獄寺を並中の保健室に運び終わると、すぐにビアンキさんが獄寺を心配してやって来た。とりあえず、獄寺が今ここで目が覚めたら、傷だらけな上、お腹まで痛くなると言う可哀想な結果を招きかねないので、私は心の中で獄寺の目が覚めないことを祈った。いや、多分、祈らなくても獄寺は当分目が覚めることはない……と思う。あんなに傷だらけで、そう簡単に目が覚めては獄寺が本当に人間なのかも怪しくなってしまう(いや、まぁ、獄寺も多分、人間だよ、ね?ダイナマイトとか一杯持ってるけど人間だよね?)(あれ、ちょっと、獄寺が人間かどうか怪しくなってきた)









私はたまに苦しそうに顔をゆがめる獄寺の顔が見れなくなって保健室を出た。そして、向ったのは応接室。







一応ノックをしてドアの向こうからの反応を伺うも向こうからは何も帰ってこない。ドアを開ければ、誰もいない応接室が目に入ってくる。雲雀さんは、まだ……携帯を確認しても雲雀さんからの連絡は一つも入っていない。
獄寺を捜している時に電話をしても、雲雀さんがでることはなかった。雲雀さんは大丈夫なんだろうか。獄寺のように酷い怪我、をしていないんだろうか。大きな不安がまるで私の心を覆うかのように存在して、その不安を壊すことは私には出来なかった。雲雀さんが無事、と言う確証がまったくと言って良い程ない。







だけど、彼が電話にでないことは珍しい事じゃない。そうだ。いつもだって、電話をかけてもでるがない時があるじゃない。こんな事珍しい事じゃない。少し、獄寺が襲われて過敏になりすぎているんだ、私は。と自分に言い聞かせても、私は不安を拭うことは出来ないでいた。


誰もいない応接室。ここの支配者がいないだけで、この応接室には随分穏やかな空気が流れるものだ、と感じた。でも、やっぱり応接室には彼がいないと、まるでそこはただの教室かのように、並中の応接室と言う雰囲気をまったくもってかもし出していない。雲雀さん、貴方は無事なんですか。無事なら早く犯人をやっつけて、電話をかけてきて下さいよ。そうじゃないと、そうじゃないと、私は不安に押しつぶされてしまいますよ。




















応接室に何分いたんだろうか。多分、5分も経っていないと思うけれど私は応接室をあとにした。並中にはもうほとんど生徒も先生もいない。私はこんなに静かな並中は知らない。休日に来ても、いつも風紀委員が見回りをしていて、応接室のドアをあければ雲雀さんが仕事をしている。それなのに、今日は誰もいないし、誰の声も聞こえない。確かに保健室にはツナ達がいるけど、それ以外にはほとんどこの学校に人はいない。私は、こんな並中にした犯人の事を思って唇を噛み締めた。だけど、それと同時に浮かんでくる傷だらけの千種くんの姿。彼の姿が獄寺とかぶる。頭の中では認めたくないのに、私は獄寺を襲った犯人が千種くんだと考えてしまっている。










だって、あまりにも偶然が重なりすぎだ








本当は千種くんを犯人だなんて思いたくないし、思ってはいけないと分かっている(友達を疑うなんて最低だ)でも、あの獄寺の倒れていた場所を思い出す。あきらかに喧嘩の域を超えたように、建物が崩れ、少しだけ獄寺の倒れた場所以外にも血が、着いている箇所が何箇所かあった。そんな光景を見れば、獄寺を襲った犯人も怪我を負っていることは明らか。千種くんと会った時彼は獄寺のように凄い怪我を負っていて、そして彼がやってきたのは獄寺がいた場所の方向からだ。






あぁ、もう友達を信じれないなんて!そうよ、千種くんがそんな事をするわけがない。千種くんは私の愚痴を聞いてくれて、お料理が上手で、骸さんのことを骸様なんて呼んじゃうような人だけど、千種くんが並中生を襲うわけがない。それに千種くんに並中生を襲う理由もない。そうだ。千種くんが犯人なわけ、ない……っ!そんな事あるわけがない、んだ。







