の母校の制服着たらコスプレって言う感じに、どんなに中学生で年齢は一緒であったとしても他校の制服を着るなんてこれはコスプレ以外の何者にもないはず。うん、ありえないよね!私には吾郎とは違ってそんな趣味はない。ましてや可愛い子が着るならまだしも、私なんかがコスプレなんて、世の中の人に怒られてしまう(……もしかしたら、ひかれるかも)(そっちのほうが可能性としては大きいよね)


それも、その格好でツナに弁当を渡さないといけないなんて、ツナに変な勘違いされたりしたら困る。それに他にも並中には知り合いが多いのに、私がコスプレ好きなんて思われるなんて絶対に嫌に決まってる。











「さすがにコスプ
「変装だぞ。ちなみに、これもセットだぞ」



「セットって、いやいやいやいや、なんで眼鏡?私、目悪くないし、「だから変装だぞ」」






マフィアには変装も必要だからな。お前がだとバレないに並中に進入するのが今回の特訓だぞ、と、言う言葉に、私は心の中で、そんなこと言ってないから!と、つっこんでいた(どうせ、リボーンに言ったって聞いてもらえないからね!)(……って、この時点で私なんか駄目なような気がする)リボーンに手渡された眼鏡と紙袋を見る。絶対にコスプレはしたくない。しかし、目の前のリボーンはどうやら私の言うことを聞いてはくれないらしい。こちらに、銃を向け、早く着替えることを私に催促してきた。私の頬は再び引きつる。







さぁ、どうする?!ここでコスプレをしてしまうのか?いやいや、そんなことできるわけがないじゃないか。私は吾郎じゃないし、可愛い子がコスプレするならまだしも、私だよ、私。コスプレしたって痛い子じゃん!そんな姿でツナにお弁当を渡しに行くことなんてできるわけ?もしも、これがきっかけでツナに変な勘違いなんかされたら、今後私の苦労を分かってくれる人がいなくなってしまう。あぁ、それに、並中といえば雲雀さんがいるじゃないか!それに草壁さんだっているし!そもそも風紀委員がいるのに、潜入なんてできるわけないんだよ(そりゃ、制服は並中のだけど!)


やっぱり、無理だ。無理。ここはもう断るしかない。私の趣味がコスプレなんて思われたら、私生きていけなくなるし……チャキッ、と私の目の前で引き金をひこうとするリボーン。生きていけなくなるもの困るけども、ここで死にたくはない。






「………了解しました」






始めから私に拒否なんて選択肢はなかったんだ。そんなこと分かりきってたことじゃないか。ふふ、と漏れる笑いは自分自身のあまりの運のなさへの自嘲。






「じゃあ、一時間後に並中だぞ。ちゃんとバレないように変装してくるんだぞ」



「(……リボーンも行くんなら、リボーンが弁当届ければ良いじゃん)」



「一分でも遅刻したら分かるよな?」








リボーンの銃が再びこちらを向く。私はそれに無言で何回も首を縦に振った。これは、一秒たりとも遅刻なんてできない。握り締めた、制服の入った紙袋が今の私にとっては何よりも憎かった。並中潜入任務、成功できる気がしないのは私だけ、かな?いや、多分、私だけじゃないだろうけど。とりあえず、ツナや草壁さんに変な勘違いをされないと良いのに、と私は静かに願った。どんなに他の人に変な勘違いをされようとも、この二人にだけは絶対に勘違いされたくないからね!








レッツ、変装調査!




(いや、これってただのコスプ(変装だぞ)……)









 



(2008・05・08)