夏休みも終わり、いつもと同じような学校生活が始まった。放課後も部活があるときは部活、休みの日は並中の風紀の手伝い。多忙な毎日に若干振り回されながらもいつもと変わらないことにこの毎日を楽しんでいる自分がいることに気づき、思わず笑いが零れそうになった。こんな忙しい日々が楽しいだなんて、以前の私ならきっと考えられない感情だろう。以前の私はなるべく目立たないように、平穏な毎日が送れる様にと努力していたのだから。だから、こんな風に誰かに振り回されて楽しい、なんて感情を持つなんて自分でも信じられない。
しかし、私は自分でもまだそんな感情を持つ事を認められないのかそんな感情をもってしまう自分に不満をもった。だけど、不満を持った所で楽しいと思う気持ちが変わるわけもなく、私はただ既に暗くなった帰路を歩く(ツナ達や骸さんたちと過ごす毎日が楽しいだなんて、な)
別に夜道が恐いなんて感情はまったく、といって良いほど無いけど、早く家へと帰ってこの疲れを癒したいと思った私は歩くスピードを速めた。一人、私だけの足音が響く住宅街にふと現れた一人の影に私の足は止まる。あぁ、あの独特の髪型と、黒曜の制服は
「骸さん・・・・?」
「お久しぶりです、」
「久しぶりも何も、昨日あったばかりじゃないですか」
「クフフ、僕にとっては1分でも君に会わないことは久しい事にあたるんですよ」
「真面目な顔で気持ち悪いこといわないで下さい」
「君も真面目な顔で酷い事を言わないで下さいよ」
塀に体を預けるような形で立っていた骸さんに、近づけは彼は私に気付きうっすらと笑みを浮かべながら私の方へ体を向けた。いつものような会話の内容。その内容はふざけ合ったような内容でもちろん骸さんはいつものように笑っているにもかかわらず、何故かいつもの彼とは少し様子が違うように見えた。
もしかしたら私の勘違いかもしれないし、そうでないかも知れない。それに、こんな事を聞くのは失礼に当たるかもしれない。彼を怒らせてしまうかもしれない。と、そう思っていたのに、気になった私は我慢できずにいつの間にか隣を歩いていた骸さんに「骸さん、何かあったんですか?」と聞いていた。
骸さんはその言葉に一瞬驚いた顔をすると、すぐにいつものあの笑顔に戻した。
「どうしてです?」
「いやぁ、何だかいつもと感じが違うような気がしたので」
「ほぉ、何故そう思ったんです?」
「さぁ、それは自分でも分かりませんけど?そうですね、何ででしょう」
そう、自分でも分からないのだ。何故、骸さんがいつもと違うように見えたのかなんて。ただ、そう思っただけ。だから聞いたまでであって、それに理由なんてない。ほとんど直感に近いものだった。骸さんは私のその言葉を聞くといつもの様にあのクフフと笑いをうかべ、「本当には面白い」と呟いた。え、それって私にちょっと失礼じゃないですか?なんてその場の雰囲気のせいで言えなかったけど(私だって空気ぐらい読める)骸さんの横顔をチラリと盗み見るように見ても、その表情からはなにも読めない。一体、彼は何を考えているかなんて、私には分かるはずが無いのだ。
「それで、骸さんのほうこそ今日はどうしたんですか?」
「いえ、これから用事があるので当分に会えないと言う事を伝えにきたんですよ」
骸さんの言葉に私は思わず、ぼけっとした顔をしてしまった(目の前の骸さんが私の顔を見てそれはそれは面白いものを見たかのような顔で笑っていた(・・・・・殴ってよいかな?)
