なんとか雲雀さんの嫌味な姑攻撃に耐えれば、雲雀さんはすぐに他の屋台のショバ代を集めにいってくれた。
「って、いつも大変なんだね」哀れそうに言って来るツナに、私はただ乾いた笑いを返すことしか出来なかった(本当、なんで私って風紀委員やってんだろうな・・・・・これ、多分、永遠の疑問に間違いないよ)雲雀さんの去っていく背中に蹴りの一つや二つすることができれば、まだ私の今現在のこの気持ちを晴らす事ができるんだろうけど、さすがにそんなこと命が惜しいからできるわけが無い。
だけどいつか絶対に何か仕返ししてやる!と決意を決めていれば、「チョコバナナくださーい♪」と、まるで先ほどの雲雀さんとの出来事を忘れさせてくれるように、京子ちゃんとハルちゃんが浴衣姿で屋台の前に立っていた。
「ちゃんこんにちはです!」
「ふふ、こんにちは、ちゃん」
「ハルちゃん・・・・!京子ちゃん・・・・・・!」
何ていうか、私、夏祭り来て良かったかもしれない。ほら、この二人の浴衣姿って凄い癒されるって言うか(断じてそういう気があるわけじゃないからね!純粋に可愛いものが大好きなんだよ!)、さっきの雲雀さんのことなんてもうどうでも良いよ!もう、忘れた!と自分の単純さに少々悲しさも覚えながら、私は再びチョコバナナの準備を始めた。「すごーいお店してるの?」と言う京子ちゃんの言葉に私は二人のほうを見る(京子ちゃん、全然凄くなんてないんだよ・・・・・!)
「でもちょっと残念です。みんなで花火見ようって言ってたんで・・・」
「そーだね」
「なぁ?!」
「えぇ?!」
京子ちゃんとハルちゃんの言葉に思わず、動いていた手が止まる。ツナも私と同じようにその言葉に驚いている様子だった。そうだよね、ツナも行きたいよね、京子ちゃんとハルちゃんと花火!私だってすんごく行きたいもの!・・・・・だけど、と思いながら私はバナナのダンボールを見つめた。
だけど、今日の私達は遊びに来たわけじゃなくて、屋台をしにきたんだ。きっと、花火を見に行くなんてリボーンが許してくれるわけも無い。私は、はぁ、とため息を零した(でも、見たかったな・・・・・花火)
「ちゃんも頑張ってくださいです!」
「がんばってね」
「あ、ありがとう、ハルちゃん、京子ちゃん!!(なんで、この子達こんなに良い子なんだろう・・・・・!)」
京子ちゃんとハルちゃんの励ましに頑張らないと、と思いながら、離れていく二人に手を振った。離れていく姿が先ほどの雲雀さんと違い、少し寂しく感じられた。むしろ雲雀さんのときは早くどっかに行ってくれと神様に願ってたから、ね!「でも全部売っちまえば俺オレ達も花火見にいけんじゃん?」と、山本の言った言葉に私は山本を見る。山本はいつもの爽やかな笑顔を浮かべたままで、すぐ傍にいた獄寺が、珍しく「んーまーな」といって山本の言葉に同意の色を示した(め、珍しい!いつもなら、なんか絶対文句言うのに!)なんて、獄寺が山本に突っかからなかったのはきっとツナも花火を見たそうにしていたからなんだろう。
「(山本、グッジョブ!!)」
山本にしてはこれまた珍しくまともな考えだ。いや、本当、すっごいよ、山本。そんな良い考えがまさか山本に考えられるなんて思ってもなかったよ!と思いながらチョコバナナを売っていく。
私としては一生懸命売っているつもりなんだけど、はっきり行って獄寺が邪魔だ。山本はやっぱり天然であっても人見知りしたりしないからどんどんチョコバナナを売っていくんだけど、獄寺はチョコバナナというよりは喧嘩を売っている。
その様子に私とツナは顔を見合わせて、はぁとため息をついた。これじゃあ、どんなに頑張っても売り切れるわけが無い。そう、そう思ったそのとき、可愛い浴衣姿の女の子が現れた。私には一体その可愛い女の子が誰かは分からなかったんだけど「大人イーピン!!」と言うツナの言葉にこの可愛い女の子が10年後のイーピンちゃんだと言うことを知った。何処から現れたか分からない大人イーピンちゃんは色々なアドバイスをくれて(は、初めて大人イーピンちゃん見たよ!)(めっちゃ可愛いんだけど・・・・・・!す、すご!10年後って凄っ!!)そのおかげがどんどんチョコバナナは売れていき、瞬く間にたくさんあったバナナの箱が減っていった。
「バナナあと一箱で完売っス!」
「おお〜〜!」
「(やった!)」
