雲雀さんと獄寺には先にツナ達のところへと向かって貰った。獄寺に肩をかす雲雀さんはとても気味が悪くて仕方がなかったのだけど、さすがにそんな事言ったら確実にトンファーの餌食になることは分かりきっていたので、私はそんな二人に何も言わずにその後ろ姿を見送った(途中で獄寺が捨てられないか、本当に不安なんだけど!)




その後ろ姿を見送った後、私は先ほど、千種くんと犬くんが飛ばされた所へと向かう。青い爽やかな空の下に倒れる二人は、傷だらけで、私は咄嗟に言葉を失った。










私は何をしに来た?



千種くんや犬くんを止めに来たんじゃないの?






そのはずだった。なのに、目の前で倒れている彼らは、傷だらけだ。だからと言って、彼らを傷つけた雲雀さんを責めるわけにはいかない。彼らが傷ついたのは確かに物理的には雲雀さんの攻撃のせい。


だけど、それをとめられなかった私が一番責められるべきなんだ(止める為にここまで来たはずなのに、)傷だらけの千種くんに近付き、私はしゃがみこんだ
「ごめん、」ただ、その言葉を繰り返して発する事しかできない










「ごめんなさい、ごめんなさい」








謝っても許されることじゃない。でも、分かって欲しい。私は別に千種くんや、犬くんや、骸さんを裏切ったわけではないと言うことを。確かに、今の私は誰がどう見ても、ツナ達側だ。これは、リボーンが勝手に言っていることであったしても、私はボンゴレファミリーであるし、それに骸さんがやっていることは可笑しいと思うから止めたいと思う。





でも、それでも、私は3人と裏切ろうなんて、まったく思っていなんだよ。ただ、3人が誰かを傷つけるところなんて見たくなかっただけ。今でも、大切で大好きなんだ、3人が、










この想いが分かってもらえるなんて思ってはいないけど、でも、それだけは覚えていて欲しい。ぼやける視界。だけど私は喝を入れて、涙を落とすことはなかった。泣く、なんて行為は駄目だ。


私よりも泣きたい人は、きっとたくさんいる。私なんかより、つらい人は何人でもいる。それなのに、泣く、なんてことはしたくない。スッと立ち上がり、私は千種くんと犬くんを交互に見やった。


もう一度、ごめん、と呟く。この声がこの二人に届くわけはなくても、私はそう呟かないわけには行かなかった。








「ごめん」







その瞬間に私は走り出していた。本当はもっとあの場所にいて、千種くんと犬くんに謝罪の言葉を繰り返して伝えたかった。そしてできる事なら彼らの治療だってしたかった。でも、今はそれよりも、骸さんを止めなくてはいけない。彼が私の言葉で止まってくれるなんてとても思いもしない。だけど、私にはそんな事しかできないから。振り返ることはしなかった。私はただただ骸さんや他の人たちがいるであろう、場所へとがむしゃらに走った。















***













バンッと思いっきり骸さんたちがいるであろうドアを開けた。そこには思ったとおり、骸さん、がいた。ツナや獄寺、もちろん雲雀さんだっていた。一瞬だけこちらに全員の視線があつまる


」と僅かに驚きながら骸さんが私の名前を紡いだ。骸さんと、雲雀さんはお互いに武器を取り出して、争っている。金属のぶつかりあう音が、暗い部屋に響いた。しかし、あの、雲雀さんと対等にやりあってるなんて一体骸さんは何者なんだろう。それも武器が槍って……!明らかに可笑しい!いや、トンファーも可笑しいけどさ!












