夏休みもそろそろ終盤に差し掛かり今までの夏休みよりも毎日がせわしく過ぎ去っていく事に思わず涙を覚えながら、私は部活帰りの道を歩いていた。
そう言えば、最近山本を見かけないような気がするんだけどどうかしたんだろうか。
ツナには昨日会ったばかりだし、獄寺も会いたくはなかったのだけど、ツナに会ったときにあいつは当たり前のようにツナの近くにいた(右腕、右腕煩かったんだけど、私の知らないところでなにかあったんだろうか)その2人が揃っているのに、山本がいないことは私にとってとても、不自然なことだった。ツナと獄寺と山本は何だかんだ言って三人で一セットだと私は思っている(こんな事ツナに言ったらツナはどんな反応を示すんだろう)
「!」
突然かけられた声に私の足はとまる。思わず振り返ってみればそこには先ほどまで私が考え事をしていた張本人がいた。人間噂をすればなんとやらと言う奴だろうか。今まで会わなかったのに、その人のことを考えるとすぐに会えるなんて一種の魔法みたいなものだと思う(いや、だけど、魔法なんてもの信じるほど私は子供じゃないよ!むしろ、悲しいくらいに現実主義だから・・・!)
走り寄ってくる山本に「山本?」と声をかければ、山本は私の目の前まで来て、爽やかな笑顔をうかべた。真夏の暑い日差しの中、その笑顔はとても眩しいものだった。さすが、山本。爽やかさならきっと、このあたりの誰にも負けないよ・・・・・!
「よっ、久しぶり!」
「いや、久しぶりってほど、久しぶりじゃないでしょ?」
と、私が言えば目の前の山本は「そっか!」と言いながら、更に爽やかな笑顔をうかべた・・・・・本当に、爽やかコンテストとか言うコンテストはないのかな(山本なら絶対に優勝できるよ)そんな事を考えていれば、山本が持っていた袋から何かを取り出して、私の方へと突き出した。見る限り、何かのお土産みたいだ。もしかして山本は会わない間どこかに旅行に行っていたんだろうか。いや、でも、つい先日山本のお父さんを見たばかりで、さすがに一人で旅行なんて(ツナや獄寺は頻繁に会ってるし、)(ましてや、中学生が一人旅なんてとても考えられないんだけど)
「旅行、でも行って来たの?」
「あぁ、ディーノさんと一緒にイタリアにな!」
「あー、ディーノさんとイタリアねー・・・・・・って、イタリア?!」
「そ、イタリア!すっごかったぜ!」
そりゃ、イタリアと言ったら凄くないわけが無い。かのレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐で有名なサンタ・マリア・デッレ・グラティエ教会にガリレオ・ガリレイが落下の実験を行なったという・・・・・まぁ、これはあくまで確証はないらしいのだけど、ピサの斜塔もイタリアにある。それに、ミラノやローマ、つい先日学校で習ったばかりのルネッサンス文化の発祥の地であるフィレンツェと言えば、知らない人はいないくらい有名な都市の名前だろう。
なんて、そんな観光地の名前なんて私の前じゃ何の意味もなさないのだけど。やはり、私にとってイタリアと言ったらパスタにチーズだ。特にイタリアのパスタと言ったら、豊富な海の食材を使っていて見た目もだが味もきっと美味しいに違いないんだろう、と思う(うわぁぁぁ、って言う事は山本はイタリアのパスタを食べたの?!う、羨ましい!)