獄寺の言葉に私とツナは素直に喜んだ。だってこの調子ならきっと花火にも余裕で間に合うに違いない!そう思いながら思わず緩む頬に気合を入れて、私はお客さんにチョコバナナを渡した。じゃあね、と手を振っていく子供はとても愛らしいもののように感じる。そして、ふとでてきた汗を手の甲で拭えば山本が「ワリーんだけどさぁ、5分ほどはずしていいか?毎年、屋台のボールの的当てしてんだけどよ それやんねーと祭りに来たって感じがしなくてさ」と言った。その言葉にツナは快く了解する。
「いいよ、今、みんな御輿見に行ってて人少ないから」
その言葉を聞いて山本は嬉しそうに「景品持ってくっからな!」と言った(景品の前に私は山本が屋台を壊さないか不安なんだけど)山本は投げる球がついつい本気になるという体質なのに大丈夫なんだろうかと心配した目で山本を見れば山本は何を勘違いしたのか「安心しろって。にもちゃんととって来てやるからな!」と言葉を残して走り出していた。
どうやら山本は私が屋台を壊さないか心配して見ていたのを、私の分の景品をちゃんと取ってきてくれるか心配しているように見えたらしい。私は小さい子供かよ、とツッコミたくはなったけど、それを伝える相手はいないので、それを言葉にすることはなかった。
「10代目すんません!自分もトイレ行ってきます!」
「うん!大丈夫大丈夫まかしといて」
「オレは踊ってくるぞ」
「あいよ」
獄寺やリボーンもいなくなり、いつの間にかチョコバナナの屋台は私とツナだけになっていた。お客のとおりも少なく、私とツナはお互いに顔を見合わせて苦笑いをうかべる。
「本当、疲れたねー」
「本当に。まさか、屋台するなんて思いもしなかったし、俺ここに来るまで屋台すること知らされたなかったし・・・・」
「(ツナ、どんまい!)私は昨日の時点で電話来てたからね。それに、まさか、雲雀さんがショバ代集めてるとは思いもしなかったよねー」
「・・・・・うちの風紀委員、地元最凶?」
「ちょ、やめてよ、ツナ。ありえそうで恐い・・・・・・!」
ツナの言葉に私は暑くて汗をかいているにも関わらず背中に冷たいものが流れた気がした。だって、並中の風紀委員だよ?雲雀さん以外全員リーゼントなんだよ?地元最凶とか言われたら確かに、って頷くしかないぐらい、恐ろしい存在じゃない!それに、雲雀さんは病院でも我が物顔をしていたし、もはやショバ代を収めるのは並盛の伝説になっているらしいし、地元最凶とか洒落にならないから・・・・・!雲雀さんなら、とか思っちゃうから!そう思いながらツナとの会話を楽しんでいれば、いきなり帽子をかぶった男が売上金の入った金庫を持って走り去った。
その光景を私はただ呆然と見ていることしか出来なかったけど、いつの間にかツナは走り出していて、その帽子をかぶった男を追いかけていった。さすが、ツナ。こういう時は頼りになる・・・・・・・・って、違う、違う。何、こんなところでポカンと口あけて馬鹿みたいな顔をしてるんだよ!早く追っかけないと!、と思った時には既に時既に遅し、と言う感じでツナも金庫を持ち去った男も見えなくなっていた(私の馬鹿!)とりあえず、屋台を隣の屋台の人にお願いして、私は走り出した。
多分、すぐに見つかるような気がするのはただの勘だけど、だけど、その勘はきっとはずれていない。騒がしいところに行けば、きっとツナがいる事はもう今までの経験上分かりきった事だから。
「(ったく、どこにいるんだろう・・・・)」
騒がしいところに行くとはいっても、よくよく考えれば今日はお祭りの日。神社の中はどこもかしこも騒がしいに決まっている。
私は乱れる呼吸をなんとか、落ち着けながら四方八方を見すえる。たくさんの人。お神輿。一体、ツナはどこにいるんだろう(あぁ、もうあの時追いかけておけばこんな苦労する事は無かったのに!)
額を流れる汗はもう女の子にしては、ちょっと駄目な量かもしれないと思いながらその汗を拭う。
だけど、ツナを見捨てるわけには行かないなー、と思いながら歩いていれば、階段が見えた。何となく、その階段を残った体力で一気に駆け上がれば、たくさんの死体の山・・・・・・のようにも見えないことも無い男達と、その中心に死ぬ気になっていたツナ(もう、過去形だ。今は死ぬ気はなってはない。ただ、パンツ姿だけど)と獄寺と山本(お前、なんでバット常備してんだよ。さっきまで持ってなかったじゃん!)がボロボロになりながらいた。
そして、本当に何故いるかは分からないのだけど、雲雀さんも一緒にいた。
「あれ、なんで、みんな、」
と思った瞬間、太い腕に首をつかまれていた。みんなの驚いた顔でこちらを見た(うわ、雲雀さんも驚いたのには驚いた・・・・・って、違う!今は雲雀さんが驚いた顔とかどうでも良いから!)
