草壁さんとここに来た時、偶然見かけておいた自販機の目の前まで来れば丁度誰も利用していなかった。これはラッキーと思いつつ(こんなことでラッキーと思えるなんて、私いつもどれだけついていないんだよ!)私は自分の飲みたかった紅茶を買って、次に雲雀さんのを買おうと・・・・・・って、雲雀さんが飲みたいのってどれ?

今思い出せば、私、雲雀さんから何が飲みたいかなんて聞いてないんだけど。くっそ、私の馬鹿・・・・!と今さら後悔してももう遅い。それにわざわざ応接室までもどって雲雀さんに聞きに行くのも面倒くさいし、絶対に何か嫌味を言われるから、戻りたくない。目の前の自販機には種類豊富な飲み物たち。この中の一体何を雲雀さんは飲みたかったんだ・・・・・?









「普通に考えれば、紅茶か、コーヒーかな、」









いや、もしかしたらこの苺牛乳とかが雲雀さんは飲みたかったりして・・・・・・なんて、それはないか。雲雀さんと苺牛乳の組み合わせなんて、とても想像してよいものじゃない(あれ、やだ、ちょっと鳥肌きちゃったよ)だけど、少し意地悪して苺牛乳買って行っても良いかなぁと一瞬考えてしまったけれど、それが原因で咬み殺されたりしたらたまったものじゃない。そこまで、私は馬鹿じゃな「?」









「ギャッ!」




ガタンッ








咄嗟にかけられた声に驚き、私は思わずボタンを押してしまった。押してしまったボタンのところを見てみれば、それは苺牛乳で、あぁぁぁ、やっちゃったよぉぉぉ!!サァと青ざめる顔に、出てきた苺牛乳を握る手が震えた。私は思わず出てきそうになる涙をこらえて、苺牛乳のボタンを押してしまった原因を作った張本人をキッと睨みつける。私の視線の先には、私とは裏腹に爽やかな笑顔を浮かべたユニフォーム姿の山本が不思議そうにこちらを見つめていた。

なんで、山本が、と思ったりもしたが、ここはそもそも並中。私がここにいるほうが不思議なんだ(だから、山本は不思議そうに見てきたのか)








「この、山本の馬鹿っ!!」






「え、え、急にどうしたんだよ?!」





「はぁ、もう最悪だよ。山本のせいで私、生きて家に帰れなくなっちゃった・・・・!」












私がここにいることに驚いている様子だった山本は、突然私が叫んだ事で更に驚いた顔になった。だけどね、お前のせいで私の命がなくなったんだよ?この責任どうとってくれるんだよ!半ば、八つ当たり気味に心の中で山本に文句を言う。そして私ははぁとため息をつきながらその場にしゃがみこんだ「ど、どうしたんだよ」と山本が何事かと思ったのか、そんな私に駆け寄ってくる足音が聞こえた。馬鹿なんて言っちゃったのに心配してくれるなんて良い奴だな(それか、獄寺から馬鹿って言われなれているからかな?あはは、そっちの理由の方がありえそうだな・・・・!












「・・・・別に、なんでもないよ」








もう、今さら買ってしまったものはしょうがないよね(・・・・・あぁ、だけど、どうしよう!)私は山本を責めるのをやめて、立ち上がり駆け寄ってきた山本の表面を向く。未だ困惑した様子の山本に、「大丈夫」と声をかける。そうすれば、山本はいつもの爽やかすぎる笑顔をうかべた。こんな笑顔を見せられたら責めたくても責められないよね・・・・!(本当、美形って言うだけで、うらやましい限りだよね!)











「ところでお前、何でこんなところにいるんだ?」




「雲雀さんに雑用で呼ばれた」







私が言えば、山本は一瞬キョトンとした顔になった(すぐいつもの顔にもどったけど)やっぱり山本も雲雀さんが雑用に私を呼んだのを驚いているんだろう。私だって、未だ理由なんて分からないし、私自身が一番驚いているんだから、山本が驚くのも無理が無い。だけど、山本はまた、あの爽やかな笑顔に戻して、私の頭をガシガシと撫でながら
「はは、そりゃ災難だったな!」と言った。本当、災難過ぎて泣きそうだよ!









