今日の晩御飯は一人だ。両親は海外出張中だからいないのは当たり前なんだけど、兄である吾郎も用事があって今日は帰ってくるのが遅いらしい(あはは、吾郎がいないなんてこれ以上の喜びは無いね!)そんなわけで、私は今日の晩御飯の材料を探しにスーパーへとやってきていた。いつもなら吾郎がうるさいから手間をかけて作っているのだけれど、一人ならそこまで手をかけなくても良い。そう思いながら、私は目の前にある既に完成されてあるお弁当を手に取った。先に言っておくが、断じて料理を作るのが面倒くさいというわけではない。











?」











かけられた声にお弁当に伸びていた手がひっこむ。恐る恐る後ろを向けばそこには屈託のない笑顔で立っている犬くんがいた。正直、厄介な相手に出会ってしまったと心の中で舌打ちを一つ(いやぁ、犬くんは悪い子ではないけど相手にするのが面倒くさいんだよ)













「やっぱりらったびょん!!こんなとこれ何してんのー?」





「晩御飯の買い物にね・・・・犬くんは?」












しかし、こんなに屈託のない笑顔をうかべて話しかけてくる犬くんにそんな事言えるわけが無く、私は当たり障りの無い返答をした(私にだって、良心があるんだよ・・・・!)そう言えば、犬くんの周りを見てみれば今日は千種くんと六道さんの姿が見えない。千種くんなら一人でスーパーに来ている時にあったことはあるけれど、犬くんが一人でスーパーにいるなんて珍しい。そう思い、他のところの商品でも見ているのかと聞けばどうも違うらしい












「今日は柿ピーも骸さんもいないから俺一人れおつかいなんらびょん!!」





「・・・おつかい?」





「ついれに料理も一人で作らないといけないんらよねー」









そう言って肩をおとす犬くん。確かに犬くんは料理なんて出来そうにない。犬くんに作らせたら、色々な意味で素晴らしい料理が出来そうな気がしてくるのも、きっと私の勘違いではないと思う。それに、そもそもお使いもできるかどうか不安だ(買い物リストを書かれたメモとか渡されても、そのメモを無くしそうだよねー)そんな失礼な事をを考えていることにまったく気付いてなそうな犬くんは、私の顔を覗き込むような形になった。











「・・・・・(うん、今すぐやめてくれ)」












他の女の子だったら赤くなって恥ずかしがったりすると思うが、普段から美形を見慣れている私にはどうってことない(いやね、可愛いとは思うんだよ?)だけどね、覗き込んでいる犬くんは、私の顔しか見えてないから気付いてないと思うけれど今、たくさんの人たちに見られてるんだよ?それも、まだおばさんとかなら良いのに、明らかに独身女性の方からごっつ睨まれているんだよね!!少しだけ、私、泣きそうなんだよね!!お願いだから、その事に気付け!な、気付こうよ、犬くん!(若干、動揺しちゃってるよ私!)













は今日は用事あったりするの?」








「(おいおい、なんで急にそんな事聞いて来るんだよ。用事なんてこれっぽっちもないけど、嫌な予感がすごくするんですけどぉぉぉ?!)うん、すっごい用事があるよ!!一人寂しく晩御飯を食べるという用事があるよ」






「それって暇ってことれしょ?!」



(チッ、騙せなかったか!!)いやいや、すっごく忙しいってことだよ!!じゃあ、バイバイ!!」










私は何とかその場(たくさんの独身女性から死の視線を浴びまくっている状況)から逃げ出そうと、犬くんに思いっきり良い笑顔を見せる。そして、私は一歩足を後ろにさげ、走り出そうと力をいれた。しかし、









ー」








間延びする犬くんの声に振り向けばそこには目をキラキラさせて私を見てくる犬くんがいて(あぁ、嫌な予感がするんだけど・・・・)











