目の前には黒曜センター。随分と寂れたそこに足を踏み入れ、建物の中へと入っていく。静かな建物の中。本当にツナ達がここに来ているんだろうか、と不安になってくる(もっと分かりやすい場所にいろよな!)あぁ、もう本当何処に行ったんだよ!若干ではあるけれど、荒らされた形跡があり、私はそれを頼りに歩く。その瞬間に、まるで何かが爆発したような音が近くで聞こえた。この爆音は、獄寺に違いない、と思い、私はその音の方に走り出していた。下にはガラスの破片や、色々落ちて走りにくい。それが、もどかしくて歯がゆかった。もっと、もっと早く動け、私の足!


派手に音を立てながら走っていけば、丁度曲がり角の所には獄寺の姿が見えた。その姿を見て、私は言葉を失う。血だらけの姿。なのに、目の前の敵を、睨みつけ、今にもダイナマイトを取り出そうとしている。









「(そういえば、シャマルさん、薬の副作用があるって・・・・・・・)」








その副作用のせいなのか、遠めで分かるぐらいにふらふらして、きつそうな表情をしている。あの馬鹿!何やってるんだ、あんな傷だらけで!と思い、私は走る足を速めた。

獄寺の視線の先にはきっと並中生を襲った犯人がいるに違いない。私はゆっくりと視線を獄寺の先にやった。獄寺はまだ私がいることに気づいていない。私は、視線の先にいる人物を見て、やっぱり、と思った。そこには驚きなんてものない。あるのは、悲しみ。




そして、止めなければいけない、と言う気持ちだけだった。今にも、獄寺に襲い掛かりそうな、犬くんを。











***











シャマルの薬のせいか体が思うように動かねぇ。目の前の二人の敵はそんな俺のことはおかまいなしにどんどん俺を追い詰める。形勢逆転とはこういう事を言うんだろう、なと朦朧とする意識の中に俺は感じた。服はもう自分の血で真っ赤にそまり、服に吸収される事のなかった血はコンクリートへと落ちる。




俺はその光景を呆然と見ていた。別に全力疾走したわけではないのに安定しない呼吸が自分の口から漏れる。10代目に
「終わったらまたみんなで遊びにいきましょう」なんて言っておいて、この様だ。こんなんじゃ、10代目が六道骸を倒したとしても、俺が行けない(何、弱気になってるんだ、俺は)

少しだけ意識がはっきりしてきて、俺は目の前の敵を睨んだ。犬、と呼ばれた男が俺へと襲い掛かる








「(やられる!)」






そう思った俺は、なんとか避けようと腕を前にだして体をかばい、痛みをまった。だが、いつまでたっても俺の腕に痛みはくることがない。不審に思った俺は何かあったのではないかと思い、俺はうっすらと目を開けた。そして、目の前の光景に息を飲んだ。







・・・?!」



「っ!!」






どうしてお前がここにいるんだ、と言う言葉よりも先にの腕へと目がいく。鋭い歯がささっているのは俺の腕なんかではなくて、俺の腕よりも細いの腕だった。俺をかばうかのように鋭い歯の犠牲になっているの腕からは真っ赤な血がしたたりおちていて、顔は苦痛の表情をしていた。その光景で俺は一瞬で何が起こったのか理解した。


が、俺を庇った。だから、俺にくるはずであった痛みをが受けているんだ。そして、はその痛みに表情をゆがめている。







「大丈夫か?!」









獄寺の声がすぐ後ろで聞こえてくる。大丈夫、ではない。犬くんに噛まれた腕からは血がしたたり落ちていて、傷は結構深いんだろう。痛い。とても、痛い。まるで焼けるような痛みがはしり、その傷の深さを物語っている気がした。でも、痛い、からと言って私の目から涙がでてくることはない。

私は顔を上げ、自分の腕を噛んでいる犬くんと、その後ろにいる千種くんを見すえた。二人とも驚いているようだった。でも、千種くんからは眼鏡が反射して、その表情は汲み取れない。でも、驚いていると言うことだけは分かった。



ごめん、と私は二人に謝りたい気持ちになった。









、なん、れ」









私の腕からは圧迫感が消え、犬くんの口が離れた。生々しい傷跡。でも、こんな傷よりも深い傷をこの場にいる私以外の三人は負っている。もっと、早く来れば良かった。そうすれば、この3人の傷はもっと、浅いもので終わっていたかもしれないし、傷なんて負うこともなかったかもしれない。そう思うと、無性に、自分に腹がたった。悩むひまがあれば、ここに来ていれば良かった(今さら、かもしれないけど、



)犬くんの悲しそうな顔が目に入り、私は言葉を失う。何て言って良いのか分からない。何を言っても意味がないような気がしてならない。ごめんなさい、二人とも。私は大切な人を守りたい。もちろん、犬くんや千種くんや骸さんも。
これは私のエゴだ。


