骸さんや千種くん、犬くんが姿を消して(いや、実際消したわけじゃない。正しくは会わなくなってから)数日後。私は部活が休みで本来ならゆっくりと家でなごんでいるはずだったにもかかわらず、雲雀さんの風紀の仕事を手伝う為に並中の応接室まで来ていた。わざわざ休みの日まで何故こんな事をしなければならないんだ、とは思いつつも何も言えない自分の不甲斐なさに涙がでそうだ。だけど、言ったら言ったであのトンファーの餌食になることはもう分かりきった事・・・・・なんだか、視界が涙でぼやけてきたかもしれない。








未だ目に前に広がる膨大な書類を私は静かに片付けていく。ここで仕事をしだして一体何時間立っただろうか。時計は見ていないから分からないけど、かなりの時間がたったことは間違いないことだろう。いや、本当、今日って休日だったよね?とそこらへんにいるであろう風紀委員に聞きたくなってきた。例え他校とは言ってもここは学校に間違いない。何、この優等生ぶり。自分どれだけ学校が好きなんだ


仕事も先ほどから頑張っている割りには減っている気がしない。さすがにその事に私はイラ立ちを覚え、雲雀さんをキッと睨みつけると「こんなの絶対に終わりません・・・・!!」と叫んでいた。雲雀さんはその言葉に眉をひそめる。







「無駄口を叩くひまがあるなら早く片付けなよ」



「早く片付けなければならないなら、雲雀さんだって手伝って下さいよ!なんで自分だけ優雅に紅茶なんて飲んでるんですか?!」



「え、何。君も紅茶が飲みたいの?」










「違 い ま す !(そりゃ飲みたくないわけじゃないけど!)」











私が言いたかったのは、何故他校生である私がこんなにも必死に自分とは関係の無い書類を片付けていると言うのに、この書類と関係のあるはずの雲雀さんが書類の処理もしないで、自分だけ紅茶を飲んでいるのかと言う事だ。こんなの可笑しすぎるだろ!私にとっては1週間のうちで唯一、ゆっくり休める最高の日に、体を休める事もできずにこんな事をしているなんて私ってなんて可哀想な子なんだ!そんな私も気持ちも伝わる事もなく雲雀さんは私の言葉を無視して、自分だけまた一口優雅に紅茶を飲んだ。






確かにその姿は他の女の子が見れば、きっとそれは目を奪われるような綺麗さだと思われるが、私にとってはただの憎しみの対象でしかなかった。舌打ちをしたい気持ちをおさえただけ、褒めて貰いたいぐらいだ。










「なんで私だけ書類の片付けしてるんですか!雲雀さんも仕事やって下さい!」



「面倒くさい」



「(コイツ・・・!!)」






もしも私に力があったとしたなら、雲雀さんを殴ってやったのに、とギリッと唇をかみしめた。でも、子供のときから色々護身術とかを親から習ったりはしていたけど、そんなものでは雲雀さんに勝つことなんてできないことは分かりきっている。私が雲雀さんを殴ったりしたら雲雀さんはあの、鈍く銀色に輝く例のブツ(トンファー)で私を咬み殺すに決まっているんだ。そんなの恐い。恐すぎる!私はまだ自分の命を大切にしていたい。




あぁ、だけど、ムカつく!









私はなんでこんな他校の風紀の仕事を手伝ったりしてるんだろう・・・・・・!私は、私は普通に暮らせるだけで良いのに。本当にツナ達と知り合ってからそんな生活とは程遠い生活をしてしまっているような気がする。








「はぁ・・・」



「ため息なんかつかないでくれる。こっちまで疲れるから」







「(ため息の原因はあんただよ!)」











骸さんの相手も中々、大変だけど雲雀さんの相手も中々大変。2人とも私なんか平凡な女なんて相手にしてくれなくて良いのに、とここ最近はいつも思う(どうせ相手するなら可愛い女のこの方が二人にとっても)一体どこで歯車は狂ったのだろうか。なんて考えてもこの人たちといる事が楽しいと感じてしまう自分もいるから嫌になる。地味な人生で私は満足できるのに。









いや、正しくは満足していたのだ。地味な人生でも。








だけど、今また地味な人生に戻ったら私は満足できるのか、と聞かれたら多分私は悩んでしまうとも思う。そう、私にとってはこんな日々ももう日常となってしまったんだ。雲雀さんに嫌事を言われながら風紀の仕事をこなすのも、骸さん達と話すのも、ツナ達とリボーンの特訓と言う名の虐めをうけるのも、すべて、私にとってはいつの間にか当たり前のことになってしまっているんだ。




だから、今さら地味な生活に戻っても、きっと、私はその生活に満足できない、と思う(所詮は、思う、だけであって、実際はどうなのかは分からないけど、)