息苦しさに思わず表情が強張る。って、本当これ何事?!マジで何事と思いながら視線をずらして、太い上の持ち主を見た。どうやらボロボロの姿を見ると、あの4人にやられた人物であることは容易に推測が出来た。普段なら、何か殴ったりしようとも考えたりするけれど、さすがに相手は大の男。その上、私は今全速力で階段を駆け上がってきたばかりだ。私の体力はもう無いに等しい。
「あ、何やってんだよ!あの馬鹿女!」
「(うるせ!獄寺のくせに!!)」
「ちょ、?!」
「・・・・これじゃあ、俺ら手出せねぇな」
きつく絡んでくる腕に私の息は、グッとつまる(この男絶対ぶっ殺す・・・・・!)一体どうしたものか、と考えていれば視界の端で木の枝に乗ったリボーンがニヤリと嫌な笑みを浮かべるのが見えた。あの赤ん坊、私に喧嘩をうってるに違いないと思った。まどろむ視界にさすがにヤバイと思い始る「この女がどうなっても良いのか?!」その言葉にツナや獄寺や山本が焦ったような顔をする。・・・・・って、あれ雲雀さんにいたっては興味ないって顔でこっちを見てるんですけど。
うん、ちょっと、待て。この状況ってお前のせいだろ?(だって、こいつがムカついてるのはあの4人なんでしょ?!)確かに雲雀さんが誰かを助けるなんて考えられないけど、さ!はぁ、と思わずでそうになるため息。私、もう本当ヤダな、と少しだけ涙がでそうになる。
「ほら、さっさと―――――ガツンッ
「えっ・・・・」
でそうになった涙も思わずとまる。私のすぐ隣を風とともに銀色に光る例のあれが通り過ぎていった。その瞬間に、解放される首に私はその場にへたりこんだ。後ろにいた男を見れば、もう意識は無いんだろう。嘆き声もさえも聞こえてこない。そして、そのすぐ傍には金属特有の音をたてながら転がる銀色の例のあれ。
私はその所有者である人物を見据える。先ほどと表情も変えずに、カツンコツンと靴の音を立てながらこちらへと歩き寄って来た。
「・・・・・ったく、怪我はないわけ」
「え、はい、ないです」
「本当、君って使えないよね」
呆れるように言う雲雀さん。いつもならイラッときそうな雲雀さんの台詞だけど、さすがに助けて貰ったばかりでそんな事を言えるわけも無く私は「すいませんね、使えなくて」とただ嫌味を返すしかできなかった(いや、だけど雲雀さん相手に嫌味を返せるって凄くない?)雲雀さんはその言葉にニヤッといつもの嫌な笑いをうかべると「その様子なら大丈夫そうだね」と言い、近くにあった銀色の例のあれ、トンファーを拾い上げ歩き出した。一応助けて貰ったのにお礼を言わないのは、さすがに、と思ったので遠くなる背中に「雲雀さん、ありがとうございます」と言った。
言葉は帰ってくることはなく、そのまま雲雀さんは歩き去った。
「、大丈夫?!」
「本当、足引っぱってんじゃねぇよ!」
「まぁまぁ、も無事だったんだし、良かったじゃねぇか」
そういう問題じゃねぇ!と言う獄寺に、山本は「はは、獄寺も心配だったんだよな」と言う言葉を返した。もちろん、獄寺が怒ったのは言うまでも無い「だけど、まさか雲雀さんがを助けるとは思ってなかったよ」ツナの言葉にみんなが頷いた。
「はは、ヒバリも良い奴だな!」
「「「(それは絶対にない・・・・・!)」」」
多分、山本以外みんなの考えは一緒だったと思う。雲雀さんが良い人だなんて絶対にありえるわけがない。まぁ、確かに助けて貰った私が言えたことではないのだけど。その後他愛もない話をしていれば京子ちゃんやハルちゃん、ランボくんにイーピンちゃんが来てみんなで花火を見た。忙しい一日だったけど、花火を見たらすべてが楽しかった思い出へと変わったような気がする(あぁ、だけど、リボーンの奴は許さないよ!)それにしてもまさか雲雀さんが助けてくれるとは思わなかった。意外な展開、これもきっと良い思いでなんだろう・・・・・多分
刻まれた思い出
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(2008・02・18)
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