「・・・・・・なんか今凄く山本が恨めしいよ」
「はは、なんだ、それ」
「(ここ笑う所違うと思うんだけどな・・・・いや、まぁ、山本だからしょうがないか)」
それにしても、山本はどうしてイタリアなんかに行ったんだろう。私としてはディーノさんと山本というペアは珍しくて仕方がない気がするんだけど、まぁ、どうでも良いと言えばどうでも良いのでここは山本に聞くのはやめておくことにしよう(それに、どうせ山本に聞いた所でまともな答えが返ってくるとはとても思えない。それなら、ツナに聞いたほうがきっとまともな答えを返してくれることに違いない)
私はお礼を言いながら、山本からイタリアのお土産を受け取った。中身がいささか気になるところではあるけどこんなところであけるわけにはいかないことは重々承知しているので、家に帰ってからのお楽しみにしておく。
「武兄!」
お土産を受け取った瞬間に住宅街に響く声。その声に山本は一瞬びっくりした顔をしながらも、その声のしたほうに振り返った。あぁ、そういえば山本の名前って武だったけ・・・・・と思いながら、初めて聞く声に私も興味が湧き、山本の視線の先をみる。その視線の先にいたのは、小学生くらいの少年と、とても綺麗でスタイルの良いお姉さんだった(ちょ、すっごい美人さんだ!)山本にこんな美人さんの知り合いがいるとは、と思いながら山本の容姿を見れば、何となく納得。むしろ、山本がこんな私みたいな平凡な女といるほうが驚き、じゃないだろうかとも思った。
私は美人さんから少年へと視線をうつす。少年は何故か私と目が会った瞬間にいきなり目を輝かせた(これは比喩ではなく実際にそう見えたんだよ!なんか、こう、ね、キラキラしてた!)え、一体何事?私、あんな子を知らないんだけどな、と考えていればいつの間にか少年と美人さんは私達の目の前へと来ていた。
「山本武こんなところで奇遇ね」
「はは、そうっすね」
「ねぇねぇ、武兄!もしかして、この人が姉?!」
いきなり少年が自分の名前を出したことに少し驚いた。もう一度考えるが、私はこの少年と知り合いなわけではない。私は、いつの間にか有名人にでもなってしまったのだろうか、と少し頭を抱えていれば、少年は私の方へと満面の笑みを浮かべた(か、かわいい・・・・・・!)しかし、知り合いではない少年にいきなり笑いかけられても社交的な人間なわけではない私はどうして良いのか分からずに、「は、初めまして・・・・・?」と当たり障りのない言葉を口にしていた。
もう、ね、ちょ、山本助けてくれよな!・・・・・・・なんて、山本に助けを求めることは間違い、だな。山本に助けを求めた所で、はは、仲良いのな!とかで終わりそうだ(安易に想像できるよ・・・・)
「初めまして、姉!僕、フゥ太って言うんだ。姉のことは、ツナ兄から聞いてるよ」
ツ、ツナ、お前一体何を言ったんだ・・・・・?!変なこと言ってないよね?!って言うか、ツナの知り合いイコールマフィア関係者か変な人って言う方程式が私の頭の中にあるんですけど!いや、でもこんな少年が、マフィア関係者なわけがあるわけがない。そうだよ、。最近色々な事がありすぎて、少し敏感になりすぎてるよ。
そんな、まさか、こんな可愛い少年が「今度、姉のランキングもとらせてね」・・・・・・絶対、マフィア関係者だ!一体、ランキングをとらせてね、ってどういう意味なんだとこの少年、フゥ太くんには聞きたいことは山々だったけどニコニコと笑顔をうかべて私の顔を見上げてくるフゥ太くんには聞こうにも聞けず、私はバレないようにため息を吐いた。
「そう、貴女がなの」
「あ、はい。そうですけど、貴女は・・・・・?」
「私はビアンキよ。いつも隼人がお世話になってるわね」
隼人って一体誰なんだろう、と考えて少ししてやっと獄寺の顔が思い浮かんだ(いや、だって隼人って呼ぶ人いなくない?!)しかし、いつも隼人がお世話になってるって、と考えていれば隣に移動していた山本が耳元で「獄寺のねーちゃんなんだ」と教えてくれた。
あぁ、なるほど。だから、隼人がお世話になってるって・・・・・・って、えぇぇぇ?!いやいや、ちょっと、まとうよ!こんな美人さんと獄寺のお姉さん?!まったく、似てないにもほどがあると思うんだけど。まぁ、私も兄、吾郎とは似てないけどさ!なんと言うか、ビアンキ、さんを見て、獄寺のお姉さんとはとても、とても思えないんだけど!(確かに美形なところは似てるかもしれないけどさ!)それもさ、よく考えてみようよ!獄寺は獄寺隼人ってめちゃくちゃ日本語の名前なのに、ビアンキさんはあきらかに日本人の名前じゃないじゃん!ここらへんからどう考えても可笑しいでしょ!
