清々しい朝と言うのはこういう日のことを言うんだろうと、カーテンの隙間から零れてくる日の光をまどろむ意識の中で見ながら感じた。ベッドから起き上がり、カーテンを開ければこれでもか、と言う快晴で、私は思わずあまりの眩しさに目を細めた。正直、起きたばかりの目には刺激が強すぎたらしい。少しだけ慣れてきた目をあけて、もう一度空を見上げる。さんさんと照らす太陽に、今日も良い一日になりますように!と願いを込めながら、昨日雲雀さんが気味の悪いことを言ったのに槍は降らなかったんだ、と雲ひとつない空に心の底から安心した(あの人なら槍でもなんでも降らしかねない……!)






制服に着替え、いつものようにお弁当を作ろうと階下に言えば、吾郎はもうおきていた。珍しい、と思って吾郎を見ていればその視線に気づいた吾郎がこちらを見る
「並中の風紀委員が襲われてるらしいな」の一言。冷蔵庫をあけ、牛乳パックを取ろうとしていた手が止まり私の視線は吾郎の方へと向いた。何で、吾郎が知っているんだろう、と思っていれば吾郎は「なんかさっき新聞をとろうと思って外に出たら偶然そこにいた赤ん坊に聞いた」といった。

あ、そうなんだ・・・・・う、うん?赤ん坊?あれ、なんで新聞とろうと思って外に出たら偶然赤ん坊がいるわけ?むしろ赤ん坊ってしゃべれなくない?と思っていれば思い当たる赤ん坊が一名。














「そいつリボーンとか言ってたぜ?あと、に、気をつけろだってさ」












はは、の知り合いか?と笑いながら聞いてくる吾郎に、私は「一応」とだけ返した。吾郎はどうやら赤ん坊が立って話したりすることに違和感を覚える事はなかったらしい。説明するとなったら面倒くさいと思っていたのでこれはこれで良かったとは思うのだけど自分の兄がこんなに馬鹿だったのかと思うと涙がでそうになった。うん、これと血が繋がってるんだよね、私……べ、別に、私は私だし、吾郎は吾郎だよ。そうだよ、吾郎が馬鹿だからって私が馬鹿なわけじゃない!(……と、心の底から本気で思いたい)





私は手に持っていた牛乳をコップへとうつし、一口飲んで、お弁当の準備を始めた。いつものように綺麗につくりあげて、吾郎に手渡せば吾郎は意気揚々と嬉しそうにじゃあ、行って来るな、と言いながら出て行く。最後に、「気をつけろよ」とまるで念を押すかのように言ってくる吾郎に、私は「はいはい」とだけ返した。
自分でも気をつけたほうが良いのかもしれない、と言うことは重々承知している。あのリボーンがわざわざ朝伝えに来たのだ。何か大きなことが関わっていることは間違いない。きっと、風紀委員だけの問題じゃないんだろう、と言うことは何となく分かった。だって、あのリボーンがわざわざ伝えに来たんだよ?(2回言うということはそれだけ重要だからだ)これはきっと大事件に間違いない。今日はどんなに槍がふろうと、何があろうと、大人しくしておこうと思う。いや、ちょっと訂正。今日はなんと部活が休みらしいので帰り道にケーキを買って帰るぐらいお許しをいただきたい。お願いね、神様!





















さて、そろそろ自分も学校へと向う時間。ゆっくりと歩きながら学校に向っていれば、携帯の着信音が響いた。あぁ、私としたことが今から学校なのにマナーモードにしてなかった!……まぁ、学校に着く前にこうして気づくことができたから良かったけど、と思いながら携帯の画面を見ればそこあるのは京子ちゃんの名前。え、え、本当に?朝から京子ちゃんからのモーニングコールって奴ですか?!(……なんか、自分気持ち悪いな!)

私は思ってもみなかった名前に少しだけ焦りながら通話ボタンを押した。朝から京子ちゃんの声が聞けるなんて神様ありがとう!なんて思っている時点で、自分が何だか骸さんと同類のように思えて仕方がない。いやだ、あんな人と同類だなんて……っ!自分で言っておいてなんだけど、それだけは嫌だ…!












「もしもし?」



ちゃん…?』










高まるテンションを必死に抑えながら電話に出れば向こうから聞こえてきたのは京子ちゃんの元気のない声だった。思えば、朝から京子ちゃんが電話をかけてくることなんて珍しいと言うか初めてのことだった。
確かに夜、電話で美味しいケーキの喫茶店の話をすることがあっても、今は朝だ。それも通学時間と言う忙しい時間。そんな時間にかかってくる電話に、何もないわけがない(私としたことが、京子ちゃんが電話をかけてきてくれた喜びに打ちひしがれて、そんな事考えつきもしなかった!)どうしたの、と声をかければ、電話の向こうから少しだけグスッ、と言う音が聞こえてきた。ま、まさかとは思うけど京子ちゃん泣いてる?!














