先ほどが出て行った応接室のドアを見つめた。まったく、仕事を途中で投げ出すなんて、と思いながら僕は今までが処理いていた書類を手に取り、中身をペラペラとめくる。
その書類たち、僕が考えていた以上に出来栄えは良い。それに、時間がなかった割りには仕事も大分減らしている。やはり彼女にあの腕章を渡したのは良かったかもしれない(良いパシリができた)多分、書類の処理に関してはどの風紀委員よりも使える、そう思いながら僕は窓から校門へと走っていく小さな影を見つめた。















「(本当に、変な奴・・・)」












この前の病院での出来事と言い、本当にそこらへんの草食動物とはどこか違う。初めて会ったときは素直に、面白いと思った。まず、怯えることなく僕のトンファーを止めたことには思わず口端が上がるのを抑えきれなかったし、この女と戦ってみたいと思った。見た目はまったくもって普通の草食動物なのに、中身は草食動物でない。まぁ、肉食動物ってわけでもないらしいけど。だけど、並中で会ったときはビクビクしていて、ただの草食動物にしか見えなかった。もしかしたら、僕の見当違いだったのかもしれないと、思わず落胆しそうになったが、この女はやはりただの普通の女じゃなかった。











それが、、あの病院での出来事だ。さすがにあの出来事にはこの僕でさえ驚いた。









だって、あの女ゲームを始める前まではビクビクと怯えていたはずなのに、ゲームが始まればいつの間にか彼女は椅子に座ったまま器用に眠っていたのだ。なんなんだ、この女。この状態で眠れるなんどんな神経しているんだ、と聞きたくなったぐらいだ。しかし、音は一切経てていない。だから僕は咬み殺すわけにもいかず、ただそんな風に眠る彼女に呆れながらため息をつき、ベッドから抜けた。





そもそも僕は風邪をこじらせて、入院していたのだ、始めは(そう、始めは、ね)けれど、とても暇だった僕は、何か暇つぶしになればと思いあるゲームを始めた。ルールは簡単。音を立てたら、僕に咬み殺されるというもの。今までこのゲームに参加した奴らは何かしら音をたて僕に咬み殺されていた、もちろんあの赤ん坊といつも一緒にいる草食動物も例外でなく。そして、偶然彼を咬み殺していたところにこの女と会ったのだ。




何故、病院に、と思ったがきっとこの草食動物のお見舞いにでも来たんだろう。まったく、僕の前で群れるなんて良い神経をしている。











「(まったく、草食動物なのか、草食動物でないのか・・・・・とりあえず、変な女だと言う事は間違いない)」






「委員長」





呼ばれて視線をうつせば、草壁がドアをノックして応接室へと入ってきた。






「何?」





の資料を、」





「そこら辺にでも置いてて」





「はい、では失礼しました」














僕はの資料を見る。この前は学校での成績などを調べてきた。まぁ、だからこそ今日ここに来させて仕事を手伝わせたんだけど(中々成績は良い方だったから、これは使えると思ったよ)今草壁に持ってこさせた資料には家族構成が書いてある。普通、学校の成績よりもこちらのほうが早く調べられそうなのにと思ったが、それはあえて考えない事にした。
資料に目を通して、驚いたのは彼女の兄の事。どうやら親は二人とも海外出張らしく、現在は兄と二人暮らしらしい。その兄が異常だ。どうして、兄の趣味の欄に女装なんて言葉があるんだ。普通に考えて可笑しいだろ。この兄妹、もしかして変なのは、妹だけじゃなく兄もかもしれない。







まぁ、良い。今はとりあえず、逃げて行ったをどうにかしないと、と思い僕の口端は自然と上がった。まさか、僕から逃げ切れるなんて考えているわけじゃないだろう。この僕が狙った獲物を逃すわけがない。良いパシリが見つかったのだ、それにまだへの興味が無くなったわけではない。携帯をとりだし、番号を押す。向こうからは、プルルと言う音が聞こえてきた。








































に、逃げ切った・・・・・!と私は並盛商店街を通り抜けたところで、やっとそう思うことがあった。もう、二度と絶対にあの学校にはいかないと心に決めながらも、私の手には置いてきわすれた、赤い風紀の腕章。なんだか、これは持ったままはさすがにいけないよなーと思いつつも自分で返すつもりはまったくない。












「(よし、こんな時こそツナに頼もう!)」








はは、絶対に嫌がるってことはもう分かりきってるけどな!だけど、ツナの事だから何だかんだ言って、私の言う事を聞いてくれそうな気がする。あの子良い子だからね・・・・!ツナには悪い気がとてもするけれど、私はこんな腕章を受け取るつもりはない。それに気をつけておけば、雲雀さんとも風紀委員の人とももう会うことなんないだろう。あぁ、でも草壁さんは良い人だった。本当に雲雀さんの部下なのかってぐらい良い人だった。あの人だったら、もう一度会いたいなー、














―――緑たなびく〜











まるでどこかの学校の校歌のような歌がその場に響き渡る。私は一体何事だと思い、辺りを見渡すけれど周りには人なんていないし、音が出そうな機械もない。一体、何事なんだと思いながら歌を聴けば、可笑しな単語が聞こえた
「ともに謳おう並盛中」・・・・・・って、え、並盛中?そ、そんなこの歌ってもしかして並盛中の校歌なのか、と思っていれば、その歌はどうやら二番に入ったらしい。本当にどこからなんだろう、と考えながら耳をすませば極限に(あぁ、さっき並中で聞こえてきた言葉がうつちゃったよ!)おかしなことに自分の鞄の中から聞こえている。









いやいや、そんな、まさか、ね?