ただ黙ってみていることができなかった私は「骸さ、ん」と、骸さんの名を呼ぶ。お願いだからやめて、と言う言葉は紡がれる事はなかった。それが言葉になる前に、骸さんは派手な音とともに、雲雀さんのトンファーによって飛ばされていた「骸さん!!」もう一度、私は彼の名を叫んでいた。


でも、私が叫んだからと言って宙に舞う骸さんの体をとめることはできない。音をたてて地面にたたきつけられる骸さんに、私は息を飲んだ。雲雀さんの攻撃を受けて、大丈夫なわけがない。まるで人形のように地面へとたたきつけられた骸さんの瞳は閉じられたままだった。









「お……終わったんだ…これで家に帰れるんだ!!」









ツナの嬉しそうな声に反して、私の心は沈んだままだった。これで、すべて終わった。でも、私にとってこれは望んだ終わりではなった。周りのみんなは傷だらけなのに、私にはほとんど傷なんてものはない。




何もできなかった、それがとても悔しくて私はキリッと唇を噛み締めた。カラン、と言う音をたてて雲雀さんの手からトンファーが滑り落ち、それと同時に雲雀さんは倒れこんだ「大丈夫ですかヒバリさん!」ツナの叫ぶ声に、私は我を取り戻し、倒れた雲雀さんの方へと駆け寄った(雲雀さんが倒れるなんてありえないんですけど……!)「ひ、ばりさん?」と声をかけるも雲雀さんから声が返ってくることはない。









「こいつ途中から無意識で戦ってたぞ よほど一度負けたのが悔しかったんだな」



「ヒバリさん、すげー…」









いやいや、凄いとかそういう問題じゃないから。普通の人間が無意識で、トンファーVS槍で戦えるわけない(あぁ、やっぱり雲雀さん人間じゃなかった!)(……こんな事言ったら絶対、雲雀さんに殺されるな)それも、雲雀さんがそこまで負けず嫌いだったとは思いもしなかった、と言うか雲雀さんが負けるわけがないと思っていたから、雲雀さんが負けたときのことなんて考えたことがなかったんだ。


だけど、雲雀さんにここまで傷を負わせた骸さんは本当に何者なんだろう。横たわる骸さんの顔からは、ただの顔が綺麗な中学生と言う印象しか見受けられなかった。







でも、彼は、骸さんはただの顔が綺麗な中学生なんかじゃない。だって、骸さんはボンゴレの10代目を見つける為にたくさんの犠牲をだしたんだから。








「早くみんなを病院につれて行かなきゃ!!」



「それなら心配ねーぞ。ボンゴレの優秀な医療チームがこっちに向かってる」









ツナはやっぱりツナだ。自分だって傷だらけなのに、気にかけるのは皆の事。私とは全然違う。立ち上がりこちらによってくる獄寺の姿にホッと息を吐く。傷はふかそうだけど、きっと大丈夫だろう「そう言えば山本は?」と聞けば、ツナからは「……外で倒れてる」と言う言葉が返ってきた


再び周りを見渡す。倒れたビアンキさんに、フゥ太くん。ドクン、と自分の心臓が跳ねたような気がした。私がもっと来るのが早かったらこの結末は変わっていたんだろうか。いや、もしかしたら結局は何も変わらなかったのかもしれない。私はきっと、ここに来ても何もできなかっただろうと思う。だって、私は何もできなかった。千種くんや、犬くんを止めることも、骸さんを止める事も、何も出来なかったんだから。









「その医療チームは不要ですよ。なぜなら生存者はいなくなるからです」









聞こえてきた声のほうを向けば、そこには上半身だけを起こした骸さんがこちらに銃を向けていた。あれは本物、なんだろうか(この雰囲気ではとても玩具だなんて思えないけど)


あの銃で、私達は撃たれる?生存者がいなくなる、と言った骸さんの言葉から考えれば、それが妥当だと思う。しかし、自分が撃たれるかもしれないと言う時に、心の隅では雲雀さんにあんな攻撃を受けたのにもう起き上がることのできる骸さんが本気で凄いと思っていた。打たれ強い、と言うのはこういう事を言うんだろうか、なんてこの雰囲気で考えてしまっている自分はきっと可笑しいんだろう。





でも、私は骸さんがそんな事をするような人には思えなかった。彼のことは分からないことのほうが多い。でも、彼と過ごした日々は、嘘じゃない。たった、それだけの理由で、私は骸さんに撃たれることはないと確信していた。とても、自惚れた考え。











