これだけまともに説教をうけたのはいつぶりだろうか。元の世界にいたとき学校でもまじめな生徒だった私は怒られることは少なかったし、なるべく荒波をたてないように生活をしてきた。それに最近は学校でも体罰だなんだといわれてこんな風に叱ってくれる先生も減った。 そのせいかこんな風に正座をして、怒鳴られる経験なんて今までにほとんどなかった……が、もう一生こんな体験したくない。 もちろん怒られるようなことをした自分が悪い、とはわかっている。
でも、今回ばかりは相手が悪かった。
ガツンと大きな音が城内に響きわたり、その音のすぐ下で私は悶え苦しんでいた。
「っ……!」
悲鳴をあげなかった私、すごい。拳骨を落とされた瞬間思わずそんな一言が口からこぼれそうになってしまった。 けれどそんなこと言おうものなら「なら悲鳴上げるくらい痛いことしようか?」なんてドSなことを笑顔で言われることはわかりきったことなのでその一言は飲み込んで置いた。
いつもは見る側だったのに、まさか自分がこの場にきてしまうとは…そんなことを考えながら拳骨を落とされたところをさする。ひりひりと痛むそこにおとされた拳骨。
手加減の手の字も知らないような見事な拳骨に、私ははを食いしばり耐えることしかできなかった。
私これでも女の子なんだけど?普段幸村さんが拳骨されているときとまったく変わらない音が城内に響くっておかしくない?いやいや、おかしい。絶対におかしいから。とは言っても佐助さんにとったらそんなことは関係ないんだろう。
普段女らしくしろとか言うくせにこんな時には男女平等を掲げて、まさしく正論のように言いくるめられるに違いない。
近くで見ている幸村さんも自分が拳骨を落とされたわけではないのにすごく痛そうに表情を歪めている。もしかしたら普段自分が怒られていることを思い出しているのかもしれない。
私も実際に体験してみて、わかった。
そりゃ、幸村さんも涙目になっちゃいますよね。
普段佐助さんに怒られ拳骨をおとされ涙目になっている幸村さんを見て大げさな〜、とか思っていた私を許してもらいたい。 これは痛い。脳細胞がいくつお亡くなりになった、とか考えたくもない。
「俺様は旦那にご飯届けるのを頼んだはずだよね?」
「はい…」
「なのに、なんでそんなに怪我だらけになってるのかな」
口調だって優しい。笑顔だってまぶしいくらいにイケメンだ。
だけど、目の奥が笑っていなかった。こえ!本当に怖い!しかし、本当のことなんていえるはずもなく私は必死にない頭でいいわけを考えていた。
…もし、本当のことを、忍の人とあったなんていったら私どうなるんだろうか。ちらり、と正座をしたまま猿飛さんを見上げ表情を伺う。
「……」
細められた目。腕を組みながらこちらを見下ろしている姿を一瞥して私はひっそりと、目をそらした。とても、これ以上見ていられなかった。
(絶対殺される!)
佐助さん愛用のクナイでズッタズッタにされるスプラッタな光景が頭に浮かび、私は頭を抱えた。
何も言わなくても殺される。本当のことを言っても殺される。嘘を言っても…見破られたら殺される。 何を想定しても最後があまりにもな光景しか思い浮かばいのはどうしてなんだろうか?相手が佐助さんだからか?まぁ、それもあながち間違ってはいないんだろうけど。
「あそこはそりゃ山道になるけどちゃんと道はあるはずだよね?」
「あ、ありました」
「まさか旦那みたいに迷子になったとか?一本道で迷子になるとかなかなかないと思うんだけど」
おもいっきり嫌みが込められた言葉に口をはなむこともできず、もちろんのこと手も足もだせず、正直泣きたい気持ちでいっぱいになった。けれどもそれでも本当のことを言うことなんてできるわけがない。
しかし人間死の直面にたたされるとあることないことがスムーズに口からでてくるらしい。
いつの間にか私の口からは出鱈目な事柄が紡がれていた。
「じ、実は森を通っていたらですねなんと狸と出会ってしまいまして!!狸にあったのなんて初めてだったので、欲望には逆らえずな感じでしてね!」
あんな獣道。動物の足跡だってあったんだ。狸くらいいるだろうと思っての言葉だった。しかし、あまりのどもりっぷりにこれはないだろう、と自分で思った。
大根役者もいいところである。
別に嘘をはいたことがないなんて白々しいことを言うつもりはない。
嘘なんて今までに何回もはいてきた、けれど、その中で一番へったくそな嘘だった。
近くで聞いていた幸村さんは「そうであったのか」なんて神妙に頷いてくれているけれど、これは幸村さんが幸村さんだからだ(幸村さん相手だったらどんな嘘でも本当にかわるんじゃない?)