「・・・・えっと、とりあえず二人ともお願いします」
・・・・・まぁ、どんなに考えても、ツッコミをいれても無駄な事だと言うのはもうちゃんと分かってるから、別に気にしないけど、ね!それよりもここはなるべく友好的に挨拶をしていたほうが良いに決まっている。
私が言えば、フゥ太くんは「姉、よろしくね!」と抱きついてきて(本当可愛いな、オイ!)ビアンキさんもそれはそれは妖艶な笑みを浮かべて「えぇ、よろしく」と言ってくれた。それにしても、やっぱりビアンキさんも獄寺のお姉さんと言う事は、マフィアと言うものなんだろうか。なんだか、こんなに綺麗な人やこんなフゥ太くんみたいに小さい子がマフィアだなんてとても信じられないよな。まぁ、一番信じられないのは私もそんなマフィアの一員ってことなんだけど。
「あれ、に山本じゃねぇか」
「あ、獄寺」
なんとも絶妙なタイミングに登場した獄寺に、みんなの視線が集まる。その瞬間、何故か獄寺が「あ、姉貴・・・・・!グフッ」と言って、お腹をおさえて倒れこんだ。私は何が起こったのか分からずに、獄寺へとかけよる。
「ちょ、獄寺大丈夫?!」
「な、なんで、こんな所に姉、貴が・・・・・」
「えっ、何言って、」
「あら、隼人ったら、こんなところで倒れて」
そう言いながらビアンキさんがしゃがみこんで倒れた獄寺の頬に手をやる。その瞬間、獄寺が死んだ・・・・・・・と言っては御幣があるが、気を失ったのか、何かを呟きながら瞼を閉じた。私はわけもわからずにどうしたものかと、助けを求めて山本を見上げれば山本も少し困ったような顔をして「・・・・ツナん家が近いから、とりあえずツナん家に運ぶか」と言った。フゥ太くんも「それが良いよ、武兄」と言いながら苦笑していた。なんと言うか、ツナ、君はみんなにとって緊急避難所みたいになってるみたいだよ、と言う事を後でツナに教えてあげようと思う。
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獄寺をツナの家へと連れてきて、ツナから獄寺とビアンキさんの関係やら、ビアンキさんのポイズンクッキングと言う聞くだけで食欲を無くすような技の話や、フゥ太くんのことを色々聞いた。もう何ていうか、一般人の私としては聞きたくなかったのが正直な感想なんだけど、少しだけフゥ太くんのランキング能力は今度お願いして使って欲しいとは思った(ランキングってちょっと楽しそうだしね!)
それからビアンキさんが獄寺が心配だと言って獄寺を寝かせている部屋に入ろうとするのをツナと山本がビアンキさんをなんとか部屋に入らせないようにしている。部屋の外からはツナがなんとかビアンキさんを部屋に入れないように必死に頑張っている声が聞こえてきて私は心の中でツナを応援した。目の前で今だ唸りながら寝ている獄寺の額を撫でる。なんだか唸っていて寝ているままも可哀想なのではないかと思い、でこピンをしてみるも反応は殆ど無い。
少しだけ、いや、本当に少しだけ面白くなって、いつものお返しだと思い調子に乗ってでこペン(でこピンの数倍は破壊力があると思う)をしてやれば、さすがにそれは痛かったのかガバッと勢いよく獄寺は起き上った。辺りをキョロキョロと見渡す獄寺の額はペンの形にくっきりと赤くなっていた。
「な、何すんだ、テメー!」
「でこペン。ちなみにペンはツナ愛用と思われる黒のボールペンを使いました」
「そんな事聞いてるわけじゃねぇ!」
「いや、だってなんだかうなされてるみたいだったし、起こしてあげたほうが良いかなって思って」
だから、でこぺんしたんだけど、と言えば獄寺は少し何か考える仕草をして顔を逸らし「起こすんなら、もっと優しく起こしやがれ」と言った。どうやら、うなされていたように見えたのは間違いではなかったらしい。獄寺としても起こされてホッとしているように、見えた(ぶっちゃけ、本当の所はわからないけどねー)私はとりあえず、起きたことを今だ部屋の外で頑張っているツナに伝えないといけないな、と思いながら少しだけまだ顔色の悪い獄寺の名前を呼んだ。名前を呼べば、獄寺は逸らしていた顔をこちらへと向ける。
「それで、もう大丈夫なわけ?」
「・・・・あぁ」
「なんか、獄寺も大変なんだね」
今までツナに迷惑かけてるところしか見たことがなかったんだから、そうは思ったことはなかったけど、今回ビアンキさんを相手にした獄寺を見ると可哀想に思えた。なんか、こう、お腹痛くなるってどんだけ!って感じだけど、兄妹関係で苦労しているのは私も同じだから、なんとなく獄寺に対して初めて仲間意識というものが芽生えたんだよね(こんな事言ったら、絶対獄寺がダイナマイト取り出すと思うからいえないけど)(まぁ、ツナや私に迷惑をかけない範囲で頑張れ・・・・!)獄寺は何か言おうとしたのか私の名前を呼んで口を開いたのだけど、バンッと思いっきりドアが開けられて、獄寺が何を言おうとしたのかは分からなかった。
「隼人、大丈夫?!」
「あ、ねき?!」
またもや、その場で気を失う獄寺。ビアンキさんに続いて部屋に入ってきたツナは、疲れきった顔をしていた(ビアンキさん止めるの頑張ったんだろう)「ビ、ビアンキ!」とツナが叫ぶもビアンキさんは聞く耳をもたずに獄寺に何か話しかけている。まさか、自分のせいでそんな風になってるとは思っていないんだろう、な。うん、まぁ、頑張れ獄寺!と私にしては珍しく獄寺を応援し、ツナの方を見ればツナと目があう。そして私達は二人でため息をついた。
頑張れ、獄寺隼人!
(応援しねぇで助けやがれ!)
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(2008・02・19)
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