「今日一人なら、俺らと食べれば良いじゃん!!」








なんだよその、やっべすっごい良いアイデアじゃん★みたいな顔は。あえて口にはださないけれど、全然良い考えじゃないからね?ほら気付いてよ、私のこの嫌そうな顔に!!(いや、周りのこの嫉妬に満ちた視線にも気付いてないんだ。私の気持ちなんかに気付くわけないよね・・・・)「わ、悪いけど、犬くん・・・」と、言おうとすればその先の言葉が出てこない。お願いだから、そんな泣きそうな顔しないで欲しい。私に悪いところはひとつもないはずなのに、もしかして私が悪いんじゃないかって勘違いしてしまうから











「・・・・分ったよ、一緒に食べるよ」







たったそんな一言で見る見るうちに犬くんの顔は笑顔になっていった(あぁ、私の馬鹿。)どうせ、犬くんが一人で料理を作るのが嫌だったんじゃないの?と思わず言ってしまいそうだったけれど、その言葉は飲み込み、私はハァと息を吐いた。犬くんのその笑顔を今ではすごく憎らしく感じる。少しだけ、ほんの少しだけ殴ってしまいたいとも思った。




















はいはい、そんなこんなでやってきました、犬くんたちの自宅けん秘密基地(?)である黒曜センター!!と半ば、自分のテンションを無理やり上げながら(テンションを無理やりでもあげないと、やっていけないんだよ・・・!)私は、案内されたキッチンで先ほど買った材料を広げる。そこには定番メニューのカレーの材料があって、この前もカレーだったんじゃないの犬くん?(7話参照)まぁ、別に私もカレー好きだから文句はないんだけど、飽きないのかなぁと思いつつ、私がせっせと準備していいれば横で犬くんは何やらせわしく興味津々と言った様子でこちらを見ていた。











「なんだい犬くん、私の作るカレーに文句でもある?(文句あるなんていった瞬間、即刻帰ってやるけどな!)









ちらりと犬くんを睨みつけると「キャンッ!!」と声を上げた。まるで、私が猛獣か何かみたいじゃないかと、思い少しだけムッとすれば、犬くんは焦ったように声をだして、言った。











恐っ!違うびょん!!ただ柿ピーと作り方が違うって思っただけだびょん!」



「・・・・犬くん。カレーにはそれぞれ家庭の数だけ、味の違いが出るんだよ(千種くんのカレーって食べてみたいなぁ・・・)」









私が言えば、犬くんは黙ったまま私が料理を作るのを見ていた。作っている間ずっと料理を見ているだけだったので、お前手伝えよと思ったりしたが、犬くんに手伝ってもらうことは自殺行為なのではないかと思ってやめておいた。そもそも、千種くんもなんで犬くんに料理つくりを頼んだんだろうか?彼なら犬くんがどんな料理を作るか予想できるような気がするのに(料理と言われるものが出来るかもわからない)









「よし、完成!!」







できたカレーは我ながら良い出来で、となりの犬くんもクンクンと犬の様に鼻を動かしている。はは、どうだ、美味そうだろ!自分で言うのは何だけど、私はいつも海外出張に行っているお母さんの代わりに家の家事はやっているから、料理は得意なんだぜ!!(・・・・駄目だ、少し自分のキャラを見失ってしまった)












「ねー、。先に食べちゃおうよ」





「(この子、待つとかできないわけ・・・・?!)いや、普通に駄目だろ」










あまりに欲望に忠実な犬くんの言葉に私は、少しだけランボくんを思い出した。ガマンなんて言葉知りもしない。いや、ランボくんはガマンと言う言葉は良く知っているんだよね。ただ、実際はガマンできないだけであって。目の前で食べたそうにしている犬くんはそんな5歳児となんら変わらない。そんな犬くんを見ながら、私は借りたエプロンをはずして犬くんへと手渡した(もしかして、このエプロンは千種くんが使っているのだろうか・・・・)そして、私は自分の鞄を持ち、何も言わずに玄関らしきものの方へと向う。そんな私の様子を犬くんは首をかしげながら見ていた。













