いつの間にか私は走って笹川さんの入院しているらしい病院へと向っていた。病院に着けば、何故か並中生がたくさんいて、どうして良いのかわからなくなった。いや、だって、何この並中生の数!明らかに多すぎ!(こんなところ雲雀さんに見られたらみんなイチコロだぞ!)まさか、こんなにお見舞いの人が来るほど笹川さんは人気者だったのか!と思いながら、笹川さんの病室を探していれば笹川さんの病室は意外にも簡単に見つかった。

誰だって病室から「極限だー!」なんて声が聞こえてきたら超能力をもっていなくても笹川さんがどの病室に入院しているのかすぐに分かる。コンコン、とノックしてみれば中から聞こえてきたのは京子ちゃんの可愛い声。あ、そう言えば学校に連絡いれるの忘れてた!














ちゃん?!」



「おぉ、でないか!はは、も見舞いに来てくれたのか!」











包帯巻き巻きのくせにすんごい元気そうな笹川さん。いや、本当、酷い……怪我、してるんだよね?あ、うん。見た目はそうなんだけど、あきらかに怪我した人にしては元気、すぎるよね?

ほら、もう少し怪我してるんだから、病人は病人らしくと言うか、いや、まぁ、私が何を言いたいのかって言うと、そんな凄い怪我してるんだから、極限だー!なんて叫ぶな!って事なんだよね「大丈夫なんですか?」と私が聞けば笹川さんはにこやかな笑顔をうかべて「ただの捻挫だ!」と答えた。
















「(いやいや、そんな怪我が捻挫なわけねぇーー!!)」















と思わずツッコミそうになったんだけど、笹川さんがちらっと心配そうな顔をしている京子ちゃんのほうを見たから、きっと京子ちゃんを心配させないようにそんな事を言ったんだろう(あぁ、転んだって京子ちゃんに言ったのも笹川さんなんだろうな)(京子ちゃんを心配させない為なのはわかる、けどさ……もっと、上手な言い訳考えて欲しい、よね!うん、笹川さん、頭使おう!)だけど、あの様子なら心配はいらない、と思い私は早々に会話をきりあげ病室を出た。病室をでて改めて辺りを見渡す。この、並中生の多さは以上だ―――












病院の廊下を歩きながら、周りを見渡す。たまに開いている病室を覗けば、多分並中生なんだろう。私と年もあまり変わらないような少年が、ベッドで寝かされている。どうやら、私の見ている限り女の子が襲われてはいないらしい。まぁ、犯人も女の子はさすがに襲わないか。いや、だけど、先ほど聞こえてきた並中生の会話では、並中生が無差別に襲われている、と言ったようなことを言っていた。それなら女も男も関係ないんじゃないだろうか。女でも男でも、それが並中生なら、犯人にとってどれも同じなはず。むしろ、女の子の方が襲いやすいはずだ。じゃあ、なんで入院している人たちは全員、男で、それも風紀委員の割合が高いんだろうか。何か、ある。絶対に、と思っていれば、向こうから覚えのある蜂蜜色の髪の毛をした並中生が走ってきた。











「ツナ・・・・?」









ツナも私の存在に気づいたのか顔をあげる。とても驚いた顔をしていたけど立ち止まるつもりはないらしく、「ごめん!、今急いでるんだ」と言って走り抜けていった。そのツナがあまりに必死で私も何も言えずにツナの後ろ姿を見送る。一体、何があったんだろう、と首をかしげながら見ていれば、私の肩に僅かな重みがかかった「ちゃおっス」……その声に瞬時に私の肩に何が乗ったのか分かってしまう(できる事なら分かりたくなかった)そうだ、ツナがいるんだ。リボーンがいないわけがない。












「草壁がやられたぞ」



「嘘?!」










いきなりの言葉に私は目を見開いて驚いた。ひょいっと私の肩から降りたリボーンは私の前に立つと、「嘘じゃないぞ。さっき、病院をでてすぐに襲われたらしい」と言った。まさか、そんな草壁さんが。だって、草壁さんは風紀委員の中でもかなり強いのだ。そうだ、考えてみれば笹川さんだってかなり強い。なのに、そんな人たちが次々とやられているなんて、犯人は、どれだけ、強いんだろうか。そう考えると嫌な考えが頭にうかんだ。雲雀さんが負けるわけがないと思っていた。だけど、もし相手のほうが強かったら彼はどうなってしまうんだろう。









「そ、れで、ツナは何処に行ったの?」









そんな強い奴が並中生を狙っているとしたら、今走ってどこかへ行ってしまったツナだって危ないに違いない。リボーンはここにいるし、死ぬ気弾も使えないんじゃツナは、そんな強い奴に襲われたらひとたまりもないだろう。私の言葉にリボーンは一枚の紙を私に差し出してきた。私はそれを素直にうけとる。その紙に目を通せば、紙には知っている人の名前がいくつかある。その横には数字も。そして、一番上には、








「並中喧嘩の強さランキング?」


「あぁ、そうだぞ」


「これが、一体何の関係が、」

「襲われたのはそいつらだ」










「え?」










私は並中の生徒の名前なんて知らないけど、確かにその中には草壁さんと笹川さんの名前がある。とりあえず、ツナの名前がなくてホッと息を吐けば、私はその中にある名前を見つけて息を飲んだ。獄寺や山本の名前。それに雲雀さんの名前もある「順位の下の奴らから襲われてる。次は……獄寺だ」と言うリボーンの言葉に私はいつの間にか、踵を返して走り出していた。後ろからは、ツナも向ったぞ!と言う言葉が聞こえてきて、じゃあ、ツナも危ない、と自然とそう思った。今からツナを追っても、見つかる気はまったくしないし、いくら獄寺の番号にかけても電話は繋がらない(あの馬鹿!一体何の為に携帯持ってんだよ!)
















