「祟りだー!!」







叫ぶ獄寺の声に、そんな事があってたまるか、と心の中でかるくツッコミをしておいた。お願いだからこんなシリアスな雰囲気の時にツッコミをさせないで欲しい、と切実に思う(あぁ、もう祟りなわけないじゃないか!)(それも、お前祟りとかそういうの気にするようなキャラじゃないだろ!)しかし、そんな事分かってはいても、私の視線は自然と倒れている骸さんの方へとうつる。骸さんは倒れたままだ。たくさんの血を流したまま。一体何が起こったのか、なんて分からない。


ビアンキさんの体なのに、中身は骸さん。理解しろ、と言うことのほうが難しいことだろう。











「クフフまだ僕にはやるべきことがありましてね地獄の底から舞い戻ってきましたよ」










骸さんの冷たい声に、私はゾクッと冷たいものが背中に伝わるのを感じた。ビアンキさんの声なのに、その声は彼女から聞いた事もない冷たい声。その声に、改めて目の前にいるのがビアンキさんではなく骸さんなんだと、理解する事ができた。何故、こんな状況になったのかはわからない。だけど、目の前にいるのが骸さんだということは紛れもない事実、なんだ「10代目ここはオレに!!」叫ぶ獄寺。何か良い策でも思い浮かんだのか、と期待した私が馬鹿だった。











「臨・兵・闘・者!!」





「(こいつ、本当に馬鹿だー!)」







それも獄寺は確かイタリアからの帰国子女ではなかったの、ツナ?!どこでそんな知識を!と思いツナの方を見れば、ツナも驚いた顔をして獄寺のほうを見ていた。だけど、まさか、こんなものがきくわけ「…うっ、うう…」・・・・・って、きいてるし!苦しそうに顔をゆがめるビアンキさんに更に獄寺は言葉を続ける。


まさかの展開に私もツナも開いた口が塞がらない。どさっと倒れるビアンキさんに思わず、私もツナも二人とも駆け寄った。さすがに、あんなキズだらけでこんなに勢いよく倒れてはキズにも響いてしまう「オレやりましょーか?」と爽やかに微笑む獄寺の声。まぁ、ツナに話しかけるときの獄寺の声なんていつもこんな声だ。不思議に思うこともない。









「獄寺く…骸!!」


「えっ?!」








その瞬間に、獄寺の持った槍がツナのいたところへと突き刺さる。あの獄寺がこんな事をするわけがない。








「ひぃぃぃ!!獄寺君が!!」








叫びながら後ずさるツナ。どうやら骸さんは次は獄寺にのりうつった(と言う言い方をして良いのか分からないのだけど、的確な表現がみつからない)らしい「初めてですよ憑依した僕を一目で見抜いた人間は……つくづく君は面白い」嫌な笑みをうかべる獄寺。その顔は獄寺のもののはずなのに、その表情は獄寺のものではなかった。憑依。そんな事がありえるのか。まるで現実離れした言葉に私は言葉を失う。いや、でも、もうこの状況さえ私の現実からは離れていてしまっているんだ。今さら何が起こっても珍しいこともないのかもしれない。









「間違いねーな自殺と見せかけて撃ったのはあの弾だな」









リボーンの言葉。あの弾とは、と思っていれば、更にリボーンは言葉を続ける「憑依弾は禁弾のはずだぞ。どこで手に入れやがった」憑依弾。ツナの死ぬ気弾は知っている。でも、その言葉は初めて聞くもの


「クフフフ、気づきましたか。これが特殊弾による憑依だと……」


私にとっては意味の分からない言葉だらけで、何がなんなのかは分からない「憑依弾はその名の通り他人の肉体にとりついて自在に操る弾だぞ」と言うリボーンの言葉を聞いて、私はやっと理解する事ができた。先ほど、骸さんが撃った弾はこの憑依弾というものだったのか「つまりこの体はー…僕のものだ」と、言い獄寺が自分の首を自分の爪で切る「止めて!」私が叫んでも骸さんはこちらを一瞥もしなかった。それが、とても悲しくて、私は唇を噛み締めた。