しかし、確認しておく事にこした事はないだろうと思い私は鞄の中身をチェックする。財布に教科書に、ノートに筆箱に、って、そんなかばんの中に音がするものなんて一つも入ってないよねー、なんて思えば出てきた携帯。明らかに着信になっている。そして、音の発生源もここから。



そんなちょっとおかしすぎるだろ。私こんな歌、とってないし。なんで、そんな曲が私の携帯にはいってるんだよ。それも、並中の校歌ってさ、一体誰がと考えれば、思い当たる人が一人。携帯をもう一度確認すれば、













「ひ、雲雀さんー?!」









登録した覚えなんて微塵もないのに・・・・・!なんで、この人の名前が私の携帯のディスプレイに表示されているんだ?!普通、登録して無かったら名前なんてでるわけがないのに。もしかして、私の携帯壊れちゃったのかなーなんて考えつつも、雲雀さんのことだから早く出ないと殺されるのではないかと思えてきて私は恐る恐る通話ボタンを押した。本当は押したくなんてないのに!私の小心者!











「も、も、もしも『遅い』










向こうから聞こえてきたのはやっぱり雲雀さんの声。そんな遅いなんていわれても、知るか。まさか雲雀さんの番号が登録されるなんて思うわけないだろ。って言うか、いつの間に私の番号知ったんだろう。と言いたい事はたくさんあるのに、私は何一ついえなかった。
そうだよ、私は所詮小心者さ。雲雀さん相手に文句なんていえるわけがないよ!こんな奴で悪かったね!!どんなに心の中で悪態をついても、雲雀さんには伝わるわけがないのに。













「いやいや、何で私の携帯に登録、」




『さっき、君がジュース買いに行ってる間に少し拝借させてもらったんだよ』








「(プ、プライバシーの侵害だ!)」







『それに、君馬鹿だから気付かなかったみたいだけど、応接室本当は紅茶とかコーヒーなら置いてあるんだよ』



「け、計画犯じゃないですか!(それもさりげなく馬鹿って言った!)













まさか、あそこにそんなものがあるなんて気付きもしなかった!しかし、よくよく考えれば確かにそんなモノがあったような気がしないこともない。むしろ、雲雀さんの部屋と言う事ならそんなモノがある方がしっくりと来る様な気がする。どうして、気付かなかったんだ!


と言うことは、私は始めからプライバシーの侵害をされる為にジュースを買いに行かされたと言うことなのか!クソッ、私の馬鹿!なんで、あの時携帯を持っていかなかったんだ。あの時、携帯を持って行っとけばこんな雲雀さんに電話番号を知られることもなかったのに、なんて今さら後悔しても遅いんだけど。はぁ、とため息を吐く。それにしても雲雀さんは私の携帯の番号なんて知ってどうするつもりなんだろうか。








「・・・・(私の携帯の番号なんて知っても得するわけじゃないのに、)」






『君、部活やってるんでしょ?』




「あ、はい、まぁ(嫌々ながらですけどね・・・・!)」











『その部活水曜日は休みらしいね』












雲雀さんの言葉に嫌な予感がした。部活が水曜日休みだからって別に雲雀さんには関係のない話だろう。そう、水曜日は部活は休みだ。だからこそ、私はその一日を重宝している。そして、今日はその大切な水曜日だったんだ。それを雲雀さんに邪魔をされてしまったけど。
私の額には冷や汗が浮かぶ。チラリと視線を移せば見えたのは、風紀の腕章。もしや、これが渡されたのは、私に、
「じゃあ、来週から水曜日は風紀の手伝いに来て」・・・・・・・あれ、今なんて言った?ま、ま、ま、まさか風紀の手伝いなんて、そんなまさかー!













「な、な、なんでですか?!」





『君なかなか仕事できるみたいだし、風紀委員の人手が足りないから』




「いやいや、だからってなん『じゃあ、来る時はちゃんと渡した風紀の腕章つけて来るんだよ』」



「って、雲雀さんー!!」












私の叫び声もむなしく、携帯からはツーツーと言う音しか聞こえなくなっていた。私はまるで、足に力が入らなくなってその場にへたり込む。どうして、私が並中の風紀委員の手伝いをしなくてはならないんだろうか。一体、どうしてかなんて分からない。しかし、行かなければ雲雀さんに咬み殺されてしまうんだろう。咬み殺されたくはないとは思うけど、行きたくもない。
もう雲雀さんとの接点なんてないと思っていたのに、毎週水曜日には嫌でも雲雀さんに会ってしまうじゃないか(私は、会いたくないのに!)私はいつまでもその場で留まるわけもいかず、立ち上がりスカートについた汚れを叩きおとした。今まで一週間で一番好きだった曜日は一番嫌いな曜日へとなってしまったらしい。このこと、ツナにでも相談してみようかな、と夕暮れに染まる太陽に思った。






今日から私、風紀委員?!









(み、認めたくないよ・・・・・!)














  






(2007・12・30)