必死に足を動かしてツナを探すも全然見つからない。それに、今は確かに次に狙われるであろう獄寺も心配だけど、それと同じくらい犯人の所に行くと言って電話を切った雲雀さんのことも心配だった。彼の名前ももちろん並中喧嘩の強さランキングの中にあった。それも雲雀さんは一位。犯人に狙われないわけがない。獄寺と雲雀さんに交互に電話をかけてもどちらにも繋がらず、私はイラッとしながら携帯を閉じた。
これで、電源を切っていただけとか言ったら絶対に殴ってやる!・・・・・・・いや、殴るとしたらきっと獄寺だけだろう。




雲雀さんなんて恐くて殴れるわけがない。ゼェゼェと乱れる息をただし、ただがむしゃらに走る。あぁ、もう本当にどこに行ったんだ!と思っていれば、少し離れたところで爆音が聞こえてきた。この(悲しい事に)聞き慣れた爆音は!と思いそちらの方に向って走れば、遠くに人影が見えた。

だけど、それは私が捜していた獄寺ではなくて、もちろんツナでもなく、最近見かけなかった千種くんが血だらけでこちらに向って歩いてきていた。










「千種くん?!」









久しぶりに会った友人が
だらけで歩いていて、心配しない人なんていないわけがない。もちろん、私もその中の一人で急いでふらふらと足元がおぼつかない千種くんにかけよった。千種くんは「・・・?」と驚いた顔でこちらを見ていて、私よりも千種くんのほうが驚いているようだった。普段、感情をださない千種くんがこんなに驚くなんて珍しい。そんなに私とここで会うことは驚く事だったんだろうか。

いや、だけど、驚きたいのはこっちだ。久しぶりに会ったと思ったら、こんなにも傷だらけで歩いているんだから。










「だ、大丈夫?!えっと、そうだ、病院!病院!」












焦っている私に対して落ち着いている千種くんは「大丈夫だから」と言って私が手をかそうとして出した手を、はらった。私は訳がわからなかった。何が大丈夫なんだ。こんな傷だらけで。痛いに、決まっている。











「だいじょう、ぶって、そんな」



「悪いけど急ぐから」











まるで私の言葉を遮るかのように言うと千種くんは歩き出した。私は、千種くんの雰囲気から自分が拒絶されている、ということを感じた(どうして?意味が分からない)久しぶりに会えたと思ったのに、拒絶されるなんて。だけど、私は手をはらわれたことがショックで、友達から拒絶されたという事も悲しくてこれ以上千種くんに話しかけることも、千種くんを追いかけることもできなかった。

もしかして、千種くんも並中を襲った犯人に襲われた?でも千種くんは並中生じゃない。じゃあ、あの怪我は何?と思い、再び獄寺を捜しに千種くんがやってきたほうへと走り出す。









「(一体、何がこの街で起こってるの?!)」










もう訳がわからない!と思いながら必死に足を動かしていれば、見たことのある人影と私の名前を呼ぶ声に、私は足をとめた「ツナ・・・・?それに山本も、」獄寺はどこに、と言う言葉は紡がれる事はなかった。私の目に飛び込んできたのは倒れている血だらけの獄寺。意識がないのか、瞳は閉じられていて、その姿に私は、自分が何を言おうとしたのかさえ忘れてしまう。

この光景はなに?なんで、獄寺は血だらけなの?まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が私を襲う。そんな私の様子の変化に気づいてか、ツナが心配そうに私の名前を呼んだ。











、」




「ツナ、獄寺に何が・・・・・、」








あったの、と言う言葉がでてこない。血だらけでボロボロの姿の獄寺と先ほど会った同じように血だらけでボロボロな千種くんがかぶる。こんな身近で二人もボロボロな人を見つけて。それも商店街はあきらかに今まで何かあったんだろう、と思えるように所々が焦げ付いてたり壊れたりしていた。


まさか、と思い私は必死にその考えを頭から追い出す。だって、千種くんも獄寺も知り合いなわけがない。二人には接点がない。そうだ。獄寺はきっと並中を襲っている犯人に襲われたんだ。だから、こんな血だらけで……そんな千種くんが関係あるわけがない。必死で自分の中にある仮説を崩そうとするも、その仮説を崩す根拠が見当たらない。









「とりあえず獄寺運ぶぞ」









山本の言葉に私はハッとして、やっと我に戻ることができた。獄寺を抱える山本と、ツナ。私も何かしなければいけないと思い、近くにおちていた獄寺の鞄を拾い、歩き出した山本とツナの後を追う。獄寺の瞳はまだ閉じられていて、ふと振り返って獄寺が倒れていた場所に残った、コンクリートに染み付いた赤色の血を見た。はっきりと残ったその血に獄寺がどれだけ酷い怪我を負っているのかを改めて思い知って、私は思わず眉をひそめた。こんな事をした犯人を許せない。そう思う反面、先ほどの千種くんの姿が頭からはなれなかった。











コンクリートを
める血
















 





(2008・03・06)