ツナを囲う4人の姿。そのすべては私の大切な人なのに、それなのに、私は骸さんの言うように弱いから何もできない「君の仲間をこれ以上傷つけられたくなければ」「逃げずにおとなしく契約してください」ビアンキさんと獄寺から紡がれる無情とも思えるような言葉。どんなに臆病で恐がりであるツナであったとしても、ツナは誰よりも仲間を大切に思っている。そんな事言われれば、ツナは何も言えなくなるなんて容易に推測できることだった。
最悪の決断。自分を選んでも、仲間を選んでも、最後に待っているのは、最悪な結末でしかない。リボーンに助けを求めるツナは、もうこれ以上ないといっても良いくらい切羽詰っていた。だけど、リボーンはツナに「自分で何とかしろ」と、ツナにとってはつらい言葉を吐く(ツナのことだから何とかできたらもうとっくの昔にしてると思うのに!)(なのに、どうしてそんな酷いこと言うんだ!)リボーンの言葉に私はむっと眉を寄せた。
「お前は誰よりもボンゴレ10代目なんだ」
「!?」
「おまえが気持ちを吐き出せばそれがボンゴレの答えだ」
しっかりとリボーンはツナの目をみてそれをいって述べた言葉に私はリボーンが別にツナを見捨てたわけじゃなかったんだと言う事を知った(そうだよ、リボーンが私達を見捨てるわけがない)(それなのに、私はリボーンを疑って、)ツナはこの言葉を聞いてどうするんだろうか。逃げる?いや、ツナが逃げるわけがない仲間を残して、自分ひとりだけ助かろうと思うような人間じゃない「彼の気持ちは"逃げ出したい"ですよ」と言う骸さんの言葉
「骸さん、それは違いますよ。ツナは、弱くないから逃げない」私とは違って、と言う言葉は飲み込んだ。骸さんは私の言葉に眉をひそめる「君は随分ボンゴレを買いかぶっているようです」そんな事ない。骸さんと過ごした時間が真実のように、私がツナと過ごした時間もそれは真実なんだ。
だから、私はツナが逃げないという事を知っている。彼はそんな弱い者ではない。
「骸に……勝ちたい――…」
ツナの声が静かな廃墟に響く。ほら、私が言ったとおり、ツナは逃げる事なんてしない。
「こいつにだけは勝ちたいんだ!!」
はっきりと、ツナが骸さんの目を見て言う。あぁ、ツナはこうやって覚悟を決めているというのに、私は結局何もできないままなんだろうか。堂々巡り。まさに今の私はその状態。何かしたいと思うのに、何も出来ない。何も出来ないとわかっているのに、何かしたいと思う。
「って、うわ、な、な、何これ?!」
ツナの言葉のあとに、一瞬目もあけられないくらいの光が部屋中を包んだとおもえば、リボーン曰くレオンがマユになっていた。四方八方に伸ばされているマユの糸……あの、これってどういうこと?レオンって、カメレオンだったんだよね?!カメレオンってマユになるの?……ってなるわけねぇよ!!とは思ってもレオンがマユになったのは紛れもない事実で、犬くんが槍でマユを裂いた瞬間に宙を舞い、ツナの元に舞い降りたツナの新しい武器は、紛れもなくただの手袋だった。
沈黙が、その場を包む。
「毛糸の手袋〜〜?!」
驚くツナ。もちろん私だって驚いている。新しい武器って、いや、もう何ていうか手袋が武器になるわけがない「手の血行良くしてどーすんだよ!!」ナイスツッコミ!素晴らしすぎるツナのツッコミに心の中で拍手をしておいた。
確かに。手の血行を良くした所で骸さんい勝てるとはとてもじゃないけど、思えない。それに今はまだ暑さの残る9月。手袋がいる時期にしては早すぎるだろう。むしろ早すぎるとかそいういう問題でもない。ツナの焦り、そして、私の心配はもうとまるところを知らない。
しかし、そんな私達にはおかまいなしに犬くんがツナに槍を振り落とした。毛糸の手袋なんかでとめられるわけがない、と目を瞑った私の耳に聞こえてきたのは、ガキッという硬いものと硬いものがぶつかった音だった。とても、毛糸の手袋と槍がぶつかってたてる音ではない。私のその音を聞き、恐る恐る目を開いて、ツナと犬くんを見た。ツナの手袋の中から出てくる銃弾。死ぬ気弾?と咄嗟に思ったりもしたけれど、どうやら死ぬ気弾ではないらしい。
「よこせツナ」
リボーンがツナに声をかけるも、ビアンキさんたちがその弾をリボーンに渡さないようにと、ツナへと攻撃をしかける。獄寺のダイナマイトがツナを囲み、危ない、と思った時には既に私の足が動いていた「?!」焦ったような声。一体誰の声なのかは私には分からなかったけど、私は爆発の中につっこんでいた。、と名前を呼んだのは誰?この状況を考えれば、ツナかリボーンだということは分かりきった事なのだけど、その声は2人のものとも違った声のように聞こえた。
だけど、骸さんはもう私の名前なんて呼んではくれない。爆音が私を呼ぶ声を、かきけす。
自分の周りで爆発するダイナマイトに、私の体に傷が増えた。だけど、私の足はツナのところまで届くことなくダイナマイトがツナを襲う。初めてこんなに間近で爆音を聞いた。獄寺はダイナマイトを取り出すことはあっても、それを私に向って投げた事なんて一回もなかった。こんなに痛かったんだ。これから先は自分の体のことも気遣って獄寺に喧嘩をうるのは抑えようと、爆発で飛ばされながら思った。
意識はしっかりある。大丈夫、だと自分に言い聞かせた。だけど、私の名前を呼んだのか誰なのか気になって仕方がなかった。少し遠くで倒れたツナは、リボーンの撃つのが間に合わなかったのか、動こうとはしなかった。