私が誰も傷つくところを見たくないからと言う理由で、みんなを止めようとしている。だけど、我侭といわれても良い。私は、誰も傷つかせたくない。









「犬、行くよ」








いつもより僅かに低い千種くんの声に、迷いはなかった。こちらに向ってくるヨーヨーを避けることしかできずに、私はどうしようか、と迷う。その瞬間に獄寺に腕をつかまれ、私は今来た道を再び走り出していた。ポタッとコンクリートに落ちる血をまるで、他人事のように感じていた。傷は確かに痛い。でも、それを気にする余裕なんて今の私にはなかった。それに、私の腕を引っぱって走る獄寺のほうがよっぽどきつそうだ。








「お、前、なんでこんなところにいやがるんだ…!」



「来たかったからに、って、
うわぁっ!









決まっている、と言おうとした瞬間に私のすぐ横をヨーヨーが通り過ぎていき、私と獄寺の走る足がとまった。今さらながら自分の女の子らしくない悲鳴に、悲しさを覚える。振り向き、こちらを見ている犬くんと千種くんを見る。獄寺はチッと舌打ちをするとダイナマイトを取り出していた。私はやっぱり役立たずだと身をもって感じる。


邪魔にはなりたくはなかったけど、獄寺にとって今の私は邪魔以外の何者でもないだろう。だって、私には獄寺のような武器もない。いや、武器を持っていたとしても、私はそれを犬くんや千種くんに向けることはきっと、しない。いつまで経ってもダイナマイトを投げない獄寺に私は疑問を覚え、獄寺のほうに視線をやる。








「獄寺!」








叫んだ時には既に遅かった。獄寺が薬の副作用のせいかふらつく。そして、そのまま、すぐ近くにあった階段から落ちてしまっていた。この馬鹿!と思わず叫びそうになりながら、私は階下に落ちてしまった獄寺と千種くんと犬くん達を交互に見やる。獄寺の方に行かなければならない。だけど、背中を向けた瞬間に、彼らに攻撃をしかけられることは間違いない(ど、どうしよう!!)



ガシャンッと音をたて、足を一歩後ろへとやる。その瞬間に襲ってくるのは千種くんのヨーヨー。私はそれを避けようとして「あっ、」獄寺同様階段から落ちてしまった。この時ほど自分の馬鹿さを悔やんだ事はない。








「あいたた、」









傷はそこまで深くない。こんなときではあるけれど丈夫に生んでくれた両親に感謝した(まぁ、こんな時にしかわからないんだろう、親のありがたみ、と言うものは)階段を見下ろす二人の表情が少し泣きそうな表情に見えて、私は泣きそうになった。


私にとって、大切な二人。もしかしたら、彼らも私のことを、大切な人とまではいかないけど、ちゃんと友達、としてみていてくれたのかもしれない。







あぁ、私は彼らを裏切ったも同じ様な事をしてしまったんだ。少し離れたところにいる獄寺も、傷が痛むのか身動きができてない。どうすれば、と思ったとき、黄色い鳥が一羽コチラの方へと飛んできた「ヤラレタ、ヤラレタ」と話す鳥に、驚きと(こんな普通の鳥がしゃべってるところ初めて見た・・・・・!)と若干の殺意。

本当に、一瞬だけだけど、焼き鳥にしてやろうか、と思った。何故、鳥ごときにヤラレタなんていわれなきゃならないんだ。可愛い鳥だからって、私も怒るときは怒るぞ!











「緑たなびく並盛のー」









突然歌いだした鳥。それも、並中の校歌。ふと、その歌に私は自然と顔が綻ぶのを感じた。懐かしいような気がする。つい昨日、雲雀さんの携帯から聞いたばかりの歌なのに。そう言えば、雲雀さんは無事、なんだろうか(別に雲雀さんを忘れていたわけじゃないけど、)







駄目、だ。




私がこんな所で諦めてしまったら。まだ雲雀さんが無事かどうかも分かっていないのに、ここで倒れているわけには行かない。「へへ」と獄寺の笑い声が聞こえてきて、私は少し恐ろしくなって顔だけを獄寺の方にやった。こんな時に笑えるなんて、ついに……頭のねじがとれてしまったん、だろうか。でも、そんな私の考えは一瞬で消えた。獄寺はダイナマイトを取り出すと、鳥がいるほうへの壁へと投げる。



訂正、やっぱり頭のねじがとれてしまったのかもしれない。獄寺がダイナマイトを投げた方は千種くんや犬くんがいる場所とは反対の鳥がいる方だった。千種くんと犬くんにダイナマイトが当たらないことにホッと安心したけど、私は何故獄寺が鳥のいる方にダイナマイトを投げたのかは分からない。そんなに、獄寺は鳥がムカついたんだろうか(動物愛護団体に訴えられなきゃ良いんだけど)って、今はそんな事関係なーい!