『お兄ちゃんが転んで怪我したらしくて、それで病院に運ばれたらしいの』




「えぇぇ、笹川さんが?!」




『わた、し、どうして良いのか分からなくて』













本当に焦っているんであろう京子ちゃんに、とりあえず落ち着くように伝える(って言うかこけただけで入院ってどんなこけ方したんだ、笹川さん!)(……あ、でも、なんか笹川さんのことだから、こける時は勢いよくこけそうだな。転ぶ時も極限!みたいな?……意味分かんないよ!!
どうにかこうにか、落ち着かせて笹川さんが入院している病院に行くように伝えれば、京子ちゃんは、じゃあ私病院行くね、と言って電話を切った。まったく、笹川さん。京子ちゃんをこんなに心配させるなんて!……だけど、私も笹川さんが心配と言ったら心配、だな。だって、入院するような怪我なんて、きっと酷い怪我には違いないんだろう。


そう思うと心配はどんどん募ってきて、私の胃は少しだけキリッと痛んだ。あぁ、本当大丈夫かな笹川さん!昨日は昨日で、風紀委員がやられたなんて話を聞いたばかりなのに。それも5人も。なのに、今日は笹川さんだなんて。まぁ、笹川さんの場合は転んで怪我をしたらしいけど・・・・・・・・・、と思い私の足はそこでとまった。何故だか嫌な感じが一瞬だけしたのだ。どうしてかは分からない。だけど、ただ、これがただの偶然のようには思えなかった。








リボーンがわざわざ朝、私に気をつけるように言ってきた。これは、私がボンゴレファミリー(未だ認めたわけじゃないけど)だからなんだろう。それに、ツナに聞いた話だと笹川さんもボンゴレファミリー(と言う哀れな被害者の一人)、らしい。
まさか、と思い頭を振る。そうだよ、京子ちゃんは転んで怪我をしたと言っていたじゃないか。まさか、風紀委員のように襲われたわけじゃないだろう。しかし、一度芽生えた考え、というのはそう簡単に拭えるものじゃない。何度もその考えを否定しているにもかかわらず、私はもしかしたら、と思ってしまっている。















「(・・・・一体、どうしろって言うんだよ)」














足がいつまで経っても動こうとしない。私はきっとこの答えが見つかるまで、この足を動かす事ができないだろう。つくづく自分でも困った性格だ、と思う。それに、考えたどころで答えがでるわけじゃない、と思い私の頭の中にある人の顔が浮かんだ。

並中と言えば、雲雀さんだ。彼なら、笹川さんが本当に転んだのかそうでないのか、やもしかしたら、もう既に風紀委員を襲っている犯人を咬み殺しているかもしれない。私は携帯に登録されている雲雀さんの番号を呼び出して、電話をかけた。数回の機械音のあとに聞こえてきた声はまだ朝のせいか不機嫌そうだった(雲雀さんは絶対低血圧だと思う)(朝は大体機嫌が悪いことが多い)












「ひばり、さん?」





『・・・・・・何、君?こんな時間に……学校じゃないわけ?』



「いや、えっとそうなんですけど。昨日の件どうなりました?」












あぁ、そのこと、と言う雲雀さんの声。きっと、私が何を聞きたいのか分かったんだろう。私が雲雀さんの返答を待っていれば、雲雀さんは電話越しでため息を一つ零し、『風紀委員だけを狙ってるわけじゃないみたいだよ』と言った。その言葉に私は思わず息を飲んだ。そんな、じゃあ、『・・・・そう言えば、今朝笹川了平がやられたよ。君の知り合いだろ?』





私は雲雀さんの言葉に目を見開いた。転んだと思っていた笹川さんは本当は転んでなんかなかったんだ(じゃあ、京子ちゃんはなんでこけたなんて言ってたんだろう)(あぁ、きっと誰かが京子ちゃんに心配をかけないように、そう伝えたんだろう)雲雀さんは私の言葉を待つことなく、少しだけ嬉しそうな声色に変わった声で、言葉を紡いだ。













『今からその犯人を咬み殺しに行ってくるよ』



「はんにん、見つかったんですか」











いつの間にか雲雀さんは犯人の目星をつけているらしい。それも、その犯人を今から咬み殺しに行くときた。嬉しそうな雲雀さんの言葉にこの人はきっとその人を、ボコボコにしてくるんだろうと、容易に推測できる(犯人が悪いのは分かっているけど、思わず同情してしまいそうになる)『じゃあ、僕は行くから、』と言って雲雀さんは電話を切ろうとする。「ひ、雲雀さん!」となんとか電話を切らせまいと思い、いささか大きな声で言えば、大きい声をだすな、と怒られた。なんだか、理不尽。
だけど、今はそんな事は言ってられないのでここは黙っておくことにする。










「気をつけてくださいね」




『ワオ、君は僕がやられると思っているのかい?』











そんな事微塵も思ってるわけないですよ。一応ですよ、一応(むしろ犯人に同情したぐらいだ)(犯人は生き地獄を味わうんだろうな……なんか、涙でそう!)雲雀さんの言葉に私は、そんな事思ってないですよ、とだけ言って電話を切った。

答えがはっきりとでて動き出す足。私が向うべき場所はどこ?




もちろん、それは自分の学校に決まっている。だけど、私の足はその方向とは逆の方向に、笹川さんが入院していると聞いた病院の方へと向っていた。笹川さん、京子ちゃんを心配させたら容赦しませんよ!なんて、冗談はさておき、京子ちゃんを泣かせて、笹川さんに酷い怪我をさせて、優しい風紀委員の人たちを襲った犯人が許せない、と思った。
雲雀さんがボコボコにするだけじゃ気がすまない。私も雲雀さんに相談して犯人を一発殴らせてもらえないかお願いしてみようと思う。












打倒、犯人!









 






(2008・03・03)