「本当にね。じゃあ、私そろそろ行くから」






「おう。頑張れよな!」





「山本もね」










私と山本は軽く別れの挨拶をするとそれぞれ自分が来た方向に体を向けた。後ろからは山本が走り去っていく音が聞こえてくる。その音を聞けば、私も急いだ方が良いんじゃないかと思ったんだけど、私の右手には苺牛乳がしっかりと握られていて、これから起こることを考えると走り気にはなれなかった・・・・咬み殺されないと良いな!ゆっくりと、自分が来た道を戻っていく。その足取りは、とても重かった。









「ただ今、戻りましたー」








応接室のドアを開ければ、雲雀さんは未だに黙々と仕事をしていた。そして、出て行く前よりも更に、雲雀さんのところにあった書類は減っていて、私は自分に与えられた書類の山を見て、今日帰れるのかが少しだけ不安になった。あぁ、急いで仕事を終わらせないと、と思っていても、あまり気はすすまない。

雲雀さんの目の前に行けば、苺牛乳を握る手に力が入る。本当は、自分用に買った紅茶をあげれば咬み殺されないですむとは思うのだけど、私も紅茶を飲みたいからそれは出来ない相談だ(まぁ、紅茶なんかより命の方が大切なんだけどさぁ。もしかしたら、万が一の可能性で雲雀さんは苺牛乳を飲みたかったかもしれないし)












「はい、これ雲雀さんのです」







思わず上擦る声。そっと雲雀さんの机の上に、苺牛乳を置けば、雲雀さんは驚いたような顔でその苺牛乳を見た。あ、もしかして苺牛乳見るの初めてだったのかな?なんて、それはないに決まってるよね。そうだよね、まさか、私が雲雀さんに苺牛乳買ってくるなんて思っても無かったんだよね。だけど、それは私のせいじゃないんですよ、雲雀さん・・・・・!咬み殺すなら山本にしてくださいよ、と心の中で唱えていれば、雲雀さんは怪訝そうな顔つきで私の方を見上げた。なんか、人を見下すのってなかなか良いものだよね。それも、雲雀さんを見下すなんて到底できないものだよ!









「・・・・何、これ」






「(何これって)苺牛乳ですよ?」




「そんな事知ってる(この子、僕のこと馬鹿にしてる?)・・・・・・僕は何故これを僕の机の上に置いたのかを聞いてるんだ」





「私が、雲雀さんのために買ってきたからに決まってるじゃないですか」




「僕こんなもの頼んでないんだけど」




「でも、雲雀さん何が飲みたいかなんていわなかったじゃないですか」















少しだけ屁理屈に聞こえる私の言い分。しかし、何か正当な理由を作っておかないと私は雲雀さんに確実に咬み殺されてしまう。そんな、山本のせいなのに私が咬み殺されるなんて絶対に嫌だと思いながら言えば、雲雀さんは私の方をジッと睨んだ(あれー、ちょっと嫌な汗出てきちゃったんだけど!)私は何もできずに、とりあえず笑っておこうと思い、笑顔をうかべる。あ、やばい、ちょっとこの笑顔を引きつってるよ。微笑みながらも、正直トンファーで殴られんじゃないかと、内心ヒヤヒヤ。だけど、急にここに連れてこられて仕事をさせられてるんだこのぐらいしてもばちは当たらないだろう(、と思い込むことにした)










「・・・・・・・もう良い。早く自分の仕事して」







「(やったぁぁ!!咬み殺されなかった・・・・!)はい」









心の中で私はガッツポーズを決めた。良かった、咬み殺されなかった!と思わず鼻歌でも歌ってしまいそうになる気持ちを抑えて、私は自分用に買っておいた紅茶を持ったままソファーへと座った。










「(あれ・・・・・?)」









少しだけ感じる違和感。その違和感に頭をかしげながら、私は机の上に紅茶を置く。何を違和感だと感じ取ったんだろうと思えば、机の上に置いた携帯が応接室を出て行く前と比べて僅かに動いている気がした。私は、何かメールか何かが来てバイブで携帯が動いたんだろうと思い、携帯を手にとって確かめる。だけど、メールも着信も何も来てなく、特に何も出て行く前と変わりがなかった。まぁ、多分私の勘違いだったんだろう。
私はマナーモードからサイレントにして再び携帯を机の上に置き直す。横目でチラリと雲雀さんのほうを見れば何だかんだ言いつつも苺牛乳を手に取っていた。