「どこに行くびょん?!」




「あ、うん。カレーも出来たし、帰るね」




「駄目らよ!!」














できるなら六道さんや千種くんが帰ってくる前に私は自分の家へと帰りたい。だって、何だか会ったら嫌な予感がしないこともないし。それに料理を作ったのだから、私は用済みのはずだ!と思い、ドアに手をのばせば、犬くんが私の腕を掴んで離そうとしない(早く離してよ・・・・!)犬くんに腕をつかれ必死に逃れようとしながら見た外はもう暗くなっていた。








「ほら、やっぱり3人仲良くご飯食べるなら私邪魔でしょ?うん、そうだ私邪魔だ!!」






「そんら事ない!!」













「そうですよ、遠慮なさらなくても良いですよ」












手をかけていたドアが開いたと思ったと同時に、今までそこにはいなかった第三者の声(あはは、そんなまさか、ね?)淡い期待心を持ちつつ、私の心の中の大半を諦めと言う言葉が一瞬で占めてしまったような気がした。本来なら今すぐ家へと帰って、テレビでも見ながら一人の御飯を楽しもうと思っていた、の、に。私はゆっくりと顔を玄関の方に向けた。その瞬間、少しだけ顔が強張るのを感じた(悲しい事に予想的中かよ・・・・!)









「こんばんは、



「・・・なんでここにいるの」




「(ごめん、千種くん、だけどここに私がいるのは私のせいではないんだよ)」









悲しい事に私の予感は的中してしまって六道さんと千種くんがそこにはいて、私は帰ることを断念するしか他に道はなかった(さよなら、私の楽しいひと時・・・・)そして、先ほどからまぁ、気まずい気も流れることもなく思っていたよりも楽しい食事の時間をすごしている。話しているのはほとんど犬くんや六道さんで私と千種くんはたまに喋るだけだ。










の作った料理は本当に美味しいですね」





「(カレーなんて、あんまり味に変わりはないだろ)そんなことないですよ、六道さん」




「クフフ、謙遜しなくても良いんですよ?」





「そうらびょん!!」




「いやいや、犬くんまで」









何をお世辞を言っているんだよ、と言おうとしのだけどその言葉は口にだすことは叶わなかった、今なんと言いましたか?」六道さんの少しだけ低い声に、急に部屋の空気が冷たくなったのが分かる。現に犬くんは少し青ざめているし、千種くんはよくわからないけれど、多分同じようにこの空気の変化には気付いていると思う。いや、だけど急に六道さんはこんな低い声をだしたんだろうか。それも、私に何かを言ったのか聞くということは、私の言葉が原因に違いはない(えっ、でも何で?)









「えっと、"いやいや、犬くんまで"と(・・・・この言葉のどこに怒るところがあるって言うんだ?)」






・・・何故、千種や犬は名前で呼ぶのに僕は名字なんですか




「え、えぇ?(別に呼び方なんてどうでも良いじゃないですかー!!)」











心の中でツッコむも実際、こんな雰囲気のなかでは言えるはずもない。だけど、実際、呼び方なんてどうでも良いと思う。そんなこだわる事でもないと思うし、それにあんな低い声で言う事じゃない。だけど、まだ先ほどの雰囲気のままで若干寒い空気があるなか、そんな風に言える勇気なんて私にはなかった(どうせ、小心者だよ!)いや、だけど、ね、犬くんも千種くんもさりげなく私から目を逸らしてるんだよ。









(二人の裏切り者・・・!)えっと、ではなんと呼んだら良いんでしょうか?」





「僕も名前で呼んでください」




「は?(な、名前って、)」




「だから、僕も名前で呼んでください」




「・・・じゃあ、骸さんで良いですか?」










私がそういえば、骸さんはにっこりと微笑んだ。その顔は普段美形になれているはずである私も惚れ惚れするような笑顔だった(やっぱり、美人さん系の美形ではあるよな・・・・)まぁ、だけど正直私としては関わりたくない人種である事は間違いない。だって、今までのことを考えると明らかに普通の人の言動じゃないもん。












「後で犬にはしっかりと言い聞かせておきましょう」










にっこりと微笑みながら言う、その言葉でさらに部屋の空気の温度が下がったのは言うまでもない(さ、寒いんですけど・・・!!)ご愁傷様、犬くんと心の中で呟く自分がいて、あぁ、結局私も自分のことしか考えていないのか、とあらためて感じた。いやでも、さっきは犬くんが私のことを裏切ったんだから別に、私がここで犬くんを助けなくても神様からは怒られる事はないだろう!





