「はい、書類終わりましたー!」








目の前にはたくさんの積み上げられた書類。




よ、良くやったよ、私・・・・・・!と自分で自分を褒めていれば(だって、誰も褒めてくれないんだよ)雲雀さんが応接室にある冷蔵庫から何かを取り出して、テーブルの上へとおき、先ほどまでは机の方に座っていたのに、雲雀さんは私の目の前のソファーへと腰を下ろした。雲雀さんが取り出したものを見れば、並盛町にある喫茶店の有名プリンで、雲雀さんの方を見れば「食べれば」とただ一言だけ言った。



や、やった!と心の中で思いながら、もちろんお礼を言うのも忘れずに私はプリンへと手を伸ばした。風紀のお手伝いをしていて良かったと思えるのは、こんな風にたまに雲雀さんが私にケーキやプリンを与えてくれる時だろう。








きっと……いや、絶対、私は餌付けされているに違いない(そして、単純な私はそれに食いついてしまうんだよね!クソッ、もっとプライド持とうよ私!)だけど、雲雀さんがくれるケーキやプリンはそんな簡単に手に入るものじゃなくて、必死に並ばないと買えなかったり、その店一押しの限定品ばかりだ。本当に風紀委員の力は尊敬に値するものだと最近思えるようにもなってきた。




これ、風紀委員じゃなかったら買えないんだろうな、なんて思うと、これを買いにいっているであろう風紀委員さんにお礼を言いたい。無論、こんな私に与えるような餌を雲雀さん自身が買いにいくなんてことは絶対にないことは分かりきっている。これはきっと他の風紀委員の人が買ってきているんだろう(このプリン代がどこからでているかは気になるけど・・・・・)(なんだか、気にしたら駄目なような気がプンプンするから気にしないでおく)それか、他に考えられるのがこのプリンが、風紀委員への献上品か何か、と言う事だ。











みどりたなびく〜











突然の音楽に私はビクリと肩がゆれた。だけど、この着信音は私じゃない。確かに私の携帯にも不本意ながらこの着信音は登録されているけれど、それはある人専用なのだ……それはもちろん目の前にいる、風紀委員長様の雲雀さんなんだけど、どんなに同じ風紀委員でも草壁さんの着信音は違う。草壁さんの着信音は勝手ながらオルゴールにさせてもらった(正直、優しい草壁さんのイメージにはぴったりだと思う)(さすがにこんな事草壁さんにはいえないけどね!)







この応接室には今現在私と雲雀さんだけしかいない。必然的にこの着信音が雲雀さんの携帯から鳴っているということは容易に分かった。雲雀さんは面倒くさそうに携帯をとりだすと、ピッとボタンを押す……いまだに雲雀さんが携帯を扱う姿は違和感を覚える。この人、絶対に携帯の機能を使いこなせてないに違いない。










「何?」








不機嫌きたー!とも思えるような雲雀さんの声色。こんな風に不機嫌に電話にでても許される雲雀さんは本気で凄いと思う。それもあのリーゼント集団に対して、だ。







一体何を話しているんだろう、と気になる所はあるけれど私には人の話を聞くような無粋な趣味はまったくもってないので、耳をすませることはやめて、目の前にあるプリンにだけ集中する。



本当に美味しいこのプリン。カスタードが苦すぎず、カスタードに良くあってる。うん、本当美味すぎる。美味い、美味い……本当私色気より食い気だな。「」雲雀さんに名前を呼ばれて、私はプリンに集中するのをやめて、雲雀さんの方を向いた。雲雀さんの顔が先ほどより不機嫌そうだ。どうやら良い電話ではなかったらしい。








「どうしたんですか?何か悪い報告でした?」



「あぁ。本当にね」







何ともいえない雲雀さんの表情。本当に悪い電話の内容だったらしい。雲雀さんをここまで不機嫌にする内容の電話とは、と思っていれば「風紀委員がやられたらしい」・・・・・へぇ、風紀委員がやられたんだ。それは、それは雲雀さんが不機嫌になるのも納得だな・・・・








って、えぇぇ?!風紀委員がやられた?!






「そうだよ」





「な、なんでですか?!」









まさか、あの並中の風紀委員がやられるなんて、ありえないことだよ!だ、だって、見た目すっごいし(全員リーゼント!)(全員学ラン!)(明らかに皆が目をそむけるの間違いだ!)、だけど、本当はすんごい優しい人がまさかやれるなんて。




いや、でも、どんなに私に優しいとはいっても恨みとかは存分に買ってそうだと言えばそうだ。色々勝手なこともしている(特に雲雀さんが)、色々な人咬み殺してもいるし(むしろ雲雀さんだけが)、もしかしたら風紀委員がやられても不思議な事なんて何一つないのかもしれない。そう思うと、意外にも、落ち着いてくる自分がいた。










「何でかは僕も知らないよ。まぁ、やられるほうもやられるほうだけどね」











私は心の中でやられた風紀委員の人に合掌した。この不機嫌オーラだしまくりの雲雀さんのことだ。きっとやられた風紀委員のひとはやられた上に自分の委員会の委員長にまでやられてしまうことだろう。可哀想に、とは思うけど、この雲雀さんを止められる気はまったくしないので、私には合掌ぐらいしかできることはない。どんまい、風紀委員!