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「?!」
獄寺くんの声でと呼ぶのを俺は初めて聞いた(いや、きっと、の名前を呼んだのは獄寺くんじゃなくて、)ダイナマイトを俺に向けてはなった獄寺くん。その瞬間にこちらに向って走って来たに、獄寺くんの放ったダイナマイトは容赦なくを襲った。もちろん、それは俺にも言えたことで、獄寺くんのダイナマイトの攻撃をまともに受けた体は言う事を聞きそうにない。
リボーンが撃った弾は間に合わなかったんだろうか、と思い自然とまぶたが落ちる。瞼の裏に映っていく母さんや黒川の姿がうつる「お前が感じてるのはリアルタイムで届くみんなからお前への小言だ」ハルや京子ちゃんからも聞こえてくる声。これが、小言、なのか。
そして、瞼の裏にの姿が映った。からも小言を言われるんだろうか。多分、ここに来て駄目ツナな俺を見た分、は他の誰よりも俺に対しての小言が多いんじゃないかと思っていれば、瞼の裏にいるは泣いていた。目をあけて、のほうを見る。こちらを見るは泣いてないんかいない。もう一度、俺は目を閉じた。俺の予想に反しては、小言なんてもの、俺に一言も言わなかった。
「誰かが、傷つく所なんて、もう見たくない、のに」
瞼の裏のは静かに泣いている。彼女が泣いている姿なんて今まで想像したことがなかった。いつも、笑っていたり怒っていたり感情豊かな彼女であっても泣いた顔は見たことがなかったから、一瞬、俺の瞼の裏にうつっているのが本当になのか、と疑ってしまった。
だけど、泣いているは、紛れもない、俺の知っているだった。
「、」
彼女の頬を流れる涙は誰のことを思って流れているんだろうか。きっと、俺たちのことだけじゃなく、骸たちのことも思ってその涙を流しているんだろう(彼女は、どうやら骸たちと知り合いみたいだった)(それについて言及するつもりなんてこれっぽっちもないけど)目を再びあけて、傷だらけのを見た。こちらを見るの顔は今にも泣きそうな顔だった。
あぁ、やっぱり。泣いているは、の心だ。の心は既に泣いている。表面上は泣いてなかったとしても、彼女の心は、泣いているんだ。
「ツナ、」
辛うじて痛む体を起こせば、傷だらけで倒れているツナが目に飛び込んできた。私はただその光景を唖然と見ていることしか出来ないで自分が弱いんだと、そして結局何も出来ないんだと改めて思い知った気がした(骸さんの言った通りじゃないか……)私は誰も助ける事ができない。これ以上、誰かが傷つき、誰かが傷つけるところなんて、これ以上見たくないのに。何も出来ない自分に腹がたった。誰も助けることができない自分に腹がたった。
でも、腹がたったところで、私には、何も、できない。それがとても、悲しかった。
「オレの小言は言うまでもねーな」
「リボーン……?」
リボーンの一言に私は下げていた顔をあげ、ツナの方を見た。ツナに襲い掛かろうとする千種くんに、私は「危ない!」と叫んでいた。だけど、そんな声なんて必要なく、ツナがしていた手袋は黒のグローブへと変わり、ツナは千種くんが振り落とした槍を手で止めていた。
「骸…おまえを倒さなければ……」
死んでも死にきれねぇ、と言うツナはいつものツナの違って、とても、気迫に満ちているようだった。死ぬ気のときのツナとも、いつものツナとも違うツナ。私はその姿に息を飲んだ「小言弾はツナの聖なる闘志を引きだすんだ。死ぬ気弾とはまるで違うまったく新しい力を秘めた弾だからな」小言弾はリボーンの言うとおり、死ぬ気弾とはまるで違った。ツナは落ち着いて、攻撃を仕掛けていく。いつものような荒々しさはどこにもなかった。骸さんのつくりだす幻覚さえも見透かすツナに、私は心の中で頑張れ、と呟いた。
頑張れ、と叫ぶ事ができないのは私は心のどこかで、ツナだけを応援して良いのか、と思ってしまっているからだ。これが、相手が骸さんたちでなければ、精一杯に声にだしてツナを応援していたのに、と思っていても、現実は変わりはしない。
ごめんね、ツナ。私はツナを心の底から応援できないみたい、だ。本当にごめん。
「おっと忘れてしまったわけじゃありませんよねぇ。これはお仲間の体ですよ。手をあげられるんですか?」
その言葉と同時に、ツナへと襲い掛かる獄寺の姿。なんて、非道なんだろう、と思う自分もいるのに、骸さんを責められない自分もいる。人間として行っている事は最低なのに。私は彼らを責める事ができない。それは、私が彼らを裏切ってしまったからなのか。それとも、彼らと過ごした日々を私が忘れることができないからなのか、どちらなのかは分からない。
ビアンキさんと獄寺に殴られるツナ。見てられない、と思っても目をそらすことができずに見ていれば、ツナは獄寺とビアンキさんのの首に打撃を加えた。その瞬間にビアンキさんと、獄寺は倒れこみ、それをツナが支えた「待たせてごめん……」ツナはツナらしい。最後まで仲間に攻撃をしかけることなく、仲間の体を守っていた。
見えない涙
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(2008・03・22)
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