「(あぁ、本当に雲雀さんと苺牛乳って似合わないなー)」








思わず笑いそうになるのを何とか抑える。そして、本当に雲雀さんと苺牛乳の組み合わせはなしだとあらためて感じた。雲雀さんに
桃色なんて、とてもとても似合わない(なんて、私もピンクなんて似合わないけどさ・・・・!)それに雲雀さんがストローを使っているところも似合わない気がする。そりゃ、パックのジュースだからストロー使わないと飲めないから、しょうがないと思うんだけど雲雀さんがストロー使ってるって何だか可笑しいと思うんだよね。こんな事本人に言えるわけが無いけどさ。はは、本当私って雲雀さんに対して結構失礼な事考えてるな!











「甘い、ね」



「当たり前じゃないですか、苺牛乳ですよ」









甘い、なんて文句言いつつ雲雀さんはイチゴ牛乳を飲み続ける。実は雲雀さんは甘党じゃないのかと思いつつ、私はここに連れてこられてからずっと気になっていた事を口にした。







「そういえば、雲雀さん」




「何?」



「私、この学校に来たら駄目だといわれてたんですけど」



「へぇ、誰に?」






「貴方にですよ、雲雀さん」










この人忘れてやがる・・・・・!どうやら、雲雀さんは私に言った事を忘れてしまっていたらしい。風紀委員長と言う、人の上に立つような人ならちゃんと自分の言った事には責任を持っていただきたい(そうだよ、最近のニュースでも偉い人の責任の無い言葉が問題になってるんだから!)それに、責任を持ってもらわないと、しっかりそれを守っていた私があまりに馬鹿みたいじゃないか。しかし、雲雀さんにとっては大したことでもなかったらしく「あぁ、そういえばそんな事もあったね」と、どうでも良さそうに言い放った。









「それに、やっぱり他校生の私がこんなところに来るのはどうかと思うんですけど」





「そう?」




(そう?・・・・じゃねぇ!!)いや、並盛の先生も他校生が校内にいたら驚くでしょう」









「別に教師なんて気にしなくても良いのに」












いやいや、先生のことを普通気にするでしょ?気にしないのなんて雲雀さんぐらいじゃないかな。まぁ、この先ここに来る事なんて絶対にないと(言うか、絶対にもう来ない!)思うから別に並中の先生の事なんてどうでも良いんだけど。と思いながらまだ終わりそうに無い仕事に取り掛かろうとすれば雲雀さんは、何やら机の引き出しを開けて、何かを取り出した。










「じゃあ、はい、これ」








引き出しの中からだされた何かを、投げられて私は反射的にそれをうけとった。自分の手の中にあるそれを良く見てみれば、
真っ赤な腕章。そして、風紀と言う文字がそれには書かれている。
私は、雲雀さんの左腕についているものと見比べて、それがまったく雲雀さんとつけている腕章と同じものだという事に気付いた。これは、一体?何か嫌な予感がして、一筋の汗が流れる。悲しい事にこういう、嫌な予感に限って当たってしまうから、多分、私が考えていることは今、雲雀さんが言おうとしていることと同じなんじゃないかと思った。










「それつけていれば
「すいません、雲雀さん私用事があるんでこれで失礼させて頂きますね!!」










バタンと最後まで言い切らずに私は自分の荷物を持って、応接室から飛び出していた。だって、だって・・・・・!あのまま最後まで雲雀さんの言葉を聞けば、私には絶対に良くない事が起こるような気がした。正直、任された仕事も終わってないのに出て行くなん最低だということは分かっている(そして、雲雀さんに咬み殺されるかもしれないということも!)私は後ろから追ってこないことを確かめて、並中の校舎からでた
「極限!」と、どこからか聞こえてきた声に、並中にはまだまだ変な奴が多いんじゃないかと思えてきて、さらに私は足を速めた。





渡された腕章の意味

















  




(2007・12・18)