一体、誰がやられたかは分からないけど、一応無事だけは祈っておく。あと、草壁さんやいつも私が食べるお菓子を買いにいっている風紀委員じゃないことは心の底から祈っておく(私って結局自分のことだけだな・・・・・)








「それにしても一気に5人もやられるなんてね・・・・」



「えっ、5人もやられてたんですか?!」



「そうだよ。それもそれぞれ別々の場所で」








雲雀さんの言葉に私は思わず言葉を失った「それも、全員歯が抜かれていたらしい」・・・・・そんな酷い。酷すぎるよ。私、歯医者恐いから分かるんだよ。歯医者に通わないと行けなくなるって恐いんだよ・・・・・って、違う違う。今はそんなことが問題じゃなくて、それぞれ別の場所でやられているのに、全員歯が抜かれているという事はその犯人は同一犯なんだろう。それも歯を抜くとは、どれだけ風紀委員に恨みがあると言うんだ。







あぁ、違うんだよ犯人さん。風紀委員が悪いんじゃないんだよ、雲雀さんが悪いんだよ。風紀委員さんたちは雲雀さんと言う最悪な上司の下でただ言われたことをこなしているだけなんだよ、と私は心の中で犯人さんに伝えた。


これで犯人さんに伝われば良いんだけど。他の風紀委員の人が敵わなくても雲雀さんが敵わない人なんているわけがないもの。








「僕の街で随分粋がってるみたいだ」


「・・・・そ、そうです、ね」







本気で恐い雲雀さんの一言に私は犯人さんにも合掌した。これはきっと犯人さんも生きて帰ることはできないだろう(まったく、風紀委員に喧嘩をうるなんて本当に馬鹿じゃないの)(この街で生き延びたいなら、ちゃんと常識をわきまえた方が良い)食べ終わったプリンをテーブルの上におき、私はごちそうさまでした、と手を合わせた。それと同時に立ち上がる雲雀さんを自然を視線が追う。



応接室の窓からは若干色づいてきた空が見えた。本当に朝から晩までご苦労様ですね、私(結局雲雀さん、何もしなかったな……)「いつまでそこに座ってるつもり?さっさと帰るよ」と、上から雲雀さんの言葉が降ってくる。え?、と思って意味が分からないと言った感じで雲雀さんの方を見たら「風紀委員が狙われてるんだ。君だって危ないだろ」の一言。










そういえば、私風紀委員だった……っ!










言われて気づいたけど、私も風紀委員だったんだ……!私の腕にはしっかりと風紀の腕章がついていて、それが私が並中の風紀委員だということを示している。クソッ、もし風紀委員が狙われているとしたら私だって十分に狙われている可能性があるんじゃないか!き、気づかなかった…!私としたことが!と自分が風紀委員であった事に衝撃と、悲しみを覚えていれば雲雀さんがペシンッと軽く私の頭を叩いた。先に言っておくけど、雲雀さんにとっての軽くであって、地味に痛かったりする。



痛い。痛い。叩かれた所をさすりながら、再び雲雀さんを見上げれば、雲雀さんがこれまた不機嫌そうな顔して(私、なんかしましたかー?!)「さっさと帰るよ」とまた先ほどと同じ言葉を言った。雲雀さんに逆らうのは恐くてできなかったので一応立ち上がれば、雲雀さんがドアの方へとスタスタと歩き出す。私もそれについていく様に歩き出せば、あることに気づいた。







あれ、もしかして雲雀さん家まで送ってくれるの?








そう考えると「君だって危ないだろ」とか雲雀さんが優しい言葉言ってる……!(明 日 は 槍 が 降 る !)(いや、もしかしたらそんな生半端に優しいものじゃないかも!もっと凄い何かが振るかも!)少しだけ気味の悪い雲雀さんに夏服から出た腕に鳥肌が出ているのがわかった。まだ校内に残っている風紀委員の人にお辞儀をしながら、私は雲雀さんの後ろ姿を見つめた。





こんな優しい雲雀さんだなんて明日は何か絶対にあるに違いない!「何、何か言いたいことでもあるの?」いつの間にか私の方を振り返っていた雲雀さんに、さすがにそんな事考えていたなんていえるわけもなく私はただただ、はは、あるわけないじゃないですか、と乾いた笑いを返すことしか出来なかった。無念、チキンな自分!










風紀委員傷害事件




(じっちゃんの名にかけて解決してみせるよ!)






 




(2008・02・29)