一瞬だけ骸さんと目があう。彼はうっすらといつもの優しい笑顔をうかべてこちらを見た。何故、こんな場面でそんなに優しい笑顔で微笑む事ができるんだろう。でも、その笑顔はやっぱり、骸さんは私の知っている骸さんだった。とてもじゃないけど、私はまだ並中を襲ったのが骸さん達だなんて信じられていない。



こんなに優しく微笑む事ができる人がなんでそんな事をできるんだろう。










「Arrivederci」








骸さんが最後に私に会いに来てくれた日に紡がれた言葉が再び紡がれた。その瞬間に私が叫ぶよりも先に、銃口が骸さんの頭へと向けられる。ズガンッと激しい音とともに、倒れる骸さんの体。一体、何が起こったのか一瞬で理解する事は私には出来なかった。骸さんはこちらではなく自分に銃を向けた。そして、骸さんの手が、銃口を引いたんだ。


どうして、そんな事をする必要があったのかがわからない「や…やりやがった」「なんで…こんなこと」「捕まるぐらいなら死んだ方がマシってヤツかもな」そんな捕まるぐらいなら死んだ方がマシ、だなんて……たかがそんな理由で死を選んだ骸さんが許せなかった。残された私はどうして良いのかが分からない。頭がはっきりと動かない。









骸さんが、死んだ?ここにあるのは骸さんではなく、骸さんの死体なの?










「生きたまま捕獲はできなかったが仕方ねーな」リボーンの言葉に、私は言葉を失った。これは仕方がないとか、そういう問題じゃないの、に。マフィアの世界と言うのは人の死は、ただの"仕方がない"の一言ですんでしまうぐらい、軽いものなんだろうか。私はその一言がリボーンが何気なく言った一言であったとしても、リボーンにとっては何ともない一言であっても、許せなかった。




骸さんは私の大切な人で、そんな大切な人の死が、仕方がない。そんなわけあるはずがない。これが私にとって関係ない人であっても、その気持ちにかわりはない。人の死を仕方がないですましてしまうのは、可笑しいことだ。











「ついに…骸を倒したのね」








意識を取り戻したビアンキさんに、駆け寄る。そんな中で私は動けずにただ、じっと倒れたまま動かない骸さんを見つめることしかできなかった。聞こえてくる声がどこか遠い。



骸さん…彼の手から零れおちた銃が今は憎くて憎くて仕方がなかった「なっ、何しやがんだ!!」獄寺の声に私はハッとして、視線を骸さんから4人の方へと向ける。ビアンキさんがリボーンに攻撃をしかける、と言う普段なら絶対に見られないような光景に開いた口がしまることはなかった。あの、ビアンキさんかリボーンに攻撃をしかけるなんて……!私にはビアンキさんのような良い女(…ポイズンクッキングとかはおいといて)があそこまで傍若無人なリボーンを好きというのは、とても考えられないんだけど、ビアンキさんは本当にリボーンにぞっこんだ。そんなビアンキさんがリボーンに攻撃をしかけるわけがない。











「まさか…マインドコントロール………?!」



「ちげーな何かに憑かれてるみてーだ」









マインドコントロール?初めて聞く言葉に、私の頭はそれが何なのかを理解する事はできなかった。でも、何かに憑かれたと言うリボーンの言葉はしっかりと理解できた。



でも、そんな憑かれるだなんて、今はまだ昼なのに。普通、幽霊が活発に活動しだすのは夜からだと思うんだけど、と思えば、ツナの口から思いもしなかった名前が紡がれた「……ろくどう…むくろ…?」そんな事あるわけないじゃん、ツナ。









「クフフまた会えましたね」










って、ありえるのかよ!ビアンキさんがこんな悪ふざけをするわけがない。それに、ビアンキさんの右目を見れば、骸さんと同じ六の字が現れていた。あぁ、これは骸さんなんだ、と思えば、少しだけホッと息をつくことができた。骸さんは死んだわけじゃなかった。それが嬉しいと思ってしまう、私は最低な人間なんだろう。でも、あの体はビアンキさんのものなのに。骸さんは何をしようとするんだろう。骸さん、貴方がここまでして、手に入れたいものって何なんですか?この疑問は骸さんに届く事はなかった。









届かない声















 





(2008・03・13)