「さあ次は君に憑依する番ですよボンゴレ10代目」



「オ、オレ!?」



「やはりお前の目的は……」


「クフフフ目的ではなく手段ですよ。若きマフィアのボスを手中に納めてから僕の復讐は始まる」











骸さんの復讐とは一体なんなんだろう。復讐なんて悲しいもの、私は骸さんにして欲しくなんてないのに。だけど、それを私が言ったとしても先ほどのように骸さんは何も気にかけることなんてしないかもしれない。そう思うと、怖くて何もいえなかった。本当はやめて、ともう一度叫びたかった「奴の剣に気をつけろ」リボーンの言葉に獄寺の持つ、槍の方に目がいく











「あの剣で傷つけられると憑依を許すことになるぞ」







獄寺の手から槍が離れ、ビアンキさんの手へとうつる。そして、その槍は雲雀さんの頬を切った。今まで倒れていたはずの雲雀さんが立ち上がり、ツナへとトンファーを振り落とす。そして、そのまま雲雀さんも倒れた「おや?この体はもう使いものにはなりませんね」……敬語の雲雀さんにいささか、いや、かなり鳥肌がたった。雲雀さんが敬語を使うなんて所想像ができない、とは思っていたが実際に敬語を使われると違和感ありありだ。雲雀さんにこんな事考えたなんてバレたらきっと咬み殺される。だけど、そんな事を思わずにはいられないぐらい雲雀さんの敬語というのは、どんなに骸さんが話しているとは分かっていても、衝撃的だった(雲雀さんには悪いけど気持ち、悪いな・・・・!










立ち上がる獄寺。そして、ビアンキさん。どうやら、憑依できるのは一人じゃないらしい。そして、ドアの開く音が聞こえた、と思ったらそこには犬くんと、千種くんが立っていた。二人とも右目には六の字が浮かんでいる。だけど、私は少しだけ、可笑しい、と思った。骸さんは、キズだらけの雲雀さんの体に憑依はしたのに、どうして、キズなんてほとんどない私には憑依しないんだろうか。今、憑依している4人に比べたら、私なんて傷がないと言っても過言ではないくらいなのに。それに、私なら骸さんと比べれば全然力なんてないはず。骸さんが言う、契約をするのは簡単だと思うのに。




私の存在をまるで無視するかのように、骸さんはツナに攻撃を仕掛けていく。何も出来ない自分。傷つく大切な人に、私はなにもできずにただ見ていることしかできなかった。











「骸さ、ん」









ドサッと倒れる千種くんの体。犬くんの姿で紡がれる言葉に、私は息を飲む「いくら乗っ取って全身を支配したといっても、肉体が壊れてしまっていては動きませんからねぇ」それじゃあ、今傷だらけの彼らの肉体は限界に近いんじゃないだろうか。立ち上がろうとする千種くんからはたくさんの血が流れている。それでも、骸さんは、気にした様子もなく悪びれることもなく「クフフフ、平気ですよ。僕は痛みを感じませんからね」と言う。骸さんは、こんな人だったの?と言う気持ちが一気に私の中をかけめぐった。仲間思いで、千種くんと犬くんのことをいつも考えているとばかり思っていたのに、仲間が傷つこうと関係ない人間だったの?