「うわー、それはとても悲しいなー」
「すいません、ものすごく棒読みに聞こえるんですけど」
「えぇぇ?!」
「今の君の驚いた声でさらに先ほどの言葉が棒読みだったと確信しましたよ」
「いやぁ、別にそんなことありませんって。多分」
「多分ってどういう事なんですか!」
暗い夜道、誰もいない夜道、静かな夜道。そんな夜道をまるでぶち壊すかのように響き渡る骸さんのツッコミに私は、少しだけ近所の目を気にして「ちょっと、骸さん静かにしてくださいよ」と言った。骸さんは「あぁ、僕としたことが」と言いながら、どうやら我に返ったらしくいつものすました表情に戻した。その顔を見る限り、それはそれは顔の綺麗な男の子と言う印象を受け、本当顔だけは良いですよね、と思わず言いそうになった言葉を飲み込んだ私を誰か褒めてほしい。
しかし、これから用事があって私に会えないということをわざわざ言いにくるとは。別にメールかなんかで済ませればよいものを。骸さんは私が思っていたよりもどうやら律儀な性格らしい(いや、それは絶対にありえないか・・・)(じゃあ、ただの暇人だな!)
「だけど、千種くんと犬くんに会えないのは寂しいですね」
「え、あれ?そこに僕の名前はないんですか?」
「ハッ」
「いや、そこそんな鼻で笑うところじゃないんですけど。すごく真面目な話なんですけど」
「私はいつでも真面目なんですけどね」
「それであの態度だったりしたら余計、性質が悪いですよ・・・!」
「あ、ちょっと泣かないで下さいってば。私が悪かったですから!!」
地面にしゃがみこんで泣いている(かは分からないけれど、そう見える)(あぁ、でもどうせ骸さんのことだから泣いたふりなんだろうな・・・・・・本当この人の演技力には尊敬の念を覚えるよ!)骸さんの肩を叩く。
こんな顔の綺麗な男の子を泣かしているところなんて、知り合いにでも見られたら私は絶対明日から後ろ指差されてしまうような人間になってしまう。そんな、骸さんのせいでそんなことになったら私、生きていけない・・・・!!と思いながら骸さんを慰める。私って、本当に日本人の典型的な性格ではないだろうかと、自分の損した性格に心の中で涙した。
いつのまにか、復活して先ほどと同じように隣を歩き出した骸さんにホッと息を吐いた。これからあえなくなるということは先ほどのようなやりとりもできなくなってしまうということだと思うと、それはそれで少しだけ寂しいと感じてしまう。それに千種くんともう当分の間愚痴を言い合えないのも寂しい。犬くんとゆったりと会話を楽しめなくなってしまうのも寂しい。この3人がいなくなることは、どうやら私にとって結構つらい事らしい。
今までいなくなるなんて考えた事なんて無かったけれど(だって、いなくなるなんて思いもしなかった)私は素直に、骸さんたちに会えなくなるのを嫌だと感じた。だけど、そう思ったところで3人に会えなくなる事には変わりがない。それに、一生あえなくなるわけではないのだ。
「・・・・骸さん、できれば早くこっちに戻ってきて下さいね」
「えぇ、がそう言うのなら僕達はすぐにに会いに戻ってきますよ」
いつもより、少しだけ優しく微笑む骸さんに私は何故かその時嫌な予感が頭をよぎった。この人は、私が会いたい(なんて、そんな事思うわけが無いのだけど)なんて思っても会いに来てくれないだろう。
骸さんはそういう人だ。気まぐれで、だけど優しくて、でも、どこか人と一線を引きたがるような人(私もきっとどこかで線を引かれているんだと思う)左右で色の違うオッドアイの瞳の奥に、何を考えているのかなんて私には分からないけども、今まで一緒にいたことでなんとなくそれだけは分かった。
「あはは、そんな真顔で面白いことを言わないで下さいよ」
「、そこは笑うところじゃなくて僕にときめくところですよ」
「・・・・」
「嘘です。嘘だから、そんな冷たい目で僕を見ないで下さい」
あまりにも気持ちの悪い発言をした骸さんを少し(いや、かなりだ)軽蔑した瞳で見る。私が骸さんにときめくなんて一生来るわけが無い。例えるなら、私が雲雀さんにときめく日が一生来るわけが無いぐらいだ(あれ、例えになってない?)