爆音と共に、崩れる壁「っひゃー、どこうってんのー?」と言う犬くんの声に、私も同意だ。壁の向こうに何があると言うんだろう。獄寺はここに来たのは初めてだと思うから、ここがどんな作りになっているかも分かっていないと思うのに。壁の向こうに何かあったとしても、獄寺はそれを知るはずがない。







「へへっ……うちのダッセー校歌に愛着もってんのは…おめーぐらいだぜ…」





「え・・・・・?」









獄寺の言葉に、思わず、「おめーって誰だよ!」とツッコミそうになった。でも、おめーが誰かなんて、容易に想像ができる。校歌に愛着を持っているのは、誰でもないあの人しかいない。





「並盛中学風紀委員長…雲雀恭弥」ダイナマイトの煙が消えていくのと同時に現れる影。それはずっと携帯にかけても出ることのなかった雲雀さんだった「自分ででれたけどまぁいいや」雲雀さんは見るからに傷だらけ。ここまで雲雀さんがやられているとは心配をとおりこし、驚きを覚える。あ、あの雲雀さんが、こんな姿なんて絶対に一生拝めないよ……!とこの時は本気で思ってしまった。

でも、いや、本当、雲雀さんをこれだけ傷だらけにした相手の顔を見てみたいかもしれない……なんて、きっと、雲雀さんをここまで傷だらけにしたのはきっと、
骸さんなんだろう








そう思うと、無性に悲しくなった。









雲雀さんはこちらに気づいたのか私と目があうと眉を寄せて、「うわっ、なんでお前がこんなところにいるんだよ……」と言う視線で私の方を見てきた(多分これは、合っていると思う)



「なんで、君がここにいるわけ?」私、大正解!思わずガッツポーズを決めようとしてしまったが、犬くんに噛まれた傷が痛み、それは叶わなかった。よく考えた後、叶わなくてよかったと思う。ここでガッツポーズなんて明らかに可笑しい。私は立ち上がり、自分のスカートについた汚れを払う。











「みんなが、心配だったんですよ」




「……まったく君もお人よしだね。それでその傷かい?」









雲雀さんの視線が私の目から、私の腕へとうつる。その傷と言うのは犬くんに噛まれた傷なんだろう。犬くんから噛まれた傷からはもう血はでていない。けれど、まだジワリと痛む。雲雀さんの眉間の皺がより一層増えたような気がしたのは、私の勘違いじゃないと思う。雲雀さんは、呆れているんだ。心配だからと言って、ここまで来ているにも関わらず、私がお荷物にしかなっていないことを。








「お人よしなんかじゃないです。私がみんなが傷つくのを見たくないと言う、ただの我侭です」



「そう……じゃあ、このザコ2匹はいただくよ」


「好きにしやがれ」








雲雀さんの肩へと、先ほど焼き鳥にしてやろうかと思った鳥がとまる……もしかしなくても、あの校歌は雲雀さんが覚えさせたんだろうか。雲雀さん、人とは群れたがらないくせに、鳥とは群れるんだ、ね。それも、犬くんが「バーズの鳥を」と言ったという事は、この鳥は他人の鳥だっんだろう。そんな鳥を手なずけ、たった数時間と言う短い時間の間に校歌を覚えさせた雲雀さんに、尊敬の念さえ覚える。



この人絶対将来、鳥関係の仕事をした方が良い!なんて、リボーン曰く、雲雀さんもボンゴレファミリーの候補らしいから、マフィアは決定なんだろうね。って、私もじゃん……!いや、私は絶対マフィアなんてならない。普通の会社で普通に生活してやるんだから!








「(って、こんな時に何を考えてるんだ!)」










雲雀さんと鳥という未知なる組み合わせを見てしまい、私はかなり動揺してしまっていたらしい。いつの間にか「ライオンチャンネル」と言っていつもとは違った見た目になっている犬くんと雲雀さんが戦っていた「犬!」と千種くんが犬くんの名前を呼んだときには既に犬くんは窓を突き破って外に、飛ばされていた。私はその光景に言葉を失う。





私は何をしにきたの?止めにきたんじゃないの?





「犬くん……」呟く声に力はな、い。ここは1階。だけど、あんな風に飛ばされれば傷だって、できるし、痛くないわけがない「雲雀さん!」千種くんと向かい合う雲雀さんに声をかけるも、彼は私の声なんて聞こえていないかのように、千種くんをトンファーで殴り飛ばしていた。







「千種くん!」






声と同時に、窓の外へと飛ばされた千種くん。こちらを振り向いた雲雀さんも、ふらふらになりながらも立ち上がる獄寺も、私に何も聞く事はしなかった。私が彼らの敵である犬くんや千種くんの名前を呼んだことに対して、彼らは何も聞かないでくれた。

千種くんと犬くんが飛ばされたときに割れた窓ガラスを見る。その奥に広がる青空は、本当に澄んだ空で、こんな争いの起こった場所には似合わないぐらいの、清々しさだった。








敵、味方、友












 




(2008・3・12)