「何言ってんの?!仲間の体なんだろ?!」




「違いますよ。憑依したら僕の体です。壊れようが息絶えようが僕の勝手だ」










黙っていられるはずがなかった。こんな事を骸さんが言ったこと自体、私にとっては信じられない。でも、今、骸さんはしっかりとその言葉を紡いだ。先ほどのように、また私の言葉なんて彼に届かないかもしれないということは分かっていた。こちらを見ることさえしないかもしれない。もしかしたら、骸さんにとって私は既に裏切り者だと認識されているのかもしれない。それでも、私はこのまま見ているだけのことはしたくなかった。優しかった骸さんの面影は今はない。少しだけ蘇る彼らと過ごした日々。それはすべて、私が崩してしまったのか、と思うと胸が痛む。だけど、私は裏切った、つもりは一切なかった。骸さんや千種くんや犬くんが大切な人、と言うことにかわりはなかった。







「そんな事あるわけないじゃないですか。千種くんは、千種くんだし、犬くんは犬くんです!」




、」



「それに、骸さんだって、骸、さんじゃない、ですか」










だから、憑依なんて、止めてください。骸さんの紡ぐ言葉は骸さんの声で聞きたい。最後は言葉にならなかった。ツナがこちら私の名前を呼び、こちらを見る。だけど、やっぱり骸さんはこちらを見ようとはしなかった。声が届かない。裏切り者の言葉なんて骸さんには届かなかったんだろうか。傷だらけの4人の姿が痛々しく、私の目にうつる。怪我だらけなのに、本当は安静にしていかないといけないのに、それでも憑依されている彼らには、安静、と言う言葉はまるで許されないかのようにツナへの攻撃が暇なく行なわれる「骸」リボーンが骸さんの名前を紡ぐ。その言葉には骸さんは反応を示した。私の言葉は聞いてはくれない、というのに、リボーンの言葉は聞くんだ、と思うと胸が痛んだ。









「傷だらけの体に憑依するよりも、の体に憑依したほうが良いんじゃないか?」









先ほどの私の疑問をリボーンが骸さんに問いただす。骸さんは、というよりは千種くんがその質問に
クハハ、とガラにもなく大きな笑い声を上げながら笑った。何が面白かったんだろうか。私は憑依なんてされたくないけど、リボーンの言った言葉はそのとおりだと思ったのに。骸さんの視線がこちらへと向く。その瞳は冷たくて、まさかそんな瞳で見られるなんて思ってもなかった、私は息を飲んだ。悲しい、なんて思っては駄目だ。こんな風に見られることも覚悟して私はここに来たん、だから(でも、頭では分かっているのに悲しいと思ってしまう)(また、あの優しい笑顔で微笑んで欲しいと思ってしまう)









「何を急に言い出すかと思ったら、そんな事ですか」



はこれでも俺の生徒だぞ」







これでも、と言うのはどういうことだ。いや、その前に私はリボーンの生徒になったつもりなんてまったくないのに……!しかし、今はそんな事は言ってられない。私は骸さんと冷たい瞳と目を合わせる。目があっているにも関わらず骸さんが見ているものは、私、ではなかった。










「弱い者に憑依しても無駄なだけです」









その言葉が私の胸に深く深く突き刺さった。弱い者というのは私のこと。そうだよ、私は弱い。弱い奴に憑依するなんて確かに、無駄だ。骸さんの言葉は確かに、そのとおりのことを言っているのに、自分でも分かっていたはずなのに、私はその言葉を聞いて、まるで絶望のふちに立たされたような気分に陥った。何も出来ない私が強いわけがない。そんな私に骸さんが憑依するわけがないじゃないか。我侭な私は弱いのに、それでもみんなを止めたくてここまで来た。だけど、私の言葉じゃ、誰一人とめられない。誰一人救ってあげられない。やっぱり、しょせんは私のエゴだったんだ。








「本当に、理由はそれだけか」



「クフフ、おしゃべりはここまでです」







4人が少しずつ、ツナへと近付く。獄寺の胸から流れ落ちる血も、ビアンキさんの腹から流れ落ちる血もどちらも止まる気配が見られない。大人しくしていたら絶対にとまるはずの血なのに。ツナの顔もそんな2人の様子に気づいて顔色が真っ青になっている。一体、私は何をするべきなのか。弱いと、改めて自覚してしまった今、私は自分に何ができるかなんて、思いうかぶことはなかった。








本当の理由











 



(2008・03・18)