暗い夜道を骸さんと2人で歩いていた








「骸さん、別に送ってもらわなくても良いですよ」




「何言ってるんですか。女の子がこんな時間にであるいていたら危ないですよ」










いやいや、危ない目なら今まで何回もあってますから。と言う言葉は咄嗟に飲み込む。だけど、雲雀さんの時より危ない目にあうなんて事、今後絶対にあるような気はしない。だって、トンファーで殺されそうになるなんて人生で一回経験するかしないぐらいの確立だろう(それでも経験してしまった私は、とても運が悪い)そんな事を考えていると、いつの間にか骸さんは立ち止っていて、私は振り返って骸さんのほうを見た。






















物音一つしない静かな住宅街の中で骸さんの声が響く。その声はいつもとは少し違っていて、何故だか分らないけど少し恐いと思ってしまった。こんな気分になったのは、初めてだ。骸さんとは数回しか会った事はない。だけど、優しいものの言い方に、優しい声色は、本当に紳士的だったと思う。確かに、今もそれは変わらないのだけど、今のこの骸さんといる状況が恐いと感じて、今まで骸さんがだしていた雰囲気がガラッと変わった気がした。











「僕の目を見てどう思います?」








突然の質問に私は、中々答えることが出来なかった。骸さんの目がまるで私を突き刺すように見てきて、グッと息を飲み込む。街頭もなく星の明かりだけの中、あたりは暗くて見えないはずなのに骸さんの瞳はしっかりと見えた。赤と、青の色違いの瞳。その奥に見えるものは私には分らない。いや、分かるはずがないのかもしれない。私は彼ではない、別の人間だから分かるわけがないのだ。それなのに分かろうとするなんて、私はなんて愚かな人間なのだろうか。










「綺麗だと、思っています」









この言葉に嘘はない。ただ付け加えるなら、少しこの目には恐怖を感じる。だけど、私はその事は言わなかった。誰だって会ってから間もない人間に恐いなんて言われたら、ムカつく事は間違いないだろう。私だって、恐いなんて言われたらムカつくし、傷つく。まぁ、ムカつくか、傷つくかは、私は骸さんではないから分からないのだけど。私の言葉に骸さんが満足したかは分らない。もしかしたら不満だったのかもしれない(満足したのか不満だったのか、これもまた私は骸さんではないから分からないけれど)それ以降、骸さんは何も話さなかった。












私の家の前まで来ると骸さんは「では、おやすみなさい」と言って、今歩いていた道に消えていった。今までとは違う彼の雰囲気に私は何も言えないままで、だけど彼の背中に「おやすみなさい」と小さく言った。玄関を開ければ、まだ吾郎は帰ってなくて暗いまま。あぁ、一人で晩御飯を食べていたらこんなに寂しい中で食べなくてはいけなくてはならなかったのか。だとしたら、あの3人と食べることが出来て良かったのかも知れない。
私の中で確実に彼らの存在は大きくなっているのか?その答えに答えてくれる人はこのくらい家の中に誰もいなかった(いや、いたらいたでそれは怖いですけどね・・・・!)なら、









恐いと思ったのは何故?




















  






その後

クフフ、犬覚悟は出来てますか?



「む、骸さん!!何れ俺らけなんれすか?!柿ピーも名前で呼ばれてましたよ!!」





「(馬鹿犬、面倒くさいことに巻き込むなよ)」





「千種のおかげでと知り合うことが出来ましたからね。感謝してますよ、千種」





「・・・ありがとうございます、骸様」






「クフフ、それでは、」



「キャンッ!!」





その夜、一人の叫び声が黒曜センターで響いた









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(2007・06・05)


加筆修正
(2007・12・01)