一人で歩く廊下。見えてきた保健室の文字。そして、その前でツナとリボーンが話している姿が目に入った。ツナがあまりに怯えた顔をしているのは、私の勘違い…だろうか。いやいや、どうやら私の勘違いじゃないらしい。だって、ツナ、凄い顔が青いもん(また、リボーンがツナに無茶言ってんの?)まだ二人との距離は少しあるから何を話しているのか分からないけど、リボーンがツナにとって良くない奴の話をしているのは一目瞭然だ。まったく、リボーンの奴、と思い二人に近寄ればリボーンの口から
「リーダーの名を六道骸」とよく知っている人の名前が紡がれた。なんで、リボーンが骸さんのことを知っているんだと考えていればツナが真っ青な顔をして「そんなおっかないのが並中狙ってんのー!!」と叫んでいる。









骸さんが並中を狙っている?








意味が分からない。だって六道骸って言うのは私が知っている骸さんのことでしょ?そんな骸さんが並中を狙うだなんてそんな事するわけがないじゃない。そうか、同姓同名と言う事も考えられないわけじゃない。でも、六道骸なんて珍しい名前がそこらへんにごろごろいるようにはとても思えない。呆然とする頭に、リボーンとツナの会話だけはしっかりと入ってきくる。ろくどうむくろ。それは私の知ってる骸さんなの?(誰か教えて)(だけど、知りたくないとも思う)











「あっ、ちょっとまてよ。それって、なにげに相手がマフィアだって言ってんのか!?」


「逆だぞ 奴らはマフィアを追放されたんだ」









ツナ達と知り合ってから良く聞くようになったマフィアと言う言葉。嘆くツナに対して私は静かにだけど必死に考えていた。並中を狙っているリーダーが骸さん?じゃあ、いつも一緒にいる犬くんや千種くんも、並中を狙っている犯人と言うんだろうか。まるで、パズルのピースを埋めるように考えていけば、じゃあ、千種くんが獄寺を襲ったのにも説明がつく。あの3人が、並中を狙った犯人。だから、千種くんは獄寺を襲った。












「どーなるって骸達を倒すしかねーな」



「バカ言え!!そんな奴らに勝てるわけねーだろー!!?」



「できなくてもやんねーとなんなくなったぞ」









そう言って、ボンゴレ9代目からツナに宛てられた手紙を読んでいくリボーン。六道骸と言う名前が出てきて、私の肩はビクッと揺れた。まだろくどうむくろが骸さんだなんて確証はないのに、だけど、もう私は骸さんたちを心のそこで犯人だと決め付けてしまっている(大切な人を疑うなんて最低)(自分のあまりに醜さに反吐がでそうだ)リボーンの話を聞いて駆け出してツナの後ろ姿を見送る。


追わないといけない、とは思いつつ私の足は動かなかった。じっとツナの後ろ姿を見送っていれば、リボーンがこちらを向いた。つぶらな瞳がジッと私の瞳を見てきて、私は咄嗟にリボーンから目を逸らしてしまう。










「六道骸を知っているのか?」









私はその言葉に肯定も否定も返さなかった。だってリボーンが言っている六道骸が私の知っている六道骸だと言う確証はない。だけど、リボーンの言っている六道骸と私の知っている六道骸が違わないと言う確証もない。だから、私は肯定も否定もできない。


ガラッとドアが開いたと思えば、保健室から傷だらけで先ほどまで意識もなかったはずの獄寺が保健室から走って出て行った。一体、どうしたんだろう、と思っていれば保健室から山本やビアンキさんも出て行く。リボーンもいつの間にかいなくなっていた(みんなツナを追っていたんだ)私も追わなければいけないと言うのは頭で分かっているのに、足は重たい。保健室のドアから顔をだしたシャマルさんはいまだに私がここにいるのか一瞬だけ驚いた顔をした。だけどすぐにいつもの顔に戻る。