だが、神は私を見捨てることをしなかった
「はぁ、」
頭上から聞こえてくるため息。見上げれば先ほどとは変わった、あきれた表情でさすけさんが片手で自分の顔を覆った。嘘がばれたかと心の中でびくびくしつつ、その様子を伺う。
こちらへとのばされた手にまた拳骨がくるのか、と身構えればその手は途中で止まりそのまま先ほど拳骨が落ちた場所へとゆっくりと降りてきた。
何度か頭の上を行き来する手に戸惑いを隠せず、再び視線を佐助さんへとやる。
「ちゃん…子供じゃないんだから」
小さな声でつぶやかれた言葉。その言葉はさきほどのようにとげのあるような言葉ではなく、てどうやら私は命拾いしたことをさとった。
しかしながら、明らかに佐助さんの表情には疲労の色が浮かんでいて、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
佐助さんの見た目がもう家事や子供の世話に疲れきった主婦のようである。まぁ、そんな表情をさせたのは私だけど。
「ご、ごめんなさい」
疲れきった佐助さんの表情が見ていられずに頭を下げる。
「あんまり心配させないでよ。ちゃんは旦那みたいに殺しても死なないような体してないんだから」
「…佐助さん」
「ん?それは一体どういう「旦那は黙ってて」」
眉をよせてこまったように笑うさすけさん。私のことを心配してくれていたんだと思うと、申し訳ないと思うと同時にうれしさもこみ上げる。
この世界でも、まだこの世界になれない私にも、心配してくれるような人がいる。
それも相手は最初私のことを全然信用していなかった佐助さんだ。うれしくないわけがない。
「ま、でも治療はちゃんとしないといけないからね」
「へ?」
「はい、ちゃん足だして」
「あ、はい」
佐助さんの言葉に素直に足を差し出す。破廉恥破廉恥うるさい輩がいるがいつものことなので私も佐助さんもきにすることはない。
薬がはいっていると思われるものをとりだした佐助さんは迷うことなくそれをおもいっきり私の足へとおしあてた。その瞬間にはしる痛みに私はこぼれでる声を我慢することができなかった。
「ひぃぃ!!」
「アッハー、良い反応、」
痛い。痛すぎる!それは今までに使用したことがあるどの傷薬もしみる薬だった。そして潤む瞳にうつる、佐助さんの笑み。
その薬を笑顔で私の足先へと塗っている佐助さんは今までにみたなかでいちばんとびっきり良い笑みだった。
このどS!鬼畜!人でなし!
我慢できずに飛び出した言葉は、ただたださらに私を追いつめる材料にしかならなかった。
「そんなこと言って良いのかなー」なんて楽しそうに言葉を紡いだと思ったら、再び私の足に薬品が押し付けられる。怪我えぐってない?むしろ、怪我治す気なくない?と思えるような治療。
これを治療と言ってもよいのだろうか。
いや、今はそんなことはどうでもよい。そんなこと考える余裕なんて今の私にはなく、私は再び城内に響き渡るくらいの悲鳴を上げていた。
その後やっとのことでさすけさんから解放された私は(最後はかわいそうな目で見られた気がしないこともない)(…さすがに狸はあれか。嘘も考えてつかなければいけない、な)疲れていたのか早々と眠りにつき、朝まで目が覚めることはなかった。
***
次の日の朝。目が覚めて着替えをすまし、ふすまをあけて太陽の光を浴びようとしたけれど、私の動きはふすまをあけたところでとまった。
廊下に置かれた見覚えのある柄の布と、一輪の花。
なぜ、こんなところになんでこんなものが?意味がわからずにびくびくとしながら、なおかつ周りに視線をやりながらそれらへと近づく。
「私のハンカチ?」
しゃがみこんでそれらを手に取る。布を広げてみればそれは昨日あの人につけてあげた、ハンカチで私は思わず言葉を失った。
これはもしかしなくても、彼が持ってきたのあろうか?もしそうだとしたら、昨日の今日ってどれだけせっかちな人なんだろう。それも血だらけにそまっていたはずのハンカチには染み一つなくきれいに洗濯されている。
その洗濯術ぜひとも見習いたい…って、いやいや、
(別に返さなくてもよかったんだけど、)
ハンカチよりもむしろ彼のほうが心配である。
あれだけの大けが、昨日今日で治るはずがない。なのに、こんなところまでこれを届けにきて大丈夫だったんだろうか。けがが悪化してないとよいのだけど、(この際どうやって私の部屋がわかったかなんてスルーだ、スルー!)(忍を普通の人と一緒にしちゃダメだ)
でもこれらがもしも彼が持ってきたのだとしたら怪我は私が思ったよりも浅かったのかもしれない。あの怪我を見る限りそんな風には思えなかったけれど、なんとなく、これらは彼が持ってきたんじゃないかと思う。
そう思うと少しは気分が軽くなって私はハンカチと一緒におかれていた花に自然と頬がゆるむのをかんじた。
お礼のつもりか、何のためにおかれたのかはわからない一輪の花。名前も分からないその一輪の花に顔をよせれば、優しい温かい香りがした。
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(2010・02・25)
佐助がドSな話です。そろそろDてMさむねさん(匿名希望)を出したいです。
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