あぁ、そう言えば、骸さんは雲雀さんの存在を知っているのだろうか。並盛じゃ、有名な彼だけど、黒曜ではどうなんだろう。骸さんのことだから勝手にライバル視とかしていそうなんだけど。あ、いや、骸さんにとって、他人なんていないような者だからそんな事もありえないことか。しかし、この2人は何だか性格的にあわなそうだ(私としては似ている所が多々あるような気がするけど)
「あぁ、もうの家まで着いてしまいましたね」
「結果的に送ってもらってしまって、ありがとうございました」
「クフフ、が素直に礼を言うなんて珍しい事もあるんですね」
「殴っても良いですか?」
「かまいませんが、僕を喜ばせる事になっても良いんですか?」
私が思っていたよりも六道骸と言う少年は変態らしい。鳥肌がたったような気がして私は夏服からでていた腕を思わずさすった。何故、私の知り合いに変態なんているんだろうと少しだけ悲しくなる。
千種くん、いつもお疲れ様です!ごめんね、助けになれなくて(当分、千種くんの愚痴も聞けなくなるけど応援してるからね!)自宅の門に手をかけて、骸さんと向いあう形になれば、先ほどまでは横顔までしか見えなかった顔も正面からはっきりと見ることが出来る。うっすらと笑みを浮かべる彼の顔からは彼の心情は読みとれやしない。
「では、また今度会いましょう」
「・・・・当分ってどのくらいなんですか?」
「それはまだ分かりませんね。しかし、すべてを終わらせたらまた戻ってきますよ」
一体、彼は何を終わらせるつもりなのだろうか。私には恐くて聞けないけど、だけど良くない予感がするのは確かだ。私の予感が悲しい事に当たってしまう事が多い。
さて、良くない事が起きるのは私か、それとも彼か。できる事なら、その良くない事が起きては欲しくないのだけど。それでも、起きる可能性がないとは言い切れない今、私はただ願う事だけしかできない(私はいつだって無力だ)それに、できることならその良くない事が私に起これば良いとも思った。私は大切な人が悲しむところや、苦しむ所は見たくない。
「すべて、ですか」
「えぇ、すべてです」
はっきりと言い切る骸さん。彼の顔に少しだけ影ができる。その笑みもいつもの笑みと比べて、何か黒いものが渦巻いているかのように、冷たい目をしていた。こんな目で見られるのは初めてだ。いや、彼が実際見ているのは私ではない。私ではない、誰か。この瞳の冷たさは、その誰かに対する憎しみのようにも感じられ、私は骸さんが、恐い、と思った。
「骸、さん」
「どうしました、?」
「もしかして、骸さんが夏休みに言っていたことを関係するんでしょうか?」
確か骸さんは、以前、「きっと夏が終わればもっと楽しい事がまっていますよ」と私に言ったはず。もう、季節は夏を終え肌寒い季節となった。もしかしたら、骸さんの用事とはそれに関係するのではないかと、私はふと思った。私の質問に骸さんは少しだけ考える動作をすると「はい」と言ってのべた。
彼にとって、楽しい事とは一体、とは思いつつもこれ以上私は何も骸さんに言わなかった。しかし、楽しいことが待っていると言うのに、骸さんは本当にそれを楽しみにしている風には思えないのは、なんでなんだろう(・・・・・冷たい瞳をして、何を楽しむつもりなの?)
「・・・・・クフフ、それではおやすみなさい、」
「あ、はい。じゃあ、戻ってきたらまた会いましょうね」
「もちろんですよ」
クフフと、笑う骸さんの瞳には、冷たさはどこかにいってしまったかのように消えてしまっていた。だけど、さっきの冷たい骸さんの瞳は私の勘違いではないはず。そして、骸さんに恐いと感じたのも紛れもない事実。私が玄関を開けて、後ろを振り返れば骸さんはこちらを向いてたったままだった。
「Arrivederci」
初めて聞く言葉。何語かなんて私には分からなかったけど、少しずつ閉まっていくドアから骸さんをジッと見つめた。奥からは吾郎の声がしたけれど、それも無視して私は少しの間玄関に立ったままだった。本当に、骸さんはまた私に会いにきてくれるんだろうか。骸さんだけでなく、千種くんや、犬くんも。この3人が、私にとってかけがえのない大切な人であることは、変えようのない事実。だからこそ、私は彼らが再び会いに来てくれることを願う。
動き出した歯車
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(2008・02・28)
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