「おやぁ、ちゃん。もしかして俺と二人っきりになりたかった
「そんな事あるわけないですから」




「……まったく、酷いねぇ〜」









冗談交じりのシャマルさんの顔が少しだけ本気を帯びた顔になる「追わなくて良いのか?」と言われ、私は「追いかけないといけないに、決まってるじゃないですか」と返していた。そうツナ達は今から六道骸たちをやっつけに行くんだ。そんな友達が危ない目にあいにいくのを私は黙って見送れるような奴じゃない。だけど、もしそのやっつける相手が骸さんだとしたら、私はどうして良いのか分からない。


私は骸さんたちをやっつけることなんてできる?分からない。でも、このままここにいるわけにもいかず私は走り出していた。あぁ、もう本当にどうしよう!とりあえず、ろくどうむくろが骸さんでないことを切実に願う。そして、雲雀さんが無事に帰ってくることを。
















****









ツナ達に追いついたとき既に嫌がるツナに反して六道骸を倒しに行く事が決まっていた。真っ青な顔のツナに無念!と心の中でエールを送っていれば、「はどうするんだ?」とリボーンが私の目の前に来て問いかけてきた。未だろくどうむくろが骸さんかどうかは分かってはいない。リボーンに言われみんなの視線が私に集まるのを感じて、私は自分で自分に問いかけた。



私はどうするの?ツナ達についていき六道骸を倒しにいくのか?それとも、私はここでジッとツナ達がの帰りを待っているのか(でも、ツナ達が危ない目にあうかもしれないのに自分だけ待っているなんて、嫌だ)「」とツナに名前を呼ばれ私はツナの方を見た。顔は既にもう諦めたのか六道骸を倒しに行く決心をしたように見える。










が来たくないなら、来ない方が良いよ。そりゃ、が来てくれたら安心だけど危ない目に合うかもしれないし、」



「そうだな、学校別対抗のマフィアごっこは俺たちに任せとけよ!」







マフィアごっこじゃねぇよ!と思わずツッコミしそうになるもその言葉は飲み込んだ。



違うんだよ、ツナ。別に私は危ない目に合うのが恐くてツナ達と一緒に行きたくないんじゃないんだ。六道骸が骸さんだっとき私はどうして良いのか分からないのか行きたくないんだ。自分の目で真実を確かめたくない。確かめてしまったらもうきっと後戻りできないと言う事はもう分かりきったことで、私はリボーンの言葉に頷く事は出来なかった。








「やつらのアジトは新国道できてさびれた旧街道の一角だと思われる。多分人質もそこにいるはずだ」






私はリボーンの言葉に下げていた頭をあげた「おまえ達のよく知る人質がな」一体、私達のよく知る人質とは誰?と思えば「フゥ太だぞ」とリボーン言う。私達はその言葉に驚いた。

フゥ太くんを人質に?だってフゥ太くんはまだ子供で、確かにフゥ太くんのランキング能力は素晴らしい能力だ。だけどフゥ太くんのような子供をを人質にとるなんて犯人は最低最悪じゃないか(そして、その最低最悪な犯人がもしかしたら骸さん、なのかもしれない)フゥ太くんを助けに行きたい。いや、行かなくてはならない。でも、まだ私の中にはリボーンの言葉に頷く勇気がでなかった。自分の弱さに本気で腹がたつ。私はフゥ太くんを助けたい。雲雀さんの無事を確認したい。でも、そのためには六道骸をツナ達と助けに行かなくてはならない。










分かってる。そんな事は分かってるんだ。








でも、頷けないのは自分に勇気がないから。もしも、犯人が骸さんだったら?なんて大切な人を疑って、私の大切な人が私の大切な人を傷つけていっているなんて現実に目を向ける勇気なんて私はこれっぽっちも持ってない。ツナ達と一緒に行くよ、と言う言葉はどうやっても出てくることはなかった。そんな私にツナや山本や珍しく獄寺まで優しい言葉をかけてくる。大丈夫、だと私に言ってくる。


本当に大丈夫なの?ツナだって、まだ顔は青いし、山本はマフィアごっこと思ってるんだろうけど、獄寺は怪我をしてるのに、本当に大丈夫なの?私は、どうすれば良いの?考えても答えは一向に出てくることはなかった。








一寸